449 慣れない仕事は、慣らさなければならない
遅れました(汗
申し訳ありません。
海堂たちに選択肢を与えてからの俺の生活は一気に激変した。
ダンジョンテストという業務を攻略する現場の立場から今度は管理する側として仕事を始めたからだ。
管理者として本格稼働してから半月ほど。
エヴィアの言葉からすれば今更だなと言われるような管理職として当たり前の位置に座っただけなのだがこれが思ったよりも俺の中で考え方を改めさせられる。
日常がどこまで変わるかと言われれば、単純に業務の内容が変わっただけに過ぎない。
だが、時間の使い道には多少なんて言葉では足りないくらい変わってきた。
前線に立って見えるものもあれば、こうやって後ろに立つことで見えることもある。
こうすればいいああしてほしいと現場で思っていたことを、いざ管理する側で実行しようとすると予算の都合、人員の都合、時間の都合、効率的都合と様々な要素が噛み合ってできることとできないこと、そしてリスク管理がシビアになってくる。
そんなことに四苦八苦しながらも確保できた時間は将軍になるための準備に充てられている。
そして、これもその一環。
「似合ってますよ」
「そうか?」
スエラに正装の着付けを手伝ってもらい。
最後の確認を終えて姿見の前に立った俺は少し動きずらい服に違和感を感じつつもこんなものかと納得する。
笑顔でその姿を褒めてくれるスエラの言葉に、ちょっと照れ臭く感じつつも、この格好にも慣れないとと思う。
これ一回だけではなく今後も着ていくのだから。
俺の中で一番変わったと思えるのはたぶんこの行事だろうな。
前の会社なら営業先の接待と言うキャバクラ付き合い。
そしてこの会社では園遊会、あるいは社交界と名を変える。
スーツとは違うファンタジーっぽい衣装に身を包み、そして隣にはこちらもまためかし込んだメモリアが立っている。
青いマーメイドドレスに身を包み、そして金で出来た髪飾りをして、普段よりも特別感を出している化粧を施した彼女は俺からすれば貴族令嬢にしか見えない。
普段のちょっとやる気のない店員スタイルとはかけ離れた姿に、俺はこれもまたいいなと思い。
「綺麗だな」
「………ありがとうございます」
素直に感想を伝えたら、ちょっと照れたように笑うメモリアだった。
なぜこんな格好をしているかというと、コネクション作り。
または顔つなぎとも言う。
すなわち、俺が将来将軍になったときの後援会つくりというわけだ。
未だ捕らぬ狸の皮算用状態であるのだが、それは他の候補者も一緒だ。
現状の将軍選抜試験の状況を例えるのなら競馬を例にするのがわかりやすい。
本命が誰かを予想し、見事一着になれば支持者に配当金が配られると言うわけだ。
この場合配当金というのは将軍になった存在に好待遇でいいポジションを用意してもらうということ。
魔王軍という組織の中で魔王に一番近いポジションである将軍。
そんな存在の側近になれる可能性を秘めた行事が社交界ということ。
見返りに将軍になるためにあるいは将軍になった後に支援するのだから当然と言えば当然だ。
さて、そうなると気になるのは俺は何番人気かということになる。
「出席者のリストです」
「まぁ、閑古鳥が鳴いてないだけマシか」
正直に言って人気は後ろから数えた方が早いと言うのも見栄になってしまうくらいには不人気だ。
俺が人だってこともあるし、知名度の問題もある。
何度かエヴィアやメモリア、ムイルさんのコネを使ってパーティーに参加してみるが、俺は言わば国での知名度はそこまである方ではない。
初めましてとあいさつ回りをしてみたが、礼儀作法なんてものは付け焼刃程度、恥にはなってはいないが、それでも洗練しているとは言い難く。
それがどこまで悪影響を出しているかすら予想しずらい。
なので今回初めて主催するパーティーであるが、スエラから渡された出席者リストはかろうじて両手の指を超えた程度。
しかもその大半はメモリア関係者の商家だ。
参加者に関しては同伴者によって人数が前後するが、最初は本当に様子見であるから夫婦や婚約者同士という感じで来るはず。
だから多くても三十人は超えない。
男爵や子爵と言った貴族に名を連ねるのも三家ほど参加しているが………。
「歴史がないのはやっぱり響くか。はたまた俺が人間だからか」
「どちらもでしょうね」
初めて開くパーティーでこの程度も人数が集まったのは良かったと思うべきか、少なかったと見るべきか。
判断するには難しい。
「これだけでも出席者がいるのはメモリアのおかげか」
どっちにしろ参加してくれる人がいることは感謝しないといけない。
まずは一歩と前向きに考えるとしよう。
「いえ、この方々はどちらかと言えば次郎さん個人の成果かと」
「俺の?」
他の将軍候補のパーティーには百を超える貴族関係者や商家、あるいは豪族といった存在が参加する中、俺が開くパーティーは見ての通り二桁にようやく届いたと言う程度。
その二桁の数字の成果は商家として大手であるメモリアの実家の名声があったからだと思ったが、そうではないらしい。
「先の大戦での支援の成果です。今も私の実家であの軍艦が運用されているおかげで運送費用は大幅に節約できています。なので地方、それも中央から離れているところまで商売ができているのが現状です」
加えてとメモリアは続けて。
「巨人王様から借り受けた近衛職人たちの評判も良いそうです。あの方々のおかげで街の復興も進んでいます。今回参加してくれている貴族の方々はそのお礼でしょうね」
そう言えばそんなこともしていたな。
まぁ、軍艦なんて持っていても持て余すし、近衛職人も一緒だ。
「やっといてよかったと言う奴か」
「そうですね」
それが有効活用出来た結果がこれと言うわけか。
「次郎さん、そろそろ会場に向かった方がいいですよ」
「そうか」
時計を見たスエラが、そろそろ移動したほうがいいと言い。
時間を確認してみれば確かにいい時間帯だ。
「それじゃ、メモリア行こうか」
「はい」
今回のパートナーは商家が多いということとパーティーの出席経験があるメモリアに手を差し出し、教官やエヴィアから教わった方法でエスコートする。
これでも多少は様になったかなと笑顔を浮かべつつ部屋を出る。
行き先は会社内にある俺に与えられた土地。
本当だったらそこに家を建てる予定土地だったのだが、将軍になるということでムイルさんが任せろと任してしまった結果。
「相変わらずすごい家だ」
「家というよりは屋敷ですね」
テレビとかで豪邸紹介で出てきそうな屋敷が俺を出迎える結果となった。
「お帰りなさいませ旦那様」
「ああ、準備の方はどうだ?」
「すべて滞りなく」
将軍になるものがいつまでも社宅に住むのは外聞が悪いということで、出来るだけ豪華な家を建てると宣言したムイルさん。
そしてそんな屋敷を管理してくれる老齢な見た目をしているダークエルフの男性。
名前はセハス。
あの履歴書の中にいたムイルさんの推薦で、前職はとある貴族の執事長をしていたと。
歳を理由に辞職したらしいけど、ムイルさん曰くあと三百年は現役でいられるとのこと。
この屋敷を管理してくれる執事として働いてくれているが、一度来たヒミク曰く。
『あの男ただものではない』
と何やら険しい顔でつぶやいていた。
それもそのはず。
現状この屋敷を管理してくれているのはセハスを除くと厨房に三人、庭師で五人、そしてセハスの部下にメイドが四人の計十三人。
管理する土地に対して人数が圧倒的に足りない。
信用できる人だけをとりあえず雇うということにしていたけど、その結果がこの人数だ。
無理かなぁと思ってセハスに聞いてみたけど。
『この人数であれば何ら問題はございません。ご当主に当たりましては信頼できる者のみをお雇いください』
あっさりと問題ない発言をして実際今日まで過労することなく屋敷を管理して見せている。
いずれ引っ越す予定ではあるのだが、住むよりも先にパーティーを開く結果となってしまったことに申し訳なさを感じつつも。
たった一週間で建ててしまったムイルさんに文句を言うわけにもいかず。
なるようになれと開き直るしかなかった。
この屋敷はエヴィアの実家であるノーディス家を参考にしたらしく、非常に似ているとエヴィア当人が言っていた。
外観は洋館といった横に広いタイプの三階建ての屋敷。
中庭には噴水が設置されて日当たりもいい。
一階玄関のエントランスホールなんてバスケの試合が二面コートでできるんじゃないかと思うくらいに広い。
それ以外に客室が合計百室。
うん、ホテルかってツッコミを入れそうになったけど、場合によってはパーティー参加者を全員宿泊させる必要もあるからこれでも少ない部類だとムイルさんに言われたときは価値観の違いに愕然とした。
建築費用は貯蓄もあるし、何ならフシオ教官の報奨金も戦災復興で消費したがまだ残っている。
他にもメモリアの実家から建築祝いだと言われてなぜか大量のお金が送られてくる。
金はいくらあっても困らないと言うが、使っていいか迷ってしまうのは庶民根性が抜けていない証拠だろう。
「そうか、日本の料理で歓待しようと思ったときダメだしされるかと思ったけど」
「いえ、ご当主様のご判断は間違っておりません。こういったパーティーの際には定番の物を用意しつつ目新しい物も用意するのがよろしいかと私めは思います」
そんな庶民根性だからこそ、パーティーを開くと聞いて真っ先に何をすればいいかと思ったのは料理だ。
少しでも美味しい料理を、少しでもいい酒をと思い。
大陸の方での料理に詳しくない俺は食材とかをどう手配すればいいかをメモリアとセハスと相談しながら決めた。
その際には俺のことを知ってもらうために日本というよりは地球のパーティーで出されるものを提案した。
「そうか、シェフたちには後で感謝しないとな。短い時間でよく再現してくれた」
「いえ、調理法を知っている人材を送って頂きながら出来無いとはあの者たちも言えませんでしょう。当然の事をしたまでです」
一から料理を覚えるのは大変かと思いヒミクを派遣したわけだ。
ヒミクがセハスと出会ったのはこの時だ。
このパーティーの料理にもヒミクは関わっていて、今は厨房にいるはず。
いずれこの屋敷を管理するのはヒミクかなと思いつつももう一つ懸念事項を聞いておく。
「酒の方の手配は間に合ったか?」
「ええ、そちらの方も問題なく。ただ、私が思うにあの量は鬼族の方が来訪することを想定している量ではございませんか?」
「あれ?多かった?」
「端的に言えばそうなります」
料理に合わせて酒も種類があった方がいいだろうと、こっちは日本側のコネを使った。
と言っても紹介してもらった酒蔵と、叔母である霧江さん、そしてお袋に頼んだだけなのだが。
教官と飲む時に合わせて発注してしまったから結構な量になってしまった。
「そうだな。気に入った酒があったらお土産で持たせるか」
「そうですね。そうなさるのがよろしいかと」
思えばキオ教官以外はそこまで飲まないなと思いつつ。
発注した酒をお土産にすればいいかと判断してそのまま言えばセハスはわかりましたと頭を下げる。
「後は………」
「それに関しては」
そしてそこからセハスとパーティーの最終確認をしているうちに時間は過ぎ、メイドの1人が現れ凛とした声で来客を告げた。
「当主様、セハス様。最初のお客様が参られました」
いよいよ始まるのかと少し緊張が走る。
「大丈夫です。次郎さんはいつも通りに立ち振る舞えば問題はありませんよ」
そんな緊張をほぐすようにそっと優しくメモリアが寄り添ってくれる。
「ありがとう」
適度な緊張を保つのは必要だけど過剰にならないようにバランスをとる。
さて、慣れない仕事だがここで一つしっかりとやらないとな。
今日の一言
慣れない仕事も嫌がっていたら始まらない。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
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