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417 知らなければならないことと知りたくないことは表裏一体

 さて、なかなか手痛い出費をしてしまった昼間の一件であったがそれも必要経費だと思うことにしよう。

 しかしケイリィさんがいかに優秀であろうともたった数時間で結果が出るわけではない。

果報は寝て待てとまでは言わないが待ち時間は発生する。

 なので今日は平穏とまでは言い難いが、先行きの不安を若干感じつつもこの後はゆっくりと過ごせると言うわけで。


「久しぶりの我が家は格別だぁ~」

「ふふ、お疲れ様です」

「そして、我が娘は相も変わらず可愛いな」


 仕事が終わった後はのんびりとさせてもらう。

 俺の言葉にアラアラと言葉では呆れながらも微笑みを絶やさない嫁であるスエラと一緒に子供とあやす。

 今まで感じていたストレスを発散するように、我が子を愛でる。

 パパですよ~と顔面崩壊レベルで表情を崩すわけではないが、かなり頬は緩んでいる自覚はある。

 そして娘が嬉しそうに声を上げてくれることで、頬の緩み具合に拍車がかかる。

 男親が娘に対して愛情過多になる理由がよくわかる。


 ゆったりとした時間。

 まったりとできる空間。

 そしてかわいい嫁に娘。


 昔は終業後の帰宅など睡眠と休息を貪るだけの行為だったと言うのにもかかわらず、この癒しの差は何なんだと言いたいくらいに今の俺は癒されている。

 キッチンでヒミクが料理を作って、ソファーでメモリアがゆっくりと読書をして、

 その向かいの席で俺はユキエラを抱き、その隣ではスエラがサチエラを抱いている。

 他者から見れば非日常であり、今の俺からすれば日常である空間に戻ってきたと実感させられる瞬間だ。


 あの腹黒狸たちの交渉の場で廃れた気持ちがみるみるユキエラとサチエラの無邪気な顔に癒されていく。

 ああ、家庭って素晴らしいと実感する。



「今回の出張もまた色々と大変だったそうですね」


 父親の俺に抱っこされても笑顔を絶やさないでくれている娘たちの小さな手にいろいろなところを掴まれている最中ではあるが隣に座るスエラの言葉を無視するわけがない。


「いつもの事って、思っちゃうのが社畜の癖が抜けてないんだろうなぁ」


 大変という言葉はもはや何回聞いたかはわからない。

 そもそもの話、大変という言葉が出るのは自身のスペックを超えた行動を起こしているときにおこる感情的なリミッターではないかと思う。

 スエラに言った言葉を俺の持論で言うのなら、常に体力や精神、そして技術と言った方面で酷使していることになる。


「けれど俺がやってることなんて、エヴィアの地位でやってる仕事と比べればまだまだなんだろうって思うとまだ頑張らないとなって思うんだ」


 しかし、そこで辛いから辞めると思うと人の意思と言うのはあっさりと歩みを止めてしまう。

 だからこそ人はまだ大丈夫と言い聞かせて頑張るのだろう。

 しかし、頑張るために理由は必要だ。

 俺の腕の中に抱く子供たちの将来のために、一家の大黒柱としてしっかり稼がねばと思いつつ、まだ頑張れると娘の笑顔からエネルギーを補給する。


「無理はなさらないでくださいね。次郎さんの頑張るはいつも命がけですから」

「業務内容的に仕方ないとは言っても、最近の次郎さんは特にそうですね」

「否定できない………」


 本当だったら俺の仕事はダンジョンテストという業務とテスターの管理という業務だけのはず。

 しかし、一時から様々な仕事を請け負っている始末。

 業務外になると戦争すら参加してしまっている。

 他にも防衛で勇者を倒しているとか、やってるたびに体がボロボロになっている。

 もう少し余裕を持って対応したいと思うがその願いは中々叶わないのが現実。

 そして、今後は異世界の一番の闇とも言えそうな神関連の組織と接触する可能性があると言えばスエラたちはどんな反応を示すだろうか?


 いかんいかん、プライベートの時間まで仕事の思想を持ち出すのはまずい兆候だ。

 今は家族との触れ合いを大事にしなければ。


「気を付けるとしか言えないのが悲しいところだな」

「その言葉も毎度のことですよね」


 そんなことを思いつつ申し訳なさそうな顔をすればスエラは、クスクスと笑う。

 そして母親が笑ったことでサチエラもキャッキャキャッキャと笑い始める。

 親子の触れ合いっていいものだと思いつつ、俺の時はどんな親子の触れ合いをしていたかと思い出す。


『公園に行くぞ息子!!』


 うん、とんでもなく懐かしい記憶がよみがえった。

 ババン!と効果音でも付きそうなほど、当時少年であった俺よりも気合の入っていたわが母。

 当時はスマホやゲームなどがなかったから子供から見た大きな母親の片手に掲げられた子供用のスコップとバケツが印象的だな。

 それと比べるとスエラは穏やかな部類に入るのか?と思う。

 ただまぁ、戦闘能力という方向で言えば日本と比べるまでもないのだが、うちの母親の行動力と比べればまだかわいい部類に収まる。


「夕食ができたぞ!」


 そんなことを思っていればキッチンからいい匂いが漂ってきて、元気のいいヒミクの声が聞こえてくる。

 もうそんな時間かとそっとスエラにユキエラを渡すと料理の並ぶテーブルの脇、スエラの席の隣にベビーベッドを移動させる。

 子供が近くに母親がいることを感じさせる措置だ。

 泣いたときとかにもすぐに対応できる布陣でもある。


 そんな準備をしていた時玄関の扉が開く音がする。

 そして玄関付近から感じ取れる魔力から誰が帰ってきたかなどこの場にいる誰もが察する。


「戻ったぞ」

「うむ、いいタイミングだ」


 本日のメニューは中華かとわかる。

 両手に餃子や麻婆豆腐などが盛り付けられた皿を持ち食卓に並べている。

 ヒミクの料理のレパートリーも増えたなと思わせる光景だ。


 そんな料理が盛り付けられた皿を持ったヒミクは少々疲れた表情を見せるエヴィアを出迎えた。

 貴族出身であるエヴィアが一般家庭の食事方法に慣れるまでは時間がかかるかと踏んでいたが、そんなこともなく彼女はあっさりとマナーを気にしなくていいと気楽に言ってのけて適応した。


「今日は中華か」


 その証拠にすでに定位置になっている席に自然に座り込むのであった。

 そして自然な流れで手を合わせいただきますと言う俺に遅れて彼女たちも食卓の祈りをささげそこからは静かに食事が始まる。


 うちのなかで辛い物が好きなのは意外とメモリアだったりする。

 その小柄な体躯から疑うほどの辛い物好きで、雑誌とかでも有名な某激辛ラーメン特集などを好んで読む。

 そして日本に来て一番喜んだのは調味料の種類の多さと値段の安さだったと聞いた。

 今も普通に味付けされた奴にちょい足しでは済まない量の七味を麻婆豆腐に足している。


「む、少し辛くないか?」


 そして意外なことに辛い物が苦手なのはエヴィアだったりする。

 彼女はどちらかというと甘党だ。

 日本の食生活でスイーツ関連で博識なのもエヴィアだったりする。


「そうか?むぅ、これ以上辛味を薄めると味付けのバランスが大変なんだがな」

「私はちょうどいいですよ」

「俺もだ」


 なのでこうやって食卓を共にすると味覚のバランスにヒミクが困惑するのも時々ではあるが見る光景だ。

 その時は一般的な味付けのバランスであると自負する俺とスエラがそのたびにたしなめていたりする。

 そして食事が進むにつれて段々と会話も増えていく。


「そうだ。忘れる前に伝えておくが私はしばらく家に帰られないかもしれない」

「何か仕事ですか?」

「ああ、神殿の方に出向くことになった。期間は未定だ。長くとも一か月はかからないと思うが一応な」

「神殿ですか」


 その際に連絡事項を伝えることもよくある。


「エヴィアだけか?」

「いや、護衛役としてバスカルも行く」

「りゅ、竜王様ですか?」


 その際に確認するかどうかは内容次第だが、何やらきな臭い場所に向かうので心配になって聞いてみるとヤバい組み合わせではないか?という内容が出てきた。

 隣で食べていたスエラもギョッとした表情でエヴィアに問い返している。


「ああ、私と竜王のバスカルで向かうことになっている」

「それはまた、すごい組み合わせだな」


 交渉ごとに関して言えば万能であるエヴィアを向かわせるのはおそらく日本で出会った神、ミマモリ様の案件だろう。

 しかし、そこに戦闘特化で融通が利かなさそうな竜王バスカルをつける理由は何だ?

 護衛と称しているが人選が明らかにミスじゃないか?と思ってしまう。

 それを面と向かって言うわけにもいかないので濁す言い方になったのだが、エヴィアは少し辛かったのか若干顔をしかめつつ食べきった麻婆豆腐のレンゲを置き。


「奴は神殿出身だ。案内人としてあれ以上の適した存在は魔王軍にはいない」

「え?」

「なんだ知らなかったのか?奴は将軍の中でも一番信心深い奴だぞ」

「………マジか?」


 俺の表情から察した言葉を投げかけてくれるが、過去何度も戦った身としてあり得ないと言わざるを得ない内容に思考がフリーズする。


 俺の中で神職、とくに僧侶という存在については二種類存在すると思っている。

 一種類は本当に信心深く、主人公をサポートするようなタイプ。

 このタイプは中央権力に嫌われ地方に飛ばされているケースが多い。

 もう一種類は正反対に信心など欠片もなく、権力に囚われ好き勝手するタイプだ。

 俗にいう生臭坊主だな。

 では、エヴィアが信心深いと言った竜王はどちらに該当する?と問われてしまえば。


「困惑するのも無理はない。奴も随分と様変わりした」

「え?昔はもっと穏やかだったとか?」

「私と出会った時など、戦いはダメですと開口一番に言ったな」

「………?」

「誰だって言うのはわかるが、せめて言葉で話せ」


 想像できないくらいに、どちらとも言えなかった。

 一応スエラとメモリアにも知ってたかと聞いてみればスエラもメモリアも当然のように首を横に振った。

 そして、ん?と会ったことのある存在とイメージが合わないことに再度疑問符を飛ばすとエヴィアに苦笑されてしまった。


「奴の育ての親は意外かもしれんが神、ルイーナ様だ。卵の時代から育てられた恩義が奴にもあるわけだ」

「となるとなぜ、竜王は今は将軍職に?」

「魔王様が統治を始めて幾年かたった時にな、ちょっとしたことがあったんだ」

「ぜったい、一般人からしたらちょっとで済まない内容だろ?」

「バレたか」

「わからないわけがないだろ」


 エヴィアの言うちょっとは絶対一般人の考えるちょっとではない。

 大規模な戦闘でも起きてもおかしくはない。

 いや、実際に起きたのだろう。

 そしてなんだかんだあって今の地位に納まっているということだ。


「………?神殿出身て言うことは、神殿から出てきたってことだよな?」


 そこでふと気づく。

 昼間ケイリィさんが教えてくれたことが、この話だと矛盾する。


「ああ、そうだ」

「その話は割と有名なのか?」

「いや、知る奴は限られている。奴も出身をあまり言いふらさないからな」

「そうか」


 しかし、その理由もすぐに察することができる。

 単純に知らなかったと言うだけだ。


「となると、あの噂の意味は?」

「噂?」

「ああ」


 そうなれば確認は速いに越したことはない。

 昼間にケイリィさんから聞いた話をそのままエヴィアに話す。


「ああ、なんだそのことか」

「そのことかって、こっちは自分の娘が狙われるかもしれないってヒヤヒヤしてたんだぞ?」


 実際にイスアリーザという神にユキエラとサチエラは狙われた。

 なのでもしルイーナ神もその手の輩なのではと危惧していたわけだ。


「多少尾ひれはつけているが子供が神殿に保護されているのは事実ではあるからな。違う部分は生贄という部分だ。そもそも考えてみろ、大陸一つを維持するために子供の保有する魔力一つでどうにかなるとでも思ったのか」

「いや、そこは何らかの魔法でと思ってた」

「戯け、魔法もそこまで万能ではない。お前の言う規模の魔法を行使するのならその一万倍は必要だ。さすがにそんな規模の出来事を魔王様も見逃さん」


 何を言っているんだと呆れた物言いのエヴィアに面目ないと謝る俺。

 ではなぜ子供を保護しているのかという話になる。


「となるとその噂は慈善活動が真実ってことか?」

「いや………」


 そうなれば善神ということでわりと安堵できるのだが、エヴィアは歯切れが悪そうに顔を逸らす。


「ルイーナ様は………幼児趣味なのだ」

「そっちの方がダメだろ」


 そして神として割とダメな情報を俺は得てしまうのであった。


 今日の一言

 知りたくはなかったけど知る必要はあった


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。



※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょうど読んでいる今(23年11月)、ネットの巷を騒がしているのが「粛聖!ロリ神レクイエム」なんですが…… 粛清されても文句言えんぞ(笑)
[一言] やっぱり神の名に恥じるナニかは持ちあわせていたのか…
[気になる点] 神様ェ・・・・ 神様ならなんでも許されるのか・・・
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