25 休むことも仕事だ(昼)前
新年明けましておめでとうございます。
皆様のおかげで、2万PVを達成しました。
これからも、よろしくお願いいたします。
田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
夏といえば、まず最初に社会人が思い浮かべるのは『暑い』という単語だろう。
それが営業だったり、工事現場の人であったり、道路誘導員、はたまたイベントのスタッフと多岐にわたり、夏の暑さは社会人の精神を蝕んできた。
海だ、水着だ、スイカ割りだなんて発想は学生までのもの、社会に出て数年の大人が思いつくものではない。
いかに快適な環境で仕事をするかを考えるのが社会人だ。
「夏っすねぇ」
「ああ」
「海っすねぇ」
「実際はダンジョンの中らしいですけど」
「水着っすねぇ!!!」
「海堂、興奮していないでそのパラソル貸せ」
だったはずなのだが、現実俺は砂浜に膝を突き砂浜にビーチチェアとパラソルを水着を着てセッティングしている。
「福利厚生がしっかりしているのにも程があるだろう」
「福利厚生って話で済むのですか?」
「……済まねぇなぁ」
青い海、白い砂浜、燦々と照らす太陽、加えて遠目にはウォータースライダーの遊園施設やゴブリンやオークの経営する飲食屋台に、インキュバスがバーテンダーをするガーデンバーまで見える。
ここまでくれば福利厚生という次元は超えている。
「これが全部ダンジョンの設備だって信じられるか?」
「現実問題目の前にあるので信じるしかないんですが」
「だよなぁ」
プライベートビーチや避暑地の別荘を持っている大企業は聞いたことがあるが、ここまでのレジャー施設を用意できる企業はこの世に存在するだろうか?
見た光景は広大なプライベートビーチに隣接する有料のレジャー施設にしか見えない。
そんなどこかの大企業のプライベートビーチを紹介するような番組でもないのに俺たちパーティ(一欠)は立っている。
プールならまだわかるが、ここまでのものとなるとさすがに話は違ってくるのではないだろうか。
本当に、社員証で無料になるのか疑問になる。
「あとで請求されないよな?」
「飲食関係は請求されるみたいですよ」
「なんすか先輩! テンション低いっスよ! 会社が俺たちの慰安で用意してくれた施設なんすから気にせず遊びましょうよ!!」
お前のテンションが高すぎるんだアホと言いたくなるのをこらえて、代わりに溜息を吐く。
この海堂の能天気具合がたまに羨ましくなる。
「確かに、最近仕事ばかりでしたからね」
「そうだな、ここいらで休暇を挟むのも悪くはないだろうってな。うっし、シートも敷いたし、一服一服とって、どうした?」
「いえ、鍛えているなぁって、俺筋肉付きにくい体質みたいで正直うらやましいです」
「もともと剣道やっていたから下地はあったしこのタッパだ。まぁ、あんな戦闘を繰り返していたら意外と筋肉はつくもんだよ」
そして、その海堂を見ていると小市民的な思考などバカらしくなってくる。
ある程度は稼いでいるから、いざとなったらなんとかなるだろう。
カバンにしまっていたタバコを取り出し一本咥えながら勝の疑問に答える。
「まぁ、力がないってわけじゃないだろう?」
「そうですけど」
ここ数カ月、戦利品を背負い走り回っている勝の体つきは筋肉質ではないが、スラッと引き締まり、充分男らしいと思うが白い肌と中性的な顔立ちを本人は気にしているようだ。
要は実用性よりも、見た目をどうにかしたいということだろう。
「おおー、すごいでござる!!」
「設計の段階は知っていましたが、ここまでとは」
「勇者が召喚される世界ってことはあるわね」
「たまには、こういう場に来るのも悪くないです」
「拙者思うに、この環境は吸血鬼には致命傷な環境が揃っていると思うのでござるが」
「? 魔力の少ない同族は太陽光で肌が焼けることはありますが、一般の吸血鬼であれば魔力があれば平気ですよ」
「魔力ってつくづく万能でござる」
ズサ
この音を聞いて、何かがこけた音を想像する人たちがいたかもしれないが、同じ方向を見ていた俺と勝は、それが何を指す音かはきっちり見えた。
「早いな」
「早いですね」
「下心がなせる技なんだろうが、このステータスで動きが見えるギリギリの身体能力を出す海堂をどう思う?」
「……尊敬はできないです」
「同意はできると?」
「……」
わずかに視線をそらす勝の初な反応に満足し、彼女たちが来る前にタバコは処理する。
残像を残さんと言わんばかりに、声の聞こえた方向に反応してみせた海堂の足元の砂は舞い上がり、小さな穴を残している。
それに倣うわけではないが、俺もそっちの方を見よう。
「海堂、とりあえずティッシュいるか?」
「大丈夫っす、まだ出てないっす」
まだって、秒読み入ってないか?
最初に見えたのが上を見て首筋を手刀で軽くたたく海堂の姿なのはご愛嬌であったが、それでもほかのテスターの目を釘付けにしている集団を捉えるのは難しくはなかった。
こっちに手を振るスエラに軽く手を振り返しながら、華やかな集団を迎える。
「嫉妬の殺意がすごいっすねぇ」
「ああ、男として理由が察せるから同意はするがな」
何かを得るには同等の代価が必要だとは聞いたことがあるが、様々な美女を迎えるともれなく男の嫉妬の視線がもらえるらしい。
ダンジョンで鍛えて敵意に敏感になってしまったからなのか、それとも向こうが鍛え抜いてこの黒い感情をぶつけられるようになったのかはわからないが、今だけ、鈍感な主人公の能力が欲しいと願ってしまうほどわかりやすい感情だというのはわかる。
「お待たせしました」
「いや、スエラの水着が見られるなら、な」
それと、次の行動は関係ない。
我ながら気障なセリフで、わざとっぽいかもしれないが役得の分はきっちり堪能するのが俺の主義だ。
「その水着、似合っている。綺麗だ」
「えっと、ありがとうございます」
不器用な俺にはこれが精一杯だが、どうやら合格点をもらえたようだ。
薄紫を基調とし腰パレオを付けたビキニのスエラは日本人には出せないダークエルフ特有の艶やかさを出している。
そんな彼女はストレートに褒めると少し照れてくれる。
少し気温が関係ない暖かさを感じ取れれば、周りの視線など気にはならない。
「え~、スエラだけ褒めるの?」
「彼女を褒めて何が悪いんだ? 第一、ケイリィさんなら海堂あたりが褒めてるだろう?」
素直に彼女を褒めたのに何故か起こるほかの女性からのブーイング、そもそも本気なのかはわからないが、念のため当たり障りのない返答を返しておく。
真っ先に反応した海堂なら
「彼ならそこに」
オレンジ色のフリンジ・ビキニを着たケイリィさんが親指で指した先を見れば
「わ、我が人生に悔いはないっす」
「とりあえず、治療するのでじっとしててください」
小学生かと突っ込みたくなる。
鼻血を出しながら仰向けに倒れ、勝によって治療されている。
鼻血とは鼻腔内をキズつけ出血する場合と、興奮により血流が速くなり血管が破裂し鼻血が出る場合があるが、治療魔法で治癒できる。
「ね?」
ね? ではない気がする。
そんな光景を見せてだから褒めてくれと、彼女持ちの男性にねだる女性も珍しいと思うのは俺の経験が少ないせいなのか?
「ああ、まぁ、似合ってるな」
「なんかてきとう~」
いや、仕方ないって、ここで全力で褒めたら間違いなくスエラの機嫌を損ねる。
差別ではないが、区別が必要な状況だ。
だがこれで
「では、私はいかがでしょう」
ブルータスお前もか。
終わったと思ったら次の刺客がきたよ。
なんだこの状況、モテ期か? 人生に三回あると言われているモテ期が今来たのか?
だったらもう少し若い時に来てくれ、この年になると複数の女性を囲おうなんて気力がわかないのだから。
だが、聞かれたからには答えるしかない。
ため息を吐きたいがそれは失礼だ。
黙ってメモリアを視界に収める。
黒を基調としたワンピースタイプの水着、前二人と比べてスレンダー(重要)なうえ、肌も白い、色合いもマッチしてて違和感はない。
むしろ似合っていると言える。
「似合ってるぞ、髪型も変えているんだな」
「……」
「なんでそこであたしを見るのよ」
確かに、褒めたはずの俺に何も言わずにケイリィさんを見るのは解せん。
まぁ、怒っていないので良しとしてあっちの方は
「ほれ、どうでござるか~まさる~、拙者最近運動しているでござるから体つきかなり良くなっているでござるよ~、ほれほれ~」
「くっつくな!? 当たってる当たってる!!」
「当てているのでござるよ?」
どこぞのラブコメみたいな展開が広がっているな。
「じ、人類は平等じゃないっす」
「血涙流しながらお前が人類を語るな」
そして明確な勝ち組と負け組の構図も成立している。
「先輩にはわからないっす! 勝ち組である先輩には俺の気持ちなんてわからないっす!!」
「いや、俺の彼女はスエラだけだからな?」
そこを勘違いされては困る。
ここは日本、どこぞのファンタジー小説みたいにハーレムなんて包丁沙汰への狼煙でしかない。
「あら? 魔王軍は多夫多妻だから別に問題ないわよ。きっちり順番は決める必要はあるけど」
「「……」」
しまった、相手方はファンタジーの住人だった。
「ええ、こちらではあまり馴染みがないかもしれませんが、私たちの世界では割とメジャーな話ですね。所得の問題がありますが、平民の方でも重婚されている方は珍しくありませんね」
嘘だろと視線で質問してみたがスエラはそんなことを常識ですねと語ってくれた。
「ちなみにそれは種族的な話だったりしないのか?」
「どちらにしてもダークエルフの重婚は問題ないですね」
「吸血鬼も問題ありません」
「あたしの記憶通りだったら、ダメな種族はいなかったはずよ?」
国をまたげば常識は常識ではなくなるとは聞いたことがあるが、異世界であれば言わずもがな。
だからな、海堂そんなムキになって砂浜を叩いても意味はないぞ?
「絶望したっす、世の中のどころか異世界でも不平等なのに絶望したっす」
一応、ここは日本だというツッコミは必要なのだろうか?
まぁ今の海堂には聞こえないだろうから意味はない、面倒な拗ね方をしたな。
「別に、海堂くんが嫌いってわけじゃないわよ? ただ、私たちは自然と強いオスの方が好みなだけよ?」
「先輩勝負っす!!」
立ち直り早いな、おい。
そしてケイリィさん俺を巻き込んだな?
指を突きつけるように俺に挑んでくる海堂の後ろでは、計画通りだと笑うケイリィさんが見える。
「ここでカッコいいところを見せたら、お姉さん惚れちゃうかも?」
「うぉォォォォォォォォ!!! やるっす! 俺はやるっす!!」
過去、コイツと知り合ってここまでやる気を見せた海堂を見たことがあっただろうか?いや、ない。
思わず、反語を使ってしまうほど今の海堂はやる気に満ちている。
「ああ、わかったわかった。お前の気が済むまで付きやってやる。ただし」
これがどうでもいい奴だったら取り合わなかったが、なんだかんだ言ってコイツは可愛い後輩だ。
相手してやるのは問題ない。
「……なんでビーチバレーなんすか?」
「馬鹿野郎、浜辺で戦闘なんて誰得だ」
ただし、今は休暇中だ。
何が悲しくて仕事をしないといけないのだ。
なので平和的に済むように、ビーチバレーを選択した。
俺たちが向かい合っているのは、浜辺の一角にあったビーチバレーコートだ。
参考にした資料が良かったのか、結構本格的な造りをしている。
「いや、拙者たちは巻き込まれただけでござるよ? 第一、なんでリーダーのチームに拙者がいないのでござるか。普通に負けフラグでござる!」
「戦力バランス的にこれがちょうどいいんだよ」
「リーダー、早めに終わらせてください。食材の方を下ごしらえしないといけないので」
「勝は勝でマイペースだな」
そして巻き込まれた二人、特に運動を得意としない南が不満を漏らす。
本当だったら、スエラたちとやりたかったが、あいにくと彼女たちはルールを知らなかった。
これは盲点だった。
「別に、ビーチフラッグでもいいんだぜ?」
「それ先輩の圧勝じゃないっすか!? わかったっすよ!! これで決着付けるっすよ!!」
「お~、十点先取、セルフジャッジでいいな?」
「いいっすよぉ!!」
「頑張れ~」
「怪我だけはしないでくださいね」
「ボールを持ってはいけないのですね」
観客の三人は興味津々でこの試合を見守るつもりみたいだ。
関係ないが、最近ジャンケンで途中、手を変えられるようになった。
今のところ手を出すまでの間に四回ほど、海堂は二回だ。
「俺からのサーブでいいな?」
「くぅ、先輩の体がチートすぎるっす」
「これでも彼女より弱いんだぞ?」
ちらりとスエラの方を見れば、目が合って手を振ってくれる。
結果は俺たちからのサーブだ。
軽く手を挙げて応えて、やる気を上げてからコートに戻る
「勝はバレーの経験はあるか?」
「学校の授業でやった程度ですね、ビーチバレーはやったことはありませんが」
「俺も似たようなものだ、まぁ、楽しんでいこうや」
「はい」
なんだかんだでこれは遊び、ダンジョンみたいに命のやり取りをするわけではない。
気楽にボールを持ちコートの端に行く。
普通のバレーボールと違って足場がしっかりしない。
魔紋のおかげで裸足になっても怪我はしないだろうがコケる可能性は十分にある。
海堂と南がそれぞれポジションに立っているのが見える。
「明日筋肉痛になりそうだな」
魔紋を得てからはそんなこと一切ないが、なんとなくそんな言葉を言う。
そしてゆっくりとボールを上空に投げて。
「は?」
「へ?」
俺も跳ぶ。
「ふん!!」
そして全力でスパイクする。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」
そして全力で『避ける』海堂と南。
バァン!!!
俺が打ち出したボールはダイビングするように横に飛ぶ海堂と南の中間を突き抜ける。
弾ける砂浜、そして人間の力でバレーボールが砂を叩き、ありえない音を出した。
「「お~」」
「おおじゃないっす!?」
「拙者たちを殺す気でござるか!?」
空中から帰ってきた俺はその結果に唖然とするしかなかった。
砂浜にダイブした二人から飛んできた言葉を聞きながら俺が打ち出したボールの結末を見る。
目算ではあるが、俺が打ち出したボールは弾丸のように空気の抵抗を受けながらも驚異的なスピードを出していた。
相対していた海堂たちなど、もっと早く見えただろう。
「いや、普通は打つだろう? 全力で」
「悪びれていないでござる!?」
「先輩! チェンジっす!? サーブ交代っす!! 今度はこっちからのサーブで、ぼ、ボールが埋まってるっす」
「それよりもあの衝撃を受けて原型をとどめているところがすごいでござる」
砂浜から掘り出したボールは、ポロポロと綺麗な砂粒をこぼしているが問題は見えない。
さすが、メイドイン異世界、ジャイアントたちの匠の技が見えてくる。
「どうする? まだやるかぁ?」
「っく、あの余裕な先輩の表情を見たら引くわけにはいかないっすよ!! こうなったら総力戦っす!! 南ちゃんこっちもガンガン魔法を使っていくっすよ!!」
「了解でござる!! バッファーの差が戦力の決定的な差だと教えてやるでござる!!」
こっちは手加減しようと思って声をかけたのだが、さっきの殺人サーブが文字通りあいつらの殺る気に火をつけてしまったらしい。
「まぁ、手加減しないで済むなら別にいいか」
「あの、リーダー俺もさすがにさっきのはレシーブできないので」
「ああ、勝はトスとスパイクに専念してくれ、レシーブは俺がやる」
「分かりました」
南の魔力適性は俺の一個下。
魔力の数値だけでは俺にほぼ匹敵する。
加えて元来のファンタジーの下地があるおかげで魔法というカテゴリーなら南はパーティー随一の存在になっている。
「行くでござる!! 筋肉強化!!」
「おおおっす!!」
その恩恵を受けた海堂は、さっきの俺よりも高く舞い上がる。
筋肉がパンプアップし、ポテンシャルをあげた海堂のサーブは確かに速い。
角度もかなり高い位置から打ち出している分鋭角だ。
「ま、これくらいなら、なっと、勝!」
「はい!」
「嘘でござる!?」
だが、これがキオ教官の右ストレートと比べればだいぶ遅い。
素早く下に回り込んで無難にレシーブ対処できる。
「リーダー!」
「おうよ!!」
「マズイでござる!! 海堂先輩!!」
「落下中っす!」
「使えないでござるね!?」
文字通り一撃必殺を狙っていたのだろう。
後のことを考えていない大ジャンプサーブは僅かな滞空時間という明確な隙を俺に見せていた。
レシーブ体勢を整えようと南が魔法を使おうとするが肝心の海堂が空を飛べないので動けない。
それどころかタイミング的には
「くらえ!!」
「二度目でござる!?」
「ちょ!? 南ちゃん俺避けられないっす!?」
丁度海堂が落ちてくるタイミングなんだよなぁ。
俺がスパイクを打ち出すタイミングって。
南は全力で横っ飛び。
海堂は着陸数秒前。
そして俺の手のひらには勝がトスしてくれたボールの感触が伝わっている。
まぁ、喰らえと叫んでいる手前
「アブロフッス!?」
「海堂先輩!? 衛生兵衛生兵!!?」
全力で振り抜くけどさ。
顔面ではなくボディーに直撃するかたちで砂浜を滑っていく海堂を見て南が叫ぶ。
「おお~面白そうな競技だね!」
「なるほど、地面に落とさずボールをさばいて相手を倒す球技ですか。興味深いですね」
「覚えました」
そしてバレーボールのルールが異世界に変な伝わり方をしてしまったみたいだ。
どうやって訂正するか。
「海堂先輩治療してきます」
「ああ、頼む」
とりあえず、治療が先か。
「楽しかったですね」
「ああ、新しい種目が生まれてしまったがな」
あんなことがあったあとだが、痛みはともかく、海堂の耐久値もかなり上がっていて吹っ飛び方は派手であったが怪我はなく無事復帰。
試合を継続、結果十対一という結果で終わった。
一点は勝のサーブミスだ。
そのあと、スエラたちも混ざってビーチバレーをしたが、軒並み高いステータスの彼女たちに対抗するのは大変だった。
最初は勝ててもだんだん慣れてくると勝目がなくなる。
南と勝は最後の方は素直に避けていたが、海堂はまともに受け、俺はギリギリ受けられるという状態だった。
結局、南が魔法を使ってブロックをするのをきっかけに、各自各々スキルや魔法のオンパレード、バレーボールという名の別種目が誕生してしまった
そのあとはといえば、各々自由行動に移った。
海堂は、ナンパに出かけ、勝はバーベキューの準備、南とメモリアは砂浜で何やらオブジェを作っている。
俺の目がおかしくなければ、どちらも人より大きく、片方は日本の城でもう片方は西洋風の城に見える。
ケイリィさんは海が珍しく、魔法で空気の球を作ってそのまま海の中にダイブしていった。
残った俺とスエラは、借りてきたエアーマットに乗ってゆっくりと海?の上を遊覧していた。
スエラがマットの上に乗り、俺はその脇に掴まる。
いわゆる動力役だ。
「来てよかったか?」
「ええ、誘ってくれてありがとうございます」
元をたどれば、夏なのに働いているばかりなのはおかしいと叫ぶ南に海堂が同意したことがきっかけだが、俺自身も久しぶりに全力で遊んでいる気がする。
「私たちダークエルフは森に住んでいるので海というのは初めてなんですよ」
正確には海ではないですがと、スエラは水を撫で笑う。
「確かに、俺の中の知識だとエルフとかダークエルフって森のなかに住んでいるってイメージだな」
「はい、川があるので泳げないということはありませんが」
「そうか、泳げないなら泳ぎを教えたかったな」
「ふふふ、残念でしたね」
ただただ波に揺られながらのんびりとダークエルフのことを教えてくれる。
それだけなのだが、ひどく居心地がいい。
「えい!」
「お! やったな」
「きゃあ♪」
時々いたずらでやる水の掛け合い。
子供のようにはしゃぎ。
「わぁ!」
「揺らすぞ!!」
「ハハハ!! 落ちちゃいます!」
その時間を俺たちは楽しんだ。
『おーい! リア充先輩!! 飯っすよ!!』
その楽しい時間も終わりのようだ。
心からの叫びであろう海堂の声が海岸から聞こえる。
「昼飯のようだな」
「はい、そのようですね」
手首に紐を巻きエアマットは流れていないが、その上には誰も乗っていない。
乗っていたはずのスエラは、今では一緒に海の中で浮かんでいた。
「戻るか」
「ええ、そうだ次郎さん」
「ん?」
「えい!」
「お、っと」
「ちょっと疲れてしまいましたので、浜までお願いしますね」
「了解、お姫様」
そのスエラが今では俺の背に張り付いている。
腕を首に回し、あとは引っ張るだけで泳ぐことができる。
疲れたというのは本当だろうが、泳げないということはないだろう。
遠まわしに甘えてくる彼女の動作に笑顔で頷きながらゆっくりと泳ぎだす。
「昼食をとったら何をしますか?」
「ん~、午前にできなかったビーチフラッグでもやってみるか?」
「それ興味があったんですよ、楽しみですね」
昼をまたいでもまだ時間はある。
あっという間に過ぎ去る時間かもしれないが、それを楽しむとしよう。
「スエラはBBQってやったことはあるか?」
「野営の時につくる料理みたいなものですよね?」
「そっちのほうが元祖みたいだが、こっちはもう少し豪勢に「うるさいわね!! もういいわよ!!」」
「「??」」
もうすぐ浜につくというタイミングで聞こえる聞き覚えのある声が響く。
何事かと思い、スエラと一緒にその方向を見れば、何やら女性を引き止める姿が見える。
それを見て、俺の直感が言う。
厄介事が来たと。
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
休むのも仕事といったが、誰もそんなことを思っていないだろうなぁ。
あと、南じゃないが
休みの日は働きたくない!!
本日はこれで終了です。
構成で、少し長くなってしまったので今回は二部構成のお話です。
そして、昼と名をうっていますが次回は後です。
夜の部は夜の部で用意します。
これからも、勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします!!




