39 やれば出来るってやつは結構いる・・・やつはその典型だ
投稿遅れましてすみません、予約を忘れてました。
前回一日の読者が初の四桁を達成しました。
皆様の愛読に感謝いたします。
今回は、別視点の回になります。
Another side
リーダー、それは拙者たちをまとめる人物だ。
普段の様子を見ると、どこかやる気のない人の良さそうなどこにでもいそうな兄ちゃんといった感じの男性。
髪を短く刈り上げ、パーティールームでタバコを吹かす時の姿は従兄弟か親戚の歳の近いおじさんがそこにいるかと思うくらい軽く冗談を言い合えるような男だ。
そんな人だからこそ、ござるなんて、時代劇のキャラをイメージしない限り現代で言わないような語尾をつけた『私』と平気で付き合うことができているのだろう。
勝の方は、幼馴染、昔馴染みゆえの慣れからくる接し方もあるだろう。
リーダーは、距離の取り方が自然なのだ。
出会ってまだ数ヶ月の私とも互いに、いや、私の方は感じていないだけでリーダーの方は違和感を感じているかもしれない。
だけど、それを言っていてはキリがないので、今は置いておく。
そんなリーダーは公私をきっちり分ける。
普段それこそ仕事中以外は気楽なお兄さんといった感じだが、一旦仕事のスイッチが入れば真面目な社会人にその姿を変える。
私心で動かず、全体の利益を見て行動を起こす。
そこに、私の嫌いな安っぽい偽善はない。
別に、偽善が悪いとは思わない。
ただ私は、自分が正しいと思い込み行動を起こし、結果的に周りに迷惑をかけているのに、良いことをやったと笑いながら自己満足している光景が嫌いなだけだ。
それなら、こうやってリーダーが正論で叩き潰すように相手を圧倒するほうがまだ好きだといえる。
相手方の意見が自利益優先で墓穴を掘った感じが出ていたが、それでも知識がなければきっと丸め込まれていたのはこっちだっただろう。
ちらりと、決着のついたリーダーの顔を見れば、うっすらと疲れた表情を浮かべていた。
それに対して、向こうのカイラと呼ばれる竜人ではなく、私と同じテスターである男、火澄透はなんて危機感のない態度をしていることか。
既に盤面は動き始めているのにもかかわらず、彼は今の話は自分には関係ないと言わんばかりにのんびりとした緊張感のない表情をしている。
おそらく、彼にとってはこれからの話が本番なのだろう。
リーダーの予想通りなら、このあと北宮を説得するような形で話しかけてくるはずだ。
私の予想も概ねそれと一緒だ。
こういった現実がうまくいっている連中は、大概の出来事は行動を起こせば成功すると直感的に確信している部分がある。
事実、それは間違いではないだろうけど。
「容赦ないでござるなぁ、リーダー」
「こういった手合いは情けを見せるとそこに付け込むからなぁ」
そこを封殺する方法はいくらでもある。
そのひとつがリーダーのように情を見せないことだ。
リーダーが言ったとおり少しでも同情の念をみせるとこういったリア充どもはそこに自然と割り込んでくる。
「おら、俺は働いたから次はお前だぞ。給料分は働けよ」
「拙者、思うでござる。働いたら負けかなと」
「安心しろ、ここにいる時点で働いてるから」
「まさかの孔明の罠でござる!? 謀ったなリーダー!!」
「あなたたち、ふざけるなら出ていってくれないかしら?」
「失礼でござるな。拙者はいたって真面目でござるよ」
「俺が不真面目みたいなことを言うなよ」
おお、青筋立てているで『ござるな』
拙者正直今回の話については真面目にふざけて話を流そうと思ったでござるが、リア充が目の前に現れたら話は別でござる。
頭の中の思考も順調に温まり始めているでござる。
リーダーはリーダーでクールダウンに入るためのタバコを吹かし始めているでござるし、目の前のツンデレ縦巻きロールお嬢様、絶対ゲームの中でヒロイン候補にはなってもメインは張れなさそうなキャラが息巻き始めているでござるが、正直、隣りの真面目にシナ作っているオカマインキュバスの方が存在感ありすぎて逆に冷静になってきたでござるよ。
「……話を続けてもよろしいですか?」
「いいでござるが、さっきから当人たちを放っておいていたでござるが、いいのでござるか?」
「あんたが、私のことを忘れなかったことにどう反応したらいいのかしら?」
「笑えばいいでござるよ?」
「殴るわよ!」
「殴ってから言うセリフでないでござるよ!?」
「防いでいるからいいじゃない!」
拙者が勝のツッコミを受け慣れていたから良かったでござるが、普通の人なら間違いなく直撃でござるよ!!
拙者、ギャグのようなキャラ付けを狙っているでござるがギャグ補正なる不可思議な不死身体質は備えていないでござる。
だから正直、こうやってプロボクサー顔負けのフックを片手でパシッと受け止められたのは僥倖でござる。
思わずキリッとしたドヤ顔を決めてしまったでござる。
まるで漫画のように止めてしまったのだから、それも仕方ないでござろうな。
「いい加減にいいかしらん?」
「いいでござるよ?」
「あんたが話を進めるな!!」
「だが断る!!」
「いい加減にしてくれないかな、僕たちは真面目な話をしに来ているんだよ」
おお~、ようやく釣れたでござる。
オカマインキュバスの言葉に悪乗りするように答え、北宮のツッコミにもしっかりと悪乗りを施すでござる。
そうすれば、あら不思議でござる。
さわやか系のリア充が釣り上がるでござるよ。
真打ち登場という言葉を使うには格が足りないでござるが、目的は達成できそうでござるな。
ゆらりと、とぼけているような表情を維持し、顔を声のした方向にわざとらしく向ければ怒気をふんだんに盛った表情が見えた。
その顔は整っているからこそ正当性を増すかのように真剣な表情でござった。
しかし、このリア充はわかっていないでござるな。
主人公を語りたいくせに、今時そんな王道な主人公設定では没個性になってしまって有象無象の中に埋もれてしまうとわからないでござるか。
夢想家のイケメンは、ただの道化でしかない。
「二股の話でござるか?」
ピキリと何かが凍りつくような音がなった気がしたでござる。
オカマは感心半分呆れが半分という感じに口元に手を当て、リーダーはくつくつと堪えながら笑っているでござるな。
拙者もそれなりに気配は読めるでござるよ?
だから、部屋の中のそれぞれの感情がなんとなしにわかるでござる。
リーダーは面白がって、オカマは呆れて、北宮は変わらず緊張している。
目の前のドリルお嬢様は一瞬だけ間があったけど感情はしっかりと維持していたでござる。
さて、見事に空気を読まない発言でござったが、天然でござらんよ?
このままだと、ただのKY女になるので、それはちょっと語弊があるので説明するでござるが、拙者、実は空気が読めないんじゃなくて読まないんでござる。
「拙者思うに、ハーレムをするにも君のリア充度じゃ数値が足りないでござる。もう少しレベルを上げてから出直すでござるよ」
さてさて、この中で一番感情がブレブレなリア充くんはなかなか楽しいでござるな。
なにせ、このリア充、言うに事欠いて真面目な話をしに来たと言ったでござるなぁ。
ここにいたる経緯、問題点となっている部分の話が世間一般でこの話は痴情のもつれということを知らないでござるか、まぁ、知っているでござろうがこの会社の社風にあてられたのでござろうなぁ。
海堂先輩もハーレム、ハーレムって言っているでござるが、あの人はあの人で現実を知っているから、あこがれで言っているだけでござろう。
実際には実行できないだろう、ただのヘタレでござるからな。
だけど、目の前のリア充は自分ならできると思い込んでいるでござる。
実際、彼はモテているのでござろう。
アイドルグループにいそうな容姿に、さわやかな笑顔、時にかっこいい真面目な表情、性格も女受けしそうな、どこの乙女ゲーのヒーローかと言いたくなるような存在でござる。
「君には「関係ないなんて言葉は聞き飽きたでござる。この部屋に入ってから何回出た言葉でござるか? もう少し語彙力を磨いてから出直すでござるよ」
「あなた、話が進まないので少し黙ってもらえます?」
「そうねぇ、このままだとあなたには退席してもらわないといけないわよ?」
「は~い、黙るでござる」
それも現実で見れば能力のあるただの理想家で夢想家なだけの青年でござるな。
能力を現実にアウトプットする方向が理想に傾いているでござる。
足をぷらぷらと、口をゆっくりと閉じる。
第三者のバステトはこの場だけで言えば審判者でござる。
彼の意思一つで拙者に向けてイエローやレッドカードが繰り出され、それに拙者は逆らうことはできないでござる。
ターンスキップも必要でござる。
「遠回りになったけど、本題に入るわよぉ。北宮香恋の所属の問題、彼女本人の意思と所属長の意思、互いに納得できないのを前提としてこの件に関してはMAO corporation 労働組合が仲介に入るわ。双方、この場で決まったことに従ってもらうわ、いいわね?」
「ええ」
「はい」
代表者、拙者たちは北宮、向こうはイケメンリア充の返事とともに前哨戦から本戦に移行する、このピリピリとした空気。拙者、嫌いではないでござるよ。
「といっても、ここであなたたちが論議しても終わりは見えそうにないのよねぇ。それに私が勝手に判断しても遺恨が残っちゃうわ。どうしましょ?」
「ふざけないでいただけますか?」
「もう、私は真面目に考えているのよカイラ、あなたたちというより彼の方ね、あなたはどうしたいのかしら?」
「それは、香恋には戻ってきてほしい。それでまた一緒に」
「一緒に、仲良くやろうって、頭大丈夫でござるか? 君がやったことは世間一般では浮気でござるよ。それを許す以前に拙者は君が北宮に向けて一言も謝っていないと聞いたでござるよ」
「そうね、私も聞いていないわ。そもそも、私が話そうとしたらあなたなんて言ったかしら?」
「それは」
「今は忙しいからあとにしてくれ、だったかしら?」
「イエローカード一枚目でござるなぁ」
浮気男の現場を抑えるのは女の嗜みでござるよ。
拙者はそれなりどころかどっぷりとオタクでござるから、ファンタジー小説の一作や十作で済まない量の本を読んでいるでござるから、ハーレム物を読んだことがあるでござるし、理解もあるでござるよ。
中には、こうやって喧嘩して分かれそうになるヒロインも当然いるでござる。
それでも
「それで、あの現場よ。それなら、私はあなたとどうやって付き合えばいいのかしら?」
物語の主人公たちはヒロインを放ってはおかなかったでござるよ。
「薄々は、わかってたわよ。私ってこんな性格だから美樹の方が女の子らしいって、透が向こうに惹かれているのだって」
「でしたら、彼女と彼を共有すればいいのでは? 幸い、我社ではそのようなことを侮蔑するような風習はありませんわよ」
「それも考えたわよ。でもね、見えなかったのよ。あなたはきっとこれからも女の子を増やしていくわ。幼馴染の私が言っているんだもん間違いないわ」
そんなことをするやつは主人公にはなれないでござるよ。
「見えないのよ、あなたのそばにいる私が、その未来が。ねぇ、答えてよ、透。あなたは私が戻ったらそばにいてくれるの?」
「……できる、いや、してみせる!」
は~い、イエローカード二枚目でござるな。
即答できない時点で迷いがあるでござるし、この光景、拙者の悪い予想が当たったでござるなぁ。
この展開は予想の範囲内でござるよ。
『え? 私と透の関係?』
『そうでござるよ』
『いきなりどうしたんだ南』
こんな話に挑むのでござるから、当然事前打ち合わせはするでござる。
その時、拙者はふと疑問に思ったのでござるよ。
『ちょっと、疑問に思ったでござるよ。北宮とあのリア充は幼馴染で間違いないでござるよね?』
『そのゴザル口調、イラッとくるからやめてくれないかしら』
『嫌でござるよ。なんで拙者が自分のアイデンティティを崩さないといけないでござるか』
『お前ら、喧嘩は会議が終わってからにしろ。それでどうなんだ?』
『……そうよ、透とは幼馴染。それこそ物心つく前から一緒だったわよ。それがどうしたのよ?』
喧嘩腰の偽りのない会話、それが拙者と北宮の会話のスタンスでござる。
よく言えば喧嘩友達ともとれる言葉でござるが、拙者はそう思わないでござる。
拙者からしてみれば北宮は拙者の領域を侵してきた泥棒猫でござる。
嫌いな奴に喧嘩売って何が悪いでござるかと、言いたいところでござるが、妙に波長が合う時があるでござる。
それ故、イマイチ嫌いになりきれない女、それが、拙者から見た北宮という女でござる。
『そこでござるよ拙者が気になったのは、北宮』
『だからどこよ、別に普通じゃない? 昔からの付き合いって』
『別にそこはどうでもいいでござる』
『どうでもいいって、お前が聞いたんだろ幼馴染かどうかって』
『そうでござるよリーダー、ここで気になったのは一つでござる。北宮』
そんな女だからこそ、警戒して観察してしまったでござる。
そんな女だからこそ、性格を深く理解してしまったでござる。
そんな女だからこそ
『君があのリア充に向けたのは本当に恋心でござるか?』
『は?』
『……』
鏡のように自分を見ているように錯覚する時があったでござる。
『何言っているのよ当たり前じゃない! じゃなきゃなんで付き合うって話になるのよ!』
『そうでござる、北宮はそうかもしれないでござる』
『なら』
『なら、あのリア充はどうでござるか?』
『え?』
『幼馴染というのは常に一緒にいるのが当たり前のように感じるでござる。拙者もそうでござる』
この話とは関係ないと言い切ろうとする北宮の言葉を遮るように拙者は言葉を続けるでござる。
だって、北宮の言っているコトは拙者が通ってきた道のりでござる。
勝はいつも一緒にいるものだと、ずっと思ってきたでござる。
だけどそれは、拙者の一方通行でござる。
それに気づくことができたのはきっかけがあったからでござる。
だから、拙者が北宮のきっかけになってやるでござるよ。
『リーダーは気づいたでござるか?』
『可能性にはな……だが』
『拙者はなんとなく間違っていないと思うでござる』
『何言ってるのよ』
『単純な話でござる。幼馴染同士の恋愛、それは物語での王道でござる。けれども……』
「もう、二度とあんなことはしない! だから」
真剣にこっちを、正確には北宮をみるリア充くんを見ながらここに来る前の会話を思い出していたら、話は進んでしまっていたらしい。いけない、いけない、大事な場面をスキップするところでござる。
「そう、あなたの答えはそうなのね」
「香恋!」
ゆっくりと、あの勝気な北宮が優しく笑う。
ああ、やっぱりこうなったでござるか。
「なら、やっぱり私は『あなた』のところにはいけないわ」
「え?」
「私気づいたの。いいえ、気づかされたのよ。私たちは『恋』をしていなかったの」
名前を呼ばなかったでござるか。
今回の原因となったのは幼馴染というのは一緒にいるのが当たり前になって、勘違いするときがあるということでござるよ。
「近づきすぎたのね。一緒にいるのが当たり前になりすぎて私も透も見えていなかったのよ」
「何を言って――」
「私ね、透のことは好きよ。でもこれがどういう好きか考えたことがなかったの。でも今回みたいなことがあって一歩後ろに下がって考えることができた。ねえ、透は私のこと好き?」
「当たり前だ!! 僕は君のことが好きだ!」
「うん、それは私を女として好きなの?」
「ああ!!」
イエローカード三枚目でゴザル。
すなわちレッドカード。
「そう、あなたは私のことを見てくれないのね」
「そんなことを言ってない!!」
「言ったでござるよ、そして確信したでござるよ。リア充くん、君、北宮のこと好きでもなんでもないでござるね」
「違う!!」
「ならなんで最後の言葉を『否定』しなかったのでござる?」
「え?」
『一緒にいるのが当たり前になりすぎて、そこに恋愛感情が存在しない。そんなこともあるでござるよ』
できれば外れてほしかったでござる。
今回の話、実は負けるつもりでござった。
何度も何度も話を交わすたびに、北宮は冷静になり戻ることも視野に入れたでござる。
だけども踏ん切りがつかない。
その後押しを拙者たちがするつもりでござった。
それがどんな結末になろうとも、リーダーは北宮の選択だ、と受け入れるつもりだったでござる。
だけど、これだけは確認しておきたかったでござる。
このリア充くんは、北宮をいて当たり前の存在、都合のいい存在だと見ていないかと心配になったでござるよ。
それをリーダーと北宮に伝えて、今回の話に持っていってもらったでござる。
リア充くん、君は最後の答えで女としてではなく、北宮を北宮香恋として好きだと言わないといけなかったのでござるよ。
「決まりね」
「待ちなさいバステト! 話はまだ終わっていないですわよ」
「ここから巻き返すのは無理よ~。それに会社の利益的にも彼女は今のパーティーにいたほうが効率的ね。利益と風紀どっちも向こうに傾いたわ。なら、あとは判決のみね」
最後の言葉を理解できないリア充くんを放置したままこの話の結末が下る。
「今回の結果で、北宮香恋の所属は田中次郎のパーティーに正式に加入する。人事部にはそう書類を提出するわ。異議は、受け付けないわ」
はぁ、働いたでござるよ。
体全体の力が一気に抜けて、ソファーの背もたれにグテーと寄りかかる。
働きすぎたでござる。
働くのはやっぱり負けでござるよ!!
Another side END
今日の一言
うわー!!! 拙者のキャラじゃない!!
あんなシリアス、拙者じゃない!! でござるぅぅ!!!
以上となります。
今回で、北宮は正式にパーティー異動となります。
魔法使いが仲間に入った!!とドラクエなら言うところですね(笑
これからも異世界からの企業進出!?転職からの成り上がり録をよろしくお願いします。




