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460 待ちに待った日、そこに歓喜する

「ハハハハハハハハハハハ!!!」


 狂ったように笑うと言うのはこのことをを指すのか。

 なかなかここまで派手に笑うことはないが、そんな気分なのだから仕方ない。


 竜王の放った周囲一帯を消し飛ばす、極大の技。


 グラウンド・ゼロの魔力を丸々吸収できたことにここまで成長できたのかのかと歓喜した後に自分の置かれた今の立ち位置を見直してみればさらに笑う以外の選択肢はない。


 まさかこうなるなんて……とまでは言わないが、こうも早くこうなるとは思わなかった。

俺の予想ではこうなるのは早くても二日目の前半から三日目にかけてだった。



それが初日に達成できるのは僥倖だった。


 地面が荒れ果てているものの地面としての役割はかろうじて残っている。

 さっきの竜王の攻撃でぺんぺん草も残らぬ荒れ果てた荒野のようになり、その代わりに辺り一帯の見通しが随分と良くなった。


 地平線の彼方からこちらの様子を伺う視線はさっきの竜王の攻撃から逃げ切ったか防いだか。

 どちらにしろ、残り二日以上という制限時間を残している段階ではこれ以上のリスクは冒せないと判断した結果だろう。


 かなりの数の視線を感じるが、何かをしてくると言う様子はない。


 その条件下は俺にとってはかなり都合がいい状況だと言っていい。


 なにせ。


「よう、待たせたか?随分と楽しそうに笑っていたようだが」


 待ち人が来るのだから。


「時間的にはさほど、笑っていた理由はそうですね」


 ゆっくりと振り向いて、十メートルほど離れた場所に立つ教官の姿を捉える。

 その姿は彼の本気の戦闘スタイルなのだろう。

 背に大金棒を背負い、下半身には道着のようなズボンを履いていて、それ以外は何も装備していない。

 己の肉体こそが装備と言わんばかりのスタイル。


「予想以上に万全な状態で戦えるなと思う所と」


 そんな教官とこれから戦えるのかと思うと興奮して笑みが浮かび、そして楽しみだと言う感情があふれ出してくる。

 それが魔力も体力も万全な状態だと言うのならその感情はより一層高ぶると言うものだ。


 だが笑うしかないと言う意味でも俺の笑い声は響いていただろう。


「人生なかなかままならないと言う意味で笑ってましたよ」

「そいつは」


 そして招かれざる客も来る。


「ご愁傷様だな。アイツに目を付けられてんのにあんな派手な招待状を俺に送ったら嫉妬するぜ」


 ブオンと大きな風が巻き起こり、俺が立っている場所に大きな影が広がる。


 肩をすくめて自嘲気味に言ってみれば、彼の鬼は楽し気に笑う。

 そしてキオ教官の言葉に苦笑しながら俺は空を見上げれば、灰色の鱗を輝かせた巨大な竜がそこにいた。

 鬼の王である教官と竜王に挟まれるなんて何の悪夢だと他の参加者なら思うかもしれない。

 かく言う俺も可能なら、教官との一騎打ちが好ましい。

 だが、この状況が最悪かと言われたらそうではない。


『見つけたぞ!』


 その竜の口から吐き出された言葉は随分とまぁご機嫌がよろしいようで。

 さっきまで笑っていた気分をそのままに。


「まぁ、最悪の状況でないだけまだマシだと思っておきますよ」


 俺は今の純粋な気持ちを吐露する。


「俺とこいつに挟まれて最悪ではないとは、お前も随分と大口を叩けるようになったな」


 そんな軽口をたたく俺を嬉しそうに教官は見つめてくる。


 ゆっくりと鉱樹の魔力循環を高めていき、戦闘モードへ移行する。


「ええ、何せとある鬼に戦う楽しさを刷り込まれてしまった哀れな人間なもので、この状況も楽しまないとと思ってしまうようになったんですよ」


 ゆっくりと切っ先を教官に向け。


「そいつは何とも教育熱心な鬼もいたもんだ」


 その動きに合わせるように鬼もすっと体の力を抜いた。


「はい、感謝してますよ。今の俺は前の俺よりも生きていると言う実感と充実感で包まれていますから」


 そして、こちらの動きに合わせて空の魔力も大きく脈動し始める。


「例え、鬼と竜に睨まれても怯みはしませんよ」


 傍から見れば悪夢のような場所に立たされた非力な人間に見えるかもしれない。

 もし仮に、正義の心を持った勇者がこの場に現れたら、逃げろと俺に言うかもしれない。

 遠巻きに見る一般人がこの場にいたら、俺は死ぬのだろうと哀れに思われるかもしれない。


 だが、俺にとってそのどちらの感情も邪魔でしかない。

 鬼も竜も意識し、俺の口元は再びゆっくりと笑みを浮かべる。


 緊張もする、恐怖もある。

 だがそれ以上に楽しみという感情が上回っているだけ。


 数年にも満たない期間で、この場に立てることを誇りに思い。


「だから、二人とも」


 三つ巴の戦いのゴングを鳴らす。


「負ける覚悟はできていますか?」


 俺の宣戦布告に対する明確な答えはない。

 あるのは獰猛な笑みと、俺を殺すと言わんばかりに明確に放たれた殺意と闘気。


 大口を叩いた代償は、二人を本気にさせたと言う結果のみ。


 ビリビリと肌を焼くのではと思わせるような魔力の波動。


 僅かな痛みこそ感じるが、その波動もすぐに自身の魔力波動で打ち消し。


 戦いに合図はない。


 鬼王である教官と竜王はこの場では敵同士。


 そして俺も二人とは敵同士。


 敵の敵は味方なんて言葉はこの場では完全に適応されない。


 完全な三つ巴。


 ああ楽しいなと予備動作を感じさせない仕草で俺は真っ先に。


「その首頂戴」


 直上に跳んだ。


 鉱樹の刃には潤沢に魔力を注ぎ込み、その刃の鋭さは鋼だろうと熱したナイフで切るバターよりも簡単に切り裂く。


『とれるものならな!!』


 そんな不意打ち染みた俺の攻撃を歓喜の声で出迎えるのは攻撃を予想していた竜王の爪。

 初めて戦った時の慢心していた攻撃とは違う。


 相手方の爪にも潤沢な魔力が付与され、あれでは並の金属など紙のように切り裂かれるだろう。

 竜の首を狙った俺の一刀は、その爪との交差に使われ、上空で甲高い音が響くが、お互いに弾くだけではなく次の一手に繋がる攻撃であった。


「おいおい、いきなり浮気とはツレナイな次郎!!」


 そして、この攻撃であの鬼が動かないわけがない。

 空中で攻撃し終えた俺の動きなど、例え次の攻撃が早かろうとあの鬼なら攻撃してくると踏んでいた。


 その予想は大いに当たり、大きな金棒を振り回して空中へと跳びかかる鬼の姿を背中で感じる。


 これで飛んで火入るなんとやらなら気軽なんだけど。


「ハハハハハ!そんな魔力を滾らせて俺の頭をかち割ろうとしている鬼の誘いは何とも得難いですね!!」


 その金棒に含まれている魔力の量はえげつないの一言。

 今から何をするつもりだと言いたくなるほど多大な魔力を含んだ金棒と鉱樹の接触。


 質量的に考えて普通なら鉱樹がへし折れてもおかしくない打ち合いであるけど、俺の相棒は見事に何ら影響を見せない。


 代わりに空中から叩き落された俺だ。

 地面に両足から着地するが、このまま着地してしまったら地面に埋もれてしまう。


 なので地面に向けて魔力を放出し、足場を強化。


 そうすることで俺の足元が半径五メートルほど円状で陥没し、その周囲が隆起することで着地は成功。


 俺は即座に飛び上がり降ってきた尻尾を避ける。


 そしてその隙を突こうと鉱樹をその鱗に走らそうとしているが、その横から鬼の拳が飛んで来たら流石にそっちに対応しないといけない。


 では、その攻撃に対応している間に何が起きる。


 俺の視界の端に口の中に魔力を溜めて教官ごとブレスで滅しようとするのが見える。


『死ね』


 竜王さんや、これ、一応選抜試験なんだけどなと心の中でツッコミを入れるが、不安はない。

 なにせ俺の正面で拳で鉱樹と切り結んでいる大鬼がいる。


「うっせぇ!!邪魔するな!!」


 吐き出されたブレスなど鬼にとっては邪魔でしかない。

 思いっきり口元めがけて放り投げた金棒はブレスの中を突っ切ってわずかにずれた金棒は竜王の鼻頭に直撃する。


 鬼の一撃は並ではなく、その竜のブレスを止めざるを得ないほど強力な一撃となる。


『いってぇなぁ!!おい!!』


 当然その攻撃に腹を立てるのは竜だ。

 どっちが先に手を出したかなんて関係ない。


 攻撃したからやり返した。

 ただそれだけの事実であるのにもかかわらず、鬼と竜が激突するきっかけになる。


 これは俺にとって大きなチャンスだ。


 一瞬だけど教官と竜王の意識が逸れた。

 その隙にふぅと呼吸を入れなおし、そのまま魔力を使って鉱樹に魔力を這わせ。


「建御雷!!」


 蒼雷を放つ。


 これで決着がつくとは思っていないが、教官ごと竜王まで攻撃できるチャンスは徹底的に拾っていくべき。


『効かねぇよ!!』


 嘘つけと言いたいが、その言葉の通りダメージは少ないだろうとは思っている。


「ガハハハハ!!いいなぁ!!次郎!!俺たちの隙を逃さねぇ!!いいぜ!!楽しくなってきた!!」


 だがダメージは入った。


 高速で推移する戦闘状況。

 誰かが攻撃したらその攻撃にカウンターを合わせる。

 あるいは防ぎ、その隙を狙って攻撃できる余裕がある者が横槍を入れる。


 はたまた敵である二人をまとめて倒すために全体攻撃を放つ。


 その繰り返しだ。


「っ!?」


 幾重もの攻撃を交え、そして防ぎ、返す。

 その過程でダメージをもらうこともある。

 今は教官の蹴りが見事に俺の腹に喰らったが、鎧に魔力を通して砕かれないようにし、その衝撃も最小限に抑えたつもりであったが腹筋に響く衝撃は内臓にも届いている。


 一瞬の呼吸停止が、後の戦闘に支障を出す現在においてその隙は看過し難い。


「らぁ!!」


 即座に気合でその蹴りを掴み投げ飛ばし、そして。


「邪魔だぁ!!」


 俺と教官もろとも噛み砕こうとしてきた竜王の牙めがけて思いっきり後ろ回し蹴りを放つ。

 白くきっとよく歯を磨いているんだろうなと思える純白の牙に感心しながら放った俺の蹴りと牙は正面衝突。


 地面が再び割れ、そして衝撃が辺り一帯に振りまかれるが、この程度の衝撃波そよ風と変わらない。


 足元がグラつこうが、そのグラつきを抑え込む勢いで踏み込んでしまえばいい。


 突風が体を吹き飛ばそうとしても、それ以上の勢いで突破してしまえばいい。


「懐かしの!!」


 回し蹴りの勢いを利用して、蹴りを放った足を地面に突き刺す。

 心の中で竜の牙が永久歯だったらごめんなさいと謝りながら、鉱樹を握っている手である右手とは反対の左手で、今では常用している魔法を展開する。


 馴染みの魔法陣が肘付近に現れ、そして手の甲付近に杭が出現する。


「パイル!」


 踏み込みまでの時間で形成できる魔法陣は十三個。

 これは前に撃ち放った奴よりもかなり強力な一撃であり、あの勇者にも通用した一撃だ。


 いくら将軍であろうとも無傷では済まないだろう。


 その巨体が仇になったな!!

 今だったらそんなでかい体、只硬くて力が強くて、邪魔なだけの的でしかないんだよ!!


 ともし仮に、海堂辺りが聞いたらそんなことないって首を振って否定するであろう言葉を心の中で叫びながらトリガーを引くイメージでその魔法を発動させる。


「リグレット!!」


 轟音が辺り一帯の音をかき消し、そのまま竜の牙をへし折る。


『そう何度も同じ技を喰らうものか!!』


 ハズだったが、流石にこの技を二度喰らうことはなかったか。

 穿った先にあった魔法障壁はハニカム構造で形成された障壁。


 それも穿った感触でわかる限り、貫けた障壁は全部で三十二枚。


 今の一瞬でこれだけの障壁を展開できたのかと感心しつつ、すぐにその場を離れる。


 障壁の先にある口からブレスが吐き出され。


「俺とも遊んで行けよ!!」

「喜んで!!」


 避けた先にいる教官と切り結び。


「ちっ!邪魔すんな!!」


 そのまま俺たちのいる位置まで薙ぎ払う形で放たれたブレスに文句を言う教官は、そこら辺の地面に足を突っ込んだかと思うと、そのまま地面の岩盤を蹴りで引っ張り出してくるではないか。


 そして一瞬ブレスを防ぐ壁となったそれを。


「てめぇは邪魔だ!岩でも食ってろ!!」


 思いっきり竜王めがけて蹴り飛ばすのであった。


『お前が邪魔するな!!』


 だが、それこそ邪魔だと言わんばかりにブレスの勢いは増す。

 瞬く間に教官の魔力で強化された岩はブレスで消し飛ばされる。


「だから邪魔だって言ってるだろうが!!」


 そのブレスに真っ向から正拳突きの構えで、魔力を這わせた拳で竜のブレスに対抗する教官。

 その隙は逃さない。


「天照」


 詠唱を省略した天照の威力は詠唱の物よりは劣るが、それでも教官の体にダメージを通す威力はある。


 それこそ竜王のブレスごと切り飛ばすと言う覚悟をもってして俺はその空間に跳びこむのであった。


 それを傍観している者たちからしたらどう見えたかなんて知らない。


 俺はこの戦場を楽しんでいる。

 ただそれだけなのだ。



 今日の一言

 楽しみは最後まで取っておくが、その楽しみの最中はやはり楽しい。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 頭おかしいわコイツらw(褒め言葉)
[良い点] 正に三つ巴の戦い 漁夫の利を得ようとする者がいるよー 次郎、気を付けて!
[一言] 本当最高、状況が目に浮かぶ
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