426 伝えるべきかそうではないか、報連相にも判断基準はある
神の言葉に対して、ピクリとも体が反応しなかった自分を褒めてやりたい。
そして表情筋がしっかりと仕事をし、ファインプレーのごとしポーカーフェイスを造り上げた。
突然として神ルイーナより問われた内容。
その話自体に心当たりがないかと聞かれれば、あると言える。
十中八九、この神がさしている存在はミマモリ様のことだ。
俺の記憶の中に残る彼女はとても幼い容姿をしているのは記憶に新しい。
同じ神で幼い容姿、そして人柄、いや神柄もそこまで悪くはない。
………むしろここまでこの神に都合のいい条件が的確な揃ってしまったのは笑えて来る。
そんな存在を正直に答えていいのか。
ガハハハハとアハハハハという戦闘狂たちの笑い声をBGMにどう答えるべきかと悩むこと一瞬。
まず間違いなくミマモリ様は目の前の神ルイーナのストライクゾーンにきっちり収まってしまっている。
その事実に答えを窮してしまうことさらに一瞬。
シスターサナリィ―の姿は中学生になるかならないか。
あのミマモリ様と大体同じくらいの年齢の容姿。
ということはイコールといった等式で成り立つほどきっちり射程圏内に収まってしまっていることを証明してしまっている。
「ふむ、心当たりはあると。しかし、私の趣味趣向のために答えるのに困窮したとみる」
流石神、心の内はお見通しというわけか。
数秒の戸惑いから正確に指摘されてしまえば、隠すことも無理だ。
「ええ、そうです。ただ、向こうの方からは交流を求められています。エヴィア・ノーディスがそちらの方に伺ってその旨報告に上がると思いますが」
「うむ、その報告が来る前に汝から聞いたということか、相分かった。その話については詳しくはそちらから聞くとしよう」
幸いにして、素直に白状すればそれ以上言及されることもなく、そっと一歩引いてくれる。
てっきり根掘り葉掘り聞かれるものかと身構えていた分、些か拍子抜けだ。
「意外か?」
「ええ、正直に言えば」
その表情を見られ、苦笑と共に問われたのでこちらも素直に頷く。
そうしたら、正直なやつだとさらに笑われてしまう始末。
「最初に宣誓したはずだぞ」
「?」
「YesロリータNoタッチ。幼児に対しては紳士であれだ。私は確かに趣味趣向は幼児趣味であるが、それを汚そうとは思わんぞ。彼ら彼女らは愛でるものであって手折るものではない。そこは勘違いしないで欲しい」
「………それは、失礼しました」
「よい、よくある勘違いだ」
何と言うか、言われてみれば確かにと思う言葉だ。
真剣な表情で語っている内容は、いささか変態チックではあるが、言っていることはまともに聞こえる。
うん、〝普通の常識〟をここまで違和感を含ませるのはたぶん先ほどまでの発言が原因だな。
よくある勘違いというのも絶対に普段の発言や行動の所為であることは間違いない。
それを悪びれずいうあたり自覚はないんだろうなと思ってしまう。
「しかし、諦めたわけではないぞ?」
「?」
「下界の種族には手を出さないが、神界の神であるのなら私からしても合法!すなわち合法ロリ!そんな存在がいるのであればためらわず私は口説く!」
ポリシーは人それぞれ。
でもこれはさすがにダメだろうと思ってしまう。
力強い握りこぶしを見せられ、熱烈に力説されたとて、それは俺には共感しがたい内容だ。
いくら神であっても発言には責任を持った方がいいと心のなかで冷たい視線を送る。
「!」
そんな一瞬とは言え、空気が緩んだ時の事だった。
ピクリと神ルイーナの眉間が弾んだ。
何か起きたかと、また変な発言が飛び出すのではと心の中で身構えた。
「火事か」
しかし、神ルイーナの言葉は幼児とは無縁の言葉。
いや、発せられた言葉が事実であるのなら、大変なのだが。
「だがこれは………」
俺を見ることなく、どこか遠くを見るかのように視線を明後日の方向に向けて何かを神ルイーナはここではないどこかを見ている。
火事。
たった一つのワードで神が反応するほどの出来事なのかと、疑問に浮かび。
そこでようやく気付いた。
もし仮に一軒家程度の火事に神は反応するか?
いや、するかもしれないがここまで大きく反応するか?
しないとするのなら、神が反応するほどの規模となると、山火事といった大規模な火災ではないのかと。
「これはいかん!この規模になれば幾人もの幼児たちに危険が及ぶ!!人の子よ!私は急用ができた!!今回の内容に関しては後日伝えに来るとインシグネに伝えておいてくれ!待っていろ幼児たち!今助けに神が行く!!」
その予想はあたりのようで、大慌てで俺に用件だけ伝えると、大声で幼児たちを助けに行かんと宣言した後、ふらりとシスターサナリィから神が抜け、脱力し倒れそうになったところを抱き留める。
「………これは………予定よりも早いようですが、用件は済んだのでしょうか?」
意識を失っていたのは数秒程度。
何事もなかったようにすぐに目覚めたシスターサナリィはあたりを見回し、そして抱き留められていた事実に何度か瞬きした後、現状を把握したのか自力で立ち、俺に確認を取ってくる。
「予定通りかどうかはわからないが、たぶん終わったと思う」
「ええ、あの子たちが戦っているということは無事に戦いは終わったということですね」
そして楽しそうにはしゃぎまわる一人の少女の姿を捉えたかと思えば、呆れたと言わんばかりに大きなため息をついた。
「まったく、私が主に身を捧げている間にあの子ときたら、あとで説教ですね」
口調自体は丁寧なのだが、その裏に含まれるニュアンスがにじみ出ている所為でなかなか迫力がある発言になってしまっている。
一瞬、空耳かもしれないが説教の部分がヤキを入れると言ったような気もしたが、気の所為だろう。
「それと田中次郎様、感謝いたします」
「?何に対してですか?」
そんな雰囲気に少しばかり気圧されつつあるも、すっといきなり雰囲気が変わり感謝されたが生憎と心当たりはない。
やったことと言えば全力で戦ったことだけ。
それこそ感謝されるようなことは………まさか、この子も教官と同類?
「違います」
「何も言ってませんけど」
「なんとなくですけど、サムルと同じだと思われたときの視線と一緒だったもので」
ズバリ心の中を言い当てられどきりとした。
女性の勘は鋭いというが、こんな時でも発動するのだなと感心しつつ、戦ってくれたことへの感謝ではないということだけはわかった。
では、何に関してだろうか?と本格的に何を感謝しているのかわからなくなる。
「この身が五体満足であることに感謝を、あなた様が加減をしてくださった故の結果でしょう?」
「いやぁ、それはどうかな?」
そのことかと納得したが、全力で守っていたのは神ルイーナだ。
俺は割と全力で攻撃を仕掛けていたので、その感謝は受け取れない。
ただそれを正直にいったら問題なので、なんとなく誤魔化す方針で。
「そんな謙遜をなさらずとも、見たところあなた様も大してけがを成されていない様子で」
表向きはね。
実際は結構体に痛みがあったりするんだよちくしょう。
骨には罅は入っていなくとも、あざくらいはそこら中にできている。
痛みは我慢出来て表情に出さないだけで、しっかりと防御したり直撃したりした箇所は今でも痛んでいる。
魔力体でないのが悔やまれる。
顔面と言った目立つ場所にはダメージこそ通さなかったが、逆を言えば鎧越しであってもダメージは通っていたということ。
それを行ったは神であっても、その肉体的ダメージをたたき出したのは笑顔で語りかけるシスターサナリィの四肢によってだ。
これでもし完全装備だったらどれくらいのダメージを負っていたか。
想像するだけで冷や汗が流れてきそうだ。
今は軽装。
シスター服と神の加護だけで戦っていたようだが、本来であればもっとしっかりとした装備があるはず。
サムルたちの説教の光景を見ていたからか、フル装備と想像して。
シスター服にメリケンサックや釘バットを装備し、特攻服を肩に羽織りゴテゴテに改造したバイクに乗ったシスターサナリィの姿が出来上がった。
「ええ、これでも戦うことを生業としている身ですからこの程度では倒れませんよ」
「なんとも心強いお言葉ですね」
そんな想像を露とも感じさせず、しっかりと言葉は濁しておく。
夜露四苦!という言葉と表情がやけに様になっていたと想像の絵を消し去り、それを露とも感じさせない笑顔を表情に張り付けさせる。
しかしこの話の流れは、なかなか危険だ。
早々に話を切り替えねば。
このまま戦いの話をし続けたら、ついポロリと釘バットが似合いそうですねとか言い出してしまいそうだ。
「そう言えば、先ほど神ルイーネが火事と口にして慌てておりましたが、神が対応するほどの火事となるとよほど大規模なんでしょうね」
「なんですと?」
あ、話題転換ミスったかもしれない。
つい数秒前まで穏やかな表情であったはずなのに、この話を振ってしまった所為であっという間にシスターサナリィ表情から感情が抜けてしまった。
「主はそのようなことをおっしゃられたのですか?」
「ええ、あとすぐに幼児を助けなければと言っていましたが」
「場所は?」
「生憎と聞いておりません」
よほど重要なことだったのだろうか?
それだったら今戦っている教官にも言った方がいいような気もしてきた。
「主が動いたのなら、大事はないかと思いますが念のため私の方でも確認を取りますので失礼を」
そう言って踵を返したシスターサナリィは堂々と教官とサムルが戦っている空間に入り込み。
「失礼、ライドウ様。危急の件につき中入りご容赦を」
ズンと重い音を響かせて、しっかりとした姿勢で教官の拳を受け止めて見せた。
やはり下地がしっかりしている。
あのまま戦っていたら、本気の殺し合いになっていたかもしれない。
勝てたのはある程度のハンデがあったか、それとも全力を出せない何かの条件があったか。
「そしてサムル、ヤムル。帰りますよ。緊急事態です」
「ええ~」
「………」
「はい!帰ります!」
そんなことを考えている間に、教官とサムルの模擬戦は終了してしまった。
サムルは最後まで不満そうにしていたが。
ギンっと眼を飛ばされ、直立不動の気をつけの姿勢になり素直になった。
「おいおい、何があったか説明したらどうだ」
そんなシスターサナリィに声をかけられるキオ教官は流石だ。
「主が火事を発見したと田中次郎様がおっしゃられていました。主が動くほどの大火事。間違いなく神殿の方でも支援するために動きが出るはずです。なので早々に暇をもらいます」
「………わかった。バスカルの野郎を呼んでやる。アイツの背なら帰るのに時間はかからねえだろ」
「お気遣いに感謝を」
それだけで何が起きたのか察したのか、教官にしては珍しく素直に頷き、対応している。
俺はただ場に流され、状況が把握しきれないでいる。
いったい何が起きているのだ?
出来れば説明してほしいのだが、それをしてくれている暇はない様子。
だまって待つのが吉か。
それとも聞くべきか。
「おい次郎!ちょっと来い!」
そんな悩む時間も惜しいと言わんばかりに、教官から呼び出しがかかる。
それほど緊急事態なのだろうか?
「なんでしょうか」
素直に歩みより、用件を聞く。
「悪いがゆっくりしている時間がなさそうだ。お前を送り帰したら俺も大将の元に行く。今日のところはひとまず仕事に戻れ」
言っている内容はいたって普通。
しかし、俺への情報の提供がないということは俺にできることはないということ。
まぁ、事実火事に対して俺ができることなどないし、それに対応する組織に対して俺が動いては越権行為になる。
当然の対応だ。
「わかりました」
理解も納得もできる話である。
しかしなぜだろう。
「おう、また今度飲み行こうぜ」
漠然とした嫌な予感がするのは。
今日の一言
報告内容を全部伝えるのには時間がかかり、情報は取捨選択される。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




