264 集団で動いていると個人同士で会話する機会ってあまり多くはない?
南と喫茶店で会話をした翌日。
夕飯時にだいぶ遅れ、若干ヒミクに拗ねられ機嫌を取るのに時間はかかったが、一緒に風呂に入ることで無事解決。
ウキウキとした彼女を見れて、勝のことで少し暗くなっていた気持ちをリフレッシュさせ改めて対応に当たろうと気合を入れたのだが。
「あ~……北宮? なんか用か?」
「話すことがあるのは、次郎さんの方じゃないですか?」
その気合も少し萎んでしまいそうな案件にぶち当たってしまった。
出社というよりは、いつも通りパーティールームに向かう途中、北宮が現れ私不機嫌ですといつもの三倍目が鋭くなり問答無用で人気の少ない休憩スペースに連れ込まれた。
こんなことをされる心当たりが多すぎる俺からすれば北宮が何を聞きたいのか手に取るようにわかる。
静かな場所まで連れてきて話すまでどかないと仁王立ちになっている彼女にどう話すかと悩む。
「はぁ、とりあえず逃げねぇからコーヒーでいいか?」
「紅茶で」
「はいはい」
南の次は北宮かと、モテる理由を把握している身としては当然の結果かと思いつつ、自分用のブラックコーヒーと北宮の紅茶を購入。
片方を手渡し、周囲に気を配りつつ話始める。
「立ち話で話すよう内容じゃないんだが……」
「部屋だと他の人が聞いているし、ここならあまり人が来ないわよ」
「どこの会社にも穴場ってのはあるんだな」
「そういうことよ」
せかす北宮に話すかどうか。
言うなれば今回の件は勝の家庭事情が絡んでくる。
同じ職場の仲間でも踏み込んでいいかどうかのラインで言えば確実にアウトだ。
南は当事者だ。
関わった俺が言うのもなんだが、仕事仲間であっても他人であった俺があそこまで腹を割って話せたこと自体が本来ならあり得ないことだ。
信頼してくれて話してくれ、助けを求められた。
南と勝、両方の信頼に応えねばと思わせられる。
そういう観点で見れば、北宮に関してもお前に関係ないときっぱり言い切るには関係性が薄いというわけではない。
心情的には話して協力を仰ぎたいところだが、常識的に考えれば話すことをためらう内容だ。
さてどうするかと悩む暇も。
「……」
睨みつけるようにこちらを見る北宮にはなさそうだ。
ため息の一つでもこぼしたいところだが、それもできなさそうだと思いつつ。
「俺が知っている内容はおいそれと話すことはできない。加えて言えば俺がやろうとしていることはお前がある意味一番嫌ってる類の話だ」
予防線を張り、それでも聞くかどうかを北宮に委ねた。
正直言えば勝の件は可能ならパーティーメンバー全員で対処したいと思っていた。
今後、これからも一緒に戦っていくのなら俺と南、そして勝といった内々で片づけて何かあったとしこりを残したくなかったからだ。
だが、それはあくまで俺の心情、考えだ。
勝と南の意思を無視してその考えを貫くつもりはない。
「それでも、聞くか?」
加えて言えば、今回の話は善意とはいえ恋愛感情を利用した形の行動になる。
それに対して北宮は決していい感情は抱かないだろう。
「私じゃ、力になれないってこと?」
「いや? 逆だな。南を除けばある意味ふさわしいのはお前だと思ってるよ」
「だったら!」
だからこそこうやって言葉を濁して説明するほかない。
しかし、すべてを隠すのではなく勝の事情以外は正直に答える。
俺の答えに勢いよく食って掛かる北宮であったが。
「落ち着け、これは勝だけじゃないお前の今後にも関わってくる」
「何よ、今後って」
今回の勝の件に対して、俺が北宮よりも南を押す理由はいくつかあるが、その中で一番差があるのは勝と寄り添えるかどうかという点だ。
今回ばかりは高校生のやっている青春の中でやる恋愛とはわけが違う。
好意を向けて幸せになる。
それだけでは終わらない。
いや、終わらせてはいけない。
勝の場合は好意そのモノに対して疑問を挟んでしまっている。
そんな彼が仮に誰かと恋仲になったとして、なんらかの理由で別れたとしたらどうなるか。
普通に考えれば、よほどのことがない限り次があるかとモチベーションを保つことができるだろう。
だが、勝の場合はどうなるかわからない。
考えすぎかもしれないが、二度と恋愛という感情を信じられないという可能性も捨てきれないのが現状だ。
後がない、だから南は警戒し、俺はリスクは必要最低限にしなければならない。
北宮には申し訳ないが、南ならその部分で心配がない。
きっとくっついたらよほどのことがない限りそのままずっと一緒にいられるだろうという光景が想像できる。
逆に北宮の場合は、そこの部分が足枷になり不安が出てしまう。
彼女が勝の好意を引き寄せ、支えてやれるかもしれないという可能性はある。
だが、確信は持てなかった。
これが普通の恋愛なら背中を押してどちらも頑張れと言えるのだがな。
「文字通り、将来のことだよ。今、勝は早すぎる人生の分かれ道に立ってるんだよ。そこで俺たちは勝に後悔のない道を進んでほしいって思ってお節介を焼こうとしているわけだ……本当だったらもっとゆっくり考えてもいいのにな」
詳細を話せないままの説明は難しいと思いつつ、どうにか納得してもらおうと思っていたが俺がのらりくらりと話さないことに対して北宮の機嫌はどんどん悪くなっていく。
「……」
表情は険しくなる一方だが、それでも堪えて俺の話を聞いていてくれる。
そのことに申し訳なく思う。
ここまで真剣に勝のことを心配してくれているのなら話してもいいのではと思うのだが、俺は踏ん切りがつかない。
このまますまんと頭を下げ、北宮に我慢を強いるしかない。
そう、思った時だった。
「別にいいでござるよ。北宮なら」
「!?」
ここにいるはずのない声を聞き、咄嗟にその声の方向を見ればいつものふざけているような笑みを浮かべた南が手を振っていた。
「リーダーを連れていったのが見えたと思ったら、やっぱりでござったか」
いつもルーズな感じの私服に身を包んだ南は、気負うことなくこっちに歩み寄ってくる。
「とりあえず、先に言っておくでござるがリーダーは悪くないでござるよ。リーダーが細かく話せないのもしょうがないでござる。今回の勝のことは拙者たち……いや、私たち親族の問題だったから」
「南、あなた……」
だが、それは最初だけ。
するりと切り替えるようにふにゃっとゆるかった笑顔が、真剣な表情へと変わり。
口調もそれに合わせてきた。
「私としても、これからすることを訳のわからないまま応援されたり邪魔される方が面倒だと思うから、北宮、あなたは知っておいた方がいいと思うの」
「邪魔ってどういうこと?」
その真剣な雰囲気は覚悟故か、今まで動かなかった彼女が動き出した。
いつもと違う雰囲気に北宮もさっきの苛立ちが消え去ったかのようにじっと南を見ている。
そこからは南が昨日と同じ内容を北宮に説明していた。
俺は黙ってそれを見守るのみ。
時間にして十分かそこらだ。
「そんなことがあったなんて……」
南の説明が終わり。
信じられないとは口にしないが、受け入れるのには少し時間がかかった。
何かあると感じ取っていた北宮はただ南の言葉を飲み込んだ。
そして、常識的な北宮はこのままこの事情に関わるかどうかの選択を迫られた。
「これを聞いて北宮がどう動こうが任せるけど、私は勝を助ける。それだけは譲らないから」
悩む北宮に対して南は希望を口にするのではなく、自らの行動を宣言した。
のらりくらりと明言を避ける彼女が見せた覚悟。
ここから北宮はどうなるか。
下がるか進むか。
「私は」
じっと北宮を見る南の瞳から逃げず彼女は一回深呼吸すると。
「諦められないわよ! 私だって!!」
ぱっと南に向けて啖呵を切った。
その姿は開き直ったといえばいいのだろうか。
いや、もともと勝気な性格をしていて、少し不器用な彼女が素直な気持ちを暴露したといった方が正確だろう。
「最初は戸惑ったわよ!! 年下に恋するなんて!! でも、でも! 彼と勝君と一緒にいてわかったの!!」
勝と南の関係は確かに長い。
その思いは確かに熟成され、しっかりと覚悟を決められる思いだろう。
だからと言って北宮の気持ちが軽く、薄いものかと言われれば違うと言える。
「ええ、ええ! チョロイ女だって笑えばいいわよ!! でもね、一緒にいて安心したり、ご飯をおいしいっていうだけでうれしそうに笑ってくれたり、私の話を真剣に聞いてくれたり、年下と思えない包容力魅せてくれたり!! そんな彼に惚れるなっていう方が無理よ!! ええ! 確かにあなたの方が付き合いが長いでしょうけど、それがどうしたっていうのよ!! 私だって勝君のことを支えたいわよ!」
北宮の言葉にああ、と納得しながら勢いよくぶちまけたなと感心する。
それに対して南はどうするか。
可能であればこのまま修羅場になるのは勘弁願いたいのだが。
「笑わないよ。だって、私だってそうだったから」
その心配はなさそうだ。
苦笑しながら、過去の自分もそうだったと語る南にはきっと北宮の気持ちがわかるのだろう。
彼女の気持ちを否定せず、むしろ肯定したわけだ。
晴れて、この二人が恋のライバルになったわけだ。
じっと向き合い互いの感情を共有しあった光景はこれが女の友情なのか?と思わせ男である俺がこの場では場違いなのではと思わせる。
そして、居心地の悪い空間で男の俺がここで口をはさむのは無粋だと思うが。
「ああ、お二人さん? 恋のライバル同士で盛り上がっているところ申し訳ないが、俺はどうすればいいんだ?」
このまま放置されるのはさすがにきつい。
若干空気になりつつあるので、話の軌道修正をはかる。
いや、そこで、このタイミングで話しかけてくる? って顔されても困るんだがな。
「空気読めなくてすまんな。こっそりと退場してもよかったんだが、さすがにそれはなぁ?」
「ごめんなさい」
「悪かったわ」
この場を立ち去るとさすがに勝のことを放棄するような感じになってしまう。
さすがにそれは避けたい。
「まぁ、いいけどな。それで南どうすんだよ」
「どうするとは?」
「いや、発破かけておいてなんだが、北宮もなんだ自分の気持ちを暴露したわけで、なあ?」
おまけにこれから来るかもしれない修羅場をどうするか当人同士に確認しないといけないという流れになってしまった。
これで俺はどちらか一方を応援することができなくなった。
おまけに北宮は火澄に浮気された経験がある。
「それもそうね……」
北宮もその部分に考えが及んだのだろう。
自分で選んだこととはいえ、過去に自分が否定した道が立ちふさがったのだ。
彼女からしても、難題になる。
海堂なら、勝君もハーレムっすね!って言いそうだがな。
頭中の想像の海堂を追い出して、どうやって現状を打破するか言葉を選んでいると。
「ああ、そういうことですか。北宮、一つ提案があるんだけど」
「何よ」
「一緒に勝を落としません?」
「はぁ!?」
「いえ、ですから一緒にハーレムを作りませんかと」
「あ、あんた正気で言ってんの!?」
「ええ、正気ですけど」
その悩みを発破解体してくれる南がいた。
標準語なことに違和感を覚えながらも、まさか南が北宮の地雷を踏み抜きに行くとは思っていなかった。
「あなたが前に浮気されて傷心していたのは知っていますけど、争って時間を消費するのも嫌ですし、勝も私たちが争って告白したってうれしくないでしょう?」
「まぁ、そうだけど」
南の言う通り、勝も南と北宮が争って勝に告白してくればどちらかあるいは両方の告白を断ることになるかもしれない。
そうなればパーティーとしての機能不全が起きるかもしれないし、なにより勝自身が振れるのかという話になり、余計な悩みが増え状況が悪化するかもしれない。
それは避けねばならないが、そんなに直球で言っていいのかと南を見れば、言い分に一理があるが納得はできない北宮に付け加えるようにこう言った。
「それに」
「?」
「リーダーや海堂先輩を見ていれば、ハーレムっていうのも悪くはないと思いますよ?正直、うまくいくときはうまくいくものだと感心したね」
「……そう言われれば、そうね。南の言う通りスエラさんたちを見ると不幸には見えないわね。考えてみれば思ったよりも嫌悪感はないかも」
「おい」
冷静に考えれば確かに彼女たちの前には女の敵や男の敵とも取れるハーレムを形成している男が二人もいるが、俺はともかく海堂はどうなのか? と思わなくはないが。
それで納得されるのは俺が納得できないぞ。
段々と流れがおかしな方向にいっているのを感じつつ、とりあえず。
「むしろ私としては、標準語のあなたの方が違和感があって寒気がしてきたわ」
「あ、それ俺も思った」
「ひどいでござるな!?」
なんとかなりそうな気はしてきた。
今日の一言
たまには向き合って会話をする必要もある。
今回は以上となります。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが9号で掲載されました。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




