275 鶴の一声とは、いかないものだな
地味に悩みましたがどうにかパーティー名が決まりました。
お楽しみいただければ幸いです。
「さて、案は出し切った。ここから決めに入りたいのだが」
俺の案である【シード&スプラウドことS&S】
海堂の案である【気合団】
南の案である【月下の止まり木】
北宮の案である【春夏秋冬】
勝の案である【チャレンジャー】
アメリアの案である【LegendBravePartyことLBP】
六つの案が出てきたわけだが。
「どうやって決めるっすか? 多数決だと、絶対にとまでは言わないっすけど、自推になって泥仕合になると思うっすよ。もしかしたら俺のところに一気に票が集まる可能性もあるっすけど」
「安心して、あなたの気合団にはあなた以外、誰も入れないわよ。けど、海堂さんの言う通りの流れになるのは確かだわ」
「さらりと流したっすけど、さっきの南ちゃんと言い、北宮ちゃんも地味に発言がひどいっすよ!?」
「………話し合いだと、結構時間がかかると思うわよ。くじ引きにでもする?」
「でも、すぐに決めちゃうのはもったいないナ」
ここから絞る方法となると、海堂の言う多数決か北宮の言うくじ引きがぱっと思いつくだろう。
スルーっすか!?と北宮にさらりと流され、ショックを受ける海堂をアメリアが慰めているのを背景に、どうやって決めるのか各々気になっているようだ。
「多少変則的にはなるが、自推禁止の多数決でいくつもりだ」
「なるほどね、自分の案に自信があるなら自然と票は集まるということかしら?」
「話が早くて助かるよ北宮」
もちろん決めかたを話し合うなんてことはしない。
あらかじめ決める方法は考えていた。
俺の提案した方法に北宮はすぐにその方法の意図を察し、なるほどとうなずく。
頭の上に疑問符を浮かべている海堂とアメリアは互いに顔を見合わせた後にどういうことと聞いてくる。
南と勝は理解しているようだ。
「つまりだ。自分が出した案は自分の中でいいと思った案なわけで、当然多数決となれば自分の案を選ぶ。それだと堂々巡りになってしまう。なら、自推を禁止すれば純粋に他人の案でいいと思った奴に票を入れる。それを繰り返して選ぶってわけさ」
「もし最後に二つの案が残ったときはどうするでござる? 強制的に両方に一票が入るわけでござるから、当人からすれば選択の余地がないでござるよ?」
「その時は申し訳ないが、当人以外での決選投票だな」
「でも、私たち六人パーティーだから、票が割れちゃうかもしれないヨ?」
「そうならないように工夫もする」
「工夫ですか?」
アメリアに指摘されるのも当然の帰結。
六人で多数決を取れば偶数票が出る可能性は十分にある。
仮に、この後そのまま多数決を取り二対二対二という結末も十分にあり得る。
そうなると平行線になってしまうので、俺は用意していたメモ帳とボールペン、そして箱を机の上に置く。
なんの変哲もない代物だ。
メモ帳は一枚一枚が日めくりカレンダーのように千切れるようになったメモ帳で、ボールペンもなんの変哲もない百均の代物。
箱もこの前お土産でもらった菓子箱だ。
「メモに一位から三位まで書いてその箱に投票する。一位は三ポイント二位は二ポイント三位は一ポイント、総合計得点が高い奴をうちのパーティー名にするのさ」
「おおー! それならかぶらないネ!」
「それなら、なんとかなりそうね。私はいいわよ」
「拙者もいいでござるよ~いやぁ、ネーミングセンスの順位がわかる瞬間でござるなぁ」
「大丈夫っす、きっと大丈夫っすよ」
特に反対意見もなく、このままいくこととなった。
全てのポイントが同率になる確率もなくはないが、普通にやるよりはそうなる確率はだいぶ低い。
各々メモ帳から紙を取りボールペンを手にする。
誰にどれくらいのポイントを入れるかを悩みだす各人に一応念を押しておく。
「一応言っとくが、自推は無効点だからな」
「ハーイ!」
「わ、わかってるっすよ」
「了解でござる」
「わかってるわよ」
「はい」
さて、注意を済ませたら次は俺の番なわけだ。
自分で言って、自分の名前を書くわけにはいかないのでこれから名乗るかもしれないパーティー名を考える。
まず最初に、消去法になるが海堂の気合団は外す。
俺は気合団の田中次郎、心の中で自己紹介しても恥ずかしい。
候補として残すとしたら、個人的に気に入っている北宮の春夏秋冬と南の月下の止まり木、この二つは残すのは確定だ。
そうなれば勝のチャレンジャーとアメリアのLBPのどちらかを落とすということだが。
今回は真面目に考えて、勝の方を選ぶ。
響き的にはアメリアの案も嫌いではないが、どちらかと言えば勝の方に軍配が上がってしまう。
これで候補は三つになり、残りは順位になる。
ふと、他の奴らはどうしているかと顔を上げて周囲を見ると各人、様々な悩み方をしている。
どこにそこまで悩む必要があるのか疑問になるくらい頭を傾け悩む海堂。
顎に手を当て、真剣な表情で悩み時折一息入れるように紅茶を飲む北宮。
書くか書かないかで、悩みコツコツと進める勝。
もうすでに書き終えたのか、ソファーの向こうで邪魔にならない程度の声量で話す南とアメリア。
そうこうしているうちに、次々に書き上げ皆、書いた内容を箱の中に入れていく。
俺も、そのあと少し悩んだが悩んだ後は早々に決め。
箱の中に紙を折りたたみ投票する。
「海堂先輩、まだでござるか? もう、先輩だけでござるよ」
「もう少し、もう少しだけ待ってほしいっす。どうすれば気合団が選ばれる得点になるか考えているっす」
「はいはい、無駄なあがきはいいから、午後からダンジョンにも入らないといけないんだから、さっさとしなさい」
北宮の言われて時計を見れば時計の針は十一時を指していた。
この後の開票作業を考えれば、確かに海堂に考えている時間はない。
額に汗を垂らし、真剣に考える海堂には申し訳ないが。
「海堂、あと五分な」
「そんな!?」
制限時間を設け、その間は各々自由に過ごす。
「カレンちゃんはどこに投票したノ?」
「それを言っちゃダメでしょアミー。それは後の楽しみにね」
「とか言って、なんだかんだ北宮が一番楽しみにしてそうでござるなぁ」
「あんただって似たようなものでしょ。私たちの名前が決まるんだから興味ないわけないじゃない」
「それもそうでござるな、ムフフでも拙者は今回の投票で自信があるでござるよ!」
女子は一まとまりで話を始める。
僅かな時間ではあるが、雑談する程度の時間はある。
俺は一服でもしようかと、胸ポケットから煙草を一本取り出す。
「次郎さんはどの名前になると思います?」
「ん? どの名前になるか、か………」
それも、勝が話しかけてきたので火をつけることなく、指で揺らしながら勝の質問に答えるべく思考をめぐらす………
「正直見当がつかん」
「そうなんですか?」
が、わからなかった。
不思議そうに首を傾げる勝に、笑いかけ俺の考えを話す。
「俺の人生の中でも、ここにいる奴らは皆が皆個性的すぎて予想がつかないからな。誰がどこに入れてなんて攻撃の予測をするよりも難しい。もしかしたら予想を覆して海堂の奴になるかもしれん」
「そうなったら面白いですね」
「そうだな、正直言って俺はどの名前でもいいと思ってるからそこに不安はない」
「どれでもいいんですか?」
「ああ、皆で決めたってのもあるが、なんだかんだ言って騒がしくも一緒に仕事をしてきたんだ。信頼はしているつもりだ。そんな奴らが決めた名前だからな。俺は、気にしない」
びっくりしている勝に、チャレンジャーでもいいんだぞ?と笑っていると何やら後ろから視線を感じる。
「なんだよお前ら」
「いやぁ、さすが一児の父になる予定のリーダーでござる。懐が深いなぁっと思っただけでござるよ拙者は?」
「深い意味はないわよ、ええ、深い意味はね」
「ジロウさんとってもいいこと言ったよ!!」
意味深長な笑みでニヤニヤと笑う北宮と南は後で締めるとして、純粋なアメリアの言葉に照れつつこれでいいのかと箱に入れる直前まで悩んでいる海堂の手にチョップを入れる。
「いてぇっすよ先輩!?」
「いい加減お前は覚悟を決めろ」
あまり力を入れてはいないが不意打ちのせいでオーバーリアクションで反応した海堂は若干涙目で叩かれた手をこすりながら俺を非難してくる。
そんな視線は気にせずひらひらと海堂の票が入った箱を回収し開票を始める。
「時間も押してるしさっさと行くぞ、北宮読み上げてくれ」
「わかったわ」
俺はパソコンを開き表計算ソフトを起動する。
最初に下準備をしているため、誰にどの順位がいくつ入っているかが一目でわかるようにしてある画面が出てくる。
「それじゃ、待たせてくれた海堂さんの奴から行くわよ」
「公開処刑っすか!?」
「待たせたお前が悪い、北宮続けてくれ」
不正を疑うわけじゃないが、こういう時にしっかりやってくれるのが北宮だから開票作業を彼女に任せた。
北宮はさっと投票箱に手を伸ばし、さっと開く。
「海堂さんの票は、一位が勝君のチャレンジャー、二位がアミーのLBP、三位が次郎さんのS&Sね」
「了解」
海堂らしい入れ方だと、思いつつキーボードに指を走らせ北宮にOKサインを出す。
「次は、この字、南あんたね、もう少し綺麗に書きなさいよ」
「うるさいでござるなぁ、さっさと読むでござるよ」
「はいはい、南の票は……っと一位はアミーのLBP、二位が私の春夏秋冬、三位が勝君のチャレンジャーね」
「あいよっと」
海堂と南、趣味嗜好が似ているためか勝とアメリアの名前が挙がった。
現在の順位はアメリアのLBPが五ポイントで一位、次に勝のチャレンジャーが四ポイントで二位、三位に北宮の春夏秋冬が二ポイント、四位に俺のS&Sが一ポイントだ。
海堂は予想通りだが、意外と南の票が伸びなかった。
「これは、アミーね。一位は南の月下の止まり木、二位は私の春夏秋冬、三位は次郎さんのS&S」
ここで少し順位が変わったか。
南が俺を超して、北宮が勝と並んだ。
なかなか面白い接戦になってきたな。
おおと感心しつつ、手早く指はキーボードを叩き北宮にOKサインを出す。
「次行くわね、これは誰かしら。わからないけど行くわね。一位は私の春夏秋冬、二位が南の月下の止まり木、三位は………海堂さんの気合団」
「うおっしゃぁ!! 来たっすよ! 俺の時代!!」
「海堂先輩興奮しすぎでござるよ、まだ一ポイントでござろう」
「でもこれで先輩と一点差っすよ!! ここから巻き返すっすよ!!」
海堂は喜んでいて気づかなかったようだが、おそらくこれは勝の票だ。
海堂の喜び具合にほっと安堵の表情を見せていた。
そのことに海堂以外は気づいているようだが、この喜びに水を差すのも悪いと思っているのか南が少しヤジを飛ばす程度だ。
四人の開票が終わり、一位は北宮の七ポイントで、二位が南とアメリアで五ポイント、四位が勝の四ポイント、そして五位に俺の二ポイントで最下位に海堂の一ポイント。
この時点で俺と海堂の案は無くなった。
俺の案を通すにはここから連続で一位を取って、北宮無得点かつアメリアたちが小得点でなければならない。
残った片方の票は俺のだからもうそれはない。
海堂はまぁ、片方の結果を知っている身として可能性はゼロだというのがわかる。
うおおおおおと気合を入れているところに水を差す気はないので、打ち込み終わったのを北宮に視線を向けて知らせる。
「次は、私のね。一位は南の月下の止まり木、二位は次郎さんのS&S、三位は勝君のチャレンジャーよ」
字から自分のだと気づいた北宮はあっさりと順位を読み上げる。
そして、言われた通りの数字を打ち込んだ俺は、残った紙が自分であるのを知っているためこの段階で自分のパーティー名が何になったかを知ったが、苦笑をこぼすだけで北宮に打ち終わったと伝える。
俺の表情でもしかしたら俺が何になったかを分かった奴もいたかもしれないが、どっちにしろこの後の票で分かるのだからだれも言わない。
「最後の票になるけど、最後は三位から読もうかしら」
箱に残った最後の票。
俺が書いた票を手に取り、暗算でもしていたのか中身をみて俺と同じように苦笑する北宮はあえて一位からではなく三位から読み上げる。
「三位は勝君のチャレンジャーね」
もう逆転の目はないというのに海堂は神に祈るように両手を握り頭を机に伏している。
アメリアと南はワクワクと言わんばかりに期待し、勝も結果が楽しみなのか北宮を注視する。
「二位は」
まるでドラムロールでも聞こえてきそうな雰囲気に、俺はつい苦笑を抑えるために煙草を咥える。
「私の春夏秋冬ね」
ただ、北宮の場合もったいぶらず、そのままはっきりと順位を告げる。
この時点で北宮の得点は九点。トップに躍り出た。
「一位は、南の月下の止まり木」
だが、すぐにそのトップは塗り替わる。
「次郎さん、終わったわよ」
「ああ、こっちも打ち終えた」
咥えた煙草を揺らし、最後のエンターキーを叩き、結果を出す。
俺と北宮以外、まったく計算していなかったのか、南と勝、そしてアメリアはワクワクとした表情で結果を待ち、逆に海堂は真っ白に燃え尽きたと言わんばかりに机に伏していた。
「結果を言うぞ」
開票をしていた北宮は元の席に戻り、一旦咥えた煙草を手に持った俺が立ち上がり決まったパーティー名を告げる。
「うちのパーティー名は、〝月下の止まり木〟だ」
これを告げた瞬間ずっと名無しだった集団に名前が付けられる。
「いやったでござる!!」
「オメデトウ! 南ちゃん!」
「ま、気合団よりはマシかしら」
「良かったな南」
「うう、俺の気合団が気合団が」
それに喜ぶ面々。
南はどうだと言わんばかりに天高く両手を上げ、素直に勝とアメリアは祝福し、逆に素直ではないが良かったと拍手し祝福する北宮。
若干一名、結果にショックを受けている奴もいるが、しばらくすると復活し同じように拍手していた。
「そうと決まればエンブレムを考えるでござるよ!! 今日は徹夜でござる!!」
俺もそれを祝う拍手を送った後に、手に持った煙草に火をつける。
そして吸った煙草の味はいつもより、少しだけおいしく感じた。
今日の一言
名前が決まると気分が変わるかもしれない。
今回は以上となります。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが9号で掲載されました。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。
 




