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412 第三者の意見を聞き入れるのには、難しいが不可能ではない

 ミマモリ様が会議を取り仕切ると言ったが、方法はあるのだろうか?

 急な展開で荒れていた場を仕切りなおすように座りなおしたが、空気まで改善するわけではない。

 政府側からしたら、まだミマモリ様は神と認められていない存在であり発言力は未知数と言わざるを得ない。

 さっきの言葉で多少迫力はある少女だという認識はあるだろうが、イコール神とはならないはずだ。

 事実、政府側の人間からは懐疑的な視線は薄れるどころか、濃くすらなってるように見えるが。

ここから先どういう風にやるか。


「さてさて、ずっと話を聞いていたけど。君たちの中で問題になっている部分は安全と利益のようだから、この際にはっきり言っておくね」


 文字通り上座に月狐を座らせ、それをソファーのように扱うミマモリ様は、この会談を終始聞いてたかのような口ぶりでニヤリと笑った。


「どちらも都合のいいような解決案はないよ」


 そして、この会談がこのままいけば永遠に平行線だと言う。


「互いに安全で互いに利益もあるなんて都合のいいようなものは存在しない。国と国が繋がるだけで問題が起きるんだよ?世界が違う国が繋がって問題が起きないわけもないし、妥協案で結べられるほど信用もしていない。だったらあるとすれば、どちらかの国を食い潰す一方的な搾取による片方が得する方法か、互いにリスクを背負った対等の方策かの二択しかないわけで。今君たちは今言った方法の狭間で揺れ動いているわけだ。対等ではなくとも六対四くらいには持っていきたい。そんな感情が見え隠れした話し合い。そんなの綱引きと一緒。引っ張られれば反対側も引っ張る。根気で負けた方が損をする。だったら終わるわけないよね~」


 そして暗黙の了解で互いに理解しつつも、決して口に出さない部分を明け透けに言い放つミマモリ様。

 その言葉は確かに真実かもしれないが、それを言われて気持ちのいいやつはこの場にはないない。

 大なり小なり、その気持ちは自尊心と繋がり、相手よりも上にいたいという願望。

 国家間ではそれが顕著に出る。

 それをいたちごっこだと無遠慮に言い放ったことにより、会談の場の空気はより一層重くなる。

 おいおいと、苦笑が出そうな気持ちを抑え、目立たぬように視線を回せば、案の定気にくわないという雰囲気を出しているのが若干名。

 エヴィアは後姿故に読めないが、剣呑な雰囲気を出している様子はない。

 であれば、まだ大丈夫だ。


「それで、どっちがいい?なんて愚問も聞かないよ。君たちを見ていればよくわかるよ。都合のいい話の方が互いにいいに決まっている。問題になっているのは、妥協点が見えないってところだよね」


 それよりも、この神はなにをしたいのか、いや、この場合は何を目指しているのかが気になる。

 一見笑顔の少女であるが、その身に纏う神気と言えばいいだろうその迫力をもってして、空気が悪化したことなどお構いなしに発言を続けている。

 さっきから異世界の国同士が繋がることを否定し続けるような発言が目立つ。

 かと言って、繋がれないとは言わない。

 どこを落とし所にしている?

 神の思惑を測ろうとするのは難しいが、そこを考えなければ話にならない。


「そして、その妥協点を神である私が決めてもキミたちは納得しない。それもまた事実だね」


 堂々巡りの輪を崩そうとしているのはわかる。

 では問題となるのは、どのように崩すかだ。

 ただ単にこうしなさいと道しるべを指示して解決できるようなら国家交易など子供でもできる代物に成り下がる。

 大人が頭を捻らせ、国同士で付き合う努力を行うからこそ国同士は向き合うことができる。

 神だからと言って、そうやすやすとはできない、はずだ。

 どうするつもりだと、怪訝な表情は内心で納め、無表情を維持しつつ事の成り行きを見守る。


「さて、そうなるとこの場合必要なのは理解ではなく納得ということになるね。う~ん、難しいね!」

「でしたら、静かにしてもらえませんか?我々はその納得できる答えを探しているところなんですよ」


 ふざけているつもりはなくとも他者から見ればミマモリ様の行動はふざけているように見えたのだろう。

 言葉は丁寧でも、語調は辛辣な華生の言葉を受け、じっとミマモリ様は彼の瞳を覗き込む。


「ふ~ん。思ったよりもこの話が大きくなりすぎて判断ができない。だから一回報告に戻って判断を仰ぎたいって思ってるね。ついでに言えば、戻るまでの時間は粘っていい条件を引き出そうとしてる。うん、決定権を持たないそんな君じゃ交渉はどうやっても堂々巡りだ!」

「!?なにを、でたらめを」

「違うの?だったら何で君は額に汗をかいているのかな?」


 心の内を見透かされ、それを暴露され否定しようとするが、その言葉もじっと見つめるミマモリ様の瞳に封じ込められる。


「判断がつかないなら、判断ができないって言いなよ。君たちの命は有限なんだから。それだったら、わからないならわからないなりに、少しでも交流して相手を知る努力をした方がまだ有効だと思うよ」


 純粋に思った疑問なのだろうがそれが言えたら苦労はない。

 こういった場だけではなく、大人になってから言いづらい言葉であるのが、出来ないやわからないと言った言葉だ。

 立場が重くなればなるほど、責任と言う言葉と共に、その言葉は喉の奥から出にくくなってくる。

 こうもあっさりと暴露されてしまえば、彼の立つ瀬はない。

 正直、神は無慈悲だと言われる由縁を垣間見た気がする。

 ニコニコと笑う神様を見て容赦ないなと心中穏やかではいられない交渉の場を見て、口元が引きつらないように気を付けておく。

 ミマモリ様の中ではアドバイスのつもりだろうが、そういったものはこの場では不釣り合い。

 正しく空気を読まない発言は、ナイフのごとく人の尊厳を抉る。

 えげつないなと、この後の流れ的にこっちにも飛び火してくるかと身構えざるを得ない。


「そして、そちら側も妥協はできないんでしょ?」

「ああ、生憎とこちらも国家の存命をかけたプロジェクトだ。遅延行為は安易に認めるわけにはいかない」

「そのための代価は惜しまない?」

「許容範囲であればな」

「その許容範囲は?」


 案の定こっちにも話を投げかけてきた。

 これはある意味で、初日の再来。

 神と悪魔の対談。

 あの時のミマモリ様と、今のミマモリ様では話し合うにいたってのスタンスは違うはず。

 今の彼女は日本の地に収まる一柱。

 異世界側の話を受け止めてくれるのか?

 エヴィアのこの後の言葉次第だ。


「私の命でこの話がまとまるのであれば、命の一つや二つ払うだろうな。我が国は、そして私自身も」

「!?」


 ガタっと誰かが席を揺らすが、俺はその言葉を聞いて一瞬であるが、気を逸らしてしまった。

 幸いにしてその場では何も起こらなかったが、命を差し出すなんて時代錯誤なことを本気で言い放ったエヴィアの言葉に華生たちは目を丸くしている。


「それだけ本気で私はこの交渉の席に挑んでいるつもりだ。国家の未来と私の命、立場ある者がその天秤の皿をどちらに傾けるかなんてわかっているだろう?命を惜しんでいいのは無垢なる民だけだ。何のための立場だ。そこに命を賭けられるだけの価値を出すためだけにこの私には地位がある」


 堂々と命を賭けられるという発言は、この場にいる誰をも圧倒する言葉だった。

 俺個人としては、まだ甘い部分が拭いきれていなかったと再認識せざるを得ないエヴィアの言葉。

 シンと静まり返った場。

 それを作り出した張本人は。


「だが、そういったものは求めてないだろう?遠回しに言うな。何を求める?いや」


 ニヤリといつもの笑みを携え、何事もなかったように話し出す。

 一瞬本気かと疑ったものはいるはず。

 しかし、戦争状態でもあるまいにそんな血なまぐさいもので解決するわけではないと改めて考えればわかる。

 皆の心の中で安堵のため息がこぼれる最中、神に問いかける悪魔。


「何を〝させたい〟神よ」


 交渉の相手が日本だというのに、エヴィアの目はまっすぐとその神を見る。

 その瞳に対する答えはすぐに出た。

 ニコリと満面な笑みを浮かべる少女の神。


「鍵の修復を願いたい。そうしたら、私たち神が責任をもってこの世界と君たちの世界を繋げてあげる」


 そして、俺は初めてこの少女の立ち位置を理解した。

 彼女は公正な裁定の立場に立つ第三者ではない。

 そもそもの話、前提条件が違った。

 あまりにも初歩的な勘違いだ。

 彼女はこの場を取り仕切ると言ったが、俺たちの望むような形に納めるとは一言も言っていない。

 なら、ミマモリ様の立ち位置はどうなのか。


「霧江を経由して渡したでしょ?」

「あれか」


 それは当然、交渉の席につく、交渉者。

 彼女もまた望む者であっただけ。

 ミマモリ様が言う鍵は何かと思う。

 俺には知らない何かをエヴィアは心当たりがあるのか、絞り出すように彼女は言葉をこぼす。


「そうそれ!」


 その発言を見て、同じ物を思い浮かべたのかミマモリ様も笑顔でグッとサムズアップする。


「まだ何も手掛かりを得ていない代物だぞ?どれだけ修繕に時間がかかると思っているんだ?」


 その楽観的な思考に、エヴィアは淡々と返答する。


「大丈夫!大丈夫!直すための方法はきちんと教えるから!そんなに時間はかからないよ!材料が面倒なだけ!」

「………最初から教えていれば面倒な調査をしなくてすんだんだがな」

「それは無理!だって、最初から教えてたら交渉にならないでしょ?」

「初めから、こうなるとわかっていたのか?」

「これでも神様だし?ある程度の未来はわかってるよ」


 その反応とは対照的に楽し気に語る内容は、詳しい話を聞かない俺からしても魔王軍の裏を土地神である彼女がかいたというのはわかる。


「で?どうする?私のお願い聞いてくれれば今すぐにでもあなたの国のお願いを叶えてあげるよ?」

「用途も不明な神器を直せと言われて素直に直すと思っているのか?」


 そのやり方に不満を抱いたエヴィアは、ミマモリ様を睨みつける。


「その神器が我が国を脅かす代物になり得るかもしれんのだぞ」

「あ、それはないそれはない!だってそれ高天原に繋がる龍脈の鍵だもん」

「なに?」


 しかし、その不満などどこ吹く風。

 あっさりとその鍵の用途を話すミマモリ様に、虚を突かれたエヴィアは素で驚いてしまっている。

 俺自身も、その地名に目を見開く。


「本当はこの鍵を使う予定がなくて放置してて使えなくしちゃったけど、君たち異世界と交流できるのなら話は別だよ。この世界を変革できる可能性。ありとあらゆる神々がこの地上を去って幾千年。地上に残り続けた私の最後のお役目はただの伝言係だよ。もし、この世界に変革をもたらせるかもしれない存在が現れたらそれを私よりも上位の神に伝えに行く。それだけのために私はこの地にとどまり続けた」


 その地名は日本神話で出てくる神々の住まう土地の名。


「そのお役目から解放されるチャンスだ。全くもう、こちとら自分の土地を守るのに精一杯だっていうのに余計な仕事を任せて、上司は引きこもり!やってらんないよ本当に!!」


 そこに住まう神を引っ張り出そうとしていることをこの少女は理解しているのだろうか?

 やっていることは来るかわからない電話を待つ電話番みたいなものか?と社畜思考で彼女の言葉をわかりやすく噛み砕いて理解してみた。


「なんなんだよ!暇になったから眠るって!面白いことが起きたら起こせってどういうことだよ!!そりゃ私だって自棄になって鍵くらい全力で放置するよ!!うん!」


 そして実はこの少女は見た目に反して、割と面倒な仕事を頼まれるタイプなんだと思いつつ神業界のブラック具合を垣間見た。

 地団太を踏むミマモリ様のうっぷん具合から鑑みて、相当の時間を費やしたわけだ。

 そしてこの話を総合すると協力してくれると言っているようなもの。


「なるほど、嘘ではなさそうだな」


 神であろうとなかろうと、嘘を見抜くことに長けた悪魔は神の言い分を理解して笑みを浮かべる。


「いいだろう。この世界の〝国〟と国交を結べ我が国の活動を支援してくれるというのなら、その申し出、受けるとしよう」


 堂々と神の言葉を了承すると、それに対して一番不利益を被るかもしれない人物が黙っているわけもない。


「そんな勝手が許されるわけがない!!いくらあなたが神であろうともこの国はすでに人の国だ!神が出しゃばり、勝手に話を進めていいものではない!!」


 華生の言い分は荒っぽい言葉であるが、正論である。

 バンっと机を叩き大きな声で、ミマモリ様を批判するその姿は堪忍袋の緒が切れつつも、本質は見逃していない。

 人の未来は人が決める。

 そう彼は言っているのだ。

 間違いではない。

 人が紡いできた歴史を見れば正しくもある言葉。

 それを真正面から受け止めたミマモリ様の言葉は。


「別に、この国で活動するとは言ってないよ」

「え?」


 何を言っているんだこいつと言わんばかりに呆れた目で華生を見ていた。


「神にも横繋がりはあるよ。私が顔をつなげば協力してくれる他の神もいる。あとはそこの土地にいる協会みたいな組織と顔を繋げて窓口を繋げるだけ。彼女が求めているのは人材であって日本人ではない。活動できる場所があるのなら何ら問題はないよね」


 それは日本が得られるであろう利益を他所の国に流すと、その土地の神が言い放ったということ。

 何を言っているか理解できないと言わんばかりに華生はだらだらと冷や汗を流している。


「君、勘違いしているようだから最初に言っておくけど、彼らは最初にこの国に根を下ろしたから最初にこの国と交渉してくれているだけ。君たちはただ運が良かっただけだよ。他にいい条件があるのならそっちの方に流れていったっておかしくはないんだよ?」


 それは国が企業に依頼する入札のようなもの。

 安くて条件のいい企業に工事を依頼するという形だ。

 それを指摘し、引き延ばせるものだと思い続けていた華生に間違いを突きつける神。


「そこを踏まえて、よく考えるんだよ。今後君が選ぶべき言葉をね」


 それをじっと見ていて思った。

 やはり、神って存在は残酷だと。


「あ、それと、無神論者って断言して私の事否定したこと許してないから」


 そして神の怒りは面倒だとも思った日だ。



 今日の一言

 場をまとめる大変さは現場にいないとわからない


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。



※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり宴会の対象者って八百万の神々になるのか(笑)
[一言] あ、やっと出てきたよ 「欲しいのは人材であって日本人じゃない」
[良い点] 恋愛がらみやジロウさん大活躍回じゃないお話では、今回が最高! ミマモリ様のお名前にはそういう秘密もあったんだろうなぁ。 日本政府もアメリカも手出しできなくなってもしかたないよねーっていうの…
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