404 押してあとは引いてみろ
投稿が一日遅れて申し訳ありません。(汗)
昨日少し体調を崩しておりまして、皆様もどうかお気を付けてください。
さて、突然の不老長寿ができる物体として提示された代物。
俺の目の前に座り、女性悪魔であるエヴィアが見せた黄金リンゴ。
それを出した時は変わった食料があるのだなという認識であっただろう華生であったが、その内容を聞けば聞くほど、それがどれほどの価値があるのかと心の中で二極化されたと伺える。
リアクションに困る品物なのは事前に聞いていた俺もそう思うので同意できる。
表情に葛藤が見えるということはそう言うことだろう。
嘘であれば精々物珍しい高級品の食材に並ぶ程度の価値に加えてこんな場所でそんな嘘をつくという詐欺師の名誉が付属される。
だが、今エヴィアが語った内容が真実であれば、一国が暗躍するには十分な理由になり得るものであると彼はすぐに察したのは間違いない。
価値の物差しが極端な代物。
ゼロか一かなどと言うギャンブル染みた信用の話。
嘘ではないだろうが嘘かもしれないという疑心暗鬼。
同席している曙にわずかであるがアイコンタクトを送っている様子、彼もどう判断すればいいかわからないと首を横に振るしかないようだ。
その様子がこの推察に裏付けを与えてくれる。
今も俺の目の前でそんな様子など関係ないとさらに乗ったリンゴの一切れに手を伸ばし、彼女が瑞々しい果実を頬張りおいしそうに食べている。
「?」
わざとらしいなと苦笑するのを堪え、警護に努める。
その一切れが人間の夢を叶える代物だということなど関係なしに、食べないなら私が食べるが?と表情で語り迷いなく口に頬張って見せる。
その仕草自体、明らかにわざとらしい。
華生や曙、そして国のコネクションから同席したジョセフも彼女の仕草が真実かどうか迷っている。
今この場で外交官三人に嘘か真かをこの場で実際に証明する術はあるかないかと問われればないと答えるだろう。
俺もそちら側なら同じ考えを抱く。
加えて毒性がないのはエヴィアが食べていることで証明しているかのようにも見えるが、彼女は悪魔であって人間ではない。
人間に悪影響がないと確認すらできていない。
かと言って、もしこの場の誰かが食べて、何かが起きてしまったらどうなるのか。
考えるまでもなく、笑顔で食べることには戸惑いを感じる。
国交を結ぼうとしているこの場で毒を盛ることは絶対にありえないと考える中で、もしかしてと悪い予想をするのが人間の常識。
疑いの感情が一パーセントでもあるのなら、踏みとどまり迷いを抱いてしまう。
「………」
いつのまにか完全にエヴィアのペースに収まってしまったが、会談の席が国交の話どころではない状況となってしまった。
彼らの手に余る話の内容。
冗談ですよね?と聞ければいいが、エヴィアの振る舞いはその類の冗談ではないと言っているようなもの。
聞くに聞けない。
しかし、鵜呑みにすることもできない。
正直に報告すれば正気を疑われかねない話。
せめて根拠となり得るような情報が得られればいいのだがと、政府側の人間は心の中で思っているだろう。
そんな対処に困る時に救いの手になるかと思える発言が飛び出す。
「ほぉ、黄金に輝くリンゴですか?これ皮とか本当に黄金でできてるんですかな?」
今まで沈黙を保っていた協会側から動きが出た。
ピタリと次に伸びたエヴィアの手が止まり、その声の主に視線を向ける。
浪花富和。
関西支部の副部長が興味津々と、感情を隠さず俺の手元にある皮を見る。
「いや、見た目は金のように見えるが、あくまでこれはリンゴの皮だ。食べれるし、腐りもする。金属を取り扱うものが研究したこともあったが、植物と一緒だという研究結果が出ている」
「ほうほう、それは面白いものが異世界にはあるモノですな。となると、効果の方もそうですがそちらのリンゴの味の方にも興味が出ますなぁ」
「食べてみるか?」
「いただいても?」
「ああ」
そして誰もが戸惑っていた最初の一口に、彼は名乗り出る。
俺が動くわけにいかず、霧江さんが席を立ち、小皿に分けられた竹楊枝の刺さった皿を受け取り、そのまま持ち帰った。
「う~ん、見た目は完全にリンゴ、本当にこれで寿命が延びるのですかな?」
「こちらの世界では実際に使用されて、寿命が延びたというケースは多々報告されている。もちろん研究結果でも出ている」
「そちらの資料はいただけるので?」
そして皿を受け取った浪花はそのリンゴをすぐに食べるのではなく、じっくりと観察するように見た後、再度確認の言葉を飛ばす。
周囲が探りを入れる中で、彼だけはまるで足元に埋まっている地雷が見えていないかのように強気で足を踏み込み、話題に食いついてきている。
その行為の意図が読めないと政府側の人間は訝しげに、その表情を伺っている。
対して異世界組の表情に変化はない。
エヴィアはその言葉を面白そうに聞いた後。
「こちらの世界の言語は読めるのか?」
「おっと、生憎と英語とフランス語とドイツ語といった欧州関係の言葉しか学んでいませんでしたな。いや、失敬失敬。そちらの言葉が流暢だったものでつい日本語を標準語にしてるものかと」
浪花の図々しく翻訳したものをくれとは言えず、素直に謝罪する姿を見る。
冷静に聞けば欧州系と括っているが多言語に通じているだけですごいと思うのだが………今はいいか。
「言葉が話せねば交流などできんからな。学ぶことはいくら年を重ねたとしても止めることはできん」
「いやはや、最近怠け気味な私としては耳が痛い言葉ですな」
こちらの言葉が知られているのかとエヴィアは少し驚いたという雰囲気を醸し出しつつ、次の会話の返答として自身の持論を展開する。
そんな皮肉交じりの言葉など歯牙にもかけず、カラカラと快活な笑い声で場の空気を浪花は盛り上げて見せる。
「おっと、このまま放置してたらせっかくの手土産がもったいないですな!」
そして忘れてたと言い残し、小皿に盛り付けられたリンゴの楊枝に手を伸ばす。
ついに食べるのかと政府側に緊張が走り、その一挙一動作すべて見逃さんと言わんばかりに凝視する。
「なんですかな?そんなに見られてたら食べにくいんですが」
「そう言うな。ナニワ殿は非公式とはいえ我が国の果実を最初に口にする機関の人間。気にするなと言うのも無理があるだろう?」
「お!そう言えばそうですな!!国と関係のある人間は私が最初でしたな!!それは、確かに気になるところですな!いやはや!そうでしたか。でしたら存分に私の食べっぷりを見てもらわないといけませんね!」
その視線ですら跳ね除けそっと浪花はリンゴを口にする。
シャクリとリンゴの食感の音が大きく聞こえ、ムシャリムシャリと噛む音が、小さく聞こえ、飲み込んだ後。
「おお!!優しい甘みと、ほんのりと感じる酸味。今まで食べたことのあるリンゴと比べ、とても上品なうまさですな!」
「浪花さん、お体に変調は?」
「いやはや!こんなうまいリンゴを食べたのです。おかしなことなど起ころうとは思いませんし、実際に感じておりませんな」
素直に味の感想だけ述べる。
重要なのはそこではないと思う政府側の心を代弁するように霧江さんが、体の様子を伺うが、浪花は気にした様子も見せず、ポンと太鼓腹を一回叩いて見せ、問題ないと太鼓判を押す。
「しかし、体調に変化がないということはこれで三日寿命が延びたと言われましても実感できませんと言っているようなもの。もし仮に伸びていたとしても誤差と言っても過言ではない。実際の効果を実感できるのは、これを食べ続け数十年後の事でしょうな。いや、不老ということは容姿も変わらないということ、もう少し短いか」
しかし、その後に出てくるのはこの効果が本物かそうでないのかの判断が食べてもわからないということ。
「そこら辺はどうやって証明するおつもりですかな?ノーディスさん」
ちらりと見るのではなく、狸のような笑みの奥に猛禽類を思わせる鋭い眼光を見せる浪花。
「なに、それを証明するにはこの場の話をもう少し進めねば話にならないということだな。未だ国交を結ぶには至っておらず。この果実は雑談の種としか思っていない」
そんな眼光ものともせずエヴィアはきにせず言い返す。
「ほうほう、もし仮にこのリンゴが真実なら空手形では供与できないのも無理はないですなぁ」
そしてエヴィアの言葉の意図を浪花は察した様子を見せる。
つまりエヴィアは、今回の交渉で日本政府、ないしアメリカ政府がリクルートの許可を出さない限り、こちらもこのリンゴの真実を公開する気はないと言っている。
いや、可能ならこの世界でのリクルーターの立場を明確とする法律の立案までもっていこうとしている部分まで視野に入れていることまで察しているかもしれない。
俺はこのリンゴの効能を知っている。
しかし、それはあくまでこちら側からの視点の話だ。
本物かどうかを判断するには言葉だけでは到底足りない。
もし仮に、このリンゴを食べたとしても効果が実感できるわけがないというのは今さっき浪花が証明して見せた。
もし報告をしたとしても、こちらでは効果はあるがこの世界では効果がなかったと言えばそれまで。
よくあるサプリの広告のように個人差があると言われればそれまで、うちの会社的には国として実利のある石油はしっかりと提示しているのだ。
嘘か真か、冗談のような代物までの保証はできない。
「腹を割って話すには、少し時間が足りない。ということですな?」
「ああ、こうも同じ話の問答では、我々としてもそちらに利益を提示できないというものだな」
しかし、それと個人の欲望では話は違う。
悪魔と言う存在と実際に見たことのない黄金のリンゴ。
この二つの要素だけで、もしかして本当なのではという疑念を抱かせるのは十分。
「ほうほう、利益ですか。人材を確保するだけで随分と大盤振る舞いですな」
「こちらもそれ相応の見返りはもらうということだ。払うのは当然。当然なにもかも出すというわけではない」
「当然でしょうな。ちなみに参考程度にお聞きしたいのですが、ほかにどんなものがあるかとお聞きしても?」
その疑念を植え込むことを率先してやろうとしているのは、やはり同じ系統の人種ということ。
日本の神秘に携わり、商人のような立ち位置の人間。
どちらの思考も理解できる存在。
浪花富和。
ある意味で彼が俺たち異世界人と最も交流の匙加減がうまい人物とも言える。
いったい次はどんなものが出てくるのかと言わんばかりに、言葉に期待がこもっている。
「逆に聞くが、お前たちのような存在は我々に何を望む?さっきのリンゴはあくまで一例だ。永遠の命などと言うものばかり求めているわけではあるまい?」
エヴィアの声質が変わった。
政府側からしたらこの言葉に乗るべきではないが、協会が会話に乗り気の姿勢を見せてしまっている。
三角関係の平等な立ち位置であったはずが、仲介人であるはずの協会側が俺たち側に歩み寄ってしまった為にバランスが崩れた形だ。
本来であればそれをしかり諫める必要のある立場の副会長の安倍も沈黙を貫き、事の成り行きを見守っている。
まぁ、この中でエヴィアを除けば一番年がいっているのは彼だ。
不老長寿も魅力的だろうが、もし仮に俺が体内に宿した竜の血を知ったら一体全体どんな反応を示すだろうな。
そんなことを考えながら浪花の言葉を待っていると。
「ふむ、私の立場としてではなく、あくまで私個人としてですが、やはり真っ先に考えつくのは魔法の技術でしょうな。聞くところによれば、いろいろなことができるようで?」
当然上がってくるだろうと予想していた話題が出てきた。
魔法と言えば異世界の代名詞と言っても過言ではない。
さらに、この仕事についてからだが、この魔法の技術がもし仮に地球で転用できるようなら色々と常識が変わる。
治療魔法やポーションが広まれば、医療関係の常識が変わる。
転移魔法が広まれば、交通や流通の常識が変わる。
土魔法でも土木関連の常識が変わるだろう。
攻撃魔法など、個人が持てる火力によっては国家の軍事力を変動させかねない代物だ。
俺の持っている時空に関する精霊の力などどう流用されるかわかったものではない。
「聞かれるだろうとは思っていた。その質問に関してだが、答えるのならYesでありNoでもある。できることはできるが、できないことはできないとだけ答えておこう」
「随分とはぐらかしますな」
「わが国でもこの技術の流失は最小限にしたいのでな。テスターたちにもこの手の根源にまつわる技術は一切開示していない」
根源、魔紋の事だろう。
たしかに俺もその部分に関しては一切教えてもらっていない。
よくある話では、異世界に行けば魔法を使える描写があるが、エヴィアたちの世界では魔紋がなければそもそも魔素を取り扱うことができない。
魔紋とは回路だ。
その魔素を使うための道のりがなければ、魔力を使うこともできない。
すなわちいくら口頭で魔法に関する感覚や知識を提示しても、魔紋がなければただの妄想で終わってしまう。
「なるほど、なるほど、ならいずれかということで」
「ああ、良き隣人となったならの話だ」
「そうなれるように我々は努力せねばなりませんな」
「違いない」
その技術はとても魅力的だ。
故にその価値に気が付いた浪花の笑みは本当に楽しそうで、この後も穏やかには済まさないと物語っているように、その瞳は獲物を見る目で輝いていた。
今日の一言
無理矢理行くのは得策ではない時もある
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




