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35 人事権は、魔王の手のもとに

なんやかんやの第四章、新章突入です。

読んでくださっている皆様に感謝を

いやぁ、最近暖かくなったり寒くなったりと体調を崩さないかと心配しながら過ごしてますが、思い返すと真冬でも今でも服装はあまり変わっていないのに気づきました。

頑丈なカラダに喜びながらの投稿です。

では、お楽しみください。




Another side


「では、この件はこれでいいかな?」


MAOcorporation最上階の会議室、ここでは軍務ダンジョンとは関係ない経営者のトップたちが集まり会議を執り行なっていた。

最も上座の席に魔王たる男がニコニコと楽しそうに話を進める。

その隣では、魔法によって投写した映像を管理するエヴィアの姿がある。

映像の内容は人事編成、先の抜き打ちによる監査の結果によりいくつかの人員配置が変わった。

その内容を書き記したのがその映像だ。

それを見ない魔王とそれを見た重役の表情は正反対だ。

重役の大半、いや全員が魔族、人間は一人もいない。

その面々の視線は時折、映像の中の一点に注がれている。


「陛下、確かにかの人間は実績を残している。しかし、時期尚早では?」

「ふむ、なにか問題が?」

「我らの歴史は人間との抗争と縁切れぬ。その中に人間を入れるとなると、いらぬ問題を起こすのではと」


老齢の竜人が指摘するのは何も重要なポジションの話ではない。

役職で言えば主任。平の上の役職だ。

通常であればそこまで過剰に反応する必要はないが、この場にいる魔王とエヴィアを除く面々は油断も侮りも一切含めずに否定の言葉を視線に乗せていた。


「聞くところによれば、彼はうちの社員とさらにゴブリンとも仲良くなっているようだけど?」

「あくまで表面はでしょう、人間は狡猾で残忍、その腹の中は分からぬでしょう」


この会話だけを聞けば、仲良くやっているから彼は大丈夫だと言う魔王と、もっと慎重になってくださいと忠言を上げる部下の構図であろうが、その言葉の何割が本当の忠言になるのだろうか。

エヴィアの目には、いや、悪魔の本質から、ここにいるメンバーの大半は人間という異物を身内に入れることを嫌悪しているのが手に取るようにわかる。

そして、自分の足場、立場を脅かされるのではとわずかに恐怖している。

能力はあれどやはり老いたかと口にはせずエヴィアは内心で口ずさむ。

エヴィアにしてみれば、それはありえないと断言できる。

やつに向上心はあれど野心はないと。

事実ここで討論となっている件の人物は、報酬さえ約束すればそれこそずっと平でも満足できるような性格をしている。

それを知っている彼女からすればこの場での懸念は無意味だと断じるのは容易、だが


「ん~、君たちの言葉をまとめると彼だけ反対ってところかな? しかし解せない。彼は我々の理に従って今回の謀で力を示した。なら、魔王としてその力には応えないといけない。それについて君たちはどう思う?」

「「「……」」」


断じる必要はない。

魔王軍は実力主義、どんな存在だろうが貴賎なく能力を示したやつを使う。

その根底は魔王という血脈ではなく実力で上り詰めた揺るがない存在がいる限り覆ることはないだろう。

それに


「しかし」

「うん、道理がないなら却下で」


この魔王という存在、見た目は若輩者の若社長のような風貌であり、終始笑みを絶やさない好青年の姿を象っているが、その実相手の内心を恐ろしいほど鋭く突く。

なぜ人間を?もっと優秀な魔族がいるのではと想う臣下の内心を見抜き時間の浪費を避ける。


「と言いたいところだけど、それじゃぁ私のわがままだけで終わっちゃうね。うん、ならこうしよう。君たちに人選を任せるからその位置にねじ込める人員を選出してよ。もし仮にそっちのほうが優秀だったら彼には悪いけど席を代わってもらおうか」


ニッコリと折衷案を出す魔王、過去の魔王は良く言えば指導力の塊、悪く言えば独裁者だ。

このように臣下の意見は耳に入れて意見を曲げるということは絶対しなかった。

それが、良いか悪いかは今は関係ない。

ただ言えることは。


「う~ん、こんなものかな?」

「は、妥当かと」


かの魔王は優しさや善意でさっきの提案をしたわけではない。

魔王の言葉に、それならと納得の姿勢をほかの役員たちが見せたかたちで会議は終わった。ゆっくりと廊下を歩きながら、魔王は後ろを歩く女悪魔に確認を取るような仕草でつぶやいた。


「これで彼らは言い訳ができなくなる。こっちとしても彼がそのまま席に座ろうが入れ替わろうがどちらでもいい」

「テスター側の人間から不満が上がる可能性がありますが」

「ふふふ、わかっていて聞く君もなかなかだね。新しく新設した部署であれ以上に都合のいい歯車なんて魔王軍ココにはいないだろうね」


魔王は確信している。

彼らの選出は徒労に終わると、だが、彼らにとっては徒労に終わろうとも魔王としては不満を解消する機会を一度でも与えたという行動を示すことができた。

傍から見れば椅子取り合戦のように誰がその席に座れるかわからないのに、魔王にとっては未来が確定したかのような確信を持って言えるのだろう。


「さて、次の予定はなんだったっけ?」

「部屋で書類の決済をお願いします」

「ん~、逃げちゃダメ?」

「山を三つほど増やしてよろしいのでしたら」

「それはさすがに勘弁だねぇ」


昔、書類仕事が嫌になり文字通り逃げ出した魔王を彼女は追うことはせず、淡々と仕事を進め魔王が戻ってくる頃にはこちらも文字通り紙でできた山を四つほどこしらえて待ち構えていたのだ。

再び逃走を図ろうとした魔王に対して彼女は一言


『次は三つです』


何がとはさすがの魔王も聞かなかった。

聞かずとも分かってしまったと言うのもあるだろう。

すごいのは、その一言で魔王の動きを止めてみせた彼女の実力であろう。

逃げるなとも働くなとも言わずに軍トップの戦闘力がある存在の動きを止めてみせる斬新な切り崩し方だ。

魔王からは逃げられない。

魔王は書類から逃げられないとなんとも皮肉の利いた方法であろうか。


「辞令はもう届いているかい?」

「各部署への通達は明日の予定です」

「ふ~ん、彼はいったいどんな顔をするかな」

「……」


先日の監査の大半は、魔王が企て指示を出した自作自演だ。

勇者を防ぐための防備ダンジョンを勇者候補で試して強化を図るなど前代未聞で実績などない。

手探りで行っている実情、作業効率にも組織編成にもまだまだ改善の余地が残っている。

今回の再編での新設部署の開設もその一環だ。


「まぁ、今度彼が働いているところを視察するからいいとして、エヴィアもう少し書類仕事減らない?」

「新規事業で慣れない作業が増えていますのでもうしばらくはこのままです」

「はぁ、どうして先代は内務官の育成に力を入れなかったかな」

「嘆いても書類の山は減りませんよ」

「ん~面倒だから身体強化の魔法で一気に片付けちゃうか」

「先日それをやってクシャミを放って書類を紙吹雪に変えたことをお忘れですか?」

「ハハハ、開発部には僕のクシャミで破れない紙でも作ってもらおうかな」

「ジャイアントたちが作った扉にヒビが入った威力のくしゃみに耐える紙ですか?」

「うん、無理だね」


その余波を受けて髪が乱れたことを思い出しエヴィアの視線がわずかに鋭くなる。

そもそもが軽く殴るだけで象を吹き飛ばせるような存在のクシャミを防ぎ無傷な紙など既に材質からして紙からかけ離れた代物になるであろう。

いや、もしかしたら神木から作った紙なら可能性はあるかもしれないが、そんなものにコストを割くなら魔王自身が手加減したほうがコストも時間も削減できる。


「ん~他にも改善したほうがいい部署はあるかな?」

「表向きの部署は概ね問題はありませんが、商業区、開発部、資材部で人員に兼務作業過多が目立ちます。少し役割分担をする必要があるかもしれません」

「仕方ないことだけど、慣れないことをするとやっぱり問題が浮き彫りになるね」

「はい、この日本でやっている企業体系自体我々にとっては初めて導入するもの、手探りな点は致し方ないかと」

「テスターたちもかい?」

「はっ」

「だろうねぇ、私も人間を使うのは初めてだ」


今回の会議の議題に上がった新設部署、テスターを管理するための部署。

テスター課、人事部の下に作った部署だ。

もともとは人事部が、テスターの管理、報告書の添削、開発部への報告、初期装備の配布などダンジョンテスターに関わる処理を全て担っていて、それ以外にも社内と社外の人員の管理を行わなければならなかった。

さすがに効率が悪いと判断したエヴィアがテスターたちの環境改善のために魔王に申請したのがきっかけだ。

いわゆる、テコ入れと言われる行為。


「テスターたちの成果は全体を見ると甲乙つけがたいね。いいと思う部分も見えるけど全体的に悪い部分の方が目立つ。老人の方々もそっちばかりに目がいってしまうよ」

「もう少し質に気を使うべきでした」

「まだまだ様子見で済む時期ではあるが、このままで終わるようであればいよいよとなる。そのことは君も理解しているだろうから心配はしていないよ。二期生の募集はもうしているんだろ?」


だがそのテコ入れも、報告書と実際の進捗具合、それを合わせた評価で崖っぷちに追い込む行為であることも確かだ。

まだまだ崖の下へは距離があるが、崖の先は視界に収まっている。

その段階で、手間をかける。

必要だと分かってはいるが、それでも心情的には贅肉だと思われても仕方がない。


「はっ、既に」

「ならいいよ」


だからこそ常に走り回り打開策を打ち、崖から離れる努力を怠ってはいけない。

そもそも、魔王の側近まで上り詰めるなど怠惰で過ごしていて到達できるポジションでは決してない。

ここは暴れ牛の背で優雅に紅茶を飲めるくらいの実力がないとすぐに振り落とされるような席だ。

何もしないという選択肢はない。

そして、さっきの魔王のいよいよという言葉はエヴィアだけに向けた言葉ではない。

ここにいないテスターたちに向けた言葉でもある。

そもそも魔王の配下と日本人では大きく価値観の相違がある。

日本で仕事のミスはそれだけで致命傷になることがあるが、かならずしも命には直結しない。

だが、魔王軍は違う。

仕事のミス、イコールそれは死、温情によって首が皮一枚でつながれば涙を流し感謝の言葉を述べないといけないのだ。

失敗してもいいやと思える日本人と失敗してはいけないと厳命する魔王軍。この差は決して小さくない。

ノルマを只々こなすだけではこの会社内では生き残れない。

価値を示さなければ意味はない。

努力はしました、に『が』と言葉を続ければ明日はない。

それを理解しているものがテスターたちの中にいったい何人いるだろうか。

少なくとも今までやめていったテスターたちの中にはいないだろう。


「宿願は願うだけで叶うものじゃないよ」


Another side END



田中次郎 二十八歳 独身 

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士

 

「昇進?」

「はい、前回の行動が評価されまして次郎さんに辞令が来てますよ」

「早くないか?」


前回の監査時の報告書を人事部にいるスエラに提出したら返す手で渡された代物を信じられないものを見たかのようにじっくりと見つめる。

そして幻想やドッキリでないことをしっかり認識し、おそらく辞令が入っているだろう茶封筒をスエラから受け取り、思ったことを素直にそのまま口にする。

この会社に入社してまだ半年も経っていない。

普通の会社であるなら、いかに優秀でもコネでもない限りそんな話は出てこないはずだ。

それなのに今回は話どころか既に辞令が来ている。


「魔王軍は実力主義ですから少なくともコネではないと断言できますよ」

「そうか、なら素直に実力が認められたと喜ぶか」

「ちなみに、あたしも昇進したのよ」

「ケイリィ、もう、いきなり乗りかからないで」


彼女の方が上司ということもあり少しでも近づきたいという気持ちはあった。手に持った質量をようやく現実のものだと理解したことで、その気持ちが満たされる。

見栄と切り捨てればそれまでだが、男なら誰しも思うことだろう。

そこに紛れるようにスエラの肩に顎を載せるケイリィさんは今から悪巧みでも始めそうな笑みでその細く綺麗な指でつまんだ紙をチラチラとなびかせて俺に見せてくる。

その内容、役職の部分を鍛えたステータスによって強化された目が捉える。


「係長か、おめでとう」

「ありがとう。もう一つおまけで言えば、スエラも昇進しているわよ。それも課長、課長よ。管理職手当がいったいどれくらい出ることかしら」


その見栄ももうしばらく張れそうにないのが痛いところだ。

だが、彼女が出世したのだ、見栄よりも素直に祝福したい気持ちの方が勝る。


「なら、今日は皆で祝わないとな」

「そうですね、できたら皆さんを誘って一緒に食べましょうか」

「あら、てっきり二人っきりで祝うと思っていたのだけれどもお邪魔していいの?」

「もう、ここであなたを外したら拗ねるでしょう。いいですよね次郎さん」

「ああ海堂たちに言っておく、昇進祝いでケイリィさんが全部奢ってくれる、店はドラゴナイゼでと」

「ちょっと!? 地下街で一番高いお店じゃない!! あんなところ奢ったら今月の食事が朝昼晩パンの耳になっちゃうじゃない!? 普通ここは一番出世したスエラが奢るところよ!!」

「では予約を入れないといけないわね」

「スエラ!?」


お財布がァ、軽くなるぅ。

さっきまでの強気はどこへとやら、チェシャ猫みたいな笑みは一転絶望に落とされた囚人のような表情へ。

まさかの親友の裏切りにケイリィさんは終いにはお代官様お慈悲をとスエラに泣きついてしまう。

ケイリィさんが言っているセリフは時代劇だが、スエラの対応はよしよしと母親のようだった。


「俺は主任か、ん? ……テスター課? そんな部署あったか?」


誘導から止めまでの流れが完全にマッチポンプだが、いつものことなのでその様子を脇に置いて俺は俺で辞令を見る。

ほんの数行の中身だ。

読むのに時間はかからず、平から主任と順当な上がり方にこんなものかとスピード出世以外特に変わった内容はないかと思ったが、所属部署がテスター課なる部署だった。

自分自身テスターであるので聞いたことはない部署にふと疑問が口から溢れる。

テスターは人事部管轄の人員だ。

そして人事部にはテスター課なる部署はなかったはずだ。

あるいは記憶違いかと思いもしたが


「最近新設されたんです。第二期生のテスターの入社も決まり、さらなる教育と円滑なダンジョン審査、テスターの質を向上させるための部署を作ろうとエヴィア様が図られたみたいですよ」

「そうなのか、まぁ、確かにこっちのほうが効率的といえば効率的か」


そうではなさそうだ。

ケイリィさんの頭を抱きしめるように慰め、頭を撫でながらこちらを見るスエラの説明に納得の色を示すように頷く。

確かに、今までの対応が特殊といえば特殊だった。

人事部とは本来社内の人員配置を考える部署で決してダンジョンを攻略する人員を補佐する部署だとは言えない。

いや、ダンジョンというものを抱えている会社が世界にどれくらいあるかはわからないからはっきりと違うとは言えないのだが、効率は悪いだろう。

餅は餅屋と言えるように専門部署を造り業務に専念するのはどこの企業でもやっていることだ。

となるとだ。


「主任って、何を任せられるんだ? テスターの取りまとめとかか?」


本来課長職相手にこんな口調ではいけないのだろうが、今スエラの席の周りには身内と言えるようなメンバーしかいない。

さすがに公私は分けるが、今は大丈夫と思ってるからこそ私的な口調を続ける。


「それはケイリィの役割ですね、次郎さんは助っ人のような立場ですね。ダンジョンの攻略に詰まっているパーティがいればそこに入って助力と指導をお願いします」

「テコ入れが仕事ってところか、難しいところだ」

「それだけ期待されているということですよ」

「スエラもか?」

「はい、当然ですよ」

「なら、期待には応えさせてもらうさ」


随分とさじ加減の難しい仕事を任されたものだ。

ダンジョンの攻略は一朝一夕にはできない。

訓練や実戦を重ね、実力を身に付け、情報を精査し学び効率を上げていく。

それが基本となる中、停滞スランプにはまっている箇所を攻略できるようにするのは難しい。

まず第一に俺がその場を攻略できる実力を保持していないといけない。

第二に、過度の助力はその班の連携の崩壊、俺への依存に繋がる。

第三に、逆に何もしなさ過ぎるとスランプの脱却にはつながらない。

痛し痒しを見極め適度の介入を行わないといけない。

これに加え、今まで避けていた人員との接触を持たないといけない。

それは、スエラの命令だから来たという体裁ではおそらく機能しない。

常に俺が能動的に動いて必要だと思ったら俺からスエラに申請して動き出さないと立場がない。

軽く考えるだけで手間と面倒が重なっているのがわかる。


「あの~、二人共あたしを挟んで話を進めないでほしいなぁって思うんだけど」

「そうですね、休憩は終わりにしましょう。お店はあとで決めるとしてケイリィそろそろ仕事に戻りますよ。部署異動するのにあたって引継ぎが山のように残っているんですから」

「え~、あたし引き継ぐのあいつなんだけど」

「それはそれよ。仕事は仕事、手を抜いてあとで手間をかけられるのは自分なんだから真面目にやりなさい」

「は~い」

「それなら、俺も仕事に戻るとするか。助っ人の草案ができたら持ってくるが、いつごろまでに持ってくればいい?」

「出来るだけ早いに越したことはないんですが、現状私も引継ぎで忙しいので一ヶ月を目安にお願いしますね。新設部署の稼働もそれくらいになりそうなので」

「了解、それと」

「はい、ん」


ケイリィさんの視線がずれ誰も見ていないことを一瞬で確認しわずかな隙をついてスエラの唇を奪う。


「もう、いきなりですね」

「拒否しないから、つい、な」

「仕事中ですよ」


ステータスは未だ圧倒的に彼女の方が上だ。

その気がなければ避けることも防ぐことも可能であった。

それでもスエラは口で注意しながらも雰囲気は嬉しそうであった。

出来心も相まっての行動であったが、トンと胸を叩かれるだけで終わって彼女は仕事に戻る。

その時にこっそりと俺だけに見えるように笑ってみせてくれたのは気のせいではないと思う。

そして、気配では気づいていたのだろうケイリィさんもさっさとどっかいけと追い払うように俺に向けて手を振る。


「それじゃ、今夜また」

「はい」

「あ~、はいはい」


これ以上この場にいるのは彼女たちの邪魔になる。

それに仕事も増えた。

やることがあるなら後回しにするよりも先に済ましたほうがいい。

人事部をあとにして、どうやって行動を起こすか頭の中で組み立てる。

そしてそのまま組み立て彷徨い続けること数分。


「というわけで、出世してしまった」

「おめでとうございます」


俺の足は海堂たちが待つパーティルームではなく、地下街の一角、メモリアの店に向いていた。

パタンと俺が入店すると同時に本を閉じる姿は婚約をやらかしてから見られるようになった姿だ。


「スエラとケイリィさんも出世して今夜祝おうということになったわけだがメモリアもどうだ?」


説明を手早く済ませ本題はさっくりと切り出す。

スケゴブさん曰く、複数の女性と接するときはなるべく隠し事をせず公平を心がけろとのこと。

どっちにしろ、メモリアを誘わないという選択肢はないのでここに来たわけなのだが。


「うれしいですが、あいにくと今夜から予定がありまして」

「そうなのか? なら日を改めるが」

「いえ、今夜から一ヶ月ほど店を閉めることになります。せっかくのお祝いごとを遅らせるのは忍びないので私に気にせず行ってください」

「一ヶ月って、どうしたんだ?」

「私事ですよ」


急な閉店の知らせに驚く。

当の言った本人は素知らぬ顔で淡々とこの話を終わらせようとする。

メモリアは、出会った当初もそうだが自分のことはあまり話したがらない。

すべて私事の言葉で終わらせてしまう。

まぁ


「そうか、俺に手伝えることか?」

「いえ、ですが」

「ん?」

「何かあれば手を借りますよ」

「そうしてくれ、惚れてくれた女を助けたいと思うくらいの甲斐性はあるつもりだ」


それも最近では、少し変わっている。


「それと、出世祝いはお前が帰ってきてからだ」

「それ、ん」

「吸血鬼に拗ねられたら俺の血がなくなる」


さすがにそれは勘弁だと付け加え、そっとメモリアの顔から自身の顔を離す。


「強引ですね」

「おかしいな、似たような言葉をさっき聞いた気がするがっと」

「ん、二番は納得しますが私だけの時くらいは」

「悪かった」


その顔は再び引き寄せられる。


「さっさとその用事を終わらせてこいよ」

「そうですね、早めに戻ってきたほうがよさそうです」

「ああ、そうじゃないと」

「吸血鬼が拗ねてしまいます」


田中次郎 二十八歳 独身

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



今日の一言

出世はした、給料も上がる。

だが、どこの会社でも出世するとその分仕事が増えるのは変わらないな。


イチャイチャって難しい。

こう、自然な感じで混ぜ込みたいとは思っているのですが、こんな感じでいいのでしょうか?

いろいろな作者さんたちは綺麗にまとめていられますが、コツがあったら教えて欲しいです。

これからも精進して書いていきます。

誤字脱字ありましたら指摘をお願いします!!

これからも異世界からの企業進出!?転職からの成り上がり録をよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
いちゃつく?ドキドキよ自分がドキドキしない他人も同じ
テスター課について、今章から新設するようにありますが、入社編から既に存在しているようになっています。 ・入社編 末文などのスエラの役職(8 仕事を覚えるのには~、第一回定例会義)。 ・勧誘編 次郎に渡…
[一言] 書籍から参りました。宜しくお願いします。
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