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33  ははは、残業って楽しいなぁ(棒読)

次話投稿です。

今回は別視点でお送りします。

少々、文字数は少なくなりますが、お楽しみ頂ければ幸いです。

ではどうぞ。

海堂 忠 二十四歳 独身 

彼女 なし

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性四(隊長クラス)

役職 魔法剣士



よく映画とかで、弾丸飛び交う戦場って表現があるっすよね?

あれって、文章で戦場の危険性を印象づけるための言い回しだって先輩に聞いたことがあるっすけど、先輩、あれ、間違っていたっすよ。

正確にはゴブリン飛び交う戦場っす。


「海堂先輩!! 上でござる!!」

「そういう時はゴザルいらなくないっすか!?」


それでも仲間の声に反応するのは条件反射が地獄の研修で身についていたからっすかね?

突っ込みながらも腰に収めていた双剣を抜き、天井付近からのゴブリンの奇襲を防いだ。

だがそれは一体だけではない。

なんすかあれ。

一体だけだと思ったら三位一体バリにいきなり重なって飛んできたっすよ!?

一体の攻撃のあとに二体目の追撃、そして三体目と繋がったすよ!

コンボ達成ってアイコンが出てきてもおかしくないくらい綺麗な連携だったっす!!

量産型とは違うっす。あれは、絶対隊長機とかそんなポジションのやつらっすね。

おまけに、それで終わりじゃなかったす。

奇襲が失敗したと思えば、今度は物量っす。

飛んできた方向には金網を取り外しそこから出入りしたのがわかるっす。

そこからまるでGみたいに通気口の入口からわらわらと出てくる群れについ一歩、引いてしまう。

できるだけ騒ぎを起こしたくないっすけど、このままでは通れないも事実、背後にはケイリィさんがいるっす。

ここは、男、海堂忠、オトコを見せるっす!


「ん? オマエハ」

「スケゴブじゃない!!」

「やはり、嬢ちゃんか」

「ゴブリンなのに声が渋いでござるな……知り合いでござる?」

「同僚よ。あんたたち、無事だったのね」

「八割近く囚われたが、な。俺たちは数が多い。排気口や点検口に逃げ込んだ」


見せるっすぅ……なんでもないっす。

さっきの交差で一番最初に攻撃してきたゴブリンが俺の背後の人物に気づいて武器をおろしてくれた。

気張っていた力は相手が知り合いのゴブリンっぽく、こっちも解除しないとまずい雰囲気っす。

一気に緊張感がなくなったっす。

まぁ、味方が増えたのはよかったっす。

ヤケに鋭かったっすからねさっきの一撃、まだ手がしびれているっす。

正直、見えた瞬間シルエットがゴブリンだったから油断したっす。


「ゴブリンヒーローのあんたが苦戦するってどんな相手なのよ」

「狼人だ。仲間が、何体かやられた」


ただのゴブリンじゃなかったっす。

なんすか、ゴブリンヒーローって、勇者っすか? 英雄っすか?

これは、戦力的に期待できるかもしれないっす。


「獣人も参加してるなんて、ついてないわね」

「まずいっすか?」

「まずいわね、あいつら身体能力が高いから閉鎖的な空間ではトップクラスで強いのよ」


柔軟性、瞬発力、単純な剛力に至って魔王軍の中で単純な身体能力では他の追随を許さないらしいっす。

代わりに魔力量は他の種族の中で最下位らしいっすけど、それでも動物並みの嗅覚や聴覚は侮れないっす。


「まぁ、いいわ。どっちにしろ私たちは上に向かって戦力を補給しないといけないわ。方針に変更は無しね。スケゴブあんたにも手伝ってもらうわよ」

「こちらとしても願ったり叶ったりだ。俺も、この先に用がある」

「どういうこと?」

「ああ、じつは」


スケゴブさん、なんとなくゴブリンなのにさん付けで呼んでしまうっすけど、その話によればこの襲撃が起きるとき別のテスターと一時合流したらしいっすけど、意見が分かれてその隙に襲われてバラバラにされスケゴブさんたちは離脱できたっすけどそいつらは捕まってしまったらしいっす。

それに、責任を感じて小柄な体を利用して通気口を通って救助に向かっていたところ、気配を感じて敵だと思い襲いかかったらしいっす。

いや確認くらいしたほうがいいっすよ? おもに被害者俺なんすから。今回は無事だったからいいっすけど。

とりあえず、スケゴブさんはそのテスターのことはあまり気にしなくていいと思うっすね。

俺が思うにそれは向こうの自己責任っていうやつかもしれないっすから。


「まぁ、いいわ人質はこの先なのね?」

「ああ、そこは間違いない」


確認を終えればあとは行動を起こすだけっす。

再編と作戦の変更、スケゴブさんたちにはまた排気口に入ってもらい奇襲してもらうっす。

俺たちはその隙に制圧することになったっす。

そこで見た逆再生ビデオのようにスムーズに排気口に入っていくゴブリンたちは手慣れていたっすね。


「今度ダンジョンに挑む時はゴブリン相手でも全力で挑むっすよ」

「奇遇ね、あたしもよ」


ゴブリンでも強い個体に指揮されるとあんなことができると理解したっすね。

慢心はダメっす。

北宮ちゃんも同じみたいっす。


「行くでござるよ先輩」

「了解っす」


人質がいるのは五階の中央多目的ルーム。

全十階建ての寮の中心にあって、様々な催しを想定して作られた部屋っすけど今は牢屋として使われているっす。

そこまで多目的の範囲に入れなくてもいいような気はするっすけど、今はお仕事優先っす。

南ちゃんの結界で臭いと気配は遮断されているのであとは光に気づかれないようにゆっくりと鏡を差し込み角の向こうを探る。

扉の前にいるのは四人っすね。

狼の顔をした獣人が三人に悪魔が一人、部屋の中の方は今スケゴブさんが確認してくれているっす。

そう思っている間に結界の真上の金網が外されゴブリンが顔を出して指を三本立てて見せてくれる。

これで中には三人というのがわかったっす。

合計七人、中には人質もいるっすから当然外だけ倒しても意味がないっす。


「どうするっすか?」

「むふふ、ここはおねぇさんに任せなさい」


正気に言うっす。

今のケイリィさんは怖いっす。

戦闘を楽しんでいる時のキオ教官と同じような目をしているっす。

革製の手袋の感触を楽しむようにはめ直して、首をクキリと一回鳴らす。

それだけで戦闘準備が整えられたのか、ダイバースーツの首元を少し緩めてそこから桃源郷が


「あ痛っす!?」

「変態」

「先輩」

「空気読むでござる」

「ごめんなさい」


今は仕事中、集中するっすよ俺!!

後輩からの好感度低下は仕事でカバーするっす!!

後頭部の痛みを堪え、殴った張本人の北宮ちゃんの視線が極寒になっているような気がするっすけど、気にしない方針っす!!


「スケゴブに伝えなさい。あなたたちはなかに奇襲して人質の確保、あいつらが中に気が向いた時にこっちも仕掛けるわ」


コクリと一回頷いて排気口に消えていき、数分後部屋の中から音が聞こえたのか扉の前の狼人が扉の方に振り返る。


「今っす!!」

「強化!! 行くでござる!!」


俺たちの担当は手前の狼人、背丈は俺の頭二つ分上、肩幅は倍、普通に真正面から戦ったら俺に勝ち目はないっす。

けど、こっちには仲間がいるっす!!


「ほら、先輩頑張るでござるよ!!」

「どきなさい! 焼き殺されたいの!!」

「……生きて帰ってきてくださいね」


あれおかしいっすね、俺の方が先輩なのになんかこき使われている気がするっす。

今も爪と双剣が火花を散らして、互角に打ち合っているところに火の玉が飛んできて相手の顔面に直撃ひるんだ隙に切りつけて、立て直してきたら打ち合う。

基本この繰り返しっすけど、おかしいな、目からしょっぱい何かが出てくるっす。


「狼人って言っても、技も何もない力任せじゃあたしは倒せないわよ!! 減点!! はい!! 減点!! そこも減点!!」


こっちは苦戦しているのに、となりでケイリィさんは大の男三人をお手玉にするようにボコボコにしていたのも原因かもしれないっすけど。

乱打乱打乱打の嵐で、もうやめて!!

彼らのライフはゼロっすよ!?

さっきからボロボロになっている目の前の狼人さんもチラリチラリと度々そっちの方に視線を向けているっす。

そりゃぁ、ギャァァァァ!?とか、ゴブロフォァ!?とか、ブアァスタルァ!?とか人が出せる悲鳴の限界に挑戦しているような惨状が隣にあれば気が散るっすよねぇ。

まぁ、その隙は逃がさないっすけど。


「グフウ」


腹に剣を突き刺してそれで戦いは終了、迫力はないっすけどそんなことをしている余裕はないっす。

ケイリィさんは情けないと気絶した三人に蹴りを入れているっすけど、見なかったことにするっす。

先輩、確かにこの会社の女性は強い人が好みみたいっすね。

俺じゃ無理かもしれないっす、だから、今度紹介してくれる時は事務方の女の子を!!


「ほら先輩、キリキリ働くでござるよ」

「いや、南ちゃん、なんで俺を盾のように前に押し出すっすか?」

「あんた前衛なんでしょう? だったら当たり前じゃない」


正論、正論っすけど、なんか釈然としないっす。

せめて最後まで現実逃避してから現実に戻らせてほしいっす!!

けどそれも、中でスケゴブさんたちが戦っているのがわかっているっすから迷っている暇もないっす。

鍛えられたカラダは粛々と加勢するために扉の前に立ち、勢いよく中に入るっす。


「「「うわぁ」」」


その先に見た光景に思わず、声が揃ってしまったのは仕方ないと思うっす。

俺の中では、ゴブリンとは腰蓑、良くてもベストを肌の上から着込み、ウッホウッホと原住民よろしく棍棒で襲いかかってくる種族だと思っていたっす。

力は弱く、魔力も少ない。

技術力も知能も低い。

取り柄は繁殖能力の高さを生かした数で戦う。

だから苦戦しているだろうと思っていたっすけど、目の前のゴブリンは違ったっす。

安全第一と日本語で書かれている黄色いヘルメットを被ったゴブリンの集団の連携が半端ないっす。

力の弱さを補うように、小柄な体を利用して、一体のゴブリンが素早く相手の膝裏に回り込んで膝カックンして、下に意識が向いたら頭にもう一体飛びかかる。

バランスが崩れたところに三体ほどで飛びかかり、リンチ、怖いっすねぇ。

今の俺は、パーティの先頭に立っている分その様子がはっきりと見える。

と言っても、曲がり角の脇からそっと顔を覗かせるように見ているだけっすけど。


「なるほど、ゴブリンの小柄な体を使った奇襲作戦というわけっすね」

「なに、訳知り顔で頷いているでござるか。さっさと加勢するでござるよ」

「ええ~、必要ないっすよね?」


通風孔の金網が外れているところから見るに、あそこから攻撃したのは明らかっす。

よく、自販機でばったり会うときは昔の俺みたいに仕事に疲れ果てて目を覚ますためにコーヒーを呷るのを見ていたっすけど、こうやってみるとやっぱりファンタジーの有名どころの戦闘種族、戦うことが本職だというのがよくわかる。

まぁ、武器が、金槌とかスパナとかなのがご愛嬌っすね。

突入する頃には、既にゴブリンに群がられ、拘束される狼人の三人、そして一仕事終えたとタオルで顔をふく、職人のスケゴブさんがいた。


「おう、お疲れ」

「お疲れ様っす、怪我はないっすか?」

「少し出たが、軽傷だ。不意をつけたからな、力は強くてもこっちは数がいる。どうにかなる」

「そんなことはどうでもいい!! さっさと俺たちの拘束を解け!! 商品が!! 俺たちの商品が!!」

「いや、普通に考えて落ち着いて「ああ、解いちゃっていいわよ」いいんすか!?」


荒れ狂うジャイアント、その目には商品への心配というより資産の心配という欲望のうずが燃え滾っていた。

普通なら一旦冷静になって、集団で行動させるべきなんすけど……


「むしろ、さっさと解いて暴れさせなさい。じゃないと、こっちに襲い掛かってくるわよ」

「あ、了解っす」


フレンドリーファイアはやめてほしいっすねぇ。

せっせと拘束を解いていく。

ジャイアントは力が強いからただのロープではなく鎖でがんじがらめにさせられていたが勝くんと一緒に鎖の南京錠を外し解放した。


「おーーーーし!! お前ら武器は持ったな!!」

「「「「「おーーーーーーー!!!」」」」


それ、椅子っすって突っ込んだほうがいいっすかね?

解放した商店街の方々は、一部敵から奪った武器を、残りはテーブルを盾に椅子を鈍器に見立てて装備していた。

大柄であるジャイアントだからできる技なのだろうが、格好はつかないっすよね。

リーダー格のケイリィさんいわく、商店街のまとめ役のジャイアント音頭の下、雄叫びを挙げて出ていく面々、戦う商人たちは戦場へと出ていったっす。

残ったのは俺たちと、ほかのテスターの面々、そしてスケゴブさんたちゴブリンだ。


「ケイリィさんこれからどうするっすか? 他の場所も解放するっすか?」

「ん~、時間もあるしもう少し、稼いでおくのも悪くないわね」

「稼ぐっすか?」

「あ、ああ~そう、こういった時に活躍しておかないと魔王軍って出世できないのよ!! ポイントは、稼げるときに稼いでおかないと!!」

「は~大変っすね」


そういうことっすか。

なんか変な言い回しだったっすけど、異世界も大変っすね。

魔法の世界でも出世争い。

確かに俺も金は欲しいっすけど、出世欲はそんなにないっす。

だからケイリィさんの言う、異世界の出世争いはイマイチ俺にはピンと来ないっす。

まぁ、それでも、仕事は真面目にやるっすよ?

せっせと、テスターたちの拘束も解きながらケイリィさんに話を振る。


「次はどこ行くっすか?」

「ん~、研究区画あたりね。ほらあそこ、結構人が集まってるし、重要な場所だから解放できるならやっておきたいのよねぇ」

「できるっすか?」

「最初は無理だと思ってたけど、スケゴブと合流できたからできるようになったわね。ほかのテスターたちも手伝ってくれればなおよしなんだけど……無理そうね」

「そうっすねぇ」


残念そうにケイリィさんが溜息を吐く。


「俺たちがなんでこんなことに巻き込まれないといけないんだ!! 責任者を出せ!!」


その態度が癪に障ったのか一人のテスターがケイリィさんに噛み付く。

さっきまでビクビクしていたのに自由になった途端これっすか。


「はいはい、ここはもう安全だからあなたたちはここでおとなしくしてなさい。しばらくすればお迎えも来るから」

「おい!! 話を!!」


それに対してケイリィさんの対応は冷めていたっす。

勘定から外し、次の行動に移る。

もう、用はないというような態度に目の前の男のテスターはさらに噛み付こうとするっすけど。


「減点、いいから、お・と・な・し・くね?」


その男の隣に巨体の狼人を沈める拳が横切る。

おまけに笑顔を添えてやれば、俺でも黙るっす。


「はいはい、時間は有限なんだから、さっさと行くわよ。スケゴブ、一部部隊を残せる?」

「二十ほどおいていく」

「大丈夫なの?」

「数は俺たちの専売特許だ。問題ない」

「ならいいけど、海堂くん、そっちは大丈夫?」

「え~と」

「拙者は大丈夫でござるよ」

「魔力もそんなに使ってないから、行けるわよ」

「傷薬も問題ありません」

「大丈夫みたいっす」


とりあえず、心の奥で彼に合掌するっす。

仕事はまだまだこれから、さっさと終わらせて一眠りしたいっすよ。


「次、行くわよ」


それもまだまだ先みたいっすけど。



海堂 忠 二十四歳 独身 

彼女 なし

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性四(隊長クラス)

役職 魔法剣士


今日の一言


ケイリィさん怖いっす。

あの右手は世界を狙えるっす!!


今回は以上となります。

久しぶりの別視点、書いていて思ったのは舎弟口調が思ったより難しい。

そう感じました。

今後も精進してもっと動かせていきたいと思います。

これからも異世界からの企業進出!?転職からの成り上がり録をよろしくおねがいします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ケイリィさんの役目をここで匂わせていたんですね
2022/08/08 14:52 退会済み
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