30 サービス残業?冗談じゃねぇ!
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
「終わったか?」
「でごっざるよっと」
時間にして数分であるが、戦力が低下した状態で警戒していた俺は、装備を整えた南と北宮が出てきたのを心の中で安心する。
しかし、出てきた二人は色合いの似たローブとは正反対に対照的であった。
「その割にはなんか北宮ちゃん、へこんでないっすか?」
「うっさい黙りなさい」
「ふふ~ん、勝、拙者勝ったでござるよ!!」
「何がだよ」
勝、その話題は地雷だ。
北宮が服の胸元を触ってることで察しろ。
北宮は、そう、あれだ、南と違って胸元がスレンダーなだけだ。
「今一瞬、許しちゃいけないこと言われたような気がするんだけど?」
「気のせいだな」
ジロリと俺の方を見ながら言われ、一瞬どきりと心拍数が跳ね上がった気がするが、こんなことで動揺するほど俺の面の皮は薄くない。
「さて、装備は整えた。スエラ、このあとは全員でテスターの解放か?」
「いいえ」
話をそらす話題ナンバーワンである仕事に戻るを選択し、スエラに振ればすっと、今まで魔法を展開した術式を解除し、別の魔法を展開し始める。
「少し早いですが、二手に分かれましょう」
「何かあったのか?」
「はい、思ったよりも状況が悪いかもしれません」
スエラが展開した術式は召喚、精霊術士であるスエラのメインである術式だ。
「相手の首領が分かりました。相手は、魔王様の姉君、ミリアリス様です」
「「!?」」
「「「「「……だれ?」」」」」
黒い犬と白い猫が召喚されながら、スエラの情報を聞いた反応は見事にファンタジー組と現実組に分かれた。
実際、魔王、俺たちからすれば社長なのだが、その姉が首領で今回の黒幕なのはいいが、如何せん俺たちには件のミリアリス様の情報は皆無、いや絶無と言っていいほど情報がない。
こう、シリアスに説明するスエラと驚くメモリアとケイリィさんからの反応から見るとかなりヤバい人物?なのだろうなぁ程度の感想しか抱けない。
「魔王軍を二分しかねないほどのお方です。それこそ実力、戦闘能力だけに限定すれば魔王様を上回ることが可能になるほどの、そんなお方が今、こちらに向かっています」
「ヤバイな」
「ヤバイっすね」
「ヤバイでござる」
「ヤバイですね」
抱けないのだが、核ミサイルと同等かそれ以上の存在がこっちに向かっているということはよくわかった。
魔王イコール弱パンチでミサイル並というのは最初の研修で学んだ。
この会社に勤めて数ヶ月、実際に社長の実力を見たことはないが、資料映像で歴代の魔王の戦闘は何回か見る機会があった。
そんな存在が味方ではなく敵として接近している。
「……自然災害が敵に回ったということか」
「幸い時間は残されています。それまでにエヴィア様を解放できれば十分に防衛戦力は揃えられるはずです」
「あとは社長がなんとかしてくれる……か。タイムリミットは?」
「正確にはわかりませんが、明日の朝には」
「……これほど重役出勤を望んだ日はないぞ」
普段であったらのんびりとやってくる上司に対してイラっとどころか殺意を覚えるはずなのに、今は、のんびりと重役出勤してこいと思っている。
当初は、時間をかけて確実に行く予定であったが、タイムリミットがついてしまった。
そうなると堅実という言葉から遠ざかり早急にエヴィア監督官を解放する必要が出てくる。
「時間はかけられない……か、それで二手に分かれないといけないんだが、スエラたちの装備はどうする? これからダンジョンに入るのなら丸腰はさすがに」
本来であればここで俺たちが装備を整え次はスエラたちの装備が保管してあるロッカールームを目指す予定であったが、人質解放に加えて戦力の補強もしないといけない。
タイムリミットのおかげで仕事のスパンが短くなってしまった。
どこかで行程を短縮しないと間に合わなくなる。
「策はあります。ケイリィはここの解放を、後に装備の回収を目指してください。私たちは商業区を目指します」
「商品を使うのか? 普通に押さえられていると思うが」
「はい、その可能性はありますがあれだけの大量の物資を短時間で運び出すことはまず不可能です。商店のジャイアントたちも抵抗するでしょうしロックもかけられますので希望はあります。それに、商業区の奥にダンジョンの入口があります。どのみち目指さないといけません」
「時間短縮のために賭けは必要か、だが」
もし仮に使える装備が存在すればたしかに時間の短縮になり得る。
だが、そこまでご都合主義がまかり通るものだろうか?
俺個人の考えからすれば分の悪い賭けだと言える。
「クス、心配はありません。この子たちがいれば無駄足を踏む心配もありません」
スエラの言うこの子たちとは俺たちの足元でお座りして待機している黒犬と白猫のことだろうか?
見た感じ動物の毛に包まれているというより魔力が動物の形を成したような淡い光を放つ存在であったが、強そうには見えない。
「ラル、ヌル、『お使い』をお願いします」
「ミャウ!」
「ワン!」
見えないのだが、この二体の用途は戦闘用ではなく。
「偵察用の精霊か?」
「はい、これで商業区の様子を見ることができます」
犬は影に潜みこみ、猫は霧状のように消える。
仮に片方がバレても、もう片方が報告するのだろう。
二重の構えだ。
「……見えました。予想通り、倉庫の方は荒らされていませんね」
「当然です。ジャイアントの商人は死んでも在庫をタダで譲りません」
時間にして数秒、やはり偵察に特化している分行動が早い。
スエラの右目がうっすらと青みがかり、おそらく精霊の視覚を借りているのだろう、向こう側の様子を伝えてくれる。
それに応えるメモリアの言うとおり、俺の知っている商人ジャイアントも商魂はかなりたくましかったはず。
金を払えば誠実に対応してくれそうだが、強盗とかなら人間の俺からしてみれば凶器みたいな体つきを駆使して迎撃しそうだしな。
これで装備の目処は立った。
ファンタジーの金への執着心、商人根性に助けられる形となったが、結果よければとやらだ。
「敵の戦力は見えるか?」
「ゲート付近はさすがに多いですね。残りは、巡回するように商業区を巡っているようです」
「店は無事ですか?」
「大きく破損した店舗も見受けられますが、概ね無事かと」
現在は深夜、俺たちがいた施設は停電していたが本社の明かりは生きている。
必要最低限の明かりはついている。
そして地下の商業区に至っては万全の状態を保っている。
これは、ライフラインによる消耗戦だ。
不便を強いられればその分体力と精神力を削られる。
だが、逆に充実すれば回復も見込める。
要所を押さえた相手方が、残党となりかけている俺たちを消耗させようとしているのだろう。
だが
「それが今は追い風となる……か」
頭の中で考えつく、今後の行動。
相手は悪魔やら吸血鬼といった暗闇が得意な種族もいるだろう。
だが、それはこっちも同じだ。
「スエラ」
「はい、なんでしょう?」
「この施設の電源を一気に落とすことってできるか?」
暗視の術はダンジョン内では必須の技術だ。
大概は明かりが存在するエリアであるが、その光度の差は存在する。
しっかりと見える時もあれば、薄暗く目を凝らさなければいけない時もある。
それこそ三寸先は闇と言わんばかりに何も見えないエリアも存在した。
「可能ですが……そのためにはダンジョンの指揮権限が必要です。現状、私たちでは実現はできないです」
「そうか、奇襲で役に立つと思ったんだがな」
こう何度も都合よく事が進んだからもしやとは思ったが、早々うまく事は運ばないらしい。
装備を整えて、周囲を暗くし正面突破を図ろうとしたが、別の手を考えるしかないが
「時間がありません、今は移動しましょう」
「ああ」
その時間もない。
「ケイリィ、そちらは任せました」
「わかってるわよ。そっちもしっかりやりなさいよ」
ここからは少数での移動になる。
「お前ら無理するなよ?」
「リーダーがそれを言うでござるか」
「いっつもズタボロになるのは先輩っすからね」
「アホ、それはいっつも俺が盾になってるからだろ。その盾がなくなるんだ、気を引き締めろよ」
「「ハッ!?」」
「今気づいたのかよ」
危険になるはず……なのだが、この二人と話しているといまいち緊張感というものに欠ける。
「はぁ、勝、北宮、こいつらの手綱任せる」
「わかりました」
「面倒そうね」
「そう言うなって、こいつらも色々と便利だからな。そうだな、例えばいざとなったら盾にしろ、こいつらなら、まぁ、生きてるだろ」
「それならちょうど良さそうね」
「ちょ!? 何言ってるっすか!?」
「拙者一応女でござるよ!?」
「……わかりました」
「「勝!?」」
まぁ、そのおかげで俺は適度な緊張感を保てるから悪いことだけではない。
北宮も馴染み始めている。
馴染んでいるのだが……
「大丈夫かねぇ?」
不安は拭えない。
「彼らを信じましょう、次郎さん」
「スエラ」
「魔力適性が低くとも、彼らはもともと勇者となりうる潜在能力を持っています。戦闘の経験不足はケイリィが補ってくれますよ」
スエラに言われれば確かにと、納得できる。
よくよく考えれば、可能性は大分上下するがここで働いているテスターは皆勇者候補なのだ。
相手方が戦力の確保で手に入れようとしているのは裏返せば、俺たちが並みの戦力ではないということだ。
ゴブリンどころか最近では大型のモンスターを相手取っても倒せるという存在に俺はなっている。
数ヶ月でこれなのだ、努力を怠らず年月を重ねればどれだけ行けるか。
そう思うと。
「ああ、意外とどうにかなるかもな」
「油断は禁物ですけどね」
今回の件も、悲観的になるほどの状況ではないかもしれない。
策はあるとスエラは言った。
なら十分に勝機はあるのだろう。
「振替休日が欲しければしっかり働けよお前ら!」
「そこはボーナスって言ってほしかったすね」
「休みに勝る報酬はないでござるよ」
「お前は部屋の掃除が待ってるがな」
「ござ!?」
「全く、騒がしいわね」
なら今は仕事を片付けることに集中しよう。
「では、ケイリィあとは任せます」
「はいはい、久しぶりに暴れてきなさい」
「では私も本気を出しましょう」
社員の解放を海堂たちに任せ、スエラを中心に俺たちは商業区を目指す。
明かりが照らすとは言え、魔法を駆使すれば十分に巡回や監視の隙を突くことはできる。
それが少数なら尚のことだ。
極力音を立てないよう社内を影のような速度で俺たちは走り抜ける。
時には立ち止まり監視カメラの位置を確認し、巡視精霊はスエラがごまかし、巡回はメモリアが体の一部をコウモリにし注意を惹きつける。
そうやって目的地に向けて走る。
そして仮に遭遇したとしても。
「っ」
今の俺なら十分に戦えることがわかった。
魔王軍だからといってもすべてが教官たちのように手に負えない強さばかりではないようだ。
鍛えている兵士だからといっても、十分に戦える。
立ち止まっている俺たちに気づいた巡回するリザードマン部隊は無視するなど怠慢なことをせずこっちに近づいてくる。
手には槍や剣を持ち戦闘の意思を見せる相手に躊躇はしない。
猿叫は使えない。
ならばと歯を食いしばり足に力を込める。
一足、まずは先頭の一体にめがけ腰だめの一突きで相手の腹を鉱樹で串刺しにする。
人型それも人間に近い存在に切りかかるのに葛藤がないわけではない。
だが
「■■■■(こいつ)!」
「■■■■■■■■(人間のくせに)!!」
やらなければこちらがやられる。
それがわかるほど相手が殺気立っている。
先手で一体を仕留め、次の動作へ移る中、リザードマンの太刀筋を見るまでもなく耳が風切り音を捉え剣筋を教えてくれる。
「■■■■■■■■(見えないはずなのに)!?」
相手の言葉は日本語ではない。
本来の魔王軍が使う共通語なのだろう。
言っている意味は分からないがニュアンスで俺が回避したのがそんなに信じられないようだ。
信じられている方が困る。
「んらぁ!!」
厄介な相手でないことを心の隅で安心しながら、体の流れを早める。
返す刃、リザードマンに突き刺した鉱樹を蹴りとばす要領で抜き去り、左脇に抜けていく刃を耳で捉え、がら空きになった胴体にめがけ斜めに切り捨てる。
「■■■(ヒィ)!?」
相手がひるむ。
それはまたとないチャンス。
人道的な勇者様ならここで手心を加えるだろうが、あいにくと俺は切りかかられて笑顔で仕方ないと言えるほどお人好しではない。
腰が引け、怯えるリザードマンだろうが容赦なく。
「ぐはぉ!?」
殴り飛ばす。
いやこの場合は蹴り飛ばすといったほうがいいだろうか?
これまでの間を一呼吸で済ませ、周囲を見渡し全員仕留めたことを確認する。
「こんな口でも人間と同じうめき声なんだな」
鉄で加工してある足具で側頭部を蹴れば頑丈な生物でも意識は飛ばせる。
トカゲのような口をしていてもあげるうめき声は人間と一緒なのだと感心する。
「スエラどうだ?」
「もう少しです。しかし、メモリアがいてくれて助かりました」
「膜をかぶせるように封印処置をしているだけですので、あとは商業区の人間であれば誰でも入れますよ」
「その商業区用のパスを通すのが担当の違う私では難しいので」
移動して向かった先は俺がいつも使う商業区の入口ではなくその裏手、バックヤードへとつながる通路だ。
この先は倉庫、多分商業区の誰かが封鎖したのだろう封印をメモリアとスエラが二人がかりで解除している。
そして倉庫へつながる扉を静かに開こうとしているときにさっきの巡回部隊が来たので迎撃したわけだ。
スエラが表面の相手方が施した封印を警報にかからないように剥がし、メモリアが中のロックを解除する。
「開きました」
「ラルを先行させます。ついてきてください」
中に何が潜んでいるかわからないので黒犬の精霊ラルを潜り込ませ、安全を確認しながらなかに入り込む。
「こっちです」
オートロックなのか、倉庫の扉は閉まると自動でロックされる。
それに振り向くこともなく薄暗い倉庫の中を駆ける。
食品、薬品、雑貨品といくつか抜けていくと目的地が見えてくる。
「ここが装備エリアですね」
「ここまで揃ったのを見ると壮観だな」
「なら、ここにあるはず」
金属棚に保存用の結界を張り整頓される武具防具の数々、一目見て名剣、名刀、名防具なのがわかる。
しかし、彼女らはそれに脇目もふらず、さらにその奥にある扉に立つ。
どうやらここが目的の場所みたいだ。
その扉の上にあるプレートを見る。
「……俺はここで待つ」
下の文字は見えないが、ルビで女子更衣室と書かれた文字を見れば俺の発言も間違ってはいないだろう。
「はい、見張りをお願いします」
「私の装備は少し時間がかかりますので」
「ああ」
仮に相手が彼女だったとしても節度は守るべきだろう。
警戒する以上、神経は張り巡らさせないといけないので、中で衣類が擦れる音が聞こえるが役得と割り切り、背後ではなく正面に気を割く。
「煩悩退散、色即是空、南無八幡菩薩」
ああ、それでも男の性でドアノブに手を伸ばしたい衝動は生まれてしまう。
ヤッちまえよと黒き俺の囁き。
我慢しろ、今は非常時だと白き俺が叫ぶ。
バカ言え、通ってきた道を思い出せ誰もいなかっただろ? 警戒するだけ無駄だって。
そんな保証あてにならない! 相手は隠れているかもしれない!!
「まぁ、普通に考えてやるわけがないがな」
一人小芝居を脳内で繰り広げそうになったが、常識という名のリミッターがかかれば二十代後半の男がリスクを無視して欲望に素直になるわけがない。
「お待たせしました」
「早いな」
「スエラに手伝ってもらいました」
先に出てきたのはメモリアだったが、その後ろにはスエラもいる。
いるのだが
「なんか疲れてないか?」
「い、いえ、少し吸血鬼の神秘について再確認しただけですので」
「吸血鬼の神秘?」
研修の時も見た魔法使いらしい格好のスエラを見たあとに、こっちは全身をマントで覆った格好のメモリアを見る。
「普通?かどうかは分からないが変わったようには見えないぞ?」
「あとでお見せします」
「? まぁ、時間がないのは事実だからな」
タイムリミットは刻一刻と迫っている。
今後に支障が出ないのなら疑問は後回しにするべきだ。
その疑問もメモリアにしてみればあとでわかること、今は
「消耗品も揃えましたので、ゲートに向かいます」
「ああ」
ダンジョン攻略に集中する。
ここからが本番だ。
誰もいないバックヤードを通り抜け、商業区の最奥、関係者以外立ち入り禁止エリアに到達する。
「多いな」
「ええ、やはり重要箇所を押さえられる戦力はいるみたいですね」
「どうします?」
作業用の窓口、その一角にある覗き穴から見えるのはダンジョンに入り込むためのゲートだ。
俺たちが普段使っているものと同機種、違いはそこにバリケードができ、数えるのも億劫になるほどの人員が配置されていること。
「正面突破しかないよな?」
ダンジョンに裏口が存在するなんて聞いたこともない。
入口はひとつ、ここだけだろう。
「消耗は避けたいところですが、ここまで最低限で済まされています。ここら辺が限界でしょう」
確認するようにスエラの方を見れば、俺の意見に同意するように一回頷く。
隠密行動もここまで、ここからは派手な戦闘になる。
「全員を倒す必要はありません。私たちの目的はエヴィア様の解放、戦闘は極力避けてください」
「だな」
そこでふと、気づく。
俺たちの目的は監督官の解放だ。
道中は相手側からの妨害もあり得るだろう。
いや絶対にある。
ならば、途中で脱落する可能性も考慮しないといけない。
そこで誰を進めればいいか、優先順位を考える。
いや、考えるまでもない。
俺は最下位でいいだろう。
相手の目的を考えれば、俺は捕まってはいけない存在だろうが、こちらの目的を考えれば俺はそこまで重要な存在ではない。
むしろ、いざとなれば囮となりうる存在となる。
それを、この場で言う必要があるか、ないか。
悩むまでもない。
仕事において独断専行は御法度だ。
「スエラ」
「なんでしょう?」
「もし、この先突破できそうにない場面がでてきたら、俺が」
囮になると続けられなかった。
「私、言いましたよね。策はあると」
話すのはこれ以上ダメだと止めるように俺の口元、唇に当てられたスエラの人差し指。
「この程度なら多少消耗する程度で済みます。次郎さんは、私を『側』で守ってください。そうすれば」
成功しますとスエラは笑顔で告げてくれる。
敵わない。
何もかもお見通しのようだ俺の彼女は、わざわざ側という言葉を強調するほどだ。
「ああ」
なら、俺はそれに頷くしかない。
スエラの言葉を信じて、俺の役割を担おう。
「お取り込みのところすみません。外が騒がしいようですが」
「え?」
「ん?」
メモリアの言葉に引き戻され、もう一度のぞき窓を見る。
さっきまでゆっくりと動いていた集団が何やら慌ただしく動いている。
「襲撃、ですか」
「わかるのか?」
「相手の兵士の口を読みました。間違いないかと」
しれっとこの吸血鬼娘すごいことをしでかしている。
トカゲの口に違う言語、俺には何を言っているかさっぱりわからないがメモリアにはわかるらしい。
しかし、この騒ぎどうやら運気はこちらに向いているらしい。
俺たちとは違う誰かがこっちに向かっているらしい。
「チャンスだな」
「はい、手薄になり次第突破しましょう」
注意が別のところに向けばその分手薄になる。
今はその波を利用させてもらおう。
『す~え~ら~!!!!』
「……今呼ばれなかったか?」
「……呼ばれましたね」
「……」
扉越しにも聞こえる大声量、魔力か何かで強化しているのは間違いない。
それほどの音量で呼ばれれば嫌でもとなりで気のせいであってほしいと願っているスエラを呼んでいる人物がいることがわかる。
「ああ」
「メモリア、誰かわかったのかこの人物?が」
何度も何度も、しつこいようにスエラを呼ぶ声はだんだんと近づいてくる。
その声に聞き覚えがあるのか、メモリアは納得したように手を叩く。
「この前店なかで酔いつぶれたダークエルフの男性ですね。名前は知りません。ですが、スエラには心当たりがあるようですが」
「……同族です」
『俺が助けに来たぞー!!!』
か細く、まるで認めたくないように吐いたスエラの声に合わせるようにそれは現れた。
俳優のように整った顔立ち、浅黒い肌、笹の葉のように尖った耳、ダークエルフの男性が一体のオークを殴り飛ばしてその場に現れた。
あれ?コイツどこかで……
『この私が来たからにはもう心配ないぞ!!』
威風堂々、仁王立ちするその男を見て俺は思う。
ああ、こいつ死亡フラグが立つやつだ。
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
なんか死にそうな奴が出てきた。
今回は以上となります。
久しぶりのダンジョンアタック、死亡フラグの乱立しそうな男、ええ、意外と書きやすいことに驚きました。
次回はこのキャラに加え、過去登場してきたキャラを出していきたいと思います。
これらかも勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします。




