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256 全力をもって対処しなければ足元をすくわれる。

「温い温い、ヌルイっと!!」


 一刀両断。

 氷のサメが水中から飛び上がってきたタイミングで縦に両断してやる。

 この場で戦い始めて、どれくらい氷のゴーレムを切り倒したかは覚えていない。

 その膨大な量を相手したせいで、最初は注意して事に当たっていたが段々と反射のみで対応できるようになり、途中から作業になり、考える余裕ができゴーレムの戦い方から俺をこの場に足止めしたいというニュアンスを感じ始めた。

 体を動かして、だんだんと気持ちが上がるも、思考だけは冷静に現状の整理に努める。

 鉱樹と接続した俺の斬撃は、魔力で強化された氷程度など豆腐と変わらず抵抗なく断ち切り、再生する前にその数を減らす。

 水中に居ようが関係ない。

 水ごと切ればいいだけのこと。

 確かに水中というのは防御に向いていると言えるが、それも一定のボーダーラインを越えてしまえば無視していい。

 多少手ごたえは重くなるが、それでもほんのわずかな差でしかない。

 次から次へと、だんだんと攻勢を激しくしている氷のゴーレムを切って、切って、切りまくっている。

 その様子に海堂たちも頑張っていると感じるも違和感も覚える。


「妙だな」


 時間にして数分。

 五分にも満たない時間だが、さっきからゴーレムしか出てこない様子に、さすがに怪しく感じる。

 最初に隙を見て攻撃していた海堂も出てこないし、このゴーレムを操作しているだろう北宮の姿も見つからない。

 水中を切り飛ばし、地面をあらわにした回数など片手どころか、全部の指を使ったとしても足りない。

 それなのにもかかわらず、人影が見えないというのは些か妙だ。

 ゴーレムの動きはなめらか。

 すなわち、人の手で動かしているのは間違いない。

 それにもかかわらず一向に海堂たちの姿が見えないのは合点がいかない。


「となるとだ……ああ、謀られたか。ああ、なるほど、なるほどな」


 精神は高揚し熱くなっているのはわかるが頭は冷静だ。

 今も片手間にゴーレムを切り飛ばし、その動きから海堂たちがどこにいるかを推測する。

 水中のサメの動き、水上を滑るようなケンタウロスの動き。

 よくよく見れば、それは水中では決して動かせるような動きではなかった。

 ゴーレムとリンクし視界を確保しているかとも思ったが、上空にはそれらしいゴーレムはいない。

 かといって指揮官タイプのような奴もいない。

 仮にいたとしても、視界に入る奴は全部一回は切り捨てた。

 その際に相手の動きが動揺した様子もない。

 なら、なおのこと支柱の陰と言った視覚的に見えない部分までスムーズに動けるのはおかしい。


「最初の海堂で水中にいると思わせたか……手の込んだことをする」


 言葉に発し、さっきの動き以降海堂が出てこないことの理由を探れば頭の中はパズルのピースをはめるかのように相手の動きの動機を探り当ててくれる。

 よくそんな思考展開になれたもんだと、苦笑一つこぼしこの後何が起こるか予想する。

 複雑に考えるときは黙って考えるのも手だが、整理する意味も含めて頭の中で考えるよりも、こうやって言葉にするというのは地味に効果的で重要だったりする。

 考えを口にすることで再認識し、見落としがないか確認できるからだ。

 そして、状況整理が終わりふと感じる魔力の感覚にニタリと俺の口元が笑う。


「観察は済んだか? 南」

「ムフフフ、リーダー覚悟でござるよ!!」


 その感覚頼りに上空を見れば、ポンと飛び上がり魔力で作った足場に着地した南はローブをはためかせ何やらポーズを決めた後、腕を組み仁王立ちしていた。

 様式美にこだわるなと、笑いつつ。

 隠れるのを止めた南を視界から外さず、周囲を気配や魔力で探るも。

 魔力、気配ともに無し。

 それ以外のメンバーの姿はない。

 そして目の前の存在が幻覚の可能性もない。

 魔力適性が高い奴は総じて、状態異常を発するタイプの魔法に耐性がある。

 なので。


「……後衛のお前が正面からってことは、何か勝算あってのことなんだろうな?」

「え~、そこはこのかわいい拙者に免じて手を抜くとか鴨が来た的に油断しないんでござるか? こう、フハハハ、獲物がやってきた的な感じで余裕をかましてくれると拙者的には助かるのでござるが」

「それ、完全に最弱とか呼ばれる四天王ポジションだろ。容姿が整ってるのは認めるが、あいにくとお前の性格を考えれば余裕を見せる方が危ないんでな」


 正真正銘本物の南が前衛である俺に真っ向勝負を挑んでくるということだ。

 怪しい、あからさまに怪しいと言える辺り何か策があると踏む。

 というより南を知る身としては、そうとしか思えない。

 逆にブラフで時間を稼いで他の奴らが何か企んでいる可能性もあるが、それならそれでいい。


「ということでだ。南」

「なんでござる?」

「無駄口はここまでで、そろそろ」


 隠れていた存在が出てきたのならちょうどいい。

 探す手間が省けたということ。

 ふざけた態度の南の挑発に乗る形になるが、いい加減、停滞していた状況に飽き飽きしていたところだ。

 ここいらで状況を変えるのも一考。

 スッとゴーレムの攻勢が治まりさっきまでだらんと下げていた鉱樹を両手で掴み、肩に担ぎ前傾姿勢を取る。

 魔力の循環を速め、足に力を籠める。

 見るからに攻撃すると伝えるようなクラウチングスタートの構えを変形させた姿勢。


「始めるとしよう!!」


 あとは戦うのみと。

 脚に溜めていた力を爆発させ、空中にいる南にむけてロケット弾頭のように俺は迫る。

 ニコニコと余裕の笑みを崩さない南に対し、罠かと一瞬頭によぎるがすでに飛びかかってしまった。

 ここで、軌道修正し下手な隙を見せるくらいなら。


「キエイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 猿叫とともに切り捨てる方がいい。

 仲間という関係は今は放置、相手を敵だと認識し手加減など一切せず全力で降り下ろそうとした一刀は。


「よかったでござる」


 カッ目を見開いた南に。


「信じてたでござるよリーダー」



 〝まっすぐ来たでござる〟


 そうつぶやいた南に迎撃された。


「かは!?」


 マジかよと、先ほどの光景を見た俺は思った。

 腹部に感じる痛み。

 それは俺がダメージを負った証拠。

 そして、迎撃されたため南がすごい勢いで離れていく。

 刹那の交差の瞬間、降り下ろせばまず間違いなく南を仕留められたはずの俺の一撃は不発に終わったと痛みとともに思い知らされた。


「かぁ、イテテテ。ずいぶんと吹き飛ばされたな、それにあんな技いつの間に身に着けた?」


 支柱の一本にぶつかりようやく止まった。

 衝突の衝撃が体全体に伝わり、僅かであるが気を失いかけた時間があったことに驚きつつ。

 さっきまでいた場所から十数メートル離れた支柱に突き刺さった俺の体を無理やり引き抜き前を向く。

 南がやったことに感心半分油断していた自分を叱責する気持ち半分で苦笑しつつさっきの光景を思い出す。


「アイタタタタタタ!? なんでござるかリーダー、どんな体の固さをしてるでござるか!? 殴った拙者の方がダメージがでかいとか理不尽すぎるでござるよ!? 全力で強化したのにダメージ負うとか聞いてないでござるよ!?」

「勢いよく迫ってきた相手を殴って無傷とかあり得ねぇだろ。俺的にはさっきのお前の動きの方が信じられねぇぞ」


 少し離れた位置で自分の作った足場でのたうち回る南を見て俺は苦笑を浮かべる。

 その姿は先ほどの切れのいい動きをした南とは思えない姿だ。

 俺の動きに即座に反応した南の動きは、拳法というのだろうか。

 いつの間に練習したのか、滑らかに体を動かしまっすぐに俺の腹部に拳打を放ってきた。

 間合いをはかる段階から踏み込み、俺の攻撃の隙間に体を滑り込ませ全体重を乗せた見事な一撃だ。

 体の動き方からして太極拳とか八極拳みたいな動きのような気がしたが、あいつが格闘術を身に着けたとは聞いていないし、あんな動きができるとは思えない。

 何をしたと問いただしたいが、


「んな、暇ないか」

「先輩! 覚悟っすよ!!」


 こうやってダメージを負った俺を回復させる暇などあいつらが与えてくれるはずもない。

 間髪容れずに姿を隠していた海堂の追撃が入る。

 姿勢が不十分、かつ腹にでかいのを貰ったせいで動きは鈍い。

 対して相手は万全の海堂に。


「当たりなさい!!」

「追撃します!!」


 後方から魔法を放ってくる北宮に、海堂とは別の方向から拳を握り時間差で追撃する勝。

 チャンスを生かせと教えていた身としてはうれしい限りだが。


「もう少し、タイミングを見極めような」

「へ?」

「うそ」

「え?」


 こちとらお前ら以上にダメージを負うことには慣れているんだよ。

 たかが腹を強打されただけで動きを鈍らすほど、やわな鍛え方をしていない。


「おらよ!」

「うご!?」

「海堂先輩!!」

「よそ見しないで来るわよ!?」

「あ」

「忠告はしっかりと聞いておけ、勝!」


 魔法を鉱樹で切り払い、氷の結晶が煌びやかに散り綺麗な光景を作り出すもその中を突っ切る。

 再び跳んで上段から切ってきた海堂を半身引くことで最小限の回避を成し、刃が過ぎたと同時に海堂の顔面を空中で左手で鷲掴み。

 口元が覆われ変な声が漏れ、海堂の首にあり得ない負担がかかっているのを承知でその勢いを殺さず片手で近くにある支柱に投げて叩きつけた。

 空中で足場がないというのに魔紋で強化した体は海堂に並ではないダメージを負わせる。

 叩きつけられた支柱は蜘蛛の巣のようなひびが入り、海堂をめり込ませ、それの救助に勝が入ろうとするも。

 それを俺の前でやってはダメだと内心でダメ出しをする。

 北宮の叫びが響き、はっとなりずれた視線を俺の方に向ける。

 一秒でも視界から外せば、この程度の距離埋めるのは容易。


「あが!?」


 北宮よりも前に出ていた勝の腹に俺の右ひざが食い込み、そのまま足を振り切る。

 その勢いは勝を水切りのように水面を滑らせ、俺にとってはうまくちょうどいい位置の支柱の上に着地させた。


「それで? あとは北宮とアメリアなんだが」

「……鉱樹を使わないってのは、余裕の表れかしら?」

「さてな、お前の魔法を警戒してたって言ったら信じるか?」

「できない、わね」


 あっという間に海堂たちのパーティーは壊滅。

 じりじりと距離を取りながら杖を構え、海堂、勝、南の様子を確認する北宮に隙らしい隙はない。


「そうかい、なら。ま、悪いが全力稼働のテストに付き合ってもらうぞ。俺も今の強さを知りたいからな」


 南から予想外な攻撃は受けたが、逆に言えばそれだけだ。

 反省とそのからくりの確認はこの戦いが終わったとにゆっくりとするとしよう。

 魔力で足を覆い、水面を歩き、北宮にゆっくりと近づく。

 アメリアはいない。

 奇襲してくるために隠れているか、あるいは他の面々の回収をするかと思ったが、海堂、勝、南の場所にも現れない。


「水の上も歩けたのね」

「便利な小技は覚えるようにしてるんでね、やり方は後で教えるよ」

「ええ、ぜひとも聞きたいわね」


 距離を詰められたくない北宮は、素早く杖を振るい側にゴーレムを召喚し俺にけしかけるも。


「それはもう、見た」


 その動き、北宮の動かし方の癖。

 何度も繰り返した俺はその動きに脅威を感じない。

 体感し把握してしまえば、俺の敵ではない。

 足を止めることなく、氷でできたケンタウロスとサメのゴーレムをすれ違いざまに切り捨てる。


「ほかに手があるなら、早めに出しておいた方がいいぞ。もっとも、今の距離なら魔法を発動する前に切りかかれるがな」


 そうして、王手チェックと北宮を一歩の間合いに納める。

 油断なく、そして確実に北宮を仕留めるために鉱樹を構える。


「みんな避けテ!!」

「全員離脱でござる!!!!」


 そのタイミングだった。

 ガラスが割れるような音が上空から響き、そこから莫大な魔力が発現した。

 そして、下の水から蒸気が噴出し俺の視界を奪う。

 聞こえたのはアメリアの声と南の声。

 最後の最後まで切り札を温存していたか。

 俺が見えた最後の光景はなりふり構わず全力で逃走するため走り出す北宮が最後の足止めに散弾のような氷の礫を放ってきたこと。

 そして、それで一瞬足を止めた俺にめがけて、特大の魔力を内包した蒼い雷が俺に降り注いだ。

 閃光と爆音。

 その両方のせいで俺の耳と目が一瞬ダメになる。

 ああ、本当にしてやられた。

 南のやつめ、結界でアメリア隠して大魔法、それも攻城魔法をぶちかましやがった。


「やったかしら!?」

「ちょ、それ、北宮ちゃんフラグっす!」

「いや、でもさすがにあれなら次郎さんでもダメなんじゃ? むしろ助けに行った方が」

「甘いでござるよ勝。あのリーダーでござるよ。きっとズタボロになりながらも笑って戦いはこれからだとか言うに決まってるでござる」

「え~と、香恋ちゃんに言われた通り全力で攻撃したケド、さすがにやりすぎじゃないかなぁって、私思うヨ?」


 目と耳がだんだんと回復し、あいつらの声が聞こえてくる。

 俺の周りは帯電し、バチバチとさっきの雷の残照が残る。

 水蒸気はさっきの雷で吹き飛んだものの、支柱を砕いた雷は代わりに粉塵をまき散らし視界を遮っていた。

 完璧に決まった作戦の成果に北宮は興奮気味に確認しているようだが、その確認の仕方に海堂は慌てている。

 勝とアメリアは俺の身を心配してくれているようで、その心配をバッサリ切り捨てる南は俺をなんだと思っているんだと問いただしたい気持ちにさせるような言葉を言っている。

 まぁ、総じてこの結果を言うのなら。

 してやられたとしか言いようがない。

 海堂たちが俺の想像よりも成長して、俺が慢心していた。

 ただそれだけだ。

 なら、俺も敬意を表して少し奥の手を使う。

 本来なら、ここまでやるつもりはなかった。

 俺の周囲の帯電がまた一つ激しく迸る。


「ったく、容赦ねぇなお前ら」

「「「「!?」」」」

「あ~、リーダー本当に人間でござるか?」

「まぁ、いくつか人間辞めてる部分はあるかもしれないが、まだ一応人間だよ」


 こつんと一歩踏み出し、声をかけてやれば南を除いたメンバーは驚いている。

 砂煙を鉱樹で払い、そっちを見てみれば驚いている面々の中で、なんとなくそんな気がしたと言わんばかりにあ~と口を開いて納得している南の表情が際立っている。


「なに、人間備えていれば雷の一つや二つ対処できるんだよ」

「いや、生身で対処しているのはさすがにおかしいでござるよ」


 アメリアが放った蒼い雷と同色、同質の雷をマント状に纏った俺が現れ、そんなことを口にしたら南は呆れて何も驚かないと言う。


「さて、第二ラウンドと行こうじゃないか」


 そんな面々に向けて俺は本気にさせてくれたこいつらに向けて答えようと思った。



 今日の一言

 油断大敵、慢心と余裕は別物だ。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

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これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。

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[良い点] 作者は新潟県人ですか? 「そろっと」なんていう新潟県の方言を使ってたので気になりました(*^^*)
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