274 業務命令なら仕方ないと割り切るときがある。
「さて、各々言いたいことはあるだろうが、早速だが本題に入りたいと思う」
先の新人への事前説明会が終わり、一か月後に入社してくることが決まって、あとは入社日にどれだけ来るか経過待ち。
俺たち現場の人間としての役割は一旦終わりを見せた。
一か月後に入社してきたら入社してきたで、きっとまだいろいろとやることがあるのだろうが、それはその時に対処すればいい。
新人研修の段取りもコツコツと進めており、今のところは問題はない。
ただ、綺麗に終わってくれないのがわが社の悪いところなのだろうか。
事前説明会が終わって、新人たちから質問攻めにされ、戦うのが怖くないのかとかどうやったらそんなに強くなれるのか、挙句の果てには年収はいくらかなんて質問を捌き新人たちを送り出して仕事が終わりという時にケイリィさんが去り際に。
『あ、そうそう次郎君』
『なんですかケイリィさん?』
『君たちのパーティ名ってなんだっけ?』
『パーティー名?』
忘れていたという感じで、俺に聞いてきた。
司会進行を担当していた彼女は、書類を見ながら事前説明会の報告書のことを考えていたのだろう。
俺が疑問符を挙げたことによって書類から俺の方に視線を向け。
『あれ? 決まってなかったっけ?』
『いや、そもそもパーティー名って必要だったんですか?初耳ですよ』
互いに疑問符を浮かべあうのであった。
『………いやぁ、予想以上に新人さんが入ってくるってことでさすがにチームごとに名前分けないと把握できなくて、さすがに番号とか記号で区別されるのっていやでしょう?』
『まぁ、そうですが』
と、同意はして見せるが、絶対に伝え忘れていたのはわかる。
その頬に垂れる冷汗は見逃さない。
『ということで、来週までによろしく!!私、このあとちょっと忙しいから!!』
『ちょ!?』
さてこれからどう来るかと身構えていたが、そこを勢いでごまかして立ち去られてしまった。
しかも期限が思ったよりも短い。
走り去るケイリィさんを見送り追いかけるわけにもいかず。
「仕方ない」
と割り切り、次に全員が集まる日取りはいつだったかを頭の中で再確認し。
集まれるのが期限を二日残しての今日であった。
「確かに拙者たちのパーティーには名前がなかったでござるが………すごい今更感があるでござるのは、拙者だけでござろうか?」
「言われてみれば確かにっていうのはあるけど、私たち一党で慣れちゃって私も今更って思うわよ」
「ん~、私はチョット驚いたかナ」
事前にメールで周知し、それぞれパーティー名のアイディアを考えてくるように頼んでおいたからこの話し合い自体は問題なかった。
ただ、南の言う通りこの話題は今更の話だ。
「愚痴りたい気持ちはわかるが、我慢してくれ。これからダンジョンテスターが増えてきて、さすがに一番隊とかAグループって呼ばれるのは嫌だろ」
不満ではないだろうが、今まで俺を含めたそれぞれの名前でグループの印象を残してきた。
そこに改めて名前を付けるという話は少々微妙な気分だ。
嫌ではないが違和感はあるという心情を大なり小なり各々持っている。
「まぁまぁ、良いじゃないっすか。他のパーティーも名前を付けているみたいだし、俺達もかっこいいのをつけるっすよ。ね?勝君もそう思うっすよね?」
「いえ、僕自身こんなことしたことがなかったので」
「あ~勝はこういうのやったことがなかったでござるしなぁ」
各々好きな席に座り、距離は離れてはいるが、声はお馴染みの魔紋で強化された聴覚によって聞こえるので会話には困らない。
俺と海堂はお馴染みのテーブル席に座り、南と北宮、アメリアはソファーに勝は各自の飲み物を用意し配り終えたのち俺と海堂の向かいの席に座った。
コーヒーにココア、緑茶に、紅茶、オレンジジュースとそれぞれの好みが出ている形ではあったが、それも俺たちらしさだろう。
「参考になるかは知らんが、ケイリィさんに頼んで他のパーティー名を聞いてきた」
各自、話を聞く態勢ができたので、俺はあらかじめ用意していたパソコンにあるメールを開く。
差出人はケイリィさん。
そして、今から話す内容に皆興味津々のようだ。
なにせ、人生、生きている間にパーティー名なんてものを決める機会など早々ない。
オンラインゲームなどをやっている輩ならゲーム内で決めたことはあるだろうが、それを名乗るなんてことはないだろう。
音楽活動をしている人ならバンド名といったものはあるだろうが、そういったものともまた違う。
「最初は、魔法使いだけの男パーティーのところだが黄金の丘だそうだ」
「どこら辺が黄金なんっすか?」
そして、最初に読み上げたパーティー名が悪かったのだろうか、いきなりファンタジー小説に出てきそうな冒険者のパーティーに海堂からツッコミが入る。
「知らん、理由も聞いていないからな。当人たちが話し合って決めて落ち着いたんだろ」
「最初からそういった名前が出てきたんでござるから、拙者としてはハードルが下がって助かるでござるよ」
「そうかもね、私もこんなこと決めたことないから」
「次行くぞ、次は火澄のところだ」
「……」
あえていかにもって感じのパーティー名を挙げたことで、発言しやすいようにした。
おかげで空気は緩み、話しやすい空気ができる。
ただ、火澄という名前が挙がったときに北宮が反応するかと思ったが、彼女は気にしたそぶりも見せず紅茶を飲む。
「パーティー名は翼、これはケイリィさんから聞いた話だが飛翔や躍進できるようにという考えをシンプルにまとめたらしい」
「なんと言うか、普通って感じっすね。捻りがないって言うか」
「そうカナ? わかりやすくていいと私は思うヨ?」
火澄たちのパーティー名への反応は普通といったものだろう。
奇抜性を狙ったわけでも、かといって地味と言うわけでもない。
真面目なチーム名に、なるほどとそれぞれ納得に色を見せた。
「次だが、神崎たち女性パーティーの名前だ。step beat。意味はリズムよくまとまってという意味らしい」
「こっちも真面目系で来たでござるか、となると拙者たちはファンタジー系で攻めるべきでは?」
「なんでそうなるのよ」
今のところ、南の言う通りファンタジーっぽい名前は最初のパーティーだけ、残った二組は綺麗にまとめてきたといった印象だ。
バランスを取るなら、俺たちは南の言う通りファンタジー系の名前を名乗る必要がある。
「拙者たちは、仮にもダンジョンテスターのトップチームでござるよ!! ここでショボイ名前を付けるわけはいかないんでござる!」
「四チームしかないのに何言ってるのよあんた」
「そういうのなら、南から発表してもらうか」
「任せるでござるよ!!」
ただ、そういう指定があるわけでもなく。
ただ俺たちだとわかるような名前であれば問題ない。
なので、ここはこういった話題での切り込み隊長である南に発表してもらうとする。
堂々と立ち胸を張る彼女の姿に、俺たちの視線が集まり。
「拙者の考えたパーティー名は月下の止まり木でござるよ!! 月の神様を信仰する魔王軍の会社でござるし、そこに集まっているパーティーって意味で決めたでござる!」
「おお、南にしては普通だな、なんかこう、もっと中二病的な名前で来ると思ったんだが」
「私も」
「俺もっす」
そして出されたパーティー名に思わず、俺と北宮と海堂は呆然としてしまった。
特に無理だと切り捨てる気満々だった北宮は先ほどの会話もあってか意外と普通な名前が出てきたことに驚きを隠せていない。
「イイネ! 南ちゃん! その名前私好きだヨ!」
「まともだ」
アメリアは素直に褒め、勝は普通に感心している。
そのリアクションに満足そうに頷いている南。
「いや、だって、拙者たちが名乗るんでござるよ? 中二病の名前とか普通に恥ずかしいでござる」
「あんたって、そういった分別はできるのね」
「他人のことだったらもっとすごいの考えるでござるよ~」
一瞬だけ真顔になる南に北宮が神妙に頷けば、すぐにふにゃりと南は表情を緩める。
「さてさて、次は~海堂先輩!! GOでござる!!」
「ええ!? まさかの指名制っすか!?」
「ほらほら、拙者の後に海堂先輩がどんなパーティー名を言うか楽しみでござるよ~」
「うへぇ、南ちゃんの後っすか意外な方向で裏切られたっすから、言いづらいっすねぇ」
そして、流れで海堂に指名が行き、しぶしぶ海堂は立ち上がり自分の考えを言う。
「俺が考えたパーティー名は、気合団っすよ!! どうっすか?」
「暑苦しいでござるな三点」
「十点満点っすよね!?」
「百点満点に決まってるでござるよ」
「赤点っすよ!? いや、良いじゃないっすか気合団、うちってわりと精神論で解決する部分もあるし、名前は存在を表すって言うじゃないっすか」
そして良い感じに海堂が滑ってくれた。
ないと表情で語る北宮の脇で南も同じ表情でバッサリと切り捨ててくれる。
正直俺もないなと思いつつ、表情に出さずコーヒーをすする。
「ええ、もう!! わかったっすよ、そんな顔をするなら北宮ちゃんはきっと良い名前があるっすよね!? 次は北宮ちゃんっすよ!!」
「私? いいけど、あまり期待しないでね」
南の煽りに海堂は地団太を踏み、やけくそ気味に北宮を指定すると彼女は紅茶のカップを置き、前置きを挟み立って発表する。
「春夏秋冬と書いてひととせ、苗字で調べているうちに見つけていいなって思ったのよ。私たちのパーティーって色々な性格の人がいるでしょ? それが繋がって一周する季節が私たちと似ているなって思ったの」
「北宮らしい考えだ、俺は良いと思うぞ」
「うん! とっても綺麗だと思うヨ!! カレンちゃん」
「そう、気に入ってもらえたらうれしいわ」
「ぶーぶー」
「はいはい、南ちゃん滑らなかったからってブーイングは無しっすよ」
真面目な北宮らしいパーティー名だと思う。
綺麗にまとまっていていいと思う。
さて、これで半分の発表が終わった。
残るは俺と勝とアメリアだが。
「次の人を指名すればいいのよね?」
気づけば指名制で発表する流れになっていたが、話がスムーズにいくのでこのまま流れに任せる。
少し悩むような仕草をした北宮が指名したのは。
「それじゃ、勝君お願い」
「僕ですか?」
勝だった。
まぁ、流れ的に女性男性女性と来たのだから、勝が指名されるのも納得だ。
「あまり得意じゃないんですけど、考えてきました」
正直、俺自身も勝がどんな名前を発表するか気になる。
南も海堂も北宮もそれぞれらしい名前を考えてきた。
そんな中で勝はどんな名前を出してくるか。
オズオズと立ち、北宮が座ったのを待ってから彼は口を開いた。
「チャレンジャーっていうのはどうでしょうか。ダンジョンテスターって、ずっと挑み続ける職業なので、そのままの意味で分かりやすいかなって、少し単純だなって思ったらもう少し付け加えられますし」
「お、良いじゃないっすか、かっこいいっすよ!!」
「気合団と比べたらかわいそうでござるよ~」
「いいんじゃない? わかりやすくて」
「……」
その名前を付けた理由を俺は少しの間素直に受け止めていいのかと悩む。
勝の心境も実はそんな感じなのかとも悩みつつ、少し遅れる形でいいんじゃないかと頷くと勝もほっとしたような感じで表情を緩めた。
「それじゃ次、アミーさんお願いします」
「OK! 次は私だネ!」
そして、次に指名されたのはアメリアだ。
元気印一杯。
右手を挙手し、一番明るく立ち上がった彼女はニコリと笑みを浮かべ。
「LegendBraveParty!」
と元気に言ってくれた。
アメリカ育ちは伊達ではなく、そのネイティブな発音がパーティールームに響き。
「略して、LBPだヨ!」
「直訳すると、伝説の勇者一行でござるかぁ。まさか、アミーちゃんがそこら辺を持ってくるとは」
「Yes!! 私、こういう名前大好きなノ!」
「ちょっと、意外だったけど悪くはないんじゃないかしら?」
「俺、ちょっと英会話の勉強しようかなって思ったっす。さっきの名前ネイティブに言えたらかっこいいっすよね」
「本当!」
少し反応が遅れた。
最初に南が名前の意味に気づき、おそらく意味はそのままなのだろうがこれはまた賛否が分かれる名前が出てきた。
北宮と勝の反応は少し意外という反応。
海堂と南の反応はいいかも?と賛成寄りの反応。
俺はと言えば有無しの判断で行けば、ギリギリ有りだ。
思いのほか好評な反応に、アメリアは喜びピョンピョンと跳ね回る。
全力で跳ねると天井を突き破ってしまうため、加減はしているのだろうが、それでも結構な高さを跳んでいる。
「それじゃ、最後は次郎さんだネ!!」
「最後かぁ、まぁいいか」
そして、一通り満足したアメリアは俺の方に向き笑顔で俺を指名した。
南に始まり海堂、北宮、勝、アメリアときて最後に回ってしまった。
皆それぞれ良い名前を考えてきたなと、感心しつつ。
俺も気楽に答える。
全員立って発表したこともあり、俺も素直に立ち上がり。
「シード&スプラウド、アメリア風に言うならS&Sだ」
皆の注目が集まっている中で俺は俺の考えたパーティー名を告げる。
「種と芽、俺たちは最初は何もできなかった。だが、ここに集まって種から芽生えこうやって各々の花を咲かせて今の俺たちがある。その初心を忘れないという意味で俺はこの名前を提案する」
「おお、リーダーは真面目系でござるか」
「なんと言うか俺達らしいって感じっすね」
「種と芽か、いいんじゃないかしら」
「俺も、良いと思います」
「うん! わかりやすい!」
そして全員のアイディアが出たところで。
「さて、このアイディアの名からうちらのチーム名を決めるか」
改めて話し合うとしよう。
今日の一言
必要なことだとは思うが、改めてとなると気恥ずかしくなる。
今回は以上となります。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが9号で掲載されました。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。
 




