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462 諦めた者には結果は伴わない

 Another side



 何だこれはと、選抜参加者の大半は心に思った。

 こんなはずではと、その大半の中の一人が思わず口から言葉がこぼれる。


 ここに参加できた者たちはいずれも魔王軍、否、大陸でも屈指の実力者たちであるのは間違いない。


 幼き頃から鍛錬を積み着実に努力を積み重ねてきた秀才。

 才能を見込まれ、多くの金を注ぎ込まれて育て上げられたエリート。

 天性の肉体を保持する、天然の強者。


 立場、環境、才能様々な差がありその呼び名は違えど、その実力は間違いなく並を超え、ひとかどの存在であった。


 しかし、そんな存在たちであっても、目の前の光景は受け入れがたかった。

自信が目の前で繰り広げられている光景を前にしては瓦礫のように崩れ落ちてしまった音が心のなかで響く。


 まだいけると抗える心を維持しているのはどれほどいたか。


 遠くから見れば巨大な竜である竜王が暴れているだけのように見える。

 だが、ここにいる実力者たちから見れば、望遠鏡を使うよりも鮮明に目の前の光景を間近で見ることができる。


 その竜王が暴れる足元、あるいは場所と言い換えればいいだろうか。


 巨躯を機敏に動かし、その竜と戦う鬼王。

 ここまでは良い。


 その鬼もまた魔王軍の中で屈指の実力者であり、魔王に付き従う古参の一人であるのだからまだ参加者の心には、鬼王だから仕方ないという言葉を思い浮かべることができる。


 だが、もう一人、その場にいていいはずが、いや、いてほしくない存在までいるのはなぜだ。


 竜王と比べれば豆のように小さく、鬼王と比べても小さくて、参加者にとっては弱者の象徴であるはずの人間が、将軍位二人と渡り合っているなんて何の悪夢だ。


 竜王のブレスは大地を瞬く間に、赤熱の溶岩の大地に作り替える。

 鬼王の拳は、瞬く間に地図を変えられるほどの威力を誇る。


 それが通常攻撃、それが当たり前。


 参加者の中では全力といっていい攻撃が通常攻撃であふれかえる世界に、その攻撃に逃げ惑うのではなく、全力で抗っている人間がいることなんて何の冗談だ。


 多くの参加者が、俺が将来の将軍になると心に誓ってここに参加したはずだった。

 だけど今ではその参加者の大半の心が折れかけていた。


 それはさっきこの戦いに乱入するために発動したあの大魔法を打ち砕いた爆撃が原因だ。


 あの戦いの流れに嫌なものを感じた者は多くいた。

 もしかしたらあの人間が将軍のどちらかを下すかもしれない。


 そんな不安を抱いたのだ。

 それは大なり小なり自身の実力に誇りを持っている輩からしたら屈辱以外の何物でもない。


 しかし、その不安から目を逸らして、現実を見ないようでは二流と言わざるを得ない。

 そこを理解しているからこそ、いつまでも見ているわけにはいかないと介入すべく、あいさつ代わりの大魔法を展開し、様子見していた輩を呼び寄せたのだ。


 その魔法は自分の最高の技ではないのはわかる。

 最初から切り札を切る馬鹿がどこにいるのだと思って、あの規模の魔法に抑え込んだのだ。


 だが結果はどうだ。

 全ての魔法が防御結界などで防がれるならまだわかる。


 その攻撃から逃げるのなら嘲笑と共に納得もできる。


 しかし、結果はどちらでもなく、あったのは悪夢のような先制攻撃。


 まるで戦いを邪魔をするなと言わんばかりに全方位に放たれた絨毯爆撃。


 魔法を起動した奴には例外なく区別なく、起動した魔法以上の魔力をもってして反撃をされた。


 飛んできた物は細くわずかに反った片刃の剣。

 それが刀だと知る者は少なく、わかったのはその剣に恐ろしいほど膨大な魔力が注ぎ込まれているということ。


 そんなものを用意し、かつ何のためらいもなく使ってくるなんて誰が想像できただろうか。


 それも人間が放ってきた。


 それによって脱落したものは数知れず。


 今はひっそりとあの攻撃に息をひそめて疲れるのを待つ者ばかり。

 諦めに似た空気が他の参加者に漂い始めている。


 誇りなんて大地に捨て去り、それでも勝とうとする気概に見せかけた行動。


 しかし内心では、今でも衰えるどころか、激化する一方である戦いに勝てるはずがないと諦めかけている。


 だが、いつまでもここに隠れていることはできない。


 時間が経つにつれてドンドン戦えるエリアが減っていってる。


 流石にエリア消失による脱落では名誉も矜持も何もない。


 何もせずに負けるなんてことはあってはならない。


 それを理解しているからこそこうやって隠れて、チャンスを待つのだと言い訳を繰り返している。


 絶対にチャンスは来るのだと自身に言い聞かせている光景をもし魔王が見ていたのなら、こういうだろう。


『僕が選んだ将軍が、万全の状態でたかが三日で疲れ切るわけがない』


 この選抜に制限時間が設けられたという段階ですでに魔王の手のひらの上なのだ。

 魔王は将軍たちの実力をよく知っている。


 それはなぜか。

 回数は問わず、将軍たちは全力で魔王と殺し合ったことがあるからだ。

 鬼王と不死王は言うに及ばず。


 戦闘狂の竜王はもちろん、今は亡き蟲王も魔王と殺し合った。


 比較的穏健とも取れる機王、樹王、巨人王もその例から外れない。


 選ばれた将軍たちは全員魔王と殺し合った経験があり、そしてその誰をも魔王は殺さず降している。


 それ故に魔王は将軍たちの実力を知っている。


 三日という制限時間を設けた時点で鬼王と竜王が持久戦で負けることはないと踏んでいた。

 もし仮にその二人が負けるとしたら、純粋に実力で負けるときだと思っている。


 だからこそ、刻一刻と時間が過ぎ去るのを見ている輩は魔王から見ていればチャンスを見逃していると言う評価を下す。


 将軍という存在の実力を過小評価している事実はこの戦いでは致命的だ。


 中にはもしかしたら一撃で将軍を行動不能にできる技を持った輩も存在するかもしれない。


 だが、その一撃はじっと待っていては当たる物ではない。

 正面からその一撃を当てられる実力がなければならないと魔王は考えている。


 ある意味で、そこの一線を越えられるかどうかが問題だ。


 それほどまでに将軍という存在の実力は隔絶している。


 魔王と殺し合って、生き延びた。

 それだけで誇れるほどの勲章なのだ。


 しかしその話は反面、魔王の慈悲によって将軍たちは生き残ったとも取れる話の流れだ。

 実際そうやって生き残った輩がいて、それを代々自慢話として語る貴族もいたりする。


 我が家は何代目の魔王と戦いそして生き延びたと実力が伴っていないが、ご先祖は凄いぞとか、俺は魔王に挑み戦い敗れたが生き残ったと酒の席で語っていたりする。


 そんな話だけでも評価され、羨望の眼差しを向けられる。

 だが、その話を証明することも実証することもその輩はしない。


 なにせ彼らは実際に経験してわかっているからだ。

 次に魔王と戦ったらまず間違いなく殺されると。


 だが、現役の将軍たちの認識は違う。


 どの将軍であってもそんな甘い慈悲で生き残り将軍になったのではない。


 魔王はどう言いつくろおうとも将軍たちを仕留め損ねたのだ。

 確固たる実力を持った将軍たちを前にして全力で殺しにかかり、全力で倒そうと魔法や技を駆使して戦った。


 その結果、魔王は将軍たちを欲しいと思った。


 そう魔王に思わせられる実力を持ち、そして次戦えば首を取られると思わせたことによって、仕留める間際に勧誘し、満足いくまで戦うと言う流れを作り出させた実力者の集団。


 それが将軍。


 興味を抱かせなかった生存者と、興味を抱かせた現将軍。


 この両者の差がどれほど開いているかなど考えるまでもない。


 天と地、月とスッポン。

 こうやって揶揄されるくらいに実力が離れているのだ。


 その中の一つの実例を紹介しよう。


 この魔王と将軍たちの戦いの中で一番長く戦い続けたのは実は樹王である。


 その日数は約三か月。

 当時はダークエルフを治める女王として君臨していた樹王ルナリアは、攻め入ってきた魔王相手に、地の利を生かしたゲリラ戦を仕掛けて、昼夜問わず休む暇も与えず、大地や気候といった自然を操り続けて戦い続けた。


 自身の肉体を大地に隠し、そして天然の要塞を身に纏い、魔力を地脈に存在する魔素から吸収して補填し続けた結果がその日数だ。


 どこにいるかわからないのにもかかわらず、相手には自身の居場所がわかるかのようにピンポイントで降り注ぐ天災。

 その苛烈さ、しつこさといった部分に置いて魔王はこうこぼした。


『いきなり遭遇して何の準備も無しにもう一度再戦することは嫌だな』


 それほどまでの実力を魔王は認めている。


 次点ではエヴィアだ。

 彼女は将軍ではなく、人質のような形で魔王の元に送られた悪魔であるが、それでもその実力を上げるために一度だけ本気で魔王と殺し合った経験がある。


 どんな準備をしてもかまわないと言う魔王の言葉通りに、当時のエヴィアの資産の九割を投入した魔剣の数々による物量戦。


 魔王を仕留める為だけに用意されたその物量は魔王に冷や汗をかかせるほどの戦力を実現させ。

 時間にして約二か月と半月。


 彼女は樹王と違い正面から真っ向勝負をもってして魔王と死闘をその期間繰り広げたのだ。

 魔剣を次々に切り替え、多種多様の手段をもってして魔王と勝負した。


 結果的には、魔王はエヴィアが用意した魔剣をすべて破壊し魔王が完勝したような結末に見えるが、魔王は決してそうは思っていない。


『今回は勝ったけど、次回同じことをやるなら僕は死を覚悟しないといけないだろうね』


 魔王軍に於いて最恐である魔王に死を覚悟させた存在、それがエヴィア。


 鬼王と不死王はむしろ魔王と一度に戦った時間は短期間であったりするのだ。

 しかし、その反面、挑んだ回数はどの将軍たちよりも多い。


 鬼王が魔王に挑んだ回数はじつに百二十八回。

 そのどれもが殺し合いと言っていいほど苛烈で、戦狂いの鬼族の中でもトップクラスの実力を持っているからこそでき、そしてなおかつ鬼王は魔王を殺したいのではなく、魔王という強者と戦いたいと言う欲求を正面からぶつけているだけなのだ。


 だからこそ魔王はその気持ちに正面から答えた。

 鬼王の純粋といっていいほどの戦いへの欲求は魔王からしても心地よいと言っていいほどの真っすぐなのだ。


 騙すことなく、正面から堂々と戦いたいと言い放ち挑む鬼王。

 そして戦い終わったら、一緒に酒を飲む。

 その生き方を魔王は認め。


『僕としてもいい訓練になるし、彼と戦うのは楽しいね』


 その戦いを息抜きとして捉えている部分もあると魔王は言っている。


 そして同じ回数戦っているのが不死王だ。

 彼の場合、魔王という存在は、自身の研究の成果をぶつけるのには最適だという、人によっては何とも不敬な考えと捉えかねない理由だ。


 全力をぶつけても壊れない。

 そしてなおかつ。


『うん、その研究は軍の方でも役に立ちそうだ』


 研究に対して理解があった。

 だからこそ並の存在では絶対に死ぬような研究の成果を披露すべく、魔王と戦い続けた。

 それは何度も何度も、何度もだ。

 ある意味で利害関係と言っていい。


 魔王は不死王の研究の成果を生で体験し、その成果を感じ取ることによって軍の強化に充てることができる。

 不死王は、魔王という最強の存在に自身の目的のために実験をすることができる。


 ある意味で歪んだ信頼関係だからこそ成り立つものだ。


 ではほかの将軍たちはどうかと言うと今まで紹介した将軍たちと似たり寄ったりだと言わざるを得ない。


 期間では樹王とエヴィアには劣るが、それでも二か月にわずかに満たないと言うだけで並の天才では異常とも言えるほどの期間を自身の造り上げた武具で戦い抜いた巨人王。


 その質を伴った物量は魔王をもってしても称賛に値すると言う、ゴーレムの軍団を造り上げ魔王に戦を仕掛け一進一退を繰り広げた機王。


 己の肉体を駆使し、倒れるまで戦い抜いて見せた竜王は、空を飛べるという最大の利点を封じて戦い続けたと言う。


 その数は魔王の見てきた中でも最高峰と言っていい繁殖力を誇った蟲王。


 個体としての戦闘能力こそ差があるが、それでもそれぞれの手段をもってして長い時を魔王と戦い続けた経験が将軍たちにはあった。


 だからこそ使い魔越しにこの光景を見ている魔王は今回の戦いで息をひそめ、最後までチャンスを待つ輩に危機感を抱けと言いたい。


 チャンスは待つモノではなく掴むモノ。


 それを理解しないままこのままずっと様子を見ていたら、動こうと思った頃にはすでに手遅れになってしまう。


 なにせ、魔王と戦えるほどの実力を持った存在に勝てと言っているのだ。


 時間はいくらあっても足りない。


 その認識が欠如している。


 そしてそれを理解し、真っ向から勝負に出ているただ一人の人間こそ、チャンスを掴もうともがいている。


 懸命に武器を振るい。

 その輝きを魔王の眼に焼き付けている。


 その光景に心折られるなら所詮はその程度の実力。


 では逆にこの光景を前にして、反骨精神でもいい、誇りでもいい、自身を鼓舞し立ち上がった者がいたらどうだろう。


 残り時間は半分しか残っていない。


 結果は遅かれ早かれ、あと一日と半日で出るのだから。


 Another side End



 今日の一言

 諦めるか掴み取るかは行動次第。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 頑張れ次郎 掴み取れ!!
[良い点] ハブられた竜王さんかわいそ。
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