28 休日の呼び出し、人それを休日出勤と呼ぶ
投稿します。
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
緊急事態になるとその人の本質は出る。
よく、漫画やアニメ、小説でテーマパークなどの娯楽施設で緊急事態が起きれば一般客の大半は不安を浮かべ、混乱し、整然と動くことなど叶わないだろう。
「叶わないはずなんだけどなぁ」
「次郎さんどうしました?」
「いや、少し現実逃避しただけだ」
こちらを振り向き俺のこぼした言葉を拾ってくれる彼女に首を振ってなんでもないと伝える。
それだけで彼女はもとの作業へと戻った。
さっきまでガーデンバーの装いだったのが、椅子テーブルの並べ方一つで会議室に早変わりしていた。
照明は落とされているが、魔法が使えないわけではなく施設職員と何人かの社員(魔王軍)が手分けして明かりを灯している。
緊急事態にも慌てずしっかり対処する。
教育が行き届いた姿をまじまじと見せられる。
「現状を確認しましょう。まず、念話が全面的に封鎖されています」
「魔力循環の流れもおかしいわ。でなければこの施設で停電なんてありえないわ」
「魔力の濃度も気持ち薄くなっているようです」
その陣頭に立っているのは、スエラたち三人だ。
遊んでいた時の雰囲気を微塵も感じさせず、確認できる情報という情報を集めてまとめていく。
「どういう状況でござるか?」
「わかるわけないだろう」
「少なくとも、イベントってことはないっすね」
「そうね、私たち以外人間がいないから分からないけど、これが普通っていうことはないと思うわ」
「となると、厄介ごとか」
人に近いが翼やしっぽを生やす悪魔にお馴染みのゴブリン、リザードマンと人型の魔王軍がこの場には集まっている。
その集団を次から次へと他種族を指揮して様々な作業をしている彼女たちを手伝えることは少ない。
彼女たちがやっていることは、ダンジョンの機能そのものを確認しているのだ。
本職ではない俺たちが手を出せる部分は極端に少ない。
なので、こっちは小さく円陣を組んで臨時パーティ会議を開いている。
「俺たちの中で分かっていることをまとめるぞ」
「拙者たちはこの施設に閉じ込められたでござる」
「あとライフラインも押さえられているわ。電気、水道、ガス使えるのは何もないわ」
「幸い、食料はあるみたいです、魔法を使えば調理も可能みたいです」
「水は目の前に腐るほどあるっすからねぇ、たださっきちらっと聞いたっすけどダンジョン内の施設でここまで機能不全に陥るって相当問題があるみたいっすよ?」
「まとめると、閉じ込められ救助を待つこと自体は可能だが、閉じ込められたこと自体がかなりヤバイってことか」
持久戦はできれば避けたいところ、閉鎖空間ではないが同じ空間に居続けるというのは精神的な負荷が大きい。
「否定なしの憶測でいくぞ」
「いいんすか?」
「可能性を吟味するにも情報が少なすぎる。スエラたちの情報は施設の専門用語ばかりだ。手を出せる範疇じゃない。素人の俺たちのできることは体力を温存して緊急時に動けるようにする。そのためにはあらゆる可能性を考慮しないといけない」
「……そうね、黙って何もしないよりはマシね」
「普通に考えたら事故ですけど」
「そうであってほしいでござるが、拙者の予想からすると人為的な気がするでござる」
「根拠は?」
勝の事故という案は俺も真っ先に思い浮かべたが、思考とは別の何かが否定している気がする。
むしろ、南の人為的な何かの方が直感に触れるものがある。
「ここはダンジョンでござる。施設の動力は言わずもがな魔力でござろう? その全ての動力が断絶するなんて普通に考えればおかしいでござる」
「それもそうっすね。こういったファンタジーのお約束とかなら、反乱とかっすけど」
「拙者、たまに海堂先輩が進んでフラグを建てに行っているんではないかと思う時があるでござる」
「へ?」
俺からしたらそれは最悪の『一歩手前』の考えなんだが、とりあえずいまは清聴するとしよう。
「いいでござるか? 拙者が何故人為的なんて間接的な言葉を使ったかというと、そうなってほしくないからでござる。こういったイベントのお約束は言ったことが現実になるんでござる! 俗に言う死亡フラグってやつでござるね。海堂先輩は今それを建てたでござる」
「ええ~南ちゃんさすがにそれは」
「あまい! 甘いでござる!! MAXコーヒーに練乳とはちみつを追加投入するくらいに甘いでござる!!」
そこまで行くと既に別の飲み物になっているだろ。
少なくとも俺はそんな吐き気を催しそうな代物に口はつけたくない。
コーヒーは微糖、それが俺のジャスティス。
「そうやって否定する奴から倒れるでござるよ!! 今も着実に先輩は死亡フラグの山を建設中でござる!!」
「そ、そんな、俺まだいっぱいやりたいことがあるっすよ!? 行きたい店(十八禁)もいっぱいあるのに」
なんでこいつはシリアスな空間なのに、こうわかりやすく裏の意思を見せることができるのだろうか。
俺じゃなくても、勝や北宮でもわかったと思うぞ。
だんだんと雲行きが怪しくなるのを感じながらもとりあえずは結末まで見守るとしよう。
「そんな、先輩に拙者からフラグクラッシュの方法を伝授するでござる」
「本当っすか!?」
「ただ、それをするには先輩に覚悟が必要でござる」
「なんすか!! 今の俺なら大抵のことはできると思うっすよ!!」
「そうでござるか、ではまずこの口座に十万ほど振り込んで」
「勝」
「はい」
南のやつファンタジー式の振り込め詐欺なんてどうやって考えたんだ。
とりあえずこれ以上の放置はまずい。
強制介入を執行し、悪ふざけを始めた南へは
「はぶ!?」
「調子に乗るな」
勝の制裁を加えてもらって進路調整を図るとしよう。
「真面目にやれ」
「う~、シリアスは苦手でござるよ……わかったでござる真面目で行くでござるから勝睨まないでほしいでござる……と言っても拙者も似たような出来事から予測するしかないでござるよ?」
「いいんだよそれで、この中で一番ファンタジーに関して知識が豊富なのはお前だ。俺だと微妙なラインになってしまうからな」
「リーダーの予想? どんなのでござるか? 参考がてら聞きたいでござる」
「俺の中で浮かんでるのは、魔王軍の敵、この場合勇者を召喚している国または組織、神などの存在からの攻撃で施設に影響が出た可能性だな」
「なるほど、中より外ということでござるか」
「身内を先に疑ったら、お先真っ暗だからな」
「前の会社は、疑うのはまず身内だったすけどね」
「おいおい海堂、頭に上司ってつけろよ、現場の失敗のケースはほとんどなかったぞ」
「リーダー、先輩戻ってくるでござるよ~、暗黒面に堕ちかけてるでござるよ~」
「「おっと」」
自分でシリアスにやれと言っときながら、別の次元でギャグ方面に倒れそうになった。
「悪い、話を続けてくれ」
「拙者が考えたのはいくつかあるでござるが、その中でも可能性が高いのは派閥争いだと思うでござるよ」
「なんでよ? 私が見た感じだとあの社長かなりうまくまとめてたと思うわよ」
「甘いでござるなぁ」
「その表情なんかムカつくわね」
「ムフフ、いいでござるか? 世界史をひっくり返せば人種差別なんて腐るほどあるでござる。同じ人で溢れかえっている争いを、姿そのものが違うのならなおのこと起きていてもおかしくないでござる」
熱演する姿はさながら評論家、南のドヤ顔は脇に置いておくが、説明には確かに一理ある。
有名な話で言えば、黒人の話が出てくる。
身近な話で言えば、大阪と東京の人間は仲が悪いという話が出てくる。
極論を言えばキリがないが、人の形はしていても人の姿をしていない種族と人間は相入れるのかという話になる。
「それは人間側からの問題だけじゃないでござるよ? 他の種族からの感情もあるでござる。よく言うでござる。人間のくせに、種族的に下位存在に表現されるのはファンタジー要素の王道でござるよ」
「南の考えから推測すると、要は今回の反乱いやストライキか? どっちにしろこの行動は俺たちテスターの立場を変えたい奴らの行動だと?」
「拙者はそう予想するでござるよ。けれど、変わったら間違いなく悪い方向に変わるでござろうなぁ」
「うげ、労働環境の改悪って最悪っすよ」
現実的に考えればどこの小説だと言いたくなるような筋の通らぬ話、荒唐無稽な推測でしかないが、さっきの俺の考えも南の予想もこの会社なら筋が通ってしまう。
そして、事故を除く、上がってきた予想結果の末路は俺たちにもろ被害を及ぼす。
俺の考えは多分救助を目的、騙されている勇者を救わんがためにという大義名分、救われた後は保護という名目で拉致、家に帰るという言葉が適用される可能性なんてその時になってみないとわからないが、宝くじの一等が当たるよりは少ないだろう。
南の予想は、人間を使い地位を保証するのが気に食わない一派、タカ派的な思考、人間を下位に見るような集団が起こしたストライキ……と言えればまだ穏やかなのだろうが、ここまでするならクーデターやテロぐらいは視野に入れなければならない。
それが成功した暁には、俺たちテスターはよくてこの会社を追放、悪ければ奴隷コースまっしぐらだ。
「「「「「…………」」」」」
それを口にして説明して、思ったよりも状況が悪いことに俺たちは沈黙するしかなかった。
状況といっても俺たちが勝手に想像しているに過ぎない。
しかしファンタジー世界にありがちな展開が現実味を帯びているこの会社で否定できる要素を探すほうが困難だ。
いかにスエラたちがいるとて、いきなり結末を迎える心配はないだろうが、それで拭えるような話ではない。
拭えていたら、こんなに沈黙することはなかっただろう。
「……さて、どうすっかな、憶測で動くのはあまりしたくないのだが」
いつもの癖でポケットをまさぐるが、今の格好、水着にパーカーという格好にタバコが装備されているはずなく、頭を掻くことで代用する。
「とりあえず装備を整えたいところだが」
「そうでござるなぁ、水着でダンジョン攻略ってどこのエロゲって話になるでござる」
「女のお前が言うか」
「言わないとやってられないでござるよ」
「ビールでも飲むか?」
「拙者一応未成年でござる。飲酒したら勝に正座で説教でござるよ?」
「冗談だよ」
やってられないと聞くとついビールに手を伸ばすのはサラリーマンの悪癖と言えるだろう。
そのセリフに反応して、ついテーブルの上に残っていたジョッキを差し出すが真顔で拒否されてしまった。
「ロッカーに……行くこともできないのか」
「そうよ、遊泳エリアとロッカーエリアの転移陣も封鎖されちゃってここは一個の空間になってるのよ。売店に売ってる服は水着とパーカーみたいなものばかり、武器なんて水鉄砲くらいしかなかったわよ」
せめて私服に着替えられればまだ水着よりは見た目も防御力もマシになるのだが、そうは問屋がおろしてはくれなさそうだ。
北宮は頭痛をこらえるように、額に指を当てながら自分に言い聞かせるように現状を伝える。
「事故であることを願いたいところだが、事故なら事故で最悪のケースになってるかもしれんな」
「最悪ですか?」
「ああ、ダンジョンは異空間に土地を開拓して形成されている。事故だとすれば、ここだけ繋がりがなくなっている可能性が出てくる」
「それってまずいじゃないっすか!?」
「ああ、事故だろうが故意だろうがどっちにしろあまりのんびりとはしていられなさそうだ」
北宮ではないが、いい情報、いい想像が全くできず最悪ばかり想像してしまうのはブラック企業に勤めていた故か、警鐘がなり続いている勘がそう囁くのか。
「事故ではないようですよ」
「スエラ」
悩んでいるところに、変化が生じる。
空気は以前張り詰めている状態だったが、どうやら状況の流れが変わってきたらしい。
「施設外の社員と連絡が取れました。ですが」
「なにか、あったのか」
疑問形にする必要はない。
スエラの表情が物語ってくれる。
言うべきか言わないべきかで悩んでいるのではなく、おそらく、言わないといけないが言いたくない。
そんなところだろう。
ですがと区切ってスエラの言葉に間が空く。
「次郎さん……現在この会社は占拠されました」
「……相手は?」
驚きはない。
当然だ。
さっきまでその可能性を模索していたのだ。
この場にいるメンバーの表情に驚きの表情は浮かんでいない。
代わりにそっちの方に傾いたかと、苦虫を噛み締めたような表情をそれぞれが浮かべている。
俺は極力出さないようにしているが、声のトーンが少し下がっている気がする。
まずは事故の線が否定され、内乱か侵攻かの選択肢に絞られる。
このどちらでも俺たちの立場は危うい。
行動は慎重に迅速に取らねばならない。
俺の対応にはスエラは驚かない。
多分さっきの俺たちの会話を聞いていたのだろう。
「身内ですね」
「となると、南の予想が当たりか」
「そうなります」
同じ会社に所属しているが、持っている情報量の差がある俺とスエラでは話せることと話せないことが出るのは当然だ。
「今回の企画、ダンジョンテスターの反対派と強硬派が手を組んで事にあたっているみたいです」
反対派は文字通り、テスターを投入することを反対している一派、強硬派は投入することは賛成だが家畜のように利用するという考えだ。
今回は利益で反対派を諭した強硬派が反対派を率いて事を起こした。
「魔王様は、現在ダンジョン内にいません。他の将軍は他のダンジョンへ手を出すことが『原則』禁止されています。ですのでおそらく応援は期待できないかと」
「監督官は?」
「エヴィア様はおそらく、捕まっているかと、でなければダンジョンを操作するということができるはずがないと思います」
奴隷コースが見え始めてきたところで、悪い情報を二枚も三枚もスエラは開示してくる。
会社内の最強戦力は抑えられ、ほかのダンジョンの援軍は見込めず、監禁されている。
「相手の戦力は? わかっている範囲で伝えられる範囲で」
タバコが欲しい。
口元が寂しくなり、口元を覆うように考え込み少しでも冷静に思考を回そうとする。
「残念ながら詳細は……種族に統一がないのは様々な種族が入り乱れていることから推察できますが」
「厄介だな。俺たちには敵味方の区別がつかない」
「はい、加えてコアの置かれているダンジョンは完全に相手の支配下に置かれていると考えたほうがよろしいかと」
だが、聴けば聴くほど手詰まり感が増してくる。
そもそも自分のトップに向けてクーデターを起こそうとするのだ。
タイミングも計画も入念に練るだろう。
だが
「……なぁんか違和感があるな、あの社長がこんな簡単に敵に隙を見せるのか?」
俺の頭の中では違和感が湧き出していた。
見たことなど入社式での一回きりだが、その一回で俺はテスターの中で唯一魔王本人と会話をしている。
数分にも満たない会話であったが、曲者と感じさせる雰囲気に他者を従わせる圧倒的なカリスマ、それを除外しても無能とは言い難い何かを感じさせる存在だった。
それが、わずか数分で仮にも異世界での拠点をあっさり引き渡すのであろうか?
ありえない。
そう断言させる何かが俺の中では芽生えていた。
弱肉強食の世界でのトップが容易に肉に噛み付かせるか。
「……考えても仕方ないか」
そもそもただの平社員が、トップの考えを先読みすることなんて土台間違っている。
手足となるべき社員がまずやることといえば、とにかく頭と体を動かすことだ。
「聞きたくはないが、相手方の目的はわかっているのか?」
「おそらく、勇者になり得るだろうテスターたちの確保が目的でしょう」
「わかりやすいことで」
大方、実験動物なり戦力に育成して地位の確保でも考えているのだろう。
わかりやすい展開で理解しやすいが対象にされているのが自分では、現在は笑えない。
「それで、俺たちは何をすればいい?」
「……脱出を、相手の目的は次郎さんたちテスターです。でしたら、篭城するよりも社外に脱出したほうが確実です」
「おし、ちょっと待とうや」
半ば予想できたスエラからの返答だったが、どんなに危険でもそこでハイ分かりましたと即答するわけにはいかない。
「いま、かなりまずい状況だよな?」
「そうですね」
「こっちの戦力は少ない。相手の戦力は未知数だろ?」
「はい」
「……はあ、俺たちが脱出したらスエラたちの安全は保証されるのか?」
「それは……」
「言い淀んだ時点で、俺の返答はNOに固定されたぞ?」
この返答というか、状況から考えるまでもなく俺たちが目的だとしてもあいにく俺はそれに答えるわけにはいかない。
こっちを見ているケイリィさんやメモリアがスエラの言葉に何も反応しないのは消極的な賛成派だからだろう。
「あいにくと苦境には慣れっこでな、対処もお手の物なのよ」
「ダメです。次郎さんたちには拒否権はありません。これは命令です」
少しためらったスエラの弱気の表情は奥に下がり、代わりに久しぶりに見る仕事をしている時の真剣な表情が出てきた。
今までプライベートの雰囲気と混ぜ合わさっていた分、ギャップがすごい。
「ああ、海堂たちは脱出させる。それでいいだろう?」
「彼らだけではなくあなたもです。向こうの目的はテスター、高レベルの魔力適性を持った次郎さんは最優先で狙われます」
不退転の意思を宿らせて、真剣に俺の目を見る彼女の瞳には心配はもちろん不安も浮かんでいる。
いちどスエラに心配をかけた身としてはここで頷いておかないといけないのだろうが。
「それでも、だ」
「次郎さん!」
「スエラ、嫌な経験てのはな、その時は本当に嫌な記憶だ。だけどな、時間がそれをすり減らして丸くして昔にあんなのあったなぁって笑えたら、それはいい経験なんだよ」
叫ぶように非難するスエラの気持ちはわかる。
わかるが、ここで引いてしまって、もしを引き当てたくないからここを退くわけにはいかない。
「もし、ここで俺が頷いて無事会社から脱出できて、事が収まってお前と再会できれば、たしかに俺の心配なんて杞憂だろうよ。だけどな」
お前が俺を心配し、失うことを恐れるように。
「脱出したあと、たとえこの会社に戻ってこられたとしてもお前ともう会えなくなったら俺はどうすればいいんだ?」
俺も、スエラを失うことを恐れているんだよ。
お前は何当然のように自分は残ることを決めているんだよ。
日本の社内争いと違って、そっちは弱肉強食の魔王軍なんだろう?
容赦なしに、命のやり取りができる世界なんだろう?
そんなところに見送るバカに俺は見えるのか?
何もせずに、手も足も出せず失うということを恐れない奴がいるのだろうか?
少なくとも、俺はその例外にはなれない自信がある。
「笑えない過去話って、最悪だろ?」
それとも、絶対大丈夫であるっていう保証があるのか?
本当はそう言いたかった。
大丈夫だ、私に任せてくれと安心させてくれる笑みを見せてくれるのだったら、多分、不安は残るが俺は待つことができる。
だが、それを口にしたら、彼女はきっと覚悟を決めてしまう。
そうなったら、ここまで言ったセリフが台無しだ。
男には格好つけないといけない時がある。
「ズルイです」
「悪いな、俺自身がお前より弱いのはわかってるが、それを理由に俺だけ避難するのも格好がつかないからな」
「どれだけ私に心配をかけるつもりですか」
「明確に回数を言えないのが申し訳ないな」
「もう、既に私に心配をかける予定があるんですね」
「割とすぐに、な」
俺の言葉にため息と笑顔をセットで答えてくれるスエラは、仕事用の真剣な表情を終わらせ、いつものプライベート状態に戻った。
「分かりました、次郎さんの意思を尊重します。しっかり、こき使うので覚悟してくださいね」
「給料分は、働かせてもらうよ」
「正直に言えば現状、次郎さんほどの腕前でしたら、リスクよりリターンの方が上回るので魔王軍としては助かります」
「彼女としては?」
「さっき、言いました。恥ずかしいので二度目はしばらく無しです」
重い空気とはサヨナラ。
そっと頬を赤らめ顔をそらすスエラを見れただけで満足としよう。
正しく猫の手も借りたい状況で戦力がバラバラにされているのだ、僅かな戦力でも遊ばせている余裕はない。
そこをついた説得に成功したわけなのだが、
「ここで、私が反対すればあなたはまたあのような言葉を私にかけてくれますか?」
「できれば、素直に賛同してくれると助かるなぁ、俺としては」
第二の刺客をどうにかする羽目になりそうなのだが。
「では、代わりにこれで」
「ちょ、ん!?」
「ぷは、ごちそうさまです。健康的な生気でした」
「口の中で血の味がするんだが?」
「さて? 傷はないはずですが?」
「メモリアなりのヤキモチよ、はいはい、スエラも拗ねない拗ねない。せっかくの雰囲気をぶち壊したのはわかるけど、今は時間がないのよ。アフターケアは次郎君がしっかりとやってくれるわ」
なりゆきでどうにかなりそうだ。
これが終わったあとが大変そうだが、自分で言ったことはしっかりと責任を取るとしよう。
「さて……問題は」
今後の予定は決まったが、あくまで俺のは、だ。
背後を振り返ればきっちり揃ってるうちのパーティメンバー。
シャドーボクシングで全力アピールをする海堂。
何やら怪しげな術式を空中展開してアピールする南。
どこからともなく救急箱の準備を始めている勝。
唯一、北宮だけは、羨ましそうな妬ましそうな恥ずかしそうな表情で顔を赤らめて複雑な表情で俺を見ている。
だが俺にはわかる。
ああ
全力で付いてくる気満々だなこいつら。
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
ハハハハハハハ!
上司からの電話イコオウゥルゥ(巻き舌)
言わセンなよ!!
ジョージの次にはエドモ○ド・本田?あれ違う。
FGOの運営は本当に商売上手ですね。
まぁ、課金はしませんが、代わりに筆を勧めました。
次回にちょっと戦闘シーンを加えたいと思います。
そして、ちょっとハーレムっぽいものも書けたらいいなぁって思います。
これからも勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします。




