459 傍から見たら、その光景はどう見える?
Another side
「ヤバい、ヤバすぎでござるリーダー!!マジで、いやマジで!!マジリーダー!!」
「おい南、語彙力、あとその笑い方どうにかしろ」
ヒーヒーヒーと過呼吸気味な笑いを放ちつつバンバンバンと机をたたきながら腹筋崩壊を起こす南。
そんな笑い転げる南の様子にどこがツボに入ったか長年幼馴染をやっている勝をしても理解できないらしい。
代わりに、目の前の映像によって低下した語彙力を指摘している。
映像に映っている次郎の姿は正しく無双。
ギャグ映画のように次郎に襲い掛かってくる選抜参加者は次々に宙を舞い、そして吹き飛ばされていく。
ゲームのようにモブキャラが吹き飛んでいく光景は簡単そうに見えていても実際にやるとなると生半可な実力では実現することではない。
それを理解しているがゆえに、この場にいる面々は南の反応を否定しない。
彼らがいるこの場はパーティールーム。
普段使いしている場所だ。
次郎が参加している選抜試験の中継を見ようということで、あらかじめスケジュールを調整して三日ほど仕事を休めるように調整したのだ。
長期戦を見越して、色々と設備が整った環境にいた方が都合がいいと思って場所をここに選んだのだ。
他のパーティーも似たような感じで集まっていると聞いているし、なんなら事務員の人たちも中継を見たいがために許可を取って集まっているグループもある。
そんなわけで海堂たちも仲間内で集まって今に至るわけである。
「いやぁ、仕方ないっすよ勝君。先輩のあの無双振り、笑うか、呆れるか、納得するか、引くかはすると思うっすけどノーリアクションだけは取れないっすよ」
「そうね、ヒミク姉様も良き人間に目をつけたということかしら。ねぇシィク」
「そうね、ミィク。あれほどの才覚を持った者と添い遂げられるとは姉様もなかなか隅に置けませんね」
「見せつけるなら他所でやりなさい」
「まぁまぁ、カレンちゃん」
大きな画面を複数用意して色々な方面の使い魔の映像が流れているが、海堂たちはソファーや座布団といったクッション、そして普通に椅子に座ったりと各々好きな位置で中継を眺めているが、そのなかでプレティーンエイジャーの少女たちを侍らせていると言われて通報されてもおかしくない状態の海堂に北宮はツッコミを入れる。
何と言うか普段からこの距離間なのかというくらいに距離感が近い。
本当だったら二人で座るソファーを三人で座っていることもそうだ。
海堂が中央に堂々と座って、その隙間を小柄な二人が滑り込み、ゼロ距離、くっついたような状態で寄り添っている。
人によっては血涙を流しかねないほどの羨ましい光景。
人によってはまず間違いなく110の番号をダイヤルプッシュする光景。
北宮にとっては大事な場面でいちゃつくなと不真面目な光景を注意したい気持ちよりも、恋愛関係でうまくいっていない経験と、勝に素直に甘えられない苛立ちが勝ってしまったゆえに嫉妬交じりの言葉になってしまった。
それを嗜めるアメリアは仕方ないなと思いつつ、そっと画面の向こう側にいる次郎を見る。
「ちょっと思ったけど、さっきのジロウさんの攻撃を防げる人ってここにいるのかナ?」
ついさっき繰り広げた次郎の教官へのあいさつ代わりの大規模魔法。
色合い的に次郎の切り札の一つである天照の派生形であるのはアメリアの持っている図書館からの知識で察せた。
その威力は射線上の全ての物質を溶かして、消し去るほどの威力を誇っている。
それに触れただけで脱落者を大勢出したのではと思えるほどの派手な攻撃。
南のヤバいとしか形容できない気持ちも少しわかるなとアメリアは思いつつ、自分だったらああするなといくつか防御手段を考案しつつ周囲に話を振ってみる。
「はぁ、笑ったでござる。で、ええと、リーダーのあの攻撃を防ぐ手段でござるか?普通に考えて撃たせないって言うのが最適解のような気もするでござるが、それはそれで無理そうでござるし。撃たれたらの対処法でいいなら拙者はいくつかあるでござるよ」
最初にアメリの言葉に反応したのは、次郎の出鱈目ぶりに腹を抱えて笑っていた南だ。
呼吸をどうにか落ち着けて、正常に戻った彼女は、うーんと少し悩んだあとに指折りで対処法を数えあると断言した。
その反応におおといったどよめきやほうといった感心するようなリアクションもない。
「そうっすよねぇ、俺の場合は防ぐよりも避ける方に重点をおくっす。あれを正面から防ぐなんて魔力と体力を根こそぎ使いそうっすから」
どちらかというと、同意といった感じのニュアンスの雰囲気が漂っている。
それを証明するかのように次に海堂が南の言葉を継ぐような形で自分でも対応できると言ってくる。
「僕も海堂先輩と一緒で躱す方向ですね。体格的に教官みたいに跳ね返せるほどのパワーもないですし、あとのことを考えるなら防ぐよりも躱す方がコスト的にも安いです。予備動作の多いあの攻撃だったら超長距離の探知外から放たれても避けられそうです」
その海堂の言葉にさらに賛同するように勝も頷く。
ただ両者ともに躱すことを主眼にしているが、防げないとは言っていない。
「私は減衰させて防ぐかしらね。魔力が結構消費されそうだからそう何度も使える手段じゃないけど、三、四回程度なら防ぐわよ」
前衛の海堂に前衛もできる勝。
その二人とは違って生粋の後衛である北宮は、しばし悩んだ後に、最善策を言い始める。
その手段は魔法使いとしてはある意味で王道とも言える手段。
しかし、王道だからこそ実力が備わっていなければ実現できない手段とも言える。
南、海堂、勝、そして北宮。
各々そろって対処できると断言したことにこの場で驚く者はいない。
「流石だネ!!」
この話の言い出しっぺであるアメリアの中でも予感があったから、称賛こそすれど驚きはない。
無理という言葉はこの人たちなら言わないと半ば確信していたのもある。
あの日、次郎の無茶な特訓スケジュールを見て、さらにその後の行動を一番身近に見てきたこのパーティーにとっては無縁だろうなとは思っていた。
なので結果的に予想通りできるとこの場にいる全員は言った。
「そうね、それに忠には切り札もあるしね。ねぇ、シィク」
「ええ、ミィク。私たちが力を貸したあれがあるからあんな攻撃でもへっちゃらよね」
「ほう、そこの幼女たち、拙者にその話を詳しく聞かせてほしいでござるよ」
そしてさらに上を行こうとするのはこの場の面々、画面の向こうで無双しているリーダーの影響か。
さらに切り札を用意していると言う双子の天使の発言に、一旦無双映像よりも注目度を集めてしまった海堂は。
「ふふふふふ、先輩の度肝を抜くための秘策っすよ。楽しみは最後まで取って置くっす」
そのことに優越感を感じ取った海堂は双子のいきなりの暴露に慌てることもなく口元に人差し指を当てて内緒だと断言する。
「ふふふふ、なら拙者の灰色の脳みそをフル稼働して先に予想してネタバレ公開をしておくでござる。そうすることで海堂先輩が見せたときのリアクションを大幅に減らしておくでござる」
「っちょ!?南ちゃん!ネタバレはダメっすよダメ!!絶対ダメっす!」
「ん~?知らないでござるなぁ。拙者がやろうとしているのはあくまで考察でござって、ネタバレではないでござるよ。その過程でズバリ的中させてしまうかもしれないと言うだけでござるよ~いやぁ、もし仮に拙者の予想が当たったらその驚愕による賞賛は海堂先輩の物ではなくて、それを的中させた拙者の物になるかもしれないでござるが」
大きく腕でバツ印を作る海堂にニヤリとあくどい笑みを浮かべる南。
それを見て勝は、この幼馴染なら全力でやるときはやると知っているがゆえに本当に海堂の切り札を的中させてしまうかもしれないと心の中で思った。
正にネタ殺し。
それを体現しそうになっている南に海堂は慌てている。
ある意味でいつもの光景だなと勝は思いつつ、そっと画面の方向をみる。
「あ」
そしてその画面の方向に変化が起きていることに勝はつい声を漏らしてしまう。
「どうかしたでござるか、勝?ん?あ」
「え、ちょっと何があったっすか二人して、あ」
「何よみんなして、画面の方に何か変化でも、あ」
「え、なに、みんな揃って同じ反応されると私、見るの怖いんだけド」
揃いも揃って画面の方を見て唖然と口を開くのを見てさすがに怖くなったアメリアは恐る恐る全員が見る画面の方を見る。
「あ」
そしてアメリアも同じように口を開いてその光景を見るのであった。
Another side End
ゾクリと寒気のようなものを感じて俺は教官がいる方向とは正反対の方向を見る。
一方向は見事に視界が良好になって、一直線上の先に教官がいることは感じ取れた。
だが、反対の方向はまだまだ視界が確保されておらず見通すことは難しい。
それでも正反対の方向に竜王がいることも把握できるほどの濃密な力。
隠れることなく堂々としている二人を見つけることは思ったよりも簡単だったなと思いつつ、初日で接敵できそうだなとさっきのあいさつ代わりの大規模魔法の魔力を補給しておくためにポーションを一本飲み干す。
そんな準備が整って、さてやるかと自力で作った道を進もうと思ったとき、先ほどの寒気を感じたわけだ。
振り返った先、その先にはなぜか薄暗い暗雲が立ち込めており、そこの空間が徐々に歪んでいるように見えた。
そしてその攻撃手段にとても心当たりのある俺は全力で教官の方向めがけて駆け出すことに躊躇はなかった。
「ちょっと待て!!何であんなものぶっ放そうとしてるんだよ!!他の候補者たちが頑張りすぎてるのか!?だったらもっと頑張ってくれ!具体的に言えばあれを防げ!!」
天変地異とも言える攻撃を体験する身として、あの威力はどうにかしないといけない。
こっちから攻撃して攻撃を防ごうかとも思ったが、タイミング的に俺が放ち終わった後に放とうとしているのはわかっている。
であればさっき使った天照・日昇は間に合わない。
建御雷ではおそらく届かない。
他の手段も検討するけど、あれを防ぐのは少しきつい。
であれば射程外に逃げるのが一番いいんだけど。
「間に合うか!?」
少し融解して熱せられている地面を魔力によって強化した脚部で全力疾走。
右足が焦げる前に左足を出して、左足が焦げる前に右足を出す。
理論としては、冷却、踏み込み、冷却、踏み込みを繰り返しているだけだ。
結構な速さで教官との距離を詰めているような気もしなくはないが、流石に背に腹は代えられない。
あの攻撃から距離を取れるのなら仕方ない。
『グラウンド・ゼロ』
なんでか竜王のその声が聞こえたような気がした。
そして巻き起こる暴風。
その暴風ですら、後に来る暴力によって背中を押されて発生したただの風でしかない。
ある程度の距離を離した俺は、一気に急停止してその攻撃に備える。
破壊の津波とでも言えば良いのか。
迫りくるその光景を前にして、ここまでやるのかと俺は苦笑を一つこぼす。
竜王を中心とした範囲攻撃。
前に体験した時はダンジョン内のモンスターが迷わず全力で逃げていた。
それが理解できるほど、強大な破壊の波が目の前に迫っている。
「ふぅ、やるぞ相棒!」
この速度では範囲外に逃げるのは困難。
〝応!〟
であれば迎え撃つのが最適解。
防ぐことも躱すことも叶わない攻撃。
素早く鉱樹の根を俺の腕に巻き付け、魔力循環を始める。
攻撃が届くまであと三十秒。
あれだけの距離があったのにも関わらず、この距離まで全く攻撃が減衰することなくここまで届かせるなんて出鱈目な攻撃を。
「出鱈目には、出鱈目をぶつけるしかないな!!」
魔力を消費している今、ちょうど目の前の攻撃はこの技を試すのにちょうどいい塩梅だと思い。
「其の闇、黄泉の道へ繋がる一条なりて、数多ある万理を飲み込む者なりや」
詠唱を開始する。
超近接戦ではまだまだ使えないが、こういった広範囲攻撃に対抗する手段は必要だと思い体得した装衣魔法。
「深く、深く、深く、何よりも深く、その衣、常闇の導に従い顕現するものなり」
鎧の上からその闇は纏われ、その衣を脱ぎ捨てるように肩から剥ぎ取り鉱樹に這わせる。
「今ここに黄泉の刃を生み出さん」
その魔法の名を唱えるころにはその破壊の津波が眼前まで迫り、上段に構えた鉱樹をその破壊の津波にぶつける。
「伊邪那美!!」
鉱樹の進化と俺の成長、その二つの成果によって生み出された、俺が持ちえる闇系の最強の刃。
対太陽神用に開発した技でもあるその闇の刃の効果。
それは。
「なんだこの出鱈目な魔力の量は!?伊邪那美で魔力消費しても追いつかないのかよ!!」
魔力吸収。
触れた物体の生命力とも言える魔力を吸収する刃。
物理的な攻撃力よりも、相手の魔力を吸収することに特化した刃。
そのおかげで竜王の攻撃にも抗うことができる。
伊邪那美の欠点はその魔力消費に対比して相手から吸収できる魔力が少ないということ、よほど斬りかかる相手の魔力が多くない限り自身の魔力を大幅に消耗してしまう赤字覚悟の魔法なのだ。
おまけに物理的攻撃力は鉱樹に毛が生えた程度の攻撃力だから、マジで使いどころが難しい。
だからこそ、その魔力消費を大いに上回る竜王の一撃はかなり美味しいご飯とも言える。
闇の刃に吸い込まれる破壊の魔力。
鉱樹を経由して吸い込まれ、俺の魔力に馴染んだそれはみるみる高純度の魔力を生み出していき、さらに伊邪那美の刃を深く染め上げる。
「っしゃぁ!!ごちそうさまでした!!」
そんな攻撃を結局十数秒間で吸い上げた俺はすぐに伊邪那美の衣を解除するように振り払い。
万全の状態で教官に挑めるようにしたのであった。
ただ、その時あり得ないと誰かが言ったような声が聞こえた気がしたが、気の所為だろうか?
今日の一言
あり得ないということはあり得ない。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




