42 仕事の山が一つ二つ・・・・・・からの
五万PV突破ァァァァァァァァァァァ!!
皆様のご愛読に感謝を!!
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
「おう、これでいいか?」
「ああ、しかしやっぱ儲かってないな」
「ああ、お前の鉱樹以来のでかい買い物はなかなかないな」
テスター以外来店しない武器屋というのはやはり閑古鳥が鳴くもののようで、しかもこれとは別の武器屋が複数存在するときた。
閑古鳥の鳴き声に拍車がかかり入店者数はご愛嬌だろうさ。
そんな砂漠のような店内の状況で恵みの雨とまではいかないが恵の飲み水程度の売り上げに貢献はしている。
だからこそこういった頼みができる。
社会人として顔つなぎは大事ということだ。
店に入ってから数分後、店の奥から取り出された手に感じるずっしりとした台形の双子の盾を馴染みのジャイアントのハンズから受け取る。
「それにしても試作品の盾を使わせてくれってどういう風の吹き回しだ? 前は安全性が保証できない限り使わないとか言っていたのによう」
「まぁ、経費削減というのがメインだよ、さすがに俺のパーティー以外のやつに払う金はない」
「ああ、ちげぇねぇ。それにしてもお前最近噂になってるぜ?」
「噂?」
実験は自分に被害がないようになとカカカと笑ってみせるハンズは、ふと思い出したかのように話を変えてきた。
噂話というのは商売人としてやはり仕入れるものなのだろうかね。
俺としては真面目に仕事をこなしているつもりであるし、変に魔王軍のメンバーを邪険に扱った記憶はない。
噂と聞いて悪いものではないとは思うが、ネガティブな思考が先に出てしまうのは前職の職業病と言える。
さて心当たりはいくつかあるが……
「おうよ、魔王軍初めての人間の役職もちってな」
「そっちか……って、初めてなのか?」
「当たり前だろ、魔王軍は人間と戦争してきたんだぞ。大抵のやつは人間は嫌悪の対象だ。今回のテスター導入も魔王様が強引に推し進めたって話聞いたことないか?」
「そういえば」
割と気さくなメンバーが勢揃いしている所為で忘れがちになるが、よくよく考えれば確かにその通りだ。
入社したときスエラが言っていた。
それにあの非常時における訓練での想定。あれは実際に存在する魔王軍での派閥を想定したものだ。
魔王軍も一枚岩ではない。
多種多様な思考が集まる。
それをあのカリスマの塊のような社長がまとめ圧縮して一枚に見せている。
その内訳が、勇者に対抗するために勇者の素質を持ったメンバーを集めるにあたって、人間を使ってみようという穏健派、様子見の中立、奴隷として使い潰すというタカ派。どの派閥も協力しようというよりは道具として見ている節はあるが、社長は穏健派であったから今の形に落ち着いているわけだ。
「なぁ、あんちゃんよ」
「ん~?」
「あれ、あんちゃんの連れか?」
「やめてくれ、俺には見えない」
「うちの商品で背後を確認しているくせに何言ってやがる」
「いや、これは予備の武器をおおおお、鉱樹がいきなり重く!?」
「お! こいつはすげぇ。鉱樹に意思が宿るなんて珍しいなぁ!!」
「そんなこと言ってる場合か!?」
さて、現実逃避はこれくらいにしよう。
本来の予定はこうやって七瀬の盾を取りに来たわけだが、途中でどこからともかく視線を感じた。
普段から俺、いや人間を観察しようとする視線は常に感じていたが、こうやって観察ではなく監視をしているような視線は実はあまり感じない。
耳でわかる情報では一定人数、わかる範囲で一人、俺の後をつけまわしている奴がいるということだけ。
急に背後にかかる重量と魔力を吸われる感覚から引き起こされる負荷に、ギックリ腰にならないように姿勢を整える。
ステータスが低かったら間違いなくギックリ腰になっていたぞ。
予備の武器イコール浮気認定される日が来るとは思っていなかったがゆえの油断だが、とりあえず現実逃避はここまでとしよう。
カウンターで向き合う形で喋っていたが、さり気なく改めてカウンターの奥にある銀色の刀身をじっくりと見る。
傍から見れば買うか買わないか悩んでいる客に見えるはずだ。
魔紋で強化された視力に映るのは、入口でそっとタイミングを測り覗き込もうとする人らしきもの。その行動だけで怪しいと断じることができる。
厄介ごとの匂いしかしない。
「で・・・・ハンズさんよ、あんたは借金とかしてないのか?」
「それなら安心しろ。ジャイアントの借金取りはあんなせせこましいやり方で取立てに来ないからな」
「具体的には?」
「装備一式完全武装で突入」
「最終手段が初期に導入されているぞ」
「最終手段はもっとスゲェぜ?」
「想像したくないな」
認めたくはないが、やはりあの追跡者が求めているのは俺のようだ。
これが美人の女性とかだったらさりげなく声をかけるのだが、それすらわからないほど外衣に覆われて姿を隠されては話しかけるきっかけすらつかめない。
「わかってると思うが、店の中で問題起こしたら俺の試作品の実験台にしてやっからな?」
「ちなみに、どんな試作品が完成してる?」
「最近の人間は美容にハマってんだろ? 握るだけで肌が赤子みたいに艷やかになる杖を開発したぜ」
「欠点は?」
「装備解除不可に加えて思考能力が赤子並みになる」
「OK、お前の店には迷惑かけないようにするよ」
何が悲しくてそんな致命的な呪い兵装を装備しないといけないんだよ。
しかも武器として機能しないのが致命的と来た。
真面目に作ればいい品ばかりなんだがな。
しかし
「気づかれていないと思ってるのかねぇ?」
「じゃねぇか? 気づかれているってわかってんなら逃げるなり、正面から来るなりするもんだと思うぜ?」
「だろうな。ハンズさんよ、あれおたくの知り合いとかじゃねぇか?」
「あんな小柄なジャイアントの知り合いはいねぇよ。三歳の甥でもあれよりデけぇぜ」
「低身長の奴が聞いたら発狂するような成長具合だな」
何がしたいんだろうな、あいつは。尾行するにしてもお粗末すぎるし、第一探られて痛む腹は今のところ俺にはない。
強いて言うなら、スエラとメモリアの関係なのだが、そこまで下世話な話に突っ込むほどこの会社の社員が暇とは思えない。
「なぁ、自白させるような武器って置いてないか?」
「あるぜ、なんでもかんでもべらべら話す短剣が。代わりに三秒後には舌が燃え尽きるが」
「口の回転速度を調整しとけよ」
「仕方ないだろ、もともと体感速度を加速する武器なんだからよう」
「ああ、話してはいけないかどうかを判断できなくなるくらい加速するのか」
「おう、なかなかの力作だぜ? 一本どうだ?」
「鉱樹に嫉妬されるから遠慮しとく」
相変わらずデメリットとメリットが釣り合わない装備だなと思いながら、もう一度刀身で背後を確認するが残念ながらまだいる。
話しかけても素直に答えてくれるとは思えない。
他力本願になるが監督官かスエラに対応してもらうか?
一応報告はしていたほうがいいか?
と思考は一応回すが決め手になる気がしない。
「考えてもラチがあかねぇ、帰ってビール飲むわ」
「そうしろそうしろ、俺も早く帰って母ちゃんのつまみ片手に火酒が飲みてぇよ」
「働け」
「働いとる」
とりあえず用事は済んだ。
長居をする理由もないから盾を脇に抱え店を出る。
一応店を出る際は注意していたが何もされない。
だが視線は変わらず、だ。
命を狙われる理由は俺自身にはないが、向こうの常識から考えるとあるのかもしれない。
早歩きにならないように注意しながら歩く商店街の街並みが、今の感覚だといつもと違って見える。
すべての店に入ったわけではない。
すべての店員の顔を知っているわけではない。
その未知という情報が俺の警戒心を煽ってくる。
「やぁ」
「!?」
そこに気配も音も予告もなく声をかけられれば咄嗟に鉱樹の柄に手が伸びてしまう。
俺の行動を見た声をかけてきた張本人は、きれいに手入れされているロングの金髪を揺らしながらよく育っているなと感心して頷いていた。
「随分とピリピリしているね」
「しゃ、社長!?」
まぁ、そんな優雅な仕草など俺には気にする余裕はないがな。
いきなりのトップの登場に、今度は別の意味で驚いてしまった。
なぜ、どうして、いったい、なにごとと思考が混乱する。
とりあえず挨拶をせねばと社会人の常識が訴えかける。
「ああ、仕事が多くてね逃げてきたんだ」
が、その常識も凍りついてしまったようだ。
だが、ここに現れた理由は少なくとも理解してしまった。
納得は今はできないが。
「……」
「ハハハ、驚いて何も言えないようだね!!」
正確には驚き半分呆れ半分である。
変わらないカリスマ溢れる笑顔、角も何もない一見ただの金髪イケメンな我社の社長であるが、雰囲気は間違いなく魔王様だ。
「しかしエヴィアもひどいものだ。いくら私が書類を一瞬で読み進めるといってもやり続けるのは骨が折れる。まさに悪魔!! なので私は気分転換を兼ねて脱走してきたわけだ」
もう、はぁとしか答えられない。
まさに悪魔もなにも、監督官は悪魔ですよと突っ込めばいいのだろうか?
それともこの超常的自然現象の塊のような社長が逃げ出すほどの仕事量に戦慄すればいいのだろうか?
どっちにしろ、このハイテンションに俺はついていけていないのは確かだ。
「おっと、ついつい盛り上がってしまった。長居しているとエヴィアに見つかってしまうからね。本題を伝えておこう」
「本題?」
驚いた。
つい最近主任へと昇進を果たしたが、それでも下から二番目。一度会話をしたことがあるとは言えこうやってトップである張本人が会いに来て用件を伝えてくれるとは誰が思うか。
「君、今いろいろな場所から恨まれているから、早めに手柄を立てないと死ぬから」
「は?」
「お! エヴィアめ、腕を上げたな、もう私の場所に気づくとは。それでは努力したまえジロウ君!! 私はこれでも君に期待しているのだよ!!」
「ちょっとまてぇぇぇ!! いや待ってください!!」
一瞬思考が完全に止まった。
だが、ここで動かねば後悔するぞという本能の炎がそれを回復させてくれた。
しかし、その一瞬が命取り、サラッととんでもないことを言い残してこの魔王様は立ち去りやがった。
俺の叫びなど最初から答えないと言わんばかりにあさっての方向に視線を向けたかと思えば、HAHAHAと笑いながら霞が消えるようにその場から姿をくらました。
いきなりの出来事に、幻を見ていたのではと思いたい。
「っち、一歩遅かったか。ジロウもう少し足止めをしておけ」
「無理を言いますね」
思いたいが、現実とは無情。さっきまで魔王様がいた根拠を証明するかのように今度は監督官が現れた。
まだ隠れているのではと的確に周囲に視線を走らせ、舌打ち一つ、そしてさっきまで見ていたと言わんばかりに苦言を一つ。
「はぁ、また探さなくては」
「監督官、お忙しいと思いますが、さっきの社長の言葉は」
「事実だ。貴様の昇進、いや人間の登用が気に食わない連中が貴様の席を狙っている」
「席と一緒に命も狙われてますよね!?」
ため息の後に手を振り、コウモリみたいな使い魔を社長の行方を当たらせに散らす監督官に、僅かにあるであろう希望にすがり確認を取るが、残念、さっきの動作みたいに僅かな希望も打ち払われてしまった。
「ふん、ならさっさと昇進するのだな。そうすれば」
「そうすれば?」
「敵もうかつには手を出せなくなる」
「……」
「それと、この件はスエラには伝えていない」
「……退路を絶たれた?」
「お前が何もせずにいればな」
実力主義で、競争が激しいとは聞いていたが、こんなポジションまでラグビーの球を奪い合うのか。
そしてこの監督官は釘を刺してきた。
無意識下でこの人を頼ればどうにかなると、スエラに相談すれば解決策が出てくるという思考を封じてきた。
そんな状況から、監督官の前ではあるが無意識のうちにタバコに火をつけていた。
ルーチンワークで思考を冷静にする。
監督官は誰にも頼らず解決してみろと言っている。
肺に入った白い煙が気持ちを落ち着け多少はましな思考ができるようになれば、対策案も出るだろう。
「要は俺が使えるやつだと証明すればいいわけですね?」
「ほう、さっきまで慌てていたやつにしては冷静だな」
「冷静にならないと仕事はやっていけませんからね」
タバコを気にする素振りも見せず、逆に一気に感情を平常値に戻した行為を褒められた。
一時の感情も確かに必要だが、常に求められるのは冷静な思考だ。
監督官は暗に俺に解決策を示してくれたのだ。
ここで慌てふためいていればその言葉も無駄になる。
「ならせいぜい私は期待させてもらうとしよう」
「そんな言葉を聞かせられたら頑張るしかないですね」
「ふん、私は魔王様の追跡に戻る」
怒涛の展開、コインが裏だと思えば表に変わり、状況は二転も三転もする。
満足そうに社長と同じように消えていった監督官を見送り、どうするかと思考を巡らす。
本来であれば命を狙われていると聞けば、平和な日本人としては警察に駆け込むのが常識だ。
だがそれはできないしやる気もない。
なんだかんだで、命のやり取りが日常茶飯事のこの会社だ。
それに、美人の彼女二人と付き合え、やりがいを感じるこの会社を立ち去る気など毛頭ない。
さっきは急な話で動揺してしまったが、よくよく考えれば慌てるほどのことではない。
浅いかもしれないが経験もある。
慌てるのにはまだ早い。
だが、迅速な行動も必要なのも事実だ。
社長と監督官、トップの二人からの期待しているという言葉から察するに、敵はあの二人とは別の派閥の存在だと推測できる。
種族やら勢力やら、もっと情報が欲しいところだが、あの二人が語らないところを見る限りそこも含めて見せてみろということだろう。
然るに厄介事というのは確定してしまったわけだ。
「逆に言えば、上から見られ評価されるチャンスでもあるわけだが」
さっきの監督官の言葉は誰の庇護をも受けず、人間として使えることをアピールし立場という土台を固めろということだろう。
確かにこれまでの俺は、何かとスエラや監督官に頼ってきた面が多い。
それは甘えなのかもしれない。
この状況に慣れていない、常識が違う。
そういった言い訳が確かに俺の中で存在していた。
それを払拭するいい機会が来たと思えばいいのだ。
「さて、どうするか」
問題は、どういう分野で攻めてきて俺を蹴落としてくるか、また俺はどういう方面でアピールしていくかだ。
主任という役割を奴らはどう見ているのか、また俺はこの役割をどういう足場にしていくかだ。
会社は俺にどういった役割を求めている?
さっきの監督官は言われたことだけをこなす期間は終了だと告げてきたようなものだ。
自立、ここでスエラたちに頼れば、俺はそういうやつだと評価される段階に来ているのだ。
天秤の傾きを決めるのはこれからの俺の行動にかかっている。
昔なら、面倒だと思い静かにしたいと思っていたのだが、
「笑えるってことは、いいなぁ」
この状況を楽しんでいる自分がいる。
いつ以来だろう、競争というものを楽しむのは。競争とは疲れ面倒なものだと思い始めたのはいつだっただろうか。
久しぶりの高揚感、少なくとも、この競争を楽しもうとしている己がいる。
さしずめ、ようやく俺も魔王軍の一員に染まり始めたということだろうか。
「やっぱり何事も楽しまないとな」
海堂たちには悪いが、こうやって一人で仕事をやるのも悪くはない。
何を試そうかと考えるのが楽しいと思いながら、俺は止まった歩みを進めるのであった。
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
挑戦か、久しぶりに感じるな。
今回は以上となります。
誤字脱字等があればご指摘をお願いします。
これからも異世界からの企業進出!?転職からの成り上がり録をよろしくお願いします!!