456 そして、本番の日は来る
2作品同時進行でも、こっちの投稿は遅らせません!!
ついにこの日が来た。
全身を武具で固め、大太刀となった鉱樹を背に背負う。
そして、腰にはポシェットタイプのマジックバッグをつけて準備は万端。
所謂、臨戦態勢ってやつだ。
そんな格好で最近建てた館の広間にいる。
そこで、スエラ、ヒミク、メモリア、エヴィアに見送られている。
「ああ、あ~」
「ん~、ああ」
スエラの両腕に抱かれたユキエラとサチエラが俺の格好が物珍しいのかしきりに手を伸ばしてくる。
それに、ニッコリと笑って。
「父さん、頑張ってくるからな」
そっと籠手で覆われた右手を伸ばすと子供たちは俺の指を掴み、その硬い感触にキャキャキャとはしゃぐ娘たちを見つめる。
小さな指で、遊んでもらっていると思っている子供は必至に俺の指を動かそうとその華奢な手を動かす。
それに抗うような野暮なことはしないで身を任せること数分。
子供たちのはしゃぎ声だけが響くその空間。
「お館様、そろそろお時間です」
セハスに時間が迫ってきている事を言われ、ちょっと残念だけど、そっと指を離す。
ユキエラとサチエラはもっともっとと手を伸ばすが、スエラが一歩踏み込まないとその手は届かない。
「帰ってきたら、もっと遊ぼうな」
そんなかわいらしい娘たちの姿を収めて。
「それじゃ、行ってくる」
「ご武運を」
「無事に帰ってくるのだぞ!!」
「勝利を祈っています」
「全力を尽くせ、貴様はそれで勝てる」
愛する人たちに見送られて、俺はセハスによって開けられた館の玄関を出る。
「挨拶は済んだ?」
「ああ、準備は万端だ」
「そう、ゆっくり休めてるようだし、顔色も悪くない。緊張は?」
「してると言えばしてる。だけど、どっちかと言えば楽しみにしていると言った方が正確かもしれないな」
「それは重畳。下手に緊張していないのは準備を万全にできている証拠ね」
その玄関先でケイリィさんが待っていた。
体調の状態を確認してくるように顔を覗き込んでくるが、俺は笑ってその対応に応える。
それに満足して頷いたケイリィさんはそのまま、俺を案内するように前を歩きだした。
館の前には馬車が用意されそこで御者をしている男と話しているムイルさんが俺に気づいて手を振って近づいてくる。
「婿殿、いよいよじゃな」
「ええ、そうですね」
そんな彼とのやり取りも必要最小限になる。
「祝勝会を準備して待っとるぞ」
「期待に沿えるよう頑張ります」
一度握手して、そのまま御者が開けてくれた馬車に乗り込む。
この馬車は社長が参加者全員に向けて用意した馬車だ。
この扉が開いた先が選抜試験の会場になる。
窓は締め切り、中から外を見ることは叶わない。
魔力を探知しようにも馬車は特別な素材を使われているのか、周囲を探ることが難しくなっている。
おまけに滑るように発車した馬車は静かに走るものだからどこを走っているかも予想がつかない。
行き先の情報を与えないことで公平性を保つための方策らしいが………
「気配探知すらさせてもらえないとは、徹底してるな」
加えて、御者は生物ではなくおそらくアミリさんお手製のゴーレム。
これなら賄賂とかで買収することもできない。
「となるとだ、この魔石の使い道はある程度予想ができるんだが」
そしてこれ見よがしに馬車の中央に設置されているステッキを馬車の床板に突き刺してその上に魔石を組み込んだような魔道具。
これが何のためにあるか。
それを想像し、答えを口にする前に目の前の魔石に光が灯る。
『やぁ、参加者諸君。調子はどうかな?』
「やっぱり、そうか」
そしてそこに映し出されたのは社長の姿だった。
立体ホログラフィック。
近代でも特殊な設備でもない限りお目にかかれない代物だ。
それをこの小型な装置で実現する当たり、異世界の技術も侮れないなと思いつつこれから何を聞かされるかを楽しみに待つ。
『っと、そんなことを問うのは些か野暮であったかな。これから行われる選抜試験には皆心を躍らせていると思う。なにせ、将来を支える将軍位を決める戦いだ。万全の状態で挑んでいるのはまず間違いないだろう』
開会のあいさつでも行うつもりなのか、それともはたまたルール説明か。
『この話が聞ける馬車に乗った段階で君たちは参加する意思を示した。もう後には引けない。この馬車から出た先は戦場だと思い行動することを私は勧める』
手を後ろで組み、ニッコリと笑って、意思を確認してくる社長。
それ自体は何ら問題はない。
だが、戦場なんて言葉を使ったのがなかなか不穏だ。
そしてなんか社長の笑みに裏があるように見えてならない。
疑いすぎか?
いや、冷静に思い出せ。
教官やエヴィアだって、笑っている時の方がかなりヤバかった。
『さて、諸君らの意思が固いということを再確認したところでルール説明だ。いや、この場合は将軍になるための条件と言ったところかな?』
そんな嫌な予感を感じはするが、それでもルールの確認はしないといけない。
俺が事前に聞いていたのはサバイバル形式のバトルロイヤル。
そして、キオ教官の投入。
この二つだ。
それを聞いてから結構な時間が経っている。
エヴィアの口からそのルールに関して詳細は聞かされていない。
機密であると聞く前に聞くことを封じられたからだ。
だから、俺もこの先の情報を知らない。
どこまで変更がかかったかその差異をしっかりと確認しないと………
『まず初めに、今回の選抜試験で将軍につける人数だ。最高で二人、そして最低でゼロ人だ』
ふるいにかけられるのは承知。
『そして、選抜される条件のうち一つは、鬼王であるライドウを倒すことだ。今回の選抜試験には鬼王であるライドウも会場に入る。そこで彼を倒すことができれば、誰が何と言おうと私、インシグネ・ルナルオスの名のもとに将軍にさせることを約束しよう』
そして俺の知っている情報の片方が出てきた。
『しかし、これではもう一人を選抜するための条件に欠ける。もう一つの条件として竜王バスカルを投入することとした』
「げ!?」
だが、その安心感を消し飛ばすほどの衝撃を俺は受ける。
魔王軍の中でも一、二を争うバトルジャンキーを二人も投入するって、社長何を考えているんだ!?
『さすがの私も、この二人に勝てる存在を将軍位にしないとは口が裂けても言えない。もちろん二人には協力するようにはいっていない。むしろ競い合うように参加者と戦うように言ってある。なので、三つ巴になる可能性はあるが、その代わり彼らは孤軍戦力だと考えてくれて問題はないよ』
これが老人たちを黙らせる方法なのか!?
むしろこの方法で老人たちを納得させる気皆無のような気がする。
俺含めて、むしろ落とす気満々ってやつか!?
いや、冷静に考えればうまくやれば教官と竜王をぶつけることによって二人を消耗させられるチャンスがあるかもしれないと考えた方がいいか。
だが、そのチャンスを作るための方法の難易度がかなり高すぎるような気がしてならないのは俺だけか!?
「いや、落ち着け俺、冷静になれ。この程度で取り乱してどうする」
顎が外れるかと思うくらいに開いてしまったけど、気にしてられないなと頭を振って社長の言葉に集中する。
話をざっくりとまとめれば、現役の将軍二人のうちのどちらかを倒せば将軍になれると言うシンプルな構図。
これならまだ勝機はあるか。
『協力して挑むもよし、一人で戦うもよし、ここから先は戦場。勝者のみが正義だ。何をしても咎める者は誰もいない。しかし、時は有限だ』
そんな淡い希望を抱いていたが、またもや社長の口から不穏な言葉が聞こえた。
有限。
元社畜の俺からからしたら、期日や納期と言った単語を彷彿とさせられるあまり聞きたくはない言葉だ。
指折りで、カレンダーの残り日数を数えたのは悪夢と言っていい。
『ということで、これを見てくれ。これは今回の会場の概ねの見取り図だ』
「見取り図って言ってもマス目がかかれてるだけなんだが………」
そんな過去の記憶と戦っていると新しい情報が入ってきたのでさすがにそれは聞かないとまずい。
過去のことは一旦頭の外に放り出して、新しく渡された情報を見る。
マス目。
縦八マス横九マス。
合計七十二マスの方眼用紙みたいな見取り図を見せられても疑問符が浮かぶだけだ。
『一マスが約一キロ平方メートル、全部で約七十二キロ平方メートル。これが会場の広さだ』
七十二キロって………どんだけ広いんだよ。
移動するだけで半端ない時間がかかるぞ。
『ライドウとバスカルが全力で戦うのならこれくらいの広さが必要であると同時に、この会場にはとある仕掛けがある。それは一時間経過するたびに一つのマスの空間が消失する』
「え」
そんな広さに少し不安を覚えていたが、安心しろと言わんばかりにいい笑顔の社長はさらにとんでもないことを言い出した。
『七十二時間後にはすべてのマスが消失するようになっている。それまでに二人を倒せなかった場合は全員失格とする』
制限時間が三日。
前に聞いたフシオ教官とキオ教官が全力で殺し合った日数が確かそれくらいだった気がする。
『ルールは以上だ。最後に君たちへの餞別を一つ進呈しよう。この映像を流している魔石は外せるようになっていて外すと一つの首からかけられるアクセサリーになる。この映像が消えたらそれを外して持ち出したまえ。それは君たちの命を守るための魔石だ。その魔石には緊急時、すなわち君たちの命が瀕死に陥いるような時には自動で脱出できるように転移魔法が刻まれている。移動先は救護施設になっていて開始から三日間は万全の救護体制を敷いている』
現役の将軍二人を相手にしないといけない上に、制限時間付き。
将軍二人が。たった三日で疲れるとは思えない。
戦うとしたらこっちの体力と体調が万全の状態で可能な限り時間的猶予を残しておかないといけない。
そしてこの戦いは命の危機と隣り合わせになっている。
社長の用意してくれた保険もそこまで過信していいものではない。
ダンジョン中で魔力体に変化させるのとは違って、戦うのは生身だ。
これは戦場では魔力体になれないことからそういう風にしたのか、あるいは別に意図があるかまでは測れないが、危険であることは変わりない。
社長の説明では可能な限りの救護処置として用意したように聞こえる。
だが、致命傷は助かるが、即死はまず助からないと言っているようなものだ。
『そして、もしリタイアしたいのならその魔石に魔力を流せば脱出もできるようなっている。命の危険だと思ったのなら迷わず使いたまえ。命を無駄に散らす必要はない』
前の時は一対一の戦いであったために、万が一はあっても助かる可能性は限りなく高くしていた。
だが、このバトルロイヤル形式であれば、その万が一の可能性はそれ以上に高くなっているとみるべきだ。
『では、未来の将軍たちよ。武運を祈る』
そして、最後の言葉を俺たちに送った後にスーッと社長を映し出していた映像が消え、元の薄暗い馬車に戻る。
俺はそっと魔石に手を伸ばして、そしてそっと持ち上げれば社長の言う通り魔石が光りそしてペンダントになり。
ガコンといきなり床が抜けた。
「へ?」
重力に従ってそのまま落下し始める俺の体。
「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおお!?」
いきなりの不意打ち。
そのことに慌てるが、刻一刻と自身の体は重力に従って落下速度を速める。
「地面までの距離はおおよそ百!これなら」
だが、すぐに冷静になって魔法を使って落下速度を減速させる。
ゆっくりと降下を始める体にほっと安心している時間はない。
すでに戦いは始まっている。
恐らく、あのペンダントを手に入れることが仕掛けになっていて、取り外したら馬車の床が開くようになっているのか。
空を見上げるとかなりの数の馬車が空を飛んでいて、次から次へと参加者を降下させて乗客を乗せた馬車が転移して会場から去っていくのが見える。
「本当にサバイバルかよ!」
着地を優先したほうがいいと思ったけど、俺よりも先に降下した客がいるようだ。
視界の端で煌めく何かが見えて、咄嗟に背負った鉱樹を左に向けて振るう。
それは超高速で飛んできた矢だった。
魔力で強化した視力で発射元を見ると、距離にして目視で約二キロ先の岩山から狙撃する弓使いの姿が見えた。
ローブを身に纏い種族までは見えないが、なるほど、前みたいに一対一の闘技場形式じゃあの手の輩は戦いづらかったか。
俺の眼下にある立地は森。
幸いにして狙撃からはすぐに身を隠すことができた。
地面に降りることはせず、そのまま背の高い木の枝に身を隠す。
遠くからすでに戦いの音がいくつも聞こえる。
時間制限があるという環境で早速戦い始めているのだろう。
「さぁってと、気合入れていくか」
俺も、それを念頭に入れて、さっそく動き出す。
今日の一言
準備の段階である程度の結果は予測できるが、それでも未知数は存在する。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




