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418 例えそうであっても、気にするなというのには無理があるのでは?

 魔王軍が崇める神様が幼児趣味。

 この事実は食卓を静め、娘たちの無邪気な声だけが響く空間に仕上げるには十分な効果を示した。


「………冗談だよな?」


 若干現実逃避したくなったが、気合で持ち直し現実と向き合う。

 エヴィアは良く冗談を口にするが、こんなとんでもない事を言うとは思っていなかった。

 なので思わずハハハと口から乾いた笑いが吐き出されてしまった。


「残念ながら事実だ」


嘘であってくれと願う心。

 しかし、その後に本当の笑いが出てくることはなく。

 バッサリとその願いを絶つために、大きなため息とともにエヴィアは事実だと断言してくる。

 頭を振り、認めたくないのもわかるがというエヴィアの言葉が殊更真実味に磨きをかける。

 認めたくない話というのは得てしてこういう話ばかりだな。


「いや、本当にこの会社に入ってから驚く話は事欠かないな」


 だからこそ受け入れつつも、少し笑い話に持っていかざるを得ない。

 無宗教ではあるが、さすがにエヴィアたちの信仰する神様が幼児趣味だと言う事実は流しにくい。


 驚かず、受け入れているのは仕えていた神が違うヒミクくらいだろう。

 いやむしろ、幼児趣味という言葉にも全く反応していないところを見る限り、天界では幼児趣味は当たり前なのかと思わせる感じもある。


「ほう、そうなのか。まぁ、太陽神よりはマシな趣味だと思うぞ。だが、まぁ食事の場で話す内容でもないな」


 むしろ幼児趣味が普通で、それよりもまともじゃない趣味とは何だと聞きたくなる。

 だが、聞いたら最後、こっちの世界の神はまともじゃないと言う事実が俺の中で常識になりそうで怖い。

 そこで区切ってくれたことに安堵する。


「そうだな、それに神様が幼児趣味だからなんだって話だな。関わることがあっても、そういった面で気にすればいいだけの話だ」

「そうですね。私は幼女ではないですし」

「メモリアの場合は、少女って言った感じだがな」

「こればかりは、母の遺伝を恨むばかりです」


 さらにメモリアが茶化すような感じで、拗ねてくれたおかげで場の空気も少し温まる。

 神の性癖なる度肝を抜かれる話題はこれにて終了かと思える。

 その後は独断話題に出ず、何気ない雑談。

 そしてそのまま寝室に移動し今日という日は終わった。


 朝目覚めれば昨晩隣で寝ていたはずのエヴィアの姿はなく、そっと一人分のスペースが開く。

 そのことに気にせず起こしてくれればと思いつつ、キッチンに行けばすでに朝食を用意しているヒミクの姿がある。


「おはよう、エヴィアはもう出たのか?」

「ああ、おはようジーロ。私が起きたすぐ後に起きて出立したぞ」

「どおりで布団の中が寒かったわけだ」

「ふふ、今晩は私の番だからな。私の羽で温めてやろう」

「それは楽しみだな」


 朝の挨拶を交わし、そしてその流れで出来立ての朝食を待つ。

 羽が抜け落ちることなく、フサフサと揺らして見せるヒミクの漆黒の羽は今晩の俺を温めてくると艶やかに言う彼女の手にはいつの間にか完成した朝食が手に持たれていた。


「その前に、これを食べて今日の仕事も頑張ってくれ」

「ああそうさせてもらうよ」


 そんな一人暮らしの時には決して食べなかった朝食を食べているとスエラとメモリアがそれぞれユキエラたちを抱いて登場してくる。


「おはようございます」

「………おはようございます」


 しっかりと目を覚ましているスエラと違い、寝ぼけ眼であるメモリアであったが、子供を抱く姿勢はしっかりとしている。


「ああ、二人ともおはよう」

「スエラ、メモリアおはよう!もうすぐ朝食の準備ができるからな!」


 そんな二人を出迎えて再開した朝食。こんな平和な日常はいとも簡単に崩れる。

 それを知る身としては、こんなわずかな時間でも大事にしたいと思いつつも、憩いの時間と言うのはあっという間に過ぎ去ってしまう。

 雑談しながら朝食を食べ、食後のコーヒーを飲んでいれば出社時間は迫ってくる。


「もうこんな時間か。スエラ、メモリア、ヒミク。行ってくる」

「ああ、いってらしゃい!」

「お気をつけて」

「後で店の方に来てください」


 そして抱擁を交わしつつ、チークキスなどという欧米風の挨拶を交わしてから家を出る。

 頭の中では今日の仕事のスケジュールを思い描きながら仕事場まで歩く。

 が。


「?」


 すぐに違和感に気づく。

 寮を出て会社に繋がる連絡通路を超えた先。

 すでに先に出社した社員とすれ違ってもおかしくない時間帯。

 なのにもかかわらず、人っ子一人いない。

 いや、いた。


「………」


 すっとただ佇むだけの少女というにも背丈的にはもっと幼さを感じさせる風貌。

 白いローブを羽織り、顔が見えぬほどフードを深くかぶっており、その奥に隠れた表情からは何も感じさせない。

 ただ、害意だけはわかる。

 その小柄な姿とは裏腹に、その片手に握る直剣。

 話し合いに来たにしては些かすぎるほど物騒な代物。


 おはようと挨拶を交わすような雰囲気でもなく。

 通り魔的なだれかれ構わずの犯行ではないだろう。

 狙いは俺だ。


「太陽神を跳ね除けた力を我に魅せよ!!」


 フードの奥から聞こえる幼き声。

 だが、その幼さからはなぜか中二病を連想させる声を発した。


「っ!?」


 しかし、その後の行動に迷いはなかった。

 容赦なく、加減なく。

 ここが屋内であることを鑑みることなく、床に剣の切っ先を擦り、疾駆する少女。


 攻撃の意思と見るや否や意識の切り替えと体の反応は早かった。

 小さな存在と戦うのはゴブリンで慣れているが、ゴブリンたちは基本的に連携を前提とした戦いを好む。

 臆病であり慎重であり獰猛でもある。

 それ故の集団戦法だが、目の前の襲撃者はそれとは違った個としての戦い。


「早いな」


 体躯の小ささを加味した速度重視の戦い。

 こっちが無手であることを理解したうえで間合いを把握した攻撃判断。

 身長の差をなくすために足から狙ってきた辺り、容赦のなさも垣間見える。

 だが。


「なるほど、この程度は躱すか!」


 咄嗟に飛び下がり、膝付近を狙った斬撃を躱し、追撃をかけてくる前に俺は横の空間に手を伸ばす。


「相棒!」

『おう!』


 ヴァルスさんの契約特典の異空間倉庫。

 魔力が潤沢な空間であれば無詠唱で出せる利便性のある空間から、柄を掴み迷うことなく一閃でその空間から引き抜く。


「おお!!かっこいい!!じゃなくて!!良き武器を持っておるな!!しかし!その武器に見合った実力があるかどうか確認してやる!!」


 そんな俺の動きに一瞬感動したように見えたが、頭を振って改めて言った台詞はどうもカンペを見ながら言っているように見える。

 一体全体この襲撃者は何なのだと疑問を挟む余地もない。

 いや、確たる証拠があるわけではないのだ。


「覚悟!!」


 正々堂々挑んでくる勇ましい姿。

 その剣から発せられる実力は、見た目からして大したものだと思う。

 うちの課のテスターたちの中でも新人なら手も足も出でないな。

 海堂たちでも油断すれば負ける。

 その程度の実力はある。

 結論だけ言えば、まだ本気を出していない可能性を加味しても負ける要素は少ない。

 しかし、ここの空間だけ人払いができた理由がわからない。


「どうした!お前の実力はこの程度か!!」


 必死になって剣を振るう少女を適当にいなしながら、念のためこのダンジョンの主であるエヴィアの気配を探るが周囲にはいない様子。

 いや、むしろこの空間だけ隔離されているような気配すらある。


「なぁ」

「なんだ!戦いの最中に言葉を交わすなど無粋なことはないぞ!!」

「いや………」


 子供とじゃれ合うのはいいが、仕事もある。

 このままいけば就業時間に間に合わず、遅刻扱いになる。

 なので長々と付き合っているわけにはいかない。


「ちょっと本気出すけど」


 子供に対して大人げないなぁと思いつつ。


「泣くなよ?」

「へ?」


 怪我させないで鎮圧するのはこれが一番だよなと、鉱樹で少女の剣を一回弾き。

 体勢を浮かせた後、一瞬で鉱樹を横に構え一歩踏み込み。

 横薙ぎ一閃。

 そしてその一閃上にある物体を空間ごと断ち切る。


「ほい、俺の勝ち。もう少し上達してから出直しなお嬢ちゃん」


 カシャンと何かが砕ける音とともに、静寂は無くなり騒がしい生活音が戻ってくる。


「え?え?どうして!?結界は⁉ヤムル!ヤムル!」


 突然の変化に目の前の少女は慌て始め、そして周囲に誰かを求め始める。

 襲撃者にしてはやり方がお粗末だし。

 なにより襲われる理由が思いつかない。

 またどこかで恨みでも買ったかと、心当たりを探るもそれもない。

 しかし、なんとなくだがさっきの発言のおかげで目の前の少女の所属に見当がついた。


 アワアワと周囲を見渡している少女に、今度は泣き声を上げながら近づいてくる影がある。

 それを妨害せず黙って見送る。

 トテトテと小柄な体に合った足音を響かせ駆け寄るもう一つの小さな存在。


「サムル~ペンダントが、ペンダントが壊れちゃったよ~」

「ええ!?」


 同じような恰好の声からして多分こちらも同じ組織の少女なのだろう。

 体に似合わぬ長い杖を引きずりながら姿を現した少女の手に握られたペンダント。

 その中央の宝石らしき部分が収まった箇所が砕け散っている。


「どうしよう、どうしよう。シスターに怒られるよ~」

「だ、大丈夫。しっかり謝れば許してくれるよ………たぶん」


 そんな慌てている少女二人から出てきたワード。

 シスターという言葉からもうこの子たちの所属は明らかになったと言ってもいい。

 さっきまで戦ってたたというのに俺はもう蚊帳の外。


「相棒、どうすればいいと思う?」

『知らぬ』


 完全に俺があの結界を破った所為で目の前の二人は困っているが、こうも放置されているとどう対処したらいいか分からなくなってくる。


「お~い、神殿からきたお二人さん。さすがに襲ってきて放置はいかがなものかと思うんだが」


 なのでとりあえず声をかけてみよう。


「うっさいバカ!今私たちは忙しいの!!」


 だが、取りつく島もなしとはこのことか、どうしようどうしようと困惑している目の前の二人の中ではすでに俺のことなどどうでもいいことになってしまっている。

 むしろ壊れてしまったペンダントをどうにかすることに必死になっている。


「相棒」

『なんだ?』

「将来娘達にもあんな反抗期が来るのだろうか?」

『知らん。我は剣だぞ』


 その姿を見てユキエラたちもお父さん嫌いとか言い始める日が来るのではないかと不安になってしまった。

 誰だ。

 とある業界では幼女の罵倒はご褒美ですとか頭おかしいこと言い始めた奴は。

 普通にショック受けてしまったではないか。


「と、とりあえず破片集めてのりでくっつければ」

「破片が粉々になって消えちゃったから無理だよ~」

「ええい!魔力よ!魔力を籠めれば何とかなるよ!!」

「どうやって~」

「気合よ!」

「無理だよ~」


 泣いている子と切羽詰まっている子。

 なんとも相性の悪そうな組み合わせだ。

 段々と冷静になっている俺は何をすべきかを考え。


「………」


 しばし熟考のすえ。


『はぁい、朝っぱらから何かしら次郎くん。こっちはあなたの調べ物の所為で寝不足なんだけど』

「朝からすみませんケイリィさん」


 念話でケイリィさんに連絡を入れる。

 若干眠気を感じさせる声から察するにまだ出勤していないのだろう。

 もうすぐ出勤の時間だが大丈夫なのか?と思いつつも、それは俺も一緒なので手短に用件を切り出す。


「うちの会社って、迷子の預り所ってありましたっけ?」

『はぁ?』


 我が社の施設の質問を飛ばすとケイリィさんの訳の分からないと言う言葉をいただくのは当然の結果だと思った。

そして、念話の向こう側で時計をみた彼女の悲鳴を聞くことになった。



 今日の一言

 子供を相手にするときは慌てずに


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。



※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 話の流れ的に幼児趣味の神様かと思ったら神殿の子供かー もしかしなくても竜王と繋がりのある子かな
[気になる点] 何でケイリイに連絡すんのさ。他の人呼びなよ。
[良い点] 幼女の相手は海堂くんが得意では?
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