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26 休むことも仕事だ(昼)後

冬は寒い!!

当たり前かもしれませんが、昨年は暖かったので油断しました。

コーヒーうまいと思いながら投稿いたします。

田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



皆は触らぬ神には祟りなしということわざを知っているだろうか?

単純に言えば、関わらなければ何も起きないということだ。

似たことわざで、雉も鳴かずば撃たれまいというものもあるが、これは自発的に行動して災いを招き入れるという意味だ。

どっちにしても自発的に行動して、失敗している代表例であるのだが、さて、なぜ俺がこんな言葉の例を挙げているのかは敏い人なら一目瞭然だろう。


「肉!! もっと焼きなさいよ!!」

「お~、アニメの世界だけかと思っていたでござるが、失恋のやけ食いをする女性が実在するとは思っていなかったでござる」

「南ちゃん、ちょっとこっちに来るっす」


BBQセットの前に陣取って次から次へと半泣きで肉を口に突っ込む顔見知り? 知り合い?は、顔を知っている同僚の女性、北宮香恋きたみやかれんだ。

ごく一部がスレンダーすぎるかもしれないが、アイドルグループにいても没個性とならない勝気な顔立ちの彼女はすべての状態を食欲に向けようとしている。

ちょっかいをかけそうな南は、肉を焼くのに忙しい勝の代わりに海堂が引き離す。


「どうしましょう?」

「スエラがダメだと、俺もダメっぽいからなぁ」


困ったように俺に彼女のことを尋ねるスエラには申し訳ないが、最初に声をかけた時の雰囲気から察すると俺が声をかけると火に油を注ぎかねない。

ついさっきのことだ。


『大丈夫ですか?』


海から上がった俺たちはただ事ではない剣幕で走り去る北宮を放っておくわけにはいかず、何事かと思い海堂たちには悪いが声をかけずに彼女の後を追った。

そして、ビーチの片隅、岩場になり人気が少なくなる場所で膝に顔を埋める彼女を見つけた。

男の俺が声をかければあらぬ疑いをかけられると思い、休日に仕事をしてもらうのは心苦しいがテスターの管理職に携わるスエラに声をかけてもらった。


『ほっといて』

『ですが』


素っ気ない。

感情が高ぶって極力相手を傷つけないように配慮しているのだろう。

それが分かっているから、スエラも元気づけようと目線を合わせるが


『うるさいわよ、あんたたちみたいなやつらがあたしに何の用だって言うのよ! 何!? あいつに嫌われたあたしを笑いに来たの!?』


いや、知らないしと言いたいが、スエラの立場を考えると何も表情を変えずに待ったほうが得だろう。

取り付く島がない。

最初は警告、次はない。

そんなテンポで彼女の感情は爆発した。


『そんなことはありませんよ、私たちはただ何かあったのかと心配になって追ってきただけです』

『余計なお世話よ、ほうっておいて』


そんな一時の感情も、優しく、刺激しないよう真剣に対応するスエラに鎮火されるが、今度は殻に篭られてしまう。

そうなってしまえば、こちらの声など聞こえはしないだろう。

仮に聞こえたとしても、今の状態では無視するのは目に見えている。

ここいらが引き時だと俺は判断できるのだが。


『次郎さん』

『おう、勝、呼びに来てくれたのか?』

『はい、次郎さんがいきなり走り出したって聞いて、俺と先輩で探していたんですが』


この場合、タイミングは良いのか悪いのかわからないが、勝が来たのならもう関わるのは終わりだ。

どうしたのですかと事情を聞いてきた勝に説明する。

さて、このあとどうするか

同僚として冷たい対応かもしれないが、俺たちは部外者、言わば第三者の立場だ。

退散するのも一手だ。

まぁ、後味が悪い結果になるのは目に見えているのでイマイチそっちの選択は取りにくい。

偽善から来る行動、自己中心的で勝手に介入する野次馬的な行動だが、善意で助けたいという気持ちに嘘はない。

さすがの俺も、目の前で泣いた女性がいればどうにかしたいという気持ち程度は湧く。

スエラが一緒だから浮気だと勘違いされる心配もない。


『と、いうわけだが、スエラが取り付く島がないんだったら俺はお手上げだ。何かいい手はないか?』

『そうですね、ちょっと待っていてください』


駄目でもともとで、年下の勝に聞いてみたが、返ってきた答えは思った中では最善の返答であった。

俺はてっきり、難しいとか無理ですね辺りの答えが返ってくるものだと思った。

予想外の返答に軽く返事すると勝はその場を走って去っていった。

その間、俺はスエラが黙っている北宮(スエラが名前を知っていた)をゆっくりと慰めているのを見ているしかなかった。


『……何やっているんだ?』

『私に言わないでください』


見ているしかなかったのだが、遠目から浮いて接近する物体があればそれに注目するしかない。

BBQセットやパラソル、ビーチチェアを浮かばせて運んでくる張本人のメモリアに聞くところ勝の指示らしいのだが、奴はゆっくりと下ろされたBBQセットで早速肉を焼き始める。


『どういうことだ?』

『事情を知らない私に聞かないでください』

『海堂、お前は知っているか?』

『知らないっす。勝が急に運ぶのを手伝ってほしいって言っただけっすから』

『南は?』

『知らないでござる』


この反応は何か知っているな。

単純に予想するだけならいくらでもできるが、南の反応も気になるここは様子見といこう。

としたのだが


「母、いやオカンは強しって言ったところか?」

「参考になりますね」

「女性としてか?」

「はい、今の私では同じ女性として共感することしかできませんが、それはある程度の仲があって初めて役に立つ。北宮さんにその立場は逆効果だったようですね」


女の機微は女にもわからない時がある。

その新たな経験をどうやら勝はスエラに与えたようだ。

勝がやったことは、単純に食事を用意して一緒に食べようと誘っただけだ。

しかし、ただ誘うのではなく。

釣りの駆け引き、気難しい猫を誘うようにゆっくりと待ち興味を持ちだしたタイミングで話題を切り出し。

一気にこの場に引きずり込んでみせた。

その様は、おおらかな器を持つオカンの技だった。

男なのに女子力と家庭力がマスタークラスの勝だからこそ成せることだ。


「勝からしてみれば、南と同じ扱いだったということか」


拗ねた子供はお手の物、オカンの感覚で機嫌をとってみせたみたいだ。


「面白くないって奴もいるみたいっすけどね」

「そうですね」


まぁ、その弊害といったものはある。

海堂とメモリアの視線の先にはかまってほしいとヤケ食いの北宮に交じるようにお皿を出す南の姿が見えた。


「どっちだと思うっすか?」

「彼の方は間違いなく保護者としての視線でしょうね」

「否定できないっすねぇ、俺から見ても同じ考えっす」

「彼女からすれば、横から突如現れた邪魔者、泥棒猫候補、女性からしたら気が気でないでしょう」

「そうっすかねぇ、俺には人気の先生を取り合う保育園の園児に近い雰囲気を感じるっすよ」


俺はどちらかといえばメモリアより海堂の考えに近いが……


「スエラはどう思う?」

「北宮さんは勝さんとはあまり接点ありませんから、これといった感情はないでしょうね。ただ」

「ただ?」

「現在進行形で育まれている感情はあるかもしれませんね。女性からしてみれば、共感して話を聞いてもらえる男性というのは非常に魅力的に見えてしまいますから」


そういうものなのかと思い、ステータスで強化された聴覚は適度な音量での彼らの会話を俺たちのもとに送り届けてくれた。

ゆっくりと聞き、事の成り行きを見守るためという建前のもとに、クーラーボックスから缶ビールを二本取り出し一本をスエラに差し出す。

ビーチチェアというのは本来一人用のものなのだが、となりを叩くスエラに従って隣り合わせで座るとしよう。


「聞いてるの!?」

「はい、最近火澄っていう男がもう一人のパーティメンバーばかり構うんですよね?」

「そうなのよ!! 私が彼女なのよ!! それなのにあいつったら!! 最近は美樹ばっかり!!」

「そうですか、どうぞおかわりです」

「ありがとう……美味しいわね」

「ありがとうございます。まだまだありますから、ちなみにそれ竜のお肉です」

「え!? うそ!?」


へこんでいたのが嘘みたいに元気になっている。

適度に相槌して、皿が空になるタイミングで、適度な量を補充し、話題も提供する。


「彼は本当にこの中で一番年下なのですか?」

「たまに海堂より大人に見えるが、まだ高校生だ」

「正直見えませんね」

「俺の方を見ながら言わないでほしいっす!?」

「それにしても彼女が言っている内容をまとめると、気の強い彼女よりお淑やかなパーティメンバーに乗り換え途中の男の浮気現場という総評にまとまるのですが?」

無視スルーっすか!?」

「なら、もう少し落ち着け海堂」

「それでどうなんでしょうか?」

「あえて触れなかったのだがな、随分食い込むなメモリア」


この好奇心旺盛な吸血鬼少女は、あえて避けていた内容に突っ込んでいく。

食べながら発散した。

主に勝へだが、北宮の話をまとめればダンジョン攻略を失敗してから北宮と火澄の関係はギクシャクしてきたらしい。

最初はデートをする回数が減り、会話でも間が持たなくなった。

そして、それに反比例するかのように一緒のパーティメンバー、美樹こと七瀬美樹ななせみきと二人でいることが増えたらしい。

最初は我慢し、彼女なりに彼との仲を戻そうとしたらしいが、あのきつい性格だ。

やることなすこと空回りしていったらしい。

そして


「あたし、何やってるんだろう」


北宮にとっては最後のチャンスだったらしい。

この施設が解放されて、全部謝って仲直りするつもりだったらしいが二人きりになるつもりで誘ったのがパーティで出かけることになり。

段々と二対一という関係になってしまった。

そこで、限界リミット

俺とスエラが見た現場につながるわけだ。


「はい、おしぼりです」


自己嫌悪に陥り、少し涙ぐむ北宮に勝はおしぼりを差し出す。

さっと紳士的に対応する勝に北宮の中の好感度は鯉が滝を上るが如く上がっているのではないのだろうか?


「さて、このまま勝に任せてもいいような気もするが、そうなるとあとで南のご機嫌取りが面倒になる。なので俺たちもそろそろ混ざろうと思うのだが、どうだ?」


それに年下に任せっぱなしというのもの大人の沽券に関わる。


「いいっすけど、何するっすか?」

「それが問題だよな」


正直、どっかのラブコメみたいに一人の男を複数の女性が取り合うライトノベルにありそうな内容だと思ってはいたが、箱を開ければ深夜枠のアニメか、昼ドラみたいな展開に戸惑い、何をするなんて考えてもいなかった。


「でしたら、これなんてどうでしょう?」


だが、そこはできる彼女、スエラが解決してくれた。


「これなら」

「面白そうっすねぇ」

「う~、まさる~」

「拗ねてこっちに来ましたね」


俺以外の半数は返事になっていないが、反対する雰囲気は感じられない。


「ただ人数が足りないな」


見る限り参加人数は偶数だ。

一応、奇数でもできるが、可能であれば端数は出したくはない。


「先輩、俺、スエラさん、南ちゃん、メモリアちゃん、勝、北宮さんの七人っすね」

「まぁ、俺が抜ければ「みんなひどいよ場所変えるなら変えるって言ってよ。おなかすいたァ!! スエラ、ご飯残ってる?」」

「「「あ」」」


その問題もあっさり解消した。

水中へと消えて行き髪の毛を湿らせ戻ってきたケイリィ、ドタバタしていたから存在を忘れていたがなんてタイミングのいいことだろう。

クーラーボックスから、缶ビールを取り出し呷る姿は妙に様になっている。


「ん? 何?」


誰かこの人を姉御って呼ぶ人いないか?

スエラと同じ歳なら間違っていないのだが、姿だけを見ると年下に見えてしまうんだよ。

とりあえず


「ケイリィ、手伝ってくださいね」

「へ?」


持つべきはできる彼女だなぁ。




「すごいでござるな!?」

「この施設の一番の目玉ですからね。加えて、今使用しているのはテスターとその関係者のみ」

「順番待ちせずアトラクションを楽しめるというわけか」


目の前にそびえ立つ水上の砦。

見た感じは吹きっさらしだがしっかりと組まれた骨組みのみとなっている。

その一本一本が足場となって様々な仕掛けが施されているらしい。

ルールは簡単で、二人一組になってのサバイバル戦、威力が設定された水鉄砲を使って相手を水中に落とせばいい水上サバイバルゲームだ。

難しいのは、相方を落とされても失格なので連携が重要となるわけだ。

安全は魔法によって確立されているらしく、たとえ最上階から落下しても無傷で痛みもないらしい。


「ここで俺のくじ運が試されるっすね」

「おい、やめろ。お前がそういう時は大抵男と組むことになるんだから」


実際問題男性三に対して女性はスエラ、ケイリィさん、メモリア、南、北宮と五人であるのでそこから男性コンビを作るのは確率的にはあり得るが高くはない。

だが、海堂というオチキャラになりやすいこいつが言うと再現されてしまいそうだ。

それはそれで諦めるとするが、問題は。


「なんで私が」

「……」


未だ勝以外打ち解けていない北宮と普段の元気印を剥がしとった南だ。

北宮は勝が誘ったらなんとなくで来てくれたのだ。

どちらも勝と組ませれば問題はないのだが……


「勝、分身できないか?」

「できません」

「だよなぁ」


あいにくと勝は一人しかいない。


「戦力が傾くと面白くないからそこはなんとかするとして」

「どうやるんっすか?」

「ステータスの高いスエラたち三人とこの中でスペックの高い俺と残りで分けてくじを引く、それである程度戦力が均等になるはずだ」

「なるほど」


ならばどちらにも我慢してもらう。

不満?

俺もスエラと組めないんだ我慢しろ。

恨みがましそうにこっちを見る南の視線には気づかないふりをして、手早く作った割り箸くじを引く。

結果


「こうなるわけか」

「なによ?」

「いや、お前運動得意か?」

「……元陸上部」

「それなら期待できそうだ」

「ふん」


見事に俺が北宮を引き当てたわけだ。

他の組は


「よろしくね少年!!」

「お願いします」


幼い少年を狙いそうな、少々犯罪臭が漂うケイリィ&勝ペア。

戦力的にはバランスは取れているのではないだろうか?

回復を担当している勝は最近、状況把握能力の成長が著しい。

元々家計のやりくりをしているせいで今できることを把握する能力には長けていた。

ダンジョンに挑むようになってからは、南の指揮能力に触発されてさらに成長していると言える。


「う~、勝~」

「南さん、今は楽しみましょう」


出来の悪い妹をたしなめる姉、といった南&スエラペア。

狙撃や爆撃、遠距離火力に注意が必要だろう。

幸いなのはほかの魔王軍メンバーと違って少なからず戦闘経験があるのでタイミングをつかみやすいのだがそれが通用するレベル差ではない。

距離を詰めるにしても、詰めさせてくれるのかにかかる。


「何を泣いているんですか?」

「フラグを折ったことに感動したっす」


そしててっきり俺と組むことになるのではと思っていた海堂はメモリアと組んでいた。

高校一年くらいに見えるメモリアと海堂を並べると、アウト!と叫びたくなるような何かがあるが、メモリアも見た目に反してスペックを持っている。

過去に数回強盗まがいの行為をしたテスターを読書の合間に鎮圧したことがあるらしい。

さすが吸血鬼。

戦力的には未知数。


「さて、ここまで長ったらしく説明したわけだが理由はわかるか?」

「わかんないわよ」


さほど仲良くないコンビになってしまった俺たちは準備室でそれぞれ自分にあった水鉄砲を探していた。

お馴染みのハンドガンタイプから、アサルトガンタイプ、狙撃銃タイプにガトリング、バズーカ、中身が水であってもなかなかに壮観だ。


「戦力的に見れば俺たちが一番バランスは取れているが、戦力的には一番劣っている。このままいけばまず間違いなく俺たちは負ける」

「……」

「不満そうだな?」

「負けるって言われて嬉しいわけ無いでしょう」

「それもそうだ」


まずはジャブ、探るように距離感を測りつつ会話の距離を詰める。

茶化すように笑ってやれば、不機嫌度がさらに上がるが、まだ大丈夫。

目尻が少し上がるのを見ての判断だが間違いではないだろう。


「まぁ、まてどうせなら俺も勝ちたい。勝った方が楽しめるからな」

「……」


空気の悪い状況で遊んでも楽しくはない。

こっちは楽しもうという雰囲気を出しつつ話す。

無視をしないのは根が真面目な性格だからだろう。

とりあえず話は聞いてくれるみたいだ。

俺はついさっき見つけた品を使って一番楽しんで勝てるだろう策を提示しニヤっと笑ってやる。

段々と聞いていくうちに、表情が変わる。


「本当にできるの?」

「任せろ」

「……いいわよ、やってやろうじゃない」


最初は半信半疑、だが俺の説明を聞いて、北宮は同じようにニヤっと笑ってみせる。

ああ北宮こいつ結構遊べるやつだ。

その表情を見て確信に至る。

必要な機材を申請する用紙をカウンターに提出して転送陣に乗る。

スタート場所は計八箇所でランダム転移される。

最初に移動するのは準備専用の部屋である。

これだけでそれなりの大きさの部屋ではある。

全員の準備が完了すると、ゲートが開きいざスタートとなるわけだ。

カウントが入り、ゼロと同時にゲートが開く。


「さぁ、いくぞ!!」

「しっかりやりなさいよね!!」


それと同時に全力で駆け抜ける。

足場が悪いわけではないが、今は体が重くなってる分慎重に行くが、これは遊びということで少々アクロバティックに行くとしよう。


「下にいたな!! 一気に行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待ちな、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「上っす! ってなんすかそれ!? 反則っすよ!?」

「まさか、それを使うとは」


魔力を循環させ強化した身体能力を使って通路から通路に飛び移る。

当然重力に従って落下しながらではあるが、飛距離的に問題ない。


「おら! 撃ちまくれ!!」

「あとで覚えていなさいよ!!」


ガコンと駆動音と共にドラムが回転する音が聞こえる。

空からの強襲は北宮の悲鳴によって失敗したが、度肝は抜けたようだ。

顎が外れんばかりに口を開く海堂めがけて、俺の背中に北宮が乗りガトリング砲を抱えて照準を合わせているのだ。

おそらくジャイアントの匠たちの作品なのだろう。

背中に人一人は入れるようなバケツを背負い、そこに一門のガトリング砲をつけた、お前それ遊びで使うものじゃないだろう?

って言いたくなるような代物を持ち出してきた。

欠点は二人一組装備であるのと、俺に攻撃手段がないのだが、俺は俺で移動役に徹し、盾のような補助アームを使って猿のようにいろいろな箇所を掴んで立体的に移動する。

叫びながら北宮の砲撃に慌ててアサルトガンタイプの水鉄砲を撃ち返してくる二人であったがこっちは物量が違う。


「あぶろふぁくわせふあ!?」

「落ちましたか」


いや助けろよ。

避けられるであろうメモリアには目もくれず、海堂に集中砲水、何発かこっちも当たり水鉄砲?と疑問に思うような威力を感じたが無事? 海堂を脱落させることに成功した。


「顔面って、容赦ねぇな」

「勝ったんだからいいじゃない!! それにしてもこれ結構面白いわね」


あれだけ容赦なくばらまけば確かに楽しいだろう。

北宮のストレススッキリ爽快の代償はあいつの顔面が写真に収めたいほど大変な表情になっていたが、気にしないでおこう。


「次行くぞ、落ちんなよ!」

「だったらシートベルトくらいつけなさいよね!!」


それをつけたら面白くないだろう?って制作者側からの意図が見て取れるというのは言わないでおこう。

コント的に面白いだろうな。

戦っている最中に落下する奴って。


「見えた!」

「おうおう、派手にやっちゃってまぁ」


この施設自体は大きいが、それでもすぐに相手を見つけられる程度の広さだ。

上下左右と動き回ればどちらかとかち合うと思っていたが、撃ち合っている場所に出くわすとは思わなかった。

ショットガンタイプとバズーカタイプを使うスエラ・南ペア、それぞれ一丁ずつ背中に持ち使い分けることでケイリィさんを近づけないように立ち回りながら、勝を倒そうとしている。

対するケイリィ・勝ペアは、機動性重視でハンドガンタイプでは火力の高いものを選択し二丁拳銃スタイルで攻め立てている。

球切れの心配がないからこそできる乱射は楽しいだろうな。


「死ねぇぇぇぇぇ!!」

「何事でござるか!?」


まぁ、そこに容赦なく俺たちは割り込んでくるのだが。

またもや、北宮の声で強襲に失敗、案の定気づかれてこっちにめがけてバズーカで撃ち返してくる。


「ここでネタ武器を選択するのはさすがリーダー! わかっているでござるな!!」

「ハハハハハハ!! だろ!?」


段々と楽しくなってきた俺は、動きをさらに激しいものにして水の飛び交う空間を動き回る。


「ちょっと! もう少し安定できないの!? 当たらないじゃない!?」

「無理言うな!? 三つ巴でそれどころじゃないわ!?」


撃って撃たれて、すでに俺も北宮もぐしょ濡れ。

叫んではいるが、互の顔は笑っていた。


「スエラ覚悟!」

「甘いですよ次郎さん!」


彼女であるスエラにも容赦なく放水しようとしたが、さすがに身体能力の差に加えて重量を抱えては動きに差が出る。

物量は勝っているが、そもそも動きが違う。


「あら? あたしを忘れるなんて寂しいことしてないわよね?」


加えて女豹のように動き回るケイリィさんも厄介だ。

全員が敵なおかげで、なんとか立ち回れているが


「!? 鼻に入ったァ!?」

「スエラさん任せたでござる!」

「遠慮せずにどうぞ南さん」

「まさかの裏切あぶろ!?」

「楽しいわねこれ!」

「ちょっとやりすぎブフ!」

「当たったでござるよ!! ぶは!?」

「当たったな?」

「やったでござるなまさる!?」

「アハハハハハハハハ、楽しいわねこれ!!」


顔面にくらった水を皮切りに、もはや敵も味方も関係なく砲水の祭り。

現実じゃできない動きにテンションに拍車がかかっているのもあるが、水鉄砲というスエラとケイリィさんたちにとっても未知の体験に普段よりテンションが高めだ。

でなければ、スエラが避けて南に砲水が当たるように仕向けないだろう。


結果


「あ~負けたァ!!」

「何よあの二人!! めちゃくちゃ強いじゃない!!」


俺たちは仲良く水面に浮かんでいた。

装備は水面に着水すると自動的に回収される仕組みらしく、俺と北宮は手ぶらだ。

全力であそび倒した結果の敗北は悔しくもあるがスッキリと心なしか爽快感を残してくれた。


「お前が南ばっかり狙わなければ勝てたかもなぁ」

「う、いいじゃない狙いやすい位置にいるんだから」

「それも、誘われてたっぽいけどな」


でなければ、あそこまで正確にスエラがサポートに入れるわけがない。

最終的にはケイリィさんの砲水が北宮の顔面に直撃し、俺たちの砲水が止まったところを南のバズーカが直撃、バランスを崩して落下となったわけだ。


「いい顔になったじゃねぇか」

「そうね、そうかもしれないわ」

「えらく素直だな」


そんな結末であったにもかかわらず、北宮の顔は悔しさを浮かべながらも楽しそうであった。

それを指摘し、てっきり否定されると思ったが、意外と素直に認めてきた。

全力で遊んで心に余裕ができたのだろうか、最初に出会った時の鬱屈とした表情ではなく、落ち着いた声色であった。


「私だって、不義理じゃないわよ。あんたたちが親切心で私を励ましてくれているってことくらいわかるわよ」


だから、ありがとうと最後は素直じゃないが小さな声でお礼を言われて、悪い気はしない。


「さてな、俺は年甲斐もなく楽しく遊んでいただけだ」

「あんたっておじさんみたいだけど、歳いくつなのよ?」

「二十八だ」

「若いじゃない」

「ありがとよ」


時間も残り少ない。

心残りを少なくするためにあとは何をするかと考えながら南の落下を眺めるとしよう。

勝、決めポーズを決めるのはいいがこっちから見えてるぞ?

水柱が立つのを見て、からかうネタの一つと思うこととした。


田中次郎 二十八歳 独身

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



今日の一言

明日は筋肉痛?

そんなこと気にして遊べるか!!


とりあえず、昼の部はこれで終わりです。

次は夜の部と行きたいと思います。

これからも、勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をこれからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気が強くて不機嫌な女が出てきて、うわぁなんだコレ?と思っていたら、最後はなかなか楽しそうに読めた
[気になる点] 真情美樹→これ以降「七瀬」になっているところ [一言] 楽しく読ませていただいています(..*)ペコ
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