409 睡眠はしっかりととりたいのが社畜の願望
『答えは』
神よりも上位の存在はいるのか、そんな問いかけに俺は悩みはしたが、あっさりと自分の中で答えは出た。
『わからないです』
神そのものの実態がわかっていないのにそれよりも上位の存在がいるのかと問われてわかるわけがない。
なので素直な答えをぶっちゃけてみた。
『………』
『………』
じっくりとこちらの瞳を覗き込むミマモリ様は、真剣な表情から一転。
ニコリと笑ったと思えば。
『大正解!いやぁ!!よくわかったね!!』
大きな声で俺の答えを正解だと言い放ち、どこからともなく取り出した太鼓やラッパで騒ぐ。
先ほどまでのテンションを知っている身としては、その光景を見ても良く騒ぐなと思う程度。
むしろなぜそんなことを聞くのかと疑問に思ってしまう。
神々の生誕の秘話。
そんな物宗教分野に詳しい人や研究者に丸投げしたい分野だ。
知ったらほうと驚いたり納得したりと色々と表現できるのだが、生憎現状、率先して調べようとは思わない。
『実際問題、私たち神でもその辺はわかっていないのさ。人間がなぜ生まれたかわからないように、私たち神もなぜ生まれたか理由は解明していないし、私たち神を生み出した存在がいるかどうかもわからない。ただ言えることは一つ』
興味はないからと言って聞き流すということはないが、この先を聞いてしまったら後戻りはできないのではと不安になる言葉を連ねるミマモリ様の言葉を聞きたくはないと思ってしまう。
『我々神は、世界を作った。それだけは事実なのさ』
『その理屈で言うと、人々の願いで生まれたって説は否定されそうなんですが』
『いや、違うさ。その説も正しい。人の願いによって生まれた神も実在するんだよ』
世界を作ったのが神だというのなら、世界が誕生した後に生み出された人は、神を作り出すことはない。
そこに一つの疑問を挟み込むも、ミマモリ様はそれも否定する。
『生まれ方の種類が違うだけさ。世界を作り出すために生まれた神もいれば、願いによって生み出された神もいる。ただ理屈だけがわかっていないだけなんだよ。ちなみに、私は願いによって生み出された神様だよ。安寧の地をという過去の人々の願いによって生み出された土地神、それが祀られ現代まで生き延びていたのさ』
『それだとおかしくありませんか?人が願ったことによって生み出された神様がいる。それはわかります。だけど、世界を生み出すために生まれた神がいる。じゃぁ、それは一体だれが生み出したというんですか。無から生まれたとでも言うんですか』
ビックバン説を否定するようなミマモリ様は俺のこの疑問に対しては頭を横に振ることしかしてくれない。
『残念だけど、私はその点に関しては答えることができないんだよ。言ったよね?わからないって。君たちも知らない最上位の神、宇宙創成、たった一つの星の権力しか持たない神々よりもさらに上位の神、私たちは彼らよりも下の存在なのさ。まぁクトゥルフのやつらならなんか知ってるかもしれないけどさぁ。変なこと知ってそうだし』
力のない神はつらいよと嘆くミマモリ様は、どこか管理職のような哀愁を漂わせている。
言ってみれば、人と神の間を取り持つ立ち位置であるのだからこの感想も間違ってはいないだろうな。
神様的には一番気苦労が多そうだな。
なぜか、微妙に親近感がわきそうな内容なのだが、最後の方に聞き覚えのある有名な神話の体系が出てきた。
ただ、その神話は空想、架空の神話だったはず。
存在しないのではという疑問は当然でてくる。
『ああ~、見てしまったら正気を保つのが大変な神様ですよね?実在するんですね』
『するよ~、名前が若干違ったり、性質が少~し違ったりするけど、人間が生を見たらヤバいって部分は神々の中でもダントツトップ。発狂で済めばいい方だから、みんな自分のエリアには近づけないようにしてるだけ~あれらが来たときは本当にヤバいから………マジで』
神々にも危険扱いされるクトゥルフ神話の神々って一体全体どんな奴らなのかと気になるところ。
会いたいとは欠片も思わないけど、扱いが生物兵器か何かかと言わんばかりに最後の方が苦虫を嚙み潰したかのようにしかめっ面を披露するミマモリ様。
過去にもしかしたら何らかの被害があったのか?と聞きたかったが、聞かない方が身のためだと判断する。
『おっと、ヤバい奴らの話をしてるところじゃなかったね。本題本題、えっと、神よりも上位の存在がいるかどうかって話で分からないってところまで話したよね』
『ええ、ここまでくると聞いた意味があるのかって思うくらい、神について何もわからないって感じですね』
『おうおう、言うね~。事実だけど、そう言う所は心の中にしまっておいた方がいいよ~。神様って意外と短気な存在だから、不敬だ!って裁きの一つや二つは振ってくるから』
『ええ、先日それを受けましたよ』
『ほうほう、それは興味深い話だね。是非とも後で聞きたいけど、先にこっちを話さないといけないからあとで時間があったら教えてね~』
神の話という神話研究者なら喉から手が出るほど欲しい話だろう。
脱線しながらのおかげかなかなか聞いていて飽きない。
『さてさて、ここまでで神って大きく分けて二つ存在するんだってことがわかったわけだね。一つは世界を生み出すための神様、もう一つは願われて生み出された神様ってわけ。ここまではいい?』
『はい』
『それで、次にこの二つの大きな違いなんだけど、まぁ、ぶっちゃけて言えば力の源の差くらいしかないかなぁ。もっと言えば知名度や信仰の差ともいえるね』
『力の源?』
『そうそう、神様にも格って言うのがあってね。人間といった神を敬う側に近い存在であればあるほど格が低くて、遠ければ遠くなるほど神としての格が高くなる。この格が一定を越えるとさっき言った創成組になったり、以下だと願い組だったりと振り分けられる。そのラインによって力の源もことなるってわけ』
神様の内情と言うか社会構成の根幹と言える部分。
地位と言えば良いのだろうか、それともレベルと言い換えればいいのか。
一つ分かることと言えば、神には格付けがなされているということ。
『世界を生み出した神はその格は最も高い、逆に私のような神は格が低いってわけ。当然その力の源の差もすごいの』
まぁ、言葉だけでもその二つに対して差があるのは理解できる。
むしろこれで力がしょぼかったら笑えない。
『世界を生み出せる神は存在するだけでその身に莫大な、本当に想像できないくらいの力を貯めこんでるの。私の神格で得られる力なんてそんな存在と比べたら海に水滴垂らすくらいの力なのさ。私たち願い組の力の源は、当然のように信仰ってわけ。そりゃ力に限りがあるんだよ。人がいるから神がいる、神がいるから人がいるって関係なわけ』
神様って言うのは意外と不便な存在なんだよと、溜息を吐くミマモリ様。
『さてさて、ここまででとんでもない存在が一番上位にいて、神の力は意外とピンキリだってのが判明したね』
人間という種族にも、個人の能力の差はあるが、神ほどではないと思いつつ、その言葉にうなずく。
どっちにしろ俺にはどうやっても抗えない存在だというのは間違いない。
パワーインフレが起こればどうにかなるだろうが、現状俺の中で最強の存在である社長でも惑星規模の攻撃力しか持っていないはず。
宇宙規模の攻撃力を前にしたらひとたまりどころの話ではないはず。
それに耐えてしまったら………うんやめておこう。
考えるだけで頭痛がしそうだ。
『さてさて、ではでは、ここでさらに問題。君が交流している神様はどれくらいの格の神様でしょうか?』
『わからない!』
『うん!潔いね!!白々しいほどの即答だ!』
『いや、普通に考えてわかるはずないでしょ。というより』
この夢の中に入り込んできた神様が一体全体俺に何を伝えたいのかいよいよわからなくなってきた。
わかったのは神の最高出力と最低出力の差が桁違いってことだけ、そこで異世界の神の格を答えろって、一から無限の間の数字から選べと言われているようなものだ。
そもそもの話、ミマモリ様の言い方から察するに。
『………もしかしなくても、その話しぶりから察するに異世界ってイスアル以外にも存在したりするんですか?』
『するよ?むしろ何で、異世界は一つだけって思うのかな?地球やイスアルって世界みたいに知的生命体が存在する世界は珍しいけど少ないってわけじゃないしね。まぁ、この世界観だけで生活してればここだけが世界だし、そう考えるのも無理ないけど、世界によっては複数の世界と交流を持っている世界もあるから、もっと視野を広げていった方がいいよ~』
異世界という環境は、思ったよりも横幅が広い世界なのかもしれない。
コテッと首を傾げるミマモリ様の言葉にやっぱりかといよいよもってして、神という存在の分野が想像以上に広いことがわかった。
俺の理解できる範疇で整理するのなら、世界を作り出した神というのが言わば企業で言う社長だ。
その下に色々と役職持ちの神が存在し、副社長的な神や専務的な神、はたまた部長、課長、係長な感じの神もいたりするのか。
神って、実はグローバル複合企業なのかと大雑把ではあるが的を射ているような気がする。
その想像が間違っていないか、確認する意味も踏まえてミマモリ様に伝えてみると。
『お~私たちをそうやってとらえたのは初めてかもね、しかも間違っていない。なかなかいい着眼点だね。君の言う感じでなら私はさしずめ平社員ってところ?いや、正社員ではないか。どちらかというとパートとかそこら辺に落ち着くかな。まぁ、一つの土地しか管理してない私にはお似合いだ!』
カラカラと笑いながら愉快愉快と言い放つミマモリ様はそれならわかりやすいと、膝を叩き、すっと笑いすぎた所為で浮かんだ涙を拭い。
『でわでわ、先ほどの質問の答えを言おうか。君の言う会社構造で言うのなら、差し詰め異世界の神の立ち位置はせいぜい係長クラスだ。聞く感じ、一つの世界、それも発展途上の魔法文明の惑星一つ分しか管理していないとなるとそんなものだろうね』
『係長って………』
そう聞くと途端に神という存在が身近に感じれるようになるのは中々不思議な話。
あっけらかんと言い放つミマモリ様の言葉に思わず苦笑が浮かぶ。
『ちなみにだけど、参考がてら言うけどこの地球にいる主神クラスの神様でも課長クラスに達しているのはいないよ~。太陽系の枠組みでそれだよ。この上になると銀河クラスかそれ以上の規模をまとめている神がいるってわけ。まぁ、同じ係長って言ってもこっちの方が上なような気もするけど、立場としては先輩後輩的な?感じかな』
ニコニコと笑いながら話す内容ではない気がするが、参考にはなる。
しかし、この話を聞いたからと言って何ができるかって話だ。
結局のとこ、神という存在はあくまで世界を管理する立場の超常的存在で、エネルギーは俺たち人と言った知的生命体の信仰ということになる。
それが最上位になるとそこら辺をひっくるめた何かってことになる。
………うん、説明してもらって言うのもなんだが、余計に神に対しての認識が分からなくなったかもしれん。
むしろこれを知る必要はなかったのでは?
『これ、聞く必要ありました?』
『う~ん、あるんじゃないかな?』
『その意味は?』
『一応、私の知る限りだけど神殺しを成した人間が殺した神ってその係長クラスの神だけだからね~一応倒せるって事実とどれくらいすごい存在なのか知っておいて損はないでしょ?君もいずれその地位に納まるような気がするからさ』
『え?』
私の勘だけどねと言うが、神の勘ってシャレになっていないのだが。
『だから教えたのさ!それじゃ!そろそろ休まないと明日に差し支えるから私はこの辺で!』
『ちょ、待って!』
不穏な言葉だけ残して去らないで欲しいと手を伸ばすも、さっきまではっきりと見えていたススキの光景は一瞬で消え、気づけば暗い天井が俺の視界に映っていた。
「………」
グッと握り、手の感触がしっかりしていることからこれが現実だということを教えてくれ、隣を見ればエヴィアが穏やかな寝顔を見せてくれている。
「………はぁ」
夢というのは現実味がないことを指すが、あればっかりは夢という一言で済ませられる気がしない。
神殺しという単語を残して去っていった神様。
その言葉の真実を確認するための証拠を神は残さず、いや、残さないように残せないように現実ではなく俺の中の夢という場所で語ったのかと今この時ばかりは思った。
「こんなこと教えられて、眠れるか」
神が送った言葉は人間を辞め始めている俺ですら、今日は寝不足になるだろうなと思わせるくらいには効果があったのであった。
今日の一言
たった一つの言葉だけで、不安は煽られる。
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




