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406 思惑は一致すればいいが、しなければ弾くだけ

 さて休憩が終わって、どうなるかと思っていたが。


「ノーディスさん。再開して早速ですが、一つ我々からの提案を聞いてほしいのですが」

「ふむ、聞こう」


 再開の出だしは政府側から口火を切るようだ。

 休憩中俺たちはリクルート活動を認めるにあたって詳細な条件を聞き出すことと、ダンジョンテスターを資格制にして、免許を獲得できる施設の立案へと話を持っていこうと考え、提案しようと思っていた。

 しかし、話が始まるや否やそれよりも先に話を持ち出されては話を聞くほかない。

 華生が真剣な表情になり、どんな言葉が出てくるかを待つ。


「現状我々とそちらでいろいろとすり合わせができていないのは、偏に私どもがあなた方を理解できていない部分が多いと考えております」

「妥当だな」


 そして吐露された言葉は至極真っ当な意見。

 知識と経験は違うように、百聞は一見にしかず。

 俺もあの会社に入って、色々と俺の中で持っていたファンタジーの常識を崩し、再構築してきた。

 彼らに足りないのは経験、実際に見て触れることだということだ。


「ですので、一つ使節団を迎え入れていただき、そこの知見を経由し改めて交渉のすり合わせをしたいと思っております。もちろん、こちらもそれなりの譲歩は致します。代わりにと言っては何ですが、そちら側のリクルート活動の許可は無理にしてもこの国にあなた方の大使館を建設するのはいかがでしょう。もちろん、この場で了承いただければ早急に話を進め、建設業者に打診し土地の選定、建設までの過程を年内に済ませることはお約束いたします」


 しかしだからと言ってこれはどうなんだと、思う。

 判断が難しい。

 交流を維持しつつ、こちらの希望は叶っていない。

 だが、政府とのつながりはしっかりとした立場で得られると確約をもらえる。

 国としては、譲歩とも言える意見だ。

 施工期間もしっかりと明確に宣言していることもいい。

 しかし。


「大使館の建設予定地は?」

「可能なら今後のメガフロート建設計画と合わせ都内の沿岸部を想定しております。そこを起点に今後の日本との交流を育てていければと思っております」

「我々はこの国の人種とは異なる。近隣住民への配慮は?用意できたとしても、この国の住民から反対されては意味がない」

「国所有の土地の中からさらに選定する予定です。また、その際には近隣への情報統制、並びに広報活動には協力を惜しみません」


 僻地に閉じ込めるという心配はなかったが、日本人との軋轢に対してかなりシビアな問題がある。

 一個人ではなく、国としてそこに駐留するとなればそれ相応の準備が必要になる。

 そして大使館を構えるということは、その建設が終わるまでの間に魔王軍の情報を国内に流布し、国民への同意を求めるということ。

 すなわち国交を結ぶことに他ならない。

 好奇心旺盛な若者なら受け入れられるかもしれないが、固定観念にとらわれた高齢者たちはどう反応するか正直読めない。


「なるほど………」


 そしてエヴィアもこの申し出に対しては慎重になっている。

 リクルート活動に関しては、今まで通り常に人材が確保できることに越したことはないが、一年や二年程度なら問題なく稼働することもできる。

 十年単位でもやろうと思えば維持できるだろう。

 それ以上となればさすがに問題だが、ここまで急に話を進めてくるとなると何かあるのではと勘繰ってしまう。


「少しよろしいでしょうか」


 何か思惑があるのではと答えを出す前に協会の浪花が挙手をし発言を求めてくる。

 二ヵ国間での話し合いに対して割り込むというのは中々度胸がいると思うが、先ほどのリンゴ騒動の時も彼はその点の線引きがうまいように俺は感じた。

 エヴィアは視線で大丈夫だと促し、彼女が許可したからこそ。


「ええ、大丈夫です。なにか?」

「その大使館を建設する土地に関してなんですが、我が協会の所有する土地を提供したいと思うのですがいかがでしょう」

「!?」


 華生も許可したが、出てきた言葉に彼は目を見開いた。

 そして、エヴィアは了承もしていないのにも関わらず、彼らはIFの話を進めた。


「我が協会は神秘に対して深い知見を持ちえます。でしたらその点に弱い政府の方々とも協力することもできると思うのです。そうなれば表舞台に立つことになるでしょうが、それはやむを得ないことです。それほど今回の国交に関しましては重要だと我々は考えております。これは我々協会が国に対しての奉仕だと思ってくれれば幸いです」


 そして俺は浪花が何を言いたいかをおおよそ察することができた。

 言葉だけ聞けばただの親切な協力要請だが。

 言葉の裏に含まれる野心が見えた。

 彼らは魔王軍を傘にこの世界に新たな幻想をよみがえらそうとしている。

 古びた知識、時代に追い出された存在、人々が不要だと断じ、空想のモノだと言い捨てた住人達。

 それらの代弁だろう。


「いかがでしょう。ノーディスさん。都内の一等地はご用意できないですが、住民との軋轢を生まず、干渉を最小限に抑えた環境はご用意できると思います」


 狸が笑うとこんな笑顔になるのではと思えるような笑みを浪花は浮かべ。

 隣に座る阿倍と霧江さんは静かにただ見守るだけ。

 二つの選択。

 二つの意見。

 二つの思惑。

 一時の交わり、見据えたさきの終着点は果たして同じなのか。


「なるほどな、見返りは?」

「いえ、見返りなどと、我々はあなた方との融和と交流を心から願っているだけです」


 本音は隠し、話の流れを変えてきた。

 その先にあるのは何か。

 対岸から眺める距離ではなく、かといって焚火の火で火傷を危惧するような距離でもなく。

 彼らは火中の栗を拾いにきている。

 そう俺には思えた。

 政府側は、人を送り込むことで魔王軍を知ろうとし、協会側は、自らの土地に迎え入れることで魔王軍を知ろうとしている。

 どちらも一長一短があるだろうが、最初と比べれば一気に踏み込んできたなと思う。

 政府側からしたら余計なことをしたなと思われても仕方ない協会側の言動を諫めるような華生の視線。

 協会側からしたら、のけ者にしようとしたのはそちらが先だと思えるような浪花の視線。

 互いに交差し、決定権を委ねられているように見えて、対岸の火事を眺めることとなってしまったエヴィアはきっと心の中では楽しそうに笑っているに違いない。

 実際にこの場では隠していない尻尾が少し揺れていることから楽しんでいるのがわかる。


「なんでしたら、テスターの件も我々の方から人材を派遣しましょうか?」

「何?」


 しかしそれも一時の事だったらしい。

 じっくりと火中の栗を取るために手探りをしているかと思っていたタイミングでありはしたが、浪花はじれったいと言わんばかりに一気に火の中に手を突っ込んできた。


「浪花さん!それは!」

「なにかまずいことあります?国として危惧しているのは、一般人が彼の国に協力し、未知の技術を身に着け犯罪行動に走るかもしれないこと。でしたら一般人にはない神秘に対しての知識や経験のある我々が協力を申し出てもおかしくはない話ですな」


 独断専行が過ぎると華生は声を荒げるが、浪花は気にしたそぶりも見せない。


「曙さん」


 それどころか、その視線を無視し隣に座る防衛省の人間である曙に話を振る始末。

 このタイミングで話を振るなと言う視線を飛ばしつつも、話を振られたからには応えなければならないとあからさまなため息を吐いてから。


「なんですかな?」


 嫌々、答えているという姿をアピールしている。

 そこに対しても浪花は気にしたそぶりは見せない。


「未知ということに対して、我々ではなく自衛隊を派遣し知見を得るという選択ももちろんあると思います。それを踏まえて聞きますが防衛省として、もし仮に、自衛隊をテスターとして派遣するということはあり得ますかな?」

「………現時点では解答はできませんな」

「難しいということで?」


 その話の進め方に随分と強引に推し進めるなと逆に心配になるほど、浪花は話に積極的だ。

 国民は自衛隊の動きに過敏に反応する。

 通常時には何をしているかわからないと、心のない人から自衛隊は不要だとデモをする輩もいる。

 非常時のための戦力としているのだと理解している人であっても戦地に派遣となれば難色を示す人も多い。

 被災地域への救援や支援といった形であれば納得するだろうが、異世界の国が経営する会社に派遣となればいったいどんな反応をするだろうか。


「………お答えできません」


 それを理解しての浪花の発言なのだろう。

 言葉は固くなるも、表情を変えず答える曙。

 その態度で答えを言っているようなものだと俺は思いつつも、そう答えるしかないなと同情する気持ちも湧く。


「なるほど。答えられないのなら仕方ありませんな」


 と、白々しく話を区切ろうとする態度を見て俺は逆に感心する。

 浪花のさっきまでの発言で、国内において協会以上に魔王軍に協力しやすい組織はいないとアピールしているようなもの。

 政府としても、こと神秘といった分野において一任していた部分もあり、強くは言えない。

 だが、段取りを踏もうとしているのにも関わらず、妨害にちかい越権行為をしている浪花とそれを咎めない二人に対して不快な感情を抱いているのは間違いないだろう。


「………浪花、この場はあくまで国同士の交渉。我らが口を出しすぎるのは不和を招く。自重せよ」

「それは、失礼しました。華生さん、曙さん、ノーディスさん申し訳ない」


 そして遅いと言わざるを得ない阿倍の叱責でその感情はさらに深まっただろう。

 しかし、それでもたしなめたという事実は変わらず。


「次からはお気を付けを」

「ええ、わかりました」

「私は気にしていない」


 遺憾の意を示すだけしかできない華生の心の中は荒れているだろう。

 それに対して、一定の印象をエヴィアに植え付けることができた浪花は満足だろう。

 正しく、狸の本領発揮であったやり取り。


「………では、話を戻しまして」


 余計な横槍は入ったものの、ここで中断をするのは得策ではない華生は、気持ちを切り替え途中まで進んでいた話を進める。


「この話を受け入れていただいた場合の使節団に関しましての話に移りましょう」


 彼ら政府からの本命。

 魔王軍の本拠地への使節団の派遣。

 それは彼らからしたらどういった思惑があるのか見極める必要がある。


「最初に言った通り、我が国としてはあなた方に対して知識が不足している。ですので我々としては、そちらの国を知る機会をいただきたい」

「………そのための使節団というわけか」

「ええ、こちらとしては手探りで話を進めるよりも、今後の話し合いがスムーズに行える案だと思っております。可能であれば、こちらに置く大使館と同様に、そちらの方にも大使館を置かせていただきたいのですが」


 差し詰め日本政府の魔王軍内部を探るための橋頭保といったところか。

 最初は地域住民への接触、後々安全だと判断できれば異界の技術や魔法に関する技術も探るつもりか。

 魔王軍としても、地球の様々な技術に関して研究している手前、これは断りにくいと思う。

 さて、エヴィアはどう判断するか。


「いかがでしょう?互いに利益のある交流となると思いますが」


 華生の言葉を聞き、腕を組み、少し考える仕草を見せつつもすでに答えを出しているのか大して時間をかけずにエヴィアは答えを出す。


「………仮に受け入れた場合だが、当然条件がある」

「………ええ、今はまだ仮定の話です。その場合で結構です。それで条件とは?」


 当然、そのまま受けいれるわけもなく条件を出す。


「先に言っておけば、我々の国はこの国ほど治安は良くはない。調べ交流するのは構わないが、保護範囲を抜けた場合の命の保証はしないし行方不明となっても捜索もしない。加えてこちらを経由しない交流に関しては我が国は一切関与しない」


 ある意味で好き勝手に動いてもいいという発言であるが、ガイドに従わないのなら命の保証はしないと言っているようなもの。

 勝手な行動をするのならそれ相応の覚悟をした方がいいと忠告兼脅しだ。

 こちらとしても、使節団の話は想定内だ。

 何を見せるか、何を話すかの取捨選択権は当然こちら側にあるし、勝手な行動をした場合の責任を負うつもりはない。


「簡単な条件だ。こちらの指示に従ってくれるのなら、国賓待遇は保証する。ただそれだけのことだ。わかりやすいだろ?」

「………ええ、そうですな」


 裏の意図を伝える必要などない。

 そしてそのあとしばらく、使節団の話の詳細を打ちあわせ、今日の会談は終了するのであった。




 今日の一言

 考えを一致させるのは難しい。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。



※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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