448 部下に後を任せる。それは信頼があれば安心できる。
「おはようございます!先輩に呼ばれて来たっすけど今度はどんな厄介事っすか!!」
「おはようでござる!!徹夜明けの拙者が盛大に解決して見せるでござるよ!!」
「おはようございます」
「おはよう」
「GoodMorning!!」
そしてケイリィさんと履歴書に関してだけではなく、今後の俺の仕事の方針に関しても相談して決めている最中にノックが響き。
入れと言えば、今度は元気な声でいつもの顔が会議室に入ってきた。
「他はともかく、海堂と南なんで俺の呼び出しが厄介事だって思うんだよ」
おはようと挨拶を返し、いきなりの言いように苦笑が漏れる。
海堂と南、俺の呼び出しイコール厄介事って認識なのはどうかと思うぞ。
そして南、お前徹夜のテンションで来たのか………
普通に挨拶できないのかと苦笑を漏らしつつそこの部分を指摘すると。
「いやだって、先輩は簡単なことなら自分で片付けちゃいますし。ほらあれっす、ねぇ南ちゃん」
「そうでござるね。リーダーは色々とトラブル体質でござるからイベントがひっきりなしに起きる主人公みたいな感じでござる」
「それがイコール今回の呼び出しが厄介事とは限らんだろうが、ったく」
まぁ、間違っていないのが悲しいところだが。
ケイリィさんが隣で笑っているのがわかる。
それをスルー、しつつ海堂たちの軽口に付き合う。
履歴書と睨めっこしていてもこの人物がどういった人材なのかは把握できない。
なのでとりあえず、海堂たちが来るまで会議室で今後の将軍位になるための下準備に関して打ち合わせをしているところで海堂たちが元気に会議室に入ってきたというわけ。
その態度に俺は相変わらずだなと苦笑しつつ、一旦ケイリィさんとの打ち合わせを止め五人に座るように席を勧める。
俺とケイリィさんは海堂たちと向かい合うように対面に座る。
「さて、朝一で会議室に来てもらった理由なんだが」
「うっす!なんすか?」
最初に世間話から入るような間柄でもない。
早速本題から入ろうと話を切り出すと、前のめりに海堂が返事をする。
こいつ、返事は良いんだがなぁ。
たまにその気合が空回りするからもう少し落ち着いてくれると助かる。
「俺はしばらくダンジョン業務から外れようと思っている」
そんなことを願いながら、今日の呼び出しに関しての本題を告げる。
「おーダンジョン業務から外れるっすか………ええ!?」
別にサプライズというわけではないが、それにしては海堂のリアクションは想像通りだ。
驚きましたと言う手本のような顔。
顎を限界まで開いて目を見開く、これ以上にない驚愕の顔ってやつだ。
「そそそそそそ、それって先輩が仕事を辞めるってことっすか!?」
そして俺がダンジョン業務を外れるイコール辞職と捉えたのか、さらに慌てるように詰め寄ってくるが。
「違う。将軍位への選抜試験が近づいているからな。少しの間そっちの方に集中したいと思ってな」
流石にそれはないと先に釘をさしておく。
今回のことはあらかじめ考えていた。
将軍になるにあたって、仕事をないがしろにするのは良くないと俺は考えていたが、周囲の考えは違うようだ。
ダンジョン攻略、俺たちの仕事で言うダンジョンテスト。
これはある意味で俺だけができる仕事ではない。
海堂たち、一課の面々、そして他の課のダンジョンテスターもやっていることだ。
確かに俺がいれば効率面では多少なりとも変化を与えることはできるが、その効率と今魔王軍で抱えている将軍位不在を解消するとなるとどっちが組織的にいい結果となるか。
それを天秤にかけるという視野を持った今では、自惚れでなければ後者の問題を解決したほうがいいと判断した。
「そうでござるよ。リーダーはしばらくって言ってたでござる良く聞いた方がいいでござるよ」
その言葉に勘違いして慌てる海堂に苦笑を漏らしつつ、海堂を席に座らせた南は詳しく聞こうと視線で俺に話の先を促してきた。
「色々あっての部分はプライベートの話になるから省くが、現在俺の方に社長と教官から将軍位への推薦をもらっているのは知っていると思う」
であるならば、順を追って俺がダンジョンテストから外れる理由を説明する必要がある。
まずは共通の認識として俺が将軍に推薦されていると言う部分から話始める。
「そうね、聞いてるわ」
「うん」
北宮とアメリアが頷き、それに追随して他の三人も頷く。
「それにあたって、俺は戦闘力だけを鍛え上げてその地位を確保しようと画策したわけだが」
「ああ、それがあの地獄としか言えないような訓練メニューっすか」
「頭大丈夫かって言われるようなメニューでござった」
「お前たち、あとで物理的な説教な」
「「ひっ!?」」
「あんたたち、雉も鳴かずば撃たれまいってことわざ知らないの?」
茶化す海堂と南の今後の予定が決まったところで、話の続きに戻る。
「まぁ、将軍位って言うのはただ戦えればいいってわけではないんだな。組織運営の知識、コネクション作り、組織形成。あとはダンジョンの知識に、歴史の勉強、はたまた帝王学みたいなことまで学ばなくてはならないと来た。次元室やヴァルスさんの力で時間をいくらでも生み出せると言っても俺の体にも限界があるわけだ」
足りないことだらけだと俺の考えが甘かったと肩をすぼめて見せれば、それもそうだと皆頷く。
「最近、先輩が姿だけが人間でそれ以外は人間じゃないって思ってたっすけど、もとはただの社畜っすもんね」
「逆を返せば、次郎さんって才能があれば社畜でもここまで強くなって出世できる見本よね」
「確かに色々な種族がいる中、僕たち人間でもこの会社で出世できる希望にもなりますけど、その過程を見ている身としては………」
「ん~確かに勝君の言う通りだよね。ジロウさんは凄いと思うけど、ここまでしてなりたいかって聞かれたら、そこまでしなくてもって思うよネ」
「いや~、一番リーダーに近いアミーちゃんが言うのはどうか思うでござるよ。拙者の予想、リーダーの次に化けて主力になるのはアミーちゃんだと思っているでござる」
「おお、それは朗報だな。ようこそ、人外の世界へ」
「戦力が増えることは歓迎するわよ。うちでもあなたの力の評価は高い方だもの。あなたももしかしたら将軍位への推薦が入るかもね」
「えー、それはちょっと」
少し話をずらしただけでこれだけ盛り上がれるのが俺のパーティーメンバーってわけだ。
今更だけどと海堂が俺の職歴を振り返り、俺の経歴を北宮が褒めるかと思いきや、勝によって雲行きが怪しくなり、アメリアが雨を降らすがごとく俺のやってきたことをやりすぎだと総評する。
だが、今度はその雨雲を吹き飛ばすがごとく、南が何を言っているんだとニヤニヤと笑いながら次の人外候補だとアメリアに告げ、俺がようこそと手招きして、ケイリィさんが助かると頷いているとアメリアが渋い顔を浮かべる。
いいじゃん人外。
最初は戸惑ってたけど、慣れると意外と役に立つぞ人外。
体も丈夫になって色々と無理も効くぞ人外。
厄介事に巻き込まれるケースが増えているけど、美人の嫁さんが四人に可愛い娘までもらえるとなるとお釣りが来てるとすら俺は思えている。
社畜時代を続けていたら、人生の墓場に入るどころか、先に病院に入院している可能性の方が高いのだから人生何が起きるかわからないものだ。
「まぁ、話は逸れたが、そういうわけだ。将軍選抜試験に向けて、課の管理と書類とかの決裁はするがしばらくの間俺はダンジョンテストから外れる。入ったとしてもたまの気晴らし程度や視察程度だと思ってくれ」
「ダンジョンに入るのが気晴らしって言うのはどうかと思うっすけど………」
「まぁ、リーダーでござるし、ストレス発散でダンジョン踏破とかやりかねないでござるな」
俺の言い方に苦笑を浮かべる仲間たち。
まぁ、俺もこれから慣れないことに専念するわけだからこいつらの言いたいことは理解できる。
実際今だって、将来のための人事リクルートに精を出しているわけだ。
「そう言えば、先輩が将軍になったらダンジョンテストに関してはどうするんっすか?というか将軍って課長と兼任できるんっすか?」
そして当たり前と言えば当たり前の疑問を海堂が投げかけてくる。
俺がもし将軍になったらどうなるか。
「まぁ、俺が将軍になったら俺はテストする側からテストを課す側に回るわけだがな。そうなったら一時的にではなくテスターではなくなるな」
そして当然のごとく、俺はあっさりとその事実を告げる。
「今回はそのことに関してもしっかりとお前らに伝えておかないといけないと思ってな」
これからの展望のことをこいつらには話しておかないといけない。
そう、これはある意味で引継ぎでもあるのだ。
「「「「「………」」」」」
これまでの間、なんだかんだと色々あったがこれでも仲良くやってこれてきたと思う。
正直、俺はもっと長い時間をこいつらと一緒に仕事を続けると思っていた。
だけど、世界というのはそんなにのんびりと歩むことを許してはくれない。
顔を見合わせ、不安の感情をそれぞれ見せる海堂たちに笑いかける。
「すぐというわけでも、絶対というわけでもないが。俺は正式に将軍になることを目指す。それはすなわち。俺は完全に戦争の戦力に数えられるということだ。アメリアを救いに行ったお前たちならわかるだろうが、あの戦場に俺は立つ」
そして、俺はダンジョンテスターという部署から、れっきとした魔王軍の戦力になると言う事実も伝えておく。
この会社の契約上、志願でもしない限りこの会社は俺たちテスターを戦力とは数えておらず、また数えてはいけないということになっている。
それは俺たち地球人を守るための線引き。
また、ある意味で身内と外様との境界線とも言える。
俺がその線引きを超えると宣言した時のこいつらの顔は心配というよりは、俺が離れることに対しての不安と言った感じか。
「………予想はしていたっす。先輩があの日マジで強くなろうってあの訓練の予定表を出した日に、先輩はもっと先に進もうって思ってることに」
「海堂」
この俺の言葉に対してどんな言葉が返ってくるかそれは正直想像できなかった。
ある意味で俺のこの宣言は、海堂たちを突き放すような言葉だ。
そして、不器用なのかもしれないがこれは俺なりの優しさでもあるつもりだ。
「わかってるっすよ。何年先輩の後輩していると思っているんっすか。先輩が、ついてこいって言わない理由くらいわかるっす」
そんな気持ちを海堂は察してくれていた。
悲しむことも、嘆くことも、怒ることもせず。
海堂はいつものように気楽に笑いそんな言葉を返してくれた。
「俺たちに選べってことっすよね」
「………ああ」
この将軍位の試験を受け、まだ絵に描いた餅に過ぎない将来将軍になった際に最も信頼のおける部下を側近にしろと言われたらケイリィさんやスエラたちを除けばまず真っ先に海堂たちをあげる。
それくらいに信用も信頼もしている。
こいつらにだったら背を預けられる。
即答できるくらいには関係を築いている。
だが、ここから先は俺の言葉でこいつらを引き抜いてはいけない。
文字通り、ここから先は命を賭ける。
ある意味で教官はそのことを理解して、うまい距離感を保っていてくれていたのだと思う。
フシオ教官は知ってて、キオ教官は直感で。
実戦形式で俺たちを鍛え、だが、国としてのごたごたには極力関わらせないようにしてくれていた。
巻き込まれたとしてもしっかりとアフターケアもしてくれている。
だからこそ、その世界に踏み込んできた俺という存在は教官たちにとって接しやすい存在になっていたのだろう。
だからこそ、俺は今ここで海堂たちに選択肢を与えなければならない。
だけどこの選択肢は彼らを突き放すための選択肢ではない。
こんな道もあると言う文字通り、選べる選択肢だ。
「俺は先にあっち側に行く。だが、お前たちは無理してまでこっちに来る必要はない。ある意味でお前たちは境界線上に立っているようなものだ。やろうと思えば今の仕事とも関係ない日本に帰ることもできる。やろうと思えばあっち側にもいくことはできるし、このまま境界線上に立ち続けることもできるだろう」
時間をかけてゆっくりと考えろ。
それまでの時間を稼ぐことくらいなんてわけがない。
「ま、時間はいくらでもある。すぐに決めるような問題でもない。ただ、お前たちは選べる立場だってことだけ教えておこうと思ってな」
「そうっすか」
「ああ」
俺は今すぐ答えを欲しているわけではない。
理想を言えばこいつらがそばで支えてくれた方がいいに決まっている。
そっちの方が安心だ。
教官たちだったら、ついて来いって言うのかもしれない。
いや、存外あの人たちも好きにしろって放任するかもしれない。
どちらにしろ。
勝手な話であるが。
「すまんな、俺は先に進む」
俺はもう選んでしまった。
今日の一言
頼りになり、信頼し、あとを任せる。
それは言うほど簡単ではないが、出来るとなると安心できる。
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