415 通常業務の傍らで、併行作業に勤しむ
新章突入です!!
帰って来た。
そう思えたのはやはりこの会社に愛着を持っている証拠だろうか?
慣れない交渉の席を乗り越えて、無事会社に戻ってこれたことにまずは一安心する。
結局のところ、今回は得難い経験を積めたと言える。
そして今後の俺自身に少なくない影響を及ぼしたとも言えた。
霧江さんやらミマモリ様のみならず、協会側から連絡先の交換などのコネクション作りから、アメリカ政府とのつながりの形成、当然、日本政府の曙ともつながりを得た会談だった。
一護衛にそこまで好待遇なのはなぜかと言う疑問も挟まるが、俺が霧江さんと親戚関係であり、会社内でも人として最も発言力があると最後の最後でバレてからは獲物を見る目で囲まれてしまったわけだ。
残り時間も僅かという宴の席では戦いとは違った疲労感を味わう結果となり、作り笑いというのは自然さを求めると異常に神経を使うのだと言うのを学ぶ良い機会であった。
「で?で?先輩どうだったっすか?日本の神秘的な組織は!!!」
「そうでござるそうでござる!!お土産はないにしても、お土産話はあるでござろう!?」
一般人時代だった社畜戦士の時にはない経験をつみ、慣れていない疲れを感じつつ出勤した俺を迎える二人。
「なんか、お前らのその態度を見るとホッとするわ」
出張を無事終えての帰還。
最後の方は本当に穏便に終わったが、それまでの過程がピリピリしすぎてこの能天気な対応が癒しに思えてしまう。
課長の席に座って真っ先に飛んできた二人が大きな犬に見え、尻尾を限界まで振り、じゃれてくる幻影をふりまく。
そんな海堂と南を脇目に、課長席に座る。
そして正面にとらえるようにキラキラとした視線を無視するのは心が苦しくなるが、この二人相手なら気にする必要はない。
「とりあえず、落ち着け。まだ詳細は話せないんだよ。エヴィアが今社長に報告してるからその後の判断になるんだよ」
休日を挟んだとは言え、まだまだ日本との国交は始まったばかり、前回の会談はほんの前哨戦に過ぎない。
ここから日本の返答を待ち、もっと内容を煮詰めていかないといけないのだ。
「え~、いじゃないっすか。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいっすから!!」
「そうでござる!!戦場を共に生き抜いた仲じゃないでござるか!隠し事は無しでござるよ!!」
話せる内容と話せない内容の区別も終わってない段階でおいそれと話すことはできない。
ただでさえ日本との国交に関しては魔王軍内部でもシビアな話になっているのだ。
好奇心は猫をも殺す。
そして、見た目からも普段の態度からも口の軽そうなこの二人に話すなんてもってのほかだ。
「じゃぁ、教官たちとタイマン張って勝てたら、教えてやるよ」
「いやぁ、先輩お疲れっした!俺ってばしっかりダンジョン攻略に勤しんでたっすよ!!ほら!報告書もこんなにしっかりと!」
「リーダー実はダンジョンの改善案に関して相談したいことがあるんでござるよ!ちょっと費用がかさむでござるがうまく活用すれば絶対効果的なはずでござる!!」
そしてその猫の気を逸らす方法をこの一年間で熟知しているので、その方法を試してみればさらっと手のひら返しを披露する二人。
新人たちですら見慣れ始めている光景だ。
そんな明るい光景とは裏腹に、俺が不在の間のダンジョン攻略に関しては不調が続いている様子だ。
「………新人たちの調子は悪いのか?」
あえて触れてこず、明るく振舞う二人に、周囲の空気が重くならないように小声で二人に問いかける。
川崎のしでかしたことによって大小問わず何らかの影響は出ている。
過去において言えば、カーター・イスペリオが引きこした事件の時にかなり影響が出た。
それに比肩しうる影響がテスター内で出てもおかしくはない。
仲間だと思っていたイシャンがまさかのテロ行為。
同じ日本人だと受け入れていた川崎翠の手引き。
この二つは決して無視していい内容ではない。
「いや、うちらは問題ないっすよ。藤レンジャーと一緒に行動してた浜松君はかなり悩んでいるみたいっすけど、他は特には」
「面倒なのは、第三課のちょっかいでござるなぁ。リーダーがいない間しょっちゅう拙者たちと接触してきたでござるし。待遇は約束するとか、色々とお約束なこと言ってたでござるよ。全部無視したでござるが」
「あの時の、ユルゲン課長の顔はタコみたいだったっすよ」
ケラケラと笑う二人。
そこまで深刻そうな内容ではなくて安心した。
「勝はどうだ?」
そして一番ネックになるだろう人物の状況を聞いてみる。
川崎翠と浅くはない関係だった勝。
正直、出張に行くときは一番心配であった人物であったりもする。
「そっちも静かだったっすよ。何回か面会の申請を出してたっすけど。先輩が帰ってくるまで待てってケイリィさんが止めてたっす」
「多分でござるけど、リーダーが帰ってきたからその話が来ると思うでござるよ」
「なるほど、まぁ、そっちもエヴィアの許可がないと俺にはどうにもできないのだがな」
組織での裏切りは、ここは日本よりも相当シビアで厳しい。
イシャンと川崎の行動に限って言えば下手をすれば処刑ですらあり得たのだ。
おいそれと面会も許される行為ではない。
「どっちにしろ、しばらくは様子見だ。日本政府との交渉も続けないといけないし、ダンジョンテストも続けないといけない。入社当初と比べてどんどん仕事が増えていってるよな。これ」
「ノーコメントっす」
「リーダーが頼りになっている証拠でござるよ。事実、まともに稼働しているのうちの課だけでござるし。二課の方もかろうじて動いているでござるが、自力の差が出始めているのは否めないでござる。三課の方はつけが回ってきたって感じで雰囲気は最悪で、となればまともに仕事ができるリーダーのところの色々来るのは当然でござるなぁ」
「嫌な循環が出来上がってるな」
そんな川崎たちの事情と勝の願望は一旦脇に置いておき。
少々仕事がうちに偏っていることを危惧する。
事実ダンジョン攻略に関しても俺たち一課が独走状態。
俺がずば抜けた性能を持っていることを加味してもここまで差が広がるのはいただけない。
苦笑一つでこの話を切り上げるのもどうかと思うが、この話を解決するのは上層部のお偉い方だ。
テコ入れするにしても、俺が行動を起こすわけにもいかない。
なので俺ができることと言えばこうやって通常業務の確認作業というわけだ。
「アミリさんのダンジョンがやっぱり一番攻略が進んでいるか」
「そうっすねぇ、うちらのパーティーが一番挑んでるのがそこっすから」
「逆に言うと拙者たちがあまり挑んでいないダンジョンはあんまり進捗率が良くないでござるな」
「まぁ、そうなるわな」
機王、不死王、竜王、鬼王、樹王、巨人王の順番で攻略の進捗率に差が出ている。
俺がいなかったたった一週間でその差が埋まるはずもなく。
大して変わらない現状。
「これは………一回配置換えして平均化するべきか、それともこのまま特化すべきか」
その内容を見て今後の方針を考えてみるが、ふと、感じ慣れた魔力が俺の頬を撫でる。
「海堂、南、二歩下がれ」
「「??」」
その魔力の持ち主に心当たりがあり、これからすることを想像しそれに気づいていない二人に指示を出す。
海堂と南は疑問符を浮かべつつもそっと俺の言う通り二歩下がり、俺の座っている席と海堂たちの間に空間が出来上がる。
「お茶にします?それともコーヒーにしますか?」
その空間に語り掛けるように俺はこれから来るであろう人物に問いかける。
『カカカカカ、ではコーヒーをもらうとするかの』
誰もいない空間。
だが、その場から返答が返ってきて独特の響く声で黒い靄が発生し、その中から見覚えのある人物が顕現する。
「お久しぶりです教官。最近お忙しそうでしたが一段落しましたか?」
その現れ方自体に驚く要素はない。
驚くとすればこれから出てくるだろう教官の言葉の方だろう。
『言うようになったの。ついこの間まではワシの魔力を感知することすらできんかったのに、人の成長というのは真に早い』
「そろそろ人間というカテゴリーから外れそうですけどね」
冗談を交えつつ、互いに笑い声をあげる。
教官の登場に驚いている海堂と南のリアクションが普通なんだろうなと内心で苦笑しつつ、近くにいた事務員にコーヒーを応接室に頼み俺は席を立つ。
「海堂、悪いが話は後でで頼む」
「了解っす!」
教官が自ら出向くということはそれ相応の用事があるということ。
それを把握している海堂は敬礼モドキを披露して南を引き連れて去っていく。
「では、別室で」
『うむ』
どんな話が出てくるのだろうかとドキドキしても仕方ない。
先導し歩き背後からくる教官の気配を感じつつ、空き室となっている応接室の扉を開けば、すでに用意されているコーヒーが目に入る。
互いに言葉を交えずとも向かい合わせになるように座る。
そして用意されたコーヒーなど目もくれず、そして手を伸ばすこともない。
『単刀直入に話そう』
「そこまで余裕がないので?」
『あまりな、この話を知っているのもワシを含め魔王様とライドウ、そしてルナリアとエヴィアくらいじゃ』
ここに来るまでは飄々とした雰囲気を醸し出していたフシオ教官であったが、扉を閉め周囲に簡易的な結界を張った途端にこれだ。
これから話す内容を知っている者の名の羅列が物語っているように、そして普段なら冗談から入るはずのフシオ教官が余裕のない語り口で話始めることでさらに空気が張り詰める。
『実は、ダンジョンの技術が漏洩した可能性がある』
その言葉を聞いたとき、反応するのに数瞬の時間を要した。
技術漏洩。
それだけの言葉が頭を巡る。
人払いをしてよかったと最初に思った。
もし仮にその情報が拡散したら目も当てられない。
「確かなんですか?」
『ああ、ワシの部下が先日の天使どもの使っていたダンジョンモドキを調査している時気づいた。あのダンジョンモドキは我々の技術が流用されているとな。では、その技術はどこから来たかという話になる』
先日というのは熾天使が大量に導入され、俺たちが会社で襲われた時の事だろう。
報告書では大陸中に広がった天使たちの拠点であるダンジョンをキオ教官が強襲、撃破したはずだ。
そこにあったのがダンジョンのような洞窟だったと聞いている。
「なぜこのことを俺に?そもそも、こういった情報はもっと周知すべきでは、この話し方ではまるで………」
その話の詳細を俺に話す理由が見えず。
つい確認作業の流れで言葉を選んでしまったが、最後の方の言葉が言えなかった。
『身内を疑っている。然様、次郎の懸念している通りじゃ。正直に言えばまだ膿は出し切れておらんとワシらは睨んでおる』
しかし、その言いよどんだ言葉など気にしないとあっさりフシオ教官は言い放った。
そして。
『その膿がどこにいるかわからない以上、情報は小出しにしていくほかないからの』
重要な話だと言うのにこの不死者は気軽に言い放ってくれる。
「俺だけに伝えた理由は、テスターの方の監視ですか?」
そして俺にその情報を伝えた理由を察するに、さりげなく川崎やイシャンのような存在がいないかどうかを探ってほしいと言うわけか。
『否、調査の方はワシが一任されておる故、手出しは無用だ。むしろ今回次郎の要件は別件にあってな』
「はい」
と、思ったが見当違いだった。
『しばしの間、ワシは調査で忙しい。なのでダンジョンの方の攻略面に関して新たな対策を実施するのが難しくなる。したがって次郎にはその間妻の相談役になってほしいということだ』
「えっと、奥さんというと先日お会いしたゴーストの?」
『然様、シュリーじゃ。ダンジョンの経営に関しては妻に任せるが、本職ではない。悩むこともあろう。その時は次郎とスエラたちに話に乗ってほしい』
そして普段の教官からしたら何とも穏当な話の流れ。
妻を心配する夫という姿を見せてくる教官に些か拍子抜けする。
『無論、部下たちにもサポートするようには言いつけておくが、部下には言えぬ部分もあろう。主にサポートしてほしいのはそこら辺じゃ』
「ええ、その程度なら問題ありません。事前に連絡してくれれば、こちらで対処できる範囲でよければ」
『それで構わん。シュリーは気難しい部分もあるが、根は良い女だ。手間かもしれんが頼むぞ』
そして、思えば教官から何かを頼まれるのはこれが初めてではないだろうか。
いつもとは違う雰囲気の教官。
「………わかりました」
その違和感にどこか釈然としない雰囲気を感じつつも指摘できる部分もないまま。
そっとコーヒーに手を伸ばす教官の姿にならい俺もコーヒーに手を伸ばすのであった。
今日の一言
些末なことでも目を配れ
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




