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268 たまに自分の職務を忘れそうになる。

 

 武器、武器、武器、武器。

 見渡す限りの武器の山とそれと比べるとすごい不自然な長机の上に置かれたチェック項目が書かれた書類。


「ハンズ、本当にこれ確認するのか?」

「仕方ねぇだろ、ダンジョンテスターでまともな前衛はお前だけなんだからな、日本とは別国からくるんだろ? それに合わせていろいろと俺らの方でこさえてみたんだ。そりゃ実験したくなるだろう」

「だからこんなに増えたのかよ……」


 移動用のキャスターに載せられた武具の量にエヴィアさんから引き受けた仕事が想像以上に厄介なのはわかった。

 顔なじみの武器屋の店長のハンズが笑いながらまだまだあるぞと言っているのにもはや苦笑しか出てこない。

 辛いときは笑うしかないとはよく言うが、これはちょっと笑えない。


「三節棍なんて使ったことがねぇぞ」

「ああ、大体でいいんだよ。攻撃して具合を確認してくれればいいんだよ」

「それなら、まぁ」


 ヌンチャクかと思い手にしてみたら、三つに分かれていたので三節棍だった。

 プラリと垂れる武器を見てどう使えばいいのかわからず、とりあえずカンフー映画みたいに振り回してみるが、俺には合わないのはわかった。

 他にも、ジャマダハルや鉄扇、チャクラムにショーテル、戦槌なんてまだマシで、誰が使うんだとツッコミを入れたくなるような変な形の武器もちらほらと。


「って、チェーンソーは武器じゃないぞ」

「? こっちの世界じゃそれを振り回して戦っている奴もいるって聞いたが」

「一部だ一部。それも現実的なやつじゃない方の奴だそれは。嫌だろ、こんな武器振り回してダンジョン攻略する奴がいたら」

「面白そうじゃねぇか。第一、俺たちが作る武器が戦闘に耐えられないと思ってるのかよ」

「思ってねぇから言ってんだよ、ヤバいんだろ? 切れ味とか」

「オウよ! 下級ドラゴンの鱗程度なら削り切ってやるぜ!!」

「その時点で初心者向きじゃないだろ、さすがジャイアント製やばいな」



 その中で気になったチェーンソーを手に持ってみたら、地球にある奴みたいにガソリンで動くのではなく魔石に魔力を流して動くようで、試しに俺の魔力を流してみたらこっちの奴より性能がいいのでは? と思わせるような滑らかな動きでチェーンに着いた刃が回る。

 試しに振ってみると悔しいことにさっきの三節棍よりも使いやすい。

 見事なバランス、使い手のことも考えられている。


「ちなみに値段は?」

「それ一本で百二十万だ」

「却下だ馬鹿野郎」

「馬鹿とはなんだ!! 試作品の中では一番安いんだぞ!! それに、お前らの世界でも有名な武器だというから作ったんだ!!」

「高いわボケ! それに、絶対それ映画とかの受け売りだろ!」

「いや、ネットで」

「どこの情報だよ」


 この店主ともなんだかんだで付き合いが長くなりつつあるが、相も変わらず自重という言葉が頭から抜け落ちている。

 チェック項目の中ではねる際に値段ではねる場合が出てきた。

 先行きが不安になる。


「それで? 何で検査すればいいんだ? ただ素振りすればいいってわけじゃないだろ?」

「おう、向こうにすべてのダンジョンの各階層のモンスターで強度が最硬度の奴に合わせた的作ったからよ。それで検査してくれ」

「意外とまともで助かったよ。俺はてっきり適当なモンスターとでも戦わせるものだと思ってたわ」

「そんなことしてたらいくら時間があっても足りねぇよ」

「違いない」


 武器の内容はともかく、やり方はまともでよかった。

 しかし、武器は良いとして防具の方はどうやって検査するんだ?


「ちなみに防具はどうやって検査するんだ?」

「あ? そんなもん着てみて攻撃受けるに決まってんだろ」

「嘘だろ?」

「冗談だよ! さすがにそんなことしねぇよ。まぁ試着して動きやすさは確認してもらうがな!」


 お前らの冗談はたまに冗談に聞こえないんだよと心の中でツッコミを入れつつ、このまま雑談に興じるわけにもいかない。

 始めるぞとハンズに声をかけてから俺も柔軟をはじめ体をほぐしてから武器を取る。

 正直、今の俺に切ることを前提とした武器を与えれば大抵のものは切れてしまう。

 それがダンジョンの入り口近辺の階層に出現するモンスター程度の強度しかないのならなおのことだ。

 だからこそ。


「ん~、こんなもんか」

「いやいや、その的の強度はアイアンゴーレムくらいはあるんだぞ」


 切っておいてそれはないだろうとツッコミを受けるも、俺からすれば切れたのだから切ったというだけの話だ。

 ただ、鉱樹と違いやはり初心者用に用意した武器だけあって切れ味はいまいち。

 切りにくかった。


「このシャムシールは初心者用に回していいんじゃないか? これ以上になるとさすがに上質すぎる」

「そんなもんかねぇ」


 そりの入った曲刀と言えばいいんだろうか、片手で振り回せる片刃刀。

 振った感触、軽くて切れ味もそこそこ。

 使い心地も悪くはない。

 ここまで使い慣れた長剣や刺突武器のエストックに短めの短剣、刀と刀剣類を中心に試験をした。

 切るだけなので一回の作業は短いが、それを繰り返さないといけないので思いのほか時間がかかる。

 朝の八時には始めているが、なんだかんだもうすぐ昼だ。

 二、三十分もすれば昼休憩に入る。

 それにもかかわらず、チェック項目も進んではいるが、まだ半分にも満たない。

 予想よりもかかるなと、水分を補給するために長机の上のペットボトルに手を伸ばそうとした時。


「ブラーヴォ!! 素晴らしい! あれが日本の侍の斬鉄と呼ばれる技法か!!」


 関係者以外いないはずの空間に知らない声が響く。

 何事かと思いその声のもとを見てみれば訓練施設の入り口に団体客が来ていた。

 それも、魔王軍にいるような他種族ではなく人間の団体だ。

 その中の一人が拍手し快哉を叫んでいた。

 遠目で見る限りイタリア系か?

 周りには同じ白人種や黒人、俺たち日本と同じような黄色人種も見える。

 大体二十人前後、男女比は同じくらい。

 体格差はやはり外国ということだけで日本人とは違う体つきをしている。

 三人ほど男の悪魔と吸血鬼そして女性のジャイアントの案内人がついているところを見る限り。


「あれが、第二期生か」


 入社式はまだ先だと聞いていたが、早めに現地入りしたのか? と思いつつ、下手に関わりを持つ必要はない。

 軽く会釈だけし、武器のテストに戻る。

 ここにいるってことは許可を取って見学をしているということ、会社的に問題のないなら俺が気にすることではない。

 そうしていろいろな武器の山のテストを繰り返しているが。


「おいハンズ、まだいるが何かあったのか?」


 見学だけなら十分も見れば十分だろう。

 それなのにまだ第二期生の面々はその場から離れていない。


「いや、なんかテスターの奴らが騒いでいるらしくてな」

「トラブルか?」

「いや、案内の奴らが言ってこないってことは大丈夫だと思うんだがな」


 ハンズの言う通りさっきからテスターの何人かが案内人に向けて何かを言っている様子が見える。

 中にはシャドウボクシングをしている奴もいる。

 そんな奴らを落ち着いてとたしなめているようにも見える。

 日本人と違い、外国人はいろいろと積極的だなと思いつつテストを続けようとハンズに声をかけようとするが。


「ジロウ、テスト中にすまないがテスターの相手をしてくれないか?」


 悪魔の案内人から声をかけられてしまった。

 そいつはスエラと同じ人事部の悪魔で何度か顔を合わせたこともある。

 知らない仲というわけではない。


「何か問題でもあったか?」

「ああ、午前中に魔紋を刻み終わったんだが、どうもさっきから力を持て余していてな。君の実力を見て自分の力がどこまで通用するか試してみたいって言うんだ」

「教官、鬼王様あたりに話を振れば喜んで対応してくれると思うんですけど」


 どうやら魔紋で力を増してすこしヤンチャになっている輩がいるみたいだ。

 魔王軍っぽく言うなら、力がみなぎっているこれならだれにも負ける気はしないといった感じだろうか?

 負けフラグ立ててるなぁと感心しつつ、こんな話を放っておかない御仁の名前を挙げれば勘弁してくれと悪魔の男も苦笑する。


「あの方に預けて無事だと思えん。その点君なら手加減はしてくれるだろう?」


 この悪魔の顔立ちは欧州人っぽい。

 だから彼らの案内に選ばれたのかもしれないが、こういったジョークもそれっぽい。

 さすがに教官たちみたいに一撃で再起不能にしかけるようなことはしない。

 だからといって。


「全員相手にしろと?」

「いや、こちらで三人くらい選ぶつもりだ」

「わかっていると思うが、忙しいんだぞ?」

「そこは頼む」

「……わかった」

「助かる」


 全員相手している暇はない。

 なのでそこはあらかじめ釘をさすが、悪魔の男もそこら辺は承知しているのか俺が渋々でも了承してくれたことに喜びその足で二期生のもとへと戻っていった。


「おめぇも大変だな」

「まぁいいさ、適当に相手するわ」

「油断して負けんなよ」

「するか、負けたら教官たちに絞られる」


 おかげで一旦武器の試験は終了だ。

 なにやらひと悶着あったようだが、三人選ばれこちらに歩いてくる。

 一人は先ほど喝采を挙げたイタリア人っぽい男。

 二人目は見るからにガタイのいい黒人の男。

 恐らくアメリカ人だろうか?

 三人目は俺と同じ黄色人種の女性だ、アジア圏の人だとは思うがどこの国かまではわからない。


「やぁ! 侍くん! よろしく頼むよ!」

「ふん! こんな奴が最強のテスターだと? 笑わせるぜ」

「同意するわ」


 第一印象はイタリア系を除いて悪い。

 とても日本語上手ですねと笑顔で対応できるような雰囲気ではない。


「ようこそMAOcorporationへ、私は田中次郎だ。一応君たちの先輩ということになる」


 それでも社会人として営業スマイルの一つは浮かべる。

 右手を差し出し握手を求めればイタリア系の男は素直に握り返してくれるが、ほか二名は片方は笑いもう片方は冷たく見つめるだけ。


「僕はベニート、ベニート・カリーニだ。ベニーでいいよ。いやぁ噂で聞く日本の侍に会えるとは思わなかった。是非とも、仲良くしたいものだ! ああ、君の方が年上だったら失礼」


 そんな対応をされているからか、ひときわ目の前の男ベニーがいい人に見える。

 よほどうれしかったのかニコニコと笑うその表情にしっかりと生やした顎髭がまた似合う。


「よろしく頼むよベニー、そしてお二人も。そしてすまないがあいにくと仕事中でな、長くは君たちの相手はしてられない、申し訳ないがそこの山から手早く武器を選んできてくれないか? 必要ないなら別に構わないが」


 そんな彼と雑談に興じるのもまたいいかもしれないが、残念ながら今は仕事中でこの会話こそ寄り道。

 ベニーには申し訳ないが手早く済ませてもらう。

 俺の声に反応して三者三様違う反応を示す。

 ベニーは嬉しそうに、そして黒人の男は鼻を鳴らして睨みつけるように。

 そして残った女性はというと。


「武器は不要よ、私はこれでも太極拳の道場で師範代を務めていたわ」


 北宮のように気の強そうな発言だなと思いつつ、私が最初よと歩み寄ってくる女性を相手に向けて俺はと言えば。


「そうか、なら私も素手でお相手を」


 武器を使うわけにもいかず、そのまま手ぶらで歩み寄っていく。

 その態度になめられていると感じたからだろうか、綺麗な顔の眉間にしわが寄り、睨みつけられた。

 彼女はそっと持っていた鞄を近くにいたジャイアントに預け、そっと構える姿は様になっている。

 一般人ならその気迫に気圧されるほど彼女の視線は鋭い。


「どうしたの? 構えなさい!」


 その声の張りも鋭く力強い。


「自然体が私の構えなので。いつでもどうぞ」


 ただそれは一般人と比べたらの話。

 その程度の気迫を浴び慣れている俺からすれば、そよ風のようなもの。


「舐めるな!」


 そして俺の態度が気に食わない彼女と言えば、武術家としての矜持を傷つけられたと思ったのか。

 容赦なく踏み込みその自慢の拳を俺のみぞおちめがけて打ち込んでくる。

 その動きは確かに滑らかで素早い。

 魔紋で強化された体を上手に使っている。

 だが。


「!?」

「はい、これで私の勝ちです」


 所詮はまだ常識の範囲内。

 常識外にいる俺からすれば、先に行動されても十全にその動きを観察し同じ動きをして返すことはできる。

 彼女の踏み込みから打ち込みまでの動作を丸々コピーし、打ち込む場所だけみぞおちから顔へと変更し寸止めする。

 ただし彼女以上の踏み込みと拳圧による突風を添えて。


「さて、次をお願いします」


 髪がなびき髪型が崩れたことなど気にしてられないほど、先ほどまでの自信はどこに行ったか、冷汗をかき崩れる彼女を脇目に俺は次の対戦相手を探すのであった。



 今日の一言

 経験の差はさすがにある。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売されております。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

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 新刊の方も是非ともお願いします!!


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そちらも楽しんでいただければ幸いです。


これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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