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461 ただただ楽しいひと時に、邪魔が入るのは

 ああ、楽しい。

 めっちゃ楽しい。


 戦闘という物騒なことをしている自覚はあるけど、それでも教官という強者と戦うのは心が躍る。


 そう思えるのはある意味で自分の才能なのか。

 それとも元来戦闘狂の気質があったのか。

 実母の現在の職業と普段の性格を考えると血筋という線も捨てがたい。


 今となってはどっちでもいいと言わざるを得ない考えだけど、ただ戦うことを楽しめると言う環境は今の状況にはありがたいということ。


「プハ」


 時間感覚はギリギリ残っている程度。

 体感的に教官たちと戦い始めて、約八時間といったところか。


「お?へばったか?」

「まだまだですよ!!」


 小休止にもならないポーションをほんのわずか出来た時間で飲み干して再び戦闘に潜り込む。


 俺と教官と竜王。

 この三者の三つ巴は時間が過ぎるのが本当に早い。


 時計を見る時間ももどかしい。


 俺の回復する隙も見逃さず殴りかかってくる教官を迎え撃つべく、鉱樹を振るう。


 剣閃の速度はまだまだ衰えてはいない。


「教官こそ!さっき水を補給してたじゃないですか!!年じゃないですか?」

「ぬかせ、酒が入った方が俺は強くなれるんだよ!!」

『はっ!この程度の戦闘でエネルギーを補給しないといけないなんて、惰弱だな!!』


 大地が割れて、空気は常に弾け、本当だったら戦闘音にかき消されて会話なんてできはしないはず。


 だが強化された聴覚が、そのわずかな声を拾い上げ、俺へと伝達してくる。

その声色は間違いなく現状を楽しんでいると伝えてくる。


 本当だったら鼓膜が破けてもおかしくはないほどの爆音や轟音が響き、回っている。


 教官が拳を振るうだけで音速の壁を越えた証拠であるソニックブームが発生する。

 竜王がその巨体を動かすだけでダイナマイトを爆発させたのではと勘違いするほどの轟音が響く。

 俺が鉱樹を振るうだけで空気が裂け、その避けた空間の空気を補給しようとダウンバーストが発生する。


 環境破壊を率先して行っている俺たちだが、そこに加わりたいような視線はちらほらと感じている。

 いいのか?そのまま見学するままで。


 言っては何だが、たぶんこのままいけば時間制限一杯で力尽きる計算だ。

 といっても俺だけではなく、ここで戦っている教官も竜王も力尽きてから本番だと言わんばかりに気力溢れるメンバーだ。


 様子見しているだけじゃ勝てないぞ。


 口元はこの楽しみを譲らないとばかりに笑みを浮かべていることだろう。

 視線は目の前の強敵たちから逸らさず、さりとて周囲への警戒は怠らない。


 多分、これまで戦ってきた中で気力体力ともに充実して最高のコンディションで戦えている。


「カハ」

「楽しそうじゃねぇか!」


 そんな戦いの中で笑みを浮かべたことが教官はうれしいのか。

 凶悪な拳を、凶刃な足を、凶器と呼べる肉体を、そのどれもを駆使して俺を倒そうとしている。


「ええ、ええ!楽しいですよ!!人生生きてきた中で一番楽しんでますよ!!」


 そんな殺意の塊の攻撃とは裏腹に、世間話でもしようという気安さで話しかけてくる。

 一発たりとも当たってはならない。

 もし当たったら致命傷になるような攻撃を紙一重で躱し、あるいは防ぎ、反撃しながら間髪入れずにこの心内を暴露する。


 楽しいと言う感情が熱く燃え上がる。

 だが、その熱さを維持しようとしている頭は極寒といっていいほど冷静に現状を見据えている。


「だから、この程度で倒れないでくださいよご両人!!」

「あったりまえよ!!まだ始まったばかりなんだからな!!」

『この俺様によくほざいた人間!!』


 挑発ではなく、心の底からの願望。

 こうなってくれと願った俺の言葉への解答は両者からの暴力。


 心の底から満点解答だよこの野郎とまだまだ楽しめる。


 幸いにしていま俺たちが戦っているエリアは、地図上的にも中央エリアだ。


 ここのエリアが落ちるのは本当に最後。

 であればそれまでの間は心行くまで戦えるということだ。


 竜のブレスだろうが、鬼の凶拳だろうがいくらでも受けて立つ。

 そのどれも悉くを切り裂いて見せよう。


 今来た竜王の爪の強度も。


「わかってきた」


 キンと硬い物同士がぶつかったにしては綺麗で澄んだ音がした。

 そして手応えから、魔力を這わせた竜王の爪を切り裂いたということも。

 何せ切れるとわかっていたのだ切れるに決まっている。

 確信をもってして切り裂いた現実に、竜王は驚き目を見開いたがすぐに、その竜の顔を笑顔に変え。


『!やるじゃねぇか!!』

「おうおうおう!楽しくなってきたなぁ!」


 切り裂かれた爪を瞬く間に再生して見せた。


 この事実を他者が目にしてどう思ったかは知らない。

 だがやられた本人は満足気に、さらに魔力を高ぶらせて戦いに身を費やしているように見える。

 驚愕に染めた瞳はすぐに歓喜に染めた竜に呼応するように、鬼は素直に歓喜しさらにその肉体で襲い掛かってくる。


「ならこれならどうだ!!次郎!!」


 全身全霊、その恐ろしき鬼の肉体。

 一体どんな素材でできているのだと言うべき肉体強度は地面を砕き、空を破裂させ、衝撃で木々をなぎ倒す。


 けれど、そんな肉体で襲い掛かってくる教官であっても俺の鉱樹の刃だけは受けると言う選択肢を取らなかった。


「こうするだけですよ!!」


 攻撃をかわし、あるいは捌き、その反撃でクルリと回した俺の刃を今度は打ち合うのではなく、避けた。


 それはすなわち、俺の攻撃を受けてはいけないものだと判断した結果だ。


 ああ、うれしい。

 俺のことを脅威に思ってくれたのか。


 届いているかどうか不安だった。

 その不安が、この行動だけで拭われる。

 俺は今、間違いなくこの鬼の頂に手が届いたのだ。


「相棒!魔力を回せ」

 〝応!〟


 ここで踏み込まなくていつ踏み込む。

 潤沢に整った魔力を思う存分振り回すとしようか!!


 そう思って踏み込んだ直後だった。


 俺たちの戦いで荒らされていなかった山の向こう側から魔力反応。


 それも小規模ではなく、大規模。


 威力的には対砦規模の攻城魔法。


 すなわち、少なからずここにいるメンバーにダメージを与えられる威力であること。


 すぅーっと楽しんでいた感情が冷めていくのがわかる。


 水を差すような真似をした相手は、きっとこの戦いに入り込むことがチャンスだと思ったのだろう。

あるいはこのままではいけないと思ったゆえの危機感か。


 ああそうさ、その判断は間違っていない。

 このまま何もしないで様子見していると負けは確定していたんだ。


 適切なタイミングで介入するのは間違ってはないさ。


 呼応するように、周囲から同規模の魔法反応がある。


 確かにこれだけの数の魔法がこの場に落ちるのならそれ相応のダメージは覚悟すべきだ。


 だが。


そんな妨害を見過ごすほど俺は甘くない。


「邪魔するな」


 それを見過ごすのならの話だ。


 自分でも恐ろしいほどに低いトーンで声が出たと思う。

 楽しんでいる時間を邪魔をされると人間不機嫌になるのはわかっていたが、ここまで機嫌が傾くとは思っていなかった。


 激情に身を任せるわけではない。

 怒りに支配され我を忘れているということもない。


 ただ単純に邪魔されたことに対して不快感を感じ、教官たちに放つ予定だった技を急遽変更。


 横槍を消し飛ばすために待ってくれなど教官たちは言っても聞かないだろう。

 だからこそ、隙を晒さず、かつ邪魔者も消し去る方法を選択。


 左手は空手。

 空間魔法より予備の刀である紫紅とは別の刀を呼び出す。

 それも一本や二本ではなく数打ちである刀を十五本ほどを空中に出現させ、クルリとその場で回転し俺の体を中心に四方八方に切っ先を向けさせる。


 戦闘中ゆえに俺の思考は加速し、教官たちの動きはスローモーションに見えているが、それは俺の動きも一緒。

 加速領域の中で、思考だけを加速しているからこその光景だ。


 ヴァルスさんを召喚できていればもっと加速できるけど、あの精霊の召還は魔力の消費が激しい。

 やるなら確実に仕留めると決めた時。


 今現状でもなんとかなっているのなら、このまま推し進める。


 視界の中で左側から教官が迫り、予測としては左の正拳突きが飛んでくる。


 空中に滞空し、空から魔法とブレスを吐こうとしている竜王の攻撃発射まで約コンマ六秒。


 両者の攻撃はこのまま行けば同時に俺のところに当たる。

 であれば同時に迎撃し、最低攻撃を弾き返し、最良はその攻撃を貫くのが理想。


 だったら、攻撃比率的に十五本の内六本は教官と竜王に放つ。


 残った刀で周囲を黙らせる。


「喰らえ」


 細工は流々、あとは結果を御覧じろ。

 この技はもう少し後に見せるつもりだったけど、予定が繰り上がることなどよくあること。


 気にすることもなく、容赦も加減もなくそれを発動する。

 対遠距離殲滅奥義。


「山崩し」


 回転する勢いで、魔力を滞留させ、その魔力で遠心力を形成し高速で回転する刃を作り出す。


 外から見れば回転カッターのような見た目になり教官たちや竜王にとっては何ら脅威にならない攻撃に見える。

 だが、本領はここから。


月山がっさん


 鉱樹によって生み出された高純度の魔力は刀身に宿り、そのまま刀身が悲鳴を上げるが、もとより使い捨てにする数打ちの刀たち。


 しかし数打ちとは言えすべてがジャイアント職人によってつくられた名刀。

 一本の値段は五百万ほど。


 それがいま十五本ほど消え去る。


「散りの舞」


 キンと鉱樹によってとどめていた刀たちの魔力の紐を切り、一斉にその刀たちは四方八方に飛んでいく。


 それは教官たちも例外なく、むしろ直近だからこそ、高速でその目の前に迫る刀を迎撃しないといけない。


 嫌な予感がしたのか、それとも歴戦の勘か。


 教官はその刀に触れることを嫌い少々大げさに避けた。


 竜王ですらその巨体を守ろうとするためにその翼を高速で羽ばたかせ、攻撃を中断しその攻撃を避けた。


 ああ、そうさ。

 それが正解だ。


 決してこの刀は触れてはいけない、迎撃してはいけない、防いではいけない。


 何せこの刀は爆発しますので。


「エグイ攻撃してきたなおい」


 刀三本分の攻撃は、教官の動きを抑制することに成功し、俺が反撃の準備を取れるわずかな時間を造り上げてくれた。


 その時に対面した教官の顔は、呆れもせず驚きもせず、ただただ感心したと言わんばかりに笑っていた。


「あなたを倒すにはこれでも不十分だとは思ったんですよ」


 そしてわずか数秒後。


 俺たちを中心とし、四方八方の地形から大爆発が発生した。


 それは教官が避けた背後からも、そして竜王が避けた上空からも発生し、その爆発の規模からして先ほど放たれそうになった攻城魔法をはるかに上回る魔力規模だった。


「あらかじめ、武器の方にお前の魔力を込めてオーバーロードさせた武器で不十分とは俺も随分と高く評価されたもんだ。ありゃ、一本で一軍が滅ぶ規模だぞ。よくそんな物持ち込んできたな」

「幸いにして、俺、時空の精霊なんてものと契約してるもので、爆発寸前で時間を止めて保管することはできるんですよ」

「器用なものだ」


 原理としては単純明快。

 準備の段階で、魔力吸収率のいい素材で作り上げた刀の刀身に術式を刻み、そこに俺の魔力を限界まで注入。

 爆発寸前になるまで注いだ段階でヴァルスさんの時空魔法で刀の時間を魔力ごと凍結。


 あとは術式開放と同時に射出してやれば、不安定な俺の魔力をはらんだ一つの魔力爆弾となった刀が打ち出されるわけだ。


 本来の使い道とは違うが、これはこれで結構な威力になる。


 本当だったら刀の形にした理由として、術式構成を省略して、使い捨てにはなるけど建御雷や天照、そして加具土命といった装衣魔法を連射して教官たちを圧倒しようと思ったのだ。


 一発、一刀振るうだけで刀身に限界が来て、一撃で砕け散ってしまう武器だけど、威力に関して言えばかなり良質な部類になる簡易的な攻撃魔道具だ。


 しかしこれも魔力消耗が激しくて、後半戦の持久戦になったときに使おうと思っていた切り札の一つ。

 まさかこのタイミングで切ることになるとは思っていなかった。


「予算の都合上、そこまでの数は用意できませんでしたけど、まだまだあるのでご安心を」


 幸いにして全弾打ち出したわけではない。

 残りの本数は三十二本。


 十五本で戦いの邪魔ものが掃討できたのなら安い出費と考えるべきか、それとも切れる手札が減ったことを嘆くべきか。


 そんなことを気にしているよりも気分を入れ替えた方がいいか。


 これで周囲は静かになったんだ。

 あの程度で全滅はしないとは思うけど、無傷でもないはず。


「さて、続きをしましょうか」


 仕切りなおしというわけではないけど、ゆっくりと鉱樹を持ち上げ肩に乗せ。


「戦いはこれからですからね」


 もう一度気持ちを高ぶらせるのであった。



 今日の一言

 楽しんでいる時の横槍ほど、苛立つ物はない。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 邪魔するやつは木っ端微塵になっておしまい 次郎ーがんばれー
[一言] 観戦者サイドも他の参加者サイドも、内心では阿鼻叫喚の大騒ぎですわ笑
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