266 思い返すとすでに季節が一周している
前の会社でも、というよりは前の会社は人の移り変わりが激しかった。
その大多数の理由が、仕事がブラックすぎてついていけないという内容だった。
だからだろうか、俺の中で先輩後輩という感覚があまり芽生えなかったのは。それでも多少は芽生えていたりするが。
俺の中で後輩と言えば海堂の名前がすぐに挙がる。
他にも考えれば剣道部の学生時代の時の後輩とかも思い出せるが、真っ先に思いつくのはやはり海堂だ。
何せ前の会社じゃ、なんだかんだ言って長い付き合いをしてきた。
あいつ以外にももちろん前の会社では年下で後から入ってきていろいろと教えた奴はいたが海堂ほど長持ちした奴はいなかった。
いろいろと教えてきたということもある。
そんな俺であるが、どんな因果か転職してダンジョンテスターという全世界探しても稀有と表現できる職業に就き、それなりに成果を出してきた。
同期で入ってきたテスターの半分以上がこの一年で辞めてしまった。
それでも、その苦労を乗り越えて俺はこの会社にいる。
さて、長々と後輩について語ったが、なぜこんなことを考えているのかといえば。
「はぁ、と言ってもまだ入社してくる春にはもう少しかかるんだがなぁ。ここだと春らしさは欠片もないが」
ダンジョン探索中の雑談の話題に第二期生のダンジョンテスターの話が上がったからだ。
なんとも捻りのない理由で申し訳ないが、雑談というのはこんなものだろう。
「確かに見る限りここだと季節感とかないっすねぇ」
「そうでござるなぁ、ここは年中ジメジメして薄暗くて、何やら籠っている感じでござる。少なくとも華やかって言葉から一番縁がないと思うでござるよ」
ある一定の敵の波をしのげば、こうやってダンジョンの中でも会話ができてしまうので、そうなると話題というのは一転二転し、自然と近況の話に落ち着いてしまうのだ。
「そもそもダンジョンの中って季節ってあるのかしら?」
「ん~、前に行ったダークエルフのダンジョンは有りそうな感じダッタヨ?」
「あそこは花とか植物とか多いですからね」
人事部が忙しくなる最中で、俺達に後輩ができるからといって通常業務に変化があるかと言えば、敵が強くなること以外に変化はない。
敵を倒してダンジョンの改善点を見つけるそれだけだ。
今日は不死王のダンジョンことフシオ教官が管轄するダンジョンに挑んでいる。
いつも通りのアンデッド祭り。
つい先日、街の探索を終えついに迷宮区の入り口を発見した俺たちは地下墳墓のような迷宮を歩きまわっている。
戦う相手は質も量も増え。
薄暗く、明かりはもちろん存在せず。
視界は南が用意してくれた魔法で確保している。
機王のダンジョンとは違った石造りの構造。
機王の方を整然とした機能美と表現するのなら、こちらは歴史を感じさせる遺跡のような雰囲気だ。
空気自体も淀んでいて、いかにも何かあると思わせるような雰囲気に本来であれば無駄口を叩く余裕など失せるはずなのだが……
「花っていったら、もうすぐ桜が咲くっすよね! そうしたらみんなでお花見やらないっすか! 俺、実はやったことないんっすよ!」
「花見か、俺も昔お袋に連れていってもらった以来だな」
この程度の雰囲気で気圧されるほどやわな精神を俺たちのパーティーで持っているのはいない。
海堂のある意味で空気の読めない発言に俺も乗っかる形で話を広げる。
だが、一つだけ勘違いしないでほしい。
ここはダンジョンで、他のテスターたちと比べれば圧倒的に進んでいる未知のエリアだ。
最前線と言い換えてもいい。
危険度はかなり高い。
そんな場所で和気あいあいみたいな感じで会話をしているが、街に住むモンスターたちとは質も量も段違いな空間で不死者たちと戦闘を繰り返している。
この鬱屈としそうな雰囲気に口数が減るかと思いきや、そんな雰囲気など気にしないメンバーは通常運行でダンジョン探索をする。
「そういえば、拙者もないでござるな」
「私は何回か家族と行ったわね」
「私もないヨ」
「俺もです」
ホラーな空間でもうすぐ来る桜の季節の会話とはなんとも噛み合わない話ではあるが、決して油断はしていない。
「あ~、雑談ストップでござるよ~そこの壁の向こうから来るでござるよ~って早いでござるなぁ」
「なんとなく見えたからな、ってなんだよその目」
「いや、リーダーの攻撃範囲が異常な件について拙者は問い詰めればいいんでござるか? リーダーって前衛でござるよね?」
「前衛の攻撃範囲が広いのは良いことじゃねぇか。文句言うなよ」
「南の言いたいのは私たちの存在意義の話でしょ? 後衛よりも射程の長い前衛がどこにいるのよ。ここに入ってから最初に敵の強さを確認するとき以外に魔法を使ってないのよ」
「それを言うなら前衛の俺もっすねぇ。何回か戦ったっすけど、それ以外は先輩が真っ二つにして終わりっすから」
「うう~みんなはいいよ。私ほとんど戦ってないヨ」
「俺も似たようなものです」
「総評して、リーダーはもう少し自重するべきだと拙者は思うでござるよ。このままだと拙者たちのステータスが上がらないでござるし、ダンジョンのテストのデータも集まらないでござる」
「……そうだな」
油断していないのだが、どうやら俺はやりすぎてしまったようだ。
知覚領域が広がり装衣魔法を身に着けたおかげで攻撃範囲が広がった俺は狭い空間でどれだけ運用できるか試していた。
そして現状この空間で使い勝手がいいのが風魔法を纏った状態だというのがわかった。
ゆらりと揺れる羽衣のような風魔法を鉱樹で振るうことによって鞭のようにしなり変幻自在に変化する刀。
不可視という部分もいい。
やろうと思えば斬撃の数すら増える。
装衣魔法というのは本当に多様性が高いからやっていて楽しい。
試行錯誤というのは物によっては苦痛になるが、自身の力を試す場となると少々毛色が変わり楽しめる。
纏う魔法によってその性質、形質、使い方次第で様々な場面に活用できてしまう。
現に、曲がり角から出てきそうだった地を這っていたUMAみたいなモンスターを近づけさせず両断した。
距離にして五十メートルは離れているだろう、魔力へと変換されるモンスターの側の壁に切れ込みがあるのが俺が切ったという証拠。
不死者相手なら、火属性や光属性、場合によっては雷といった属性も有効だ。
だが、あいにくと俺は光属性を身に着けておらず、この狭い空間で雷や火属性といったものを使うわけにもいかないのでこうやって風魔法で戦っているのだが……思ったよりも強力であった。
まぁ、地面を削り取り消滅させた武御雷よりはマシかと思いつつ、出しゃばりすぎたと反省し今後の戦いは海堂たちに任せるために下がる。
「南、ここから先はどうなってる?」
「偵察用の魔法を飛ばしてるでござるが、いくつか潰されているでござるなぁ。たぶん向こうにも魔法職がいるんでござろうなぁ。リッチとかだと思うでござる」
「厄介ね、不死者の魔法使いだと状態異常系が多そうだけど」
「樹王のダンジョンで精霊使いはいたケド、それとは違うんダヨネ?」
「そうですね、こっちの被害が増えるかもしれません」
「そうなったら頼むっすよ勝君!」
「はい!」
立ち位置を後方に移動し、殿を受け持つ編成になりながらこの先の地形のことを問うと、南が少し渋い顔をする。
どうやら偵察が普段よりも芳しくないようだ。
南の推測に北宮も口元に手を当て厄介だという。
不死者は総じてこちらの体調を崩す系統の攻撃が多い。
毒に瘴気、精神異常をきたす幻覚や肌を溶かすような溶解液、デバフ系統の攻撃が多い。
機王のダンジョンにも魔法を使う輩はいたが、それとは異なる警戒が必要だ。
「って、言ってる傍から来たでござるよぉ。強い魔力反応でござるなぁ。数は三、その前にはっきり言ってホラーみたいな光景が来るかもしれないでござるよぉ」
「数か? でか物か?」
「後者でござるね」
「うへぇ、アンデッドのでか物って耐久能力がヤバいんっすよねぇ。無駄にタフって言うか、なかなか死なないんっすよ」
「そうねぇ、凍らすのも難しいし、はぁ、属性増やすべきね」
「私の大魔法使う?」
「時間かけるのも嫌でござるし、リーダーのおかげで魔力の余裕もあるでござるな。今回はそれでいくでござるか。勝~アミーちゃんの魔力回復の準備をしておいてほしいでござる」
「わかった」
そして、どうやらその中でも大物が引っ掛かったようだ。
俺の耳に遠くからの大きな雄叫びが聞こえる。
そしてそれと同調するようにドスンドスンと重量のある足音がかなりの速さで走ってくるのがわかる。
「海堂先輩はアミーちゃんの大魔法の後に突撃でござるよ。北宮~氷の兵士で海堂先輩のサポートでござる。一気に後衛を叩くでござる」
「うっす」
「何体必要?」
「三体、全員片手剣と盾でござる」
「わかったわ」
指示された通りに海堂が前に出て、北宮が杖を振るえばそこに氷のゴーレムが現れる。
南が真剣な表情でタイミングを計り、そして薄い膜のような魔法を展開する。
「これは?」
「隠蔽魔法でござるよ。大魔法は攻撃力が高いでござるがその威力故に準備しているのがバレバレでござるから、こうやって魔力を感じさせないのが定石でござる。大砲用意してるってわかるような場所に突っ込んでくるバカはいないでござるよ」
パーティーを包むように展開されたそれはアメリアの魔力を隠す役割があるらしく、同じ空間にいるとわからないが、遮断した外側では魔力を感じ取れないのだろう。
恐らく、研修の時の模擬戦で使った奴か。
「簡易的でござるから、姿は隠せないでござるが、不意を打つならこれで十分でござる。さて、そろそろ来るでござるよアミーちゃん」
「OK! いつでもいいよ!!」
索敵で敵の大体の位置を把握している南は指を折り数えながら、アメリアに敵が曲がり角に姿を現すタイミングを計る。
三、二、一と指の本数が減りそして。
「今でござる!!」
「イッケェ!! セイクリッドカノン!!」
カノンと称しているが、俺から見れば極太のビームだろとツッコミを内心で入れる。
光の魔力へと変換された膨大な魔力の本流。
南のタイミングで胸元で溜め込まれていたアメリアの光属性の砲撃は結界を突き破り曲がり角から出てきた鎧を着た巨人めがけて突き進み、不死者なのに唖然としたような姿勢を取らせ。
「海堂先輩GO!! でござる!」
「了解っす!!」
「北宮!」
「言われなくても、わかってるわよ!」
ロクな防御態勢も取れずそのまま光に飲み込まれてしまい。
足首を残しそれ以外を消し飛ばす結果となった。
その余波で少し離れた位置にいたリッチたちもダメージを負い、その流れを断ち切らないように海堂と北宮の氷のゴーレムが突撃する。
「あ~リーダー、背後に回られたでござるからそっちをよろしくでござる」
「ヘイヘイ」
「勝~アミーちゃんの状態はどうでござる?」
「ポーションは飲ませたぞ」
「だったら、海堂先輩の様子がおかしくなったら回復をお願いするでござるよ」
「わかった」
「アミーちゃんもう一発お願いするでござる」
「OK!」
そんな時に南が別の気配を探知、俺もその気配を感じ取りその方向を見れば。
「どう見てもこっちが本命なんだが? そこら辺はどうなんだよ南」
「リーダーなら問題ないでござるよ。こっちは三分ほどで決着がつくでござるから、そうしたら海堂先輩をそっちに向かわせるでござるよ」
「そうかい」
重厚な盾を持ち、隊列を組み槍を構え。
さながら軍隊のように整然と行進してくるスケルトンの軍団。
街中で暴れていた雑魚とは格が違う。
鎧、武器ともに上等なものだ。
どうやらさっきの巨人は進路方向を妨害し、あわよくばこっちを混乱させるつもりだったんだろうが……
「なら、海堂に早めに動けって言っておけ、でないと喰いつくしちまうぞ」
「OK、経験値は逃さないのが拙者の流儀、なるはやでリーダーの援護に向かうでござるよ」
「そうしてくれよ」
そうは問屋が卸さない。
その思惑を喰い破ると口元に笑みを浮かべ戦意を高める。
「装衣、中位炎魔法」
そして、俺は俺で接近戦になるのならと魔法を切り替え、鉱樹と鎧に炎を纏わせる。
そのまま、前傾姿勢を取り鉱樹を右肩に乗せるように構える。
「往くぞ!!」
そして地面を蹴る。
俺の突撃に合わせて迎撃態勢を整えるが、そんなもの俺には関係ない。
魔力を張り巡らせ、炎をちらつかせ飛んでくる魔法は炎で燃やし、最短距離を走り抜ける俺にめがけて突き出された槍は。
「遅い!」
さらに前傾姿勢になりその下を潜りぬけ、整然と並ぶタワーシールドの壁の前に着き。
「鉱樹、接続」
根を腕に巻き付け魔力循環により炎の威力を瞬く間に上げ。
斬撃プラス炎魔法。
「次はもっと固い盾を用意するんだな」
横一線に伸びる一刀はわずかな余波でもダンジョンの壁をバターのように融解させ、そしてその被害を一身に受けた立派な鎧を身に纏ったスケルトンの一団はその炎に身を焼かれていた。
死ににくいアンデッドを倒すには炎を使うのが一番だ。
「さて、次行くか」
一振りで二十を超える敵を倒す。
そんなことは一年前の俺にはできなかった。
俺も成長したと思いつつ、そのまま笑みを浮かべ奥にいる集団にめがけて駆け出すのであった。
今日の一言
人間だれしも時が経てば成長する。
今回は以上となります。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが9号で掲載されました。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




