24 仕事の結果が楽しみな時は悪い結果にはなりにくい
今年も残り数時間皆様に楽しんでいただければ幸いです。
田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
さて話は少しもどるが、数ヶ月単位で一層をコツコツと攻略してきた俺たちがどうやってわずか二週間で一つのダンジョンを十八層まで攻略できたか。
やる気はまぁ、燃料となるものが十分あった。
だが、それだけで事をなせれば世の中の残業や給与面はもっといい環境だろう。
きちんとした下準備をしなければ新事業というものは必ず失敗するのと同じように、ダンジョンに挑む時も準備が重要だ。
そしてこの会社で、俺たちテスターにとって準備が何に当たるかといえば。
「いや~、我ながら効率厨を極めたでござるなぁ」
「はじめの時は無茶だと思ったが、意外となんとかなるものだな」
RPGで言うレベル上げだ。
「ゴキブリ以上に湧いたモンスターたちを見たときはなんの悪夢かと思いましたよ」
「必要なことだったとは言えあれは無理したっすよ」
「アホ、あれは無理って言わねぇよ……だが、まぁ、結果は出ている。出ているんだが」
各人タブレットPC片手に自分のステータスを見ている。
今後の指針を考えて自分の能力を把握しようと見ているわけだが。
田中次郎
ステータス
力 2303
耐久 2993
俊敏 1805
持久力 2506(-5)
器用 1235
知識 88
直感 403
運 5
魔力 987
状態
ニコチン中毒
肺汚染
「やりすぎだろ」
「レベリングはRPGの基本でござるよ?」
「どこぞのレンジャー部隊でもあんな阿鼻叫喚の地獄をレベリングって言わねぇよ」
釈然としないもの、いやこの場合はあれほどのことをやる必要があったのかという後悔だろう。
数字を見ればわかるように知識と運を除いて桁がおかしいことになっている。
その成果をたたき出すようなことを俺たちはやった。
やってしまった。
その種を明かすと
「一番ステータスを上げる方法ってなんすかって、監督官に先輩が聞いたらモンスターと戦うことだって答えが返ってきたときは泊まり込みでダンジョンに挑むと思ったスけど」
「おかげで貯金が九割なくなりましたね」
「課金強化、拙者的には邪道でござるがポーションだけを買っているだけでござるからセーフでござる」
「二度とやらねぇぞ、ポーションで無理やり体力回復しながら延々と魔物と戦うなんて」
南と勝をスカウトしたとき、プレゼンで見せた簡易ダンジョンを俺たちはそれを時空次元特殊訓練室で展開しただけだ。
弱い奴とひたすら戦ってもステータスというものは上がらない。
少し自分より強く、かつ勝てる可能性が高い相手がベスト。
そんな絶妙に加減された敵を、キオ教官とフシオ教官が指揮し俺たちが倒す。
文字に起こせばわずか数行で収まる内容ではあるが、体験した身として感想を言えば、通常のダンジョンが可愛く見えてしまった。
メインは鬼族であったが、時折アンデッドの軍勢も混じり、大枚叩いて購入したポーションの山を使用してただひたすら俺たちは戦い続けた。
『治療院でも開くのですか?』
『地獄にこれから挑むんだよ』
在庫ポーションを全部くれとメモリアの店に買いに行った時は珍しく困惑した彼女の表情を見ることができたが、後のことを考えた俺の気分は戦争に送り出される兵士そのものであった。
簡易ダンジョンではステータスは上がるが、ドロップは一切なし、そして時間短縮と効率向上のための体力、魔力といった各種大量の薬品で戦闘を継続し大赤字だ。
報復のためと。
血迷った選択の結果だ。
結果を得るためには同等の代価が必要だとはよく耳にする。
ハイリスクローリターンが多い現代でハイリスクハイリターンなだけまだマシだと思うことにしよう。
まぁ
『急所を狙えば大抵のやつはくたばるだろう!!』
ハイリスクでレベルアップしたのは何もチーム全体だけの話ではない。
戦闘中に俺が叫んだ言葉から察する通り。
妙に首とか手首とか足首とか心臓とか、致命傷になりやすい場所を切るのはうまくなった。
おかげで
スキル
猿叫
斬撃(NEW)
念願の新スキルまで手に入れた。
斬撃、あまりにもド直球なネーミングに最初は切る威力でも上がるのかと思ったが、効果は刀剣など刃のついた武器の時に使える、いわゆる飛ぶ刃を魔力で作り出すことができる。
文字通り斬り撃ちで斬撃だったわけだ。
汎用性が高く、切れ味は俺の腕と鉱樹が合算されたものだから意外と切れ味もいい。
おまけに振り切った速度が等速で斬撃の速度になるので離れた敵の首もこれ一発で切り飛ばすことができる。
射程はピンキリになるが、気合で百メートルまでは飛ばせることはわかった。
まぁ、腰蓑一丁でウッホウッホとどこかの原住民みたいなオーガの集団でまとめて切り飛ばしたのは痛快だった。
悲しいことを言えば、このステータスでもまだスエラには勝てないのは諦めて受け入れ、いずれ超えてやると男のプライドに誓ったものだ。
だが、十八層にたどり着くまでは割と楽勝なステータスであるのは結果で証明している。
さて、本命はここからだ。
「さて、各自現状がわかったところで、お楽しみの時間だ」
「先輩、悪い顔してるっすよ?」
「海堂先輩も人のこと言えないでござるよ?」
「お前もな南」
取り出すのは一枚のDVD、ディスクケースに『鬼王ダンジョン戦闘記録』と記載されている。
「「「クククククククク」」」
「お前らも染まったなぁ」
俺が取り出したものを見た途端に目の色を変える。
中身はとある階層のとあるパーティの戦闘記録だ。
本来であったらこんな記録を俺たちには渡されないはずなのだが、コネと権力を併用した荒業で入手した。
当然部外秘で、今回は階層の改装で貢献したという特例で許可が出た。
とりあえず、今はそこらへんの裏事情は無視でいい。
「おーし、流すぞ」
俺たちの成果はどうなったか見届けるとしよう。
「お、これって十七階層っすね」
「でござるな、見覚えがあるでござる」
プレイヤーに入れたDVDが最初に移したのは一部のフロア、ボス部屋と呼ばれるエリアだ。
機王のダンジョンと違って洞窟内の広い空間という空間であるが、雰囲気はある。
「何も知らずにノコノコやってきたっすねえ」
「見た限り、油断していますね。武器は抜いていますが、全く構える姿勢がない」
「そして後に彼らを見た者はいなかった」
「「シャレにならねぇ」」
「お前ら真面目に見ろ」
そこの入口に三人の人影が映る。
火澄たちだ。
火澄を先頭に、ゆっくりとした足取り周囲を警戒しているように見えるが談笑している時点で、警戒心は薄いことが見て取れる。
『この階層も楽だったわね』
『本当ですね。もう少し苦労すると思いましたが、このままなら十七階層も問題なく抜けられますね』
『ああ、このまま油断せず行こうか』
かなり高性能なカメラなのかそれとも魔法なのか、後者の可能性の方が高いと思いながら映像から聞こえてくる声のニュアンスに慢心を抱いているのが手に取るようにわかる。
『またこのパターン? いい加減マンネリ化してきてるんだけどぉ』
『変にパターンを増やされるよりはいいだろう?』
『わかってるわよ。もう、ここって埃っぽいからさっさと倒して帰りましょう』
入口を封鎖されても、また同じ行動かと呆れている様子、ならこのあとどうなるか楽しみだ。
『ミノタウロスですか』
『装備は強化されているけど、厄介そうなのは盾だけね』
『そうだね、いつも通り僕が前に出るよ。二人は魔法でサポートしてくれ』
『お気を付けて』
『ヘマするんじゃないわよ』
出だしはスムーズだ。
海堂とは違う魔法剣士のスタイル、右手に剣、左手に盾替わりだろう少し短く太めの杖を持って火澄はミノタウロスに向けて駆け出した。
そして残りの二人は互いに役割が決まっているのか、攻撃とサポートで分担している。
既に勝気そうな少女は空中に数本氷の槍をスタンバイさせ、大人しそうな少女はおそらく火澄に強化を施しているのだろう。
さすがに現在のトップチーム、動きに淀みはない。
「前衛がかく乱とヘイト集め、後衛でサポートと大打撃といったところでござるな」
「実際のところ、南から見てどうだ?」
「拙者がやっていたネトゲだとAGI盾はそんなに珍しくないでござるし、速い分攻撃回数も増やせてヘイトも貯めやすいでござる。花形でござったし割と人気のポジションでござった。が、反面、打たれ弱く瓦解しやすいといった欠点がある分素人にはおすすめできないでござるよ。だから、前衛は無理せず後衛に回復と止めを任せるのは定石でござるし、そうやって行動に移せる腕と采配できる頭はあると思うでござる」
段々と参謀というポジションが板についてきた南は教科書通りのスタイルだと総評する。
その評価に俺も異論はない。
実績があるのだろう。
自信を持って火澄たちは挑めている。
このままであれば、武者鎧を着込み盾で攻撃を防いでいるミノタウロスが倒れるのは時間の問題だ。
武装も大槌で当てにくいというのもある。
『ハウリング来るぞ! 詠唱注意!』
『うるさいわねぇ! とっとと死になさいよ!』
加えて相互連携も取れている。
苦し紛れではないが、時間を稼ぐしかないミノタウロスの一手。
巨体からの大音量攻撃、叫ぶだけだが巨体の生物がやると耳だけじゃなくて物理的な衝撃も加わるからなぁ。
その攻撃も難なく対処されて、悪態というか愚痴を言う余力もある。
いま関係ないが、この女口悪いな。
魔法も威力重視の攻撃的なスタイルだし、性格そのものを表している気がする。
まぁ、その口も
「そろそろっすかね?」
「ここからが本番ですね」
閉じることにナルかもしれないがな。
『きゃぁ!?』
『何こいつら!? いつの間に?』
魔法の嵐の音にまぎれ足音は聞こえなかったが、はっきりと姿を現した波に後衛の二人から悲鳴が上がる。
「おお~、見事にはまったでござるねぇ」
「ここから見るとなんで気づかないっすかねぇって言いたくなるっすけど、そういうふうに『仕向けた』んっすからねぇ」
「ジャックポットでござる!!」
その結果に俺たちは満足げに頷く。
俺たち第三者視点で見れば、あからさまに気づくような動きで火澄たちに接近するホブゴブリンの集団は、しっかりと気づき迎撃の態勢を整えなければいけない事案だ。
だが現実、彼女たちはまるで『不意』を打たれたような反応だ。
「ヌフフフ、タウント、効果あったでござるな」
「視野狭窄に陥ると人間は一つのことしか頭で考えられない。そしてそういった状態の人間は突発的な事態じゃないのに次の行動へ移るだけで遅れ、混乱する。まさに狙い通りってやつだよ」
面白いように火澄たちのパーティに混乱が蔓延し始める。
タバコを一本取り出し、火を付ける。
タウント。
さっきから何度か見せているミノタウロスの咆哮だ。
挑発を意味するスキルは、相手の意識を自身に惹きつける。
タンクが重用するスキル、実際の攻撃力も持っているがそっちの能力は副次的なもので本命は意識誘導だ。
そんなスキルを使用するミノタウロスは火澄たちからはこう見えていたはずだ。
あのミノタウロス、なんて美味しそうな獲物だ、と。
元来、鬼族は身体能力が高いせいで攻撃スキルや強化系のスキルまたは術は豊富に備わっているが反面、搦手の方面をないがしろにする傾向があった。
だから俺たちはそこにひと工夫を加えたに過ぎない。
『透! 背後から敵が!?』
『ごめん! こっちはいま手が離せない!』
『はぁ!? こっちの態勢を立て直すのが先でしょ!?』
「盾役が一人だとああなるのか、参考になるな」
「ヘイト管理は重要でござるよぉ、ボスはしっかり管理しててもモブで崩れる例はいくらでもあるでござるから」
「となると、もう一人くらい前衛が欲しいところだな」
「リーダーも海堂先輩も攻撃寄りのタンクでござるから、純粋なタンクが欲しいところでござる」
「贅沢を言うなら、後衛の火力も欲しいな、もしくは探索者系を入れて弓を使ってもらうかだな」
「六人あたりがちょうどいいでござろうなぁ、それ以上になると拙者のサポートもマサルの回復も後手後手になりそうでござる」
そのひと工夫の効果を見ながら自分たちも陥りそうなことに対して対策を話す。
画面の向こう側は、いよいよ透と女子二人が分断された。
さすがに刀は用意できなかったみたいだが、鉄の盾と長槍は用意できたみたいでホブゴブリンたちの見事な横列陣が壁となり戦力を分断してみせた。
『カレン! 援護を!!』
『無理に決まってるでしょ!? こっちは近づけないようにするだけで手一杯よ! あんたがこっちに来なさいよ!』
『先にこいつを倒せばこいつらも瓦解する!』
『その前にこっちがやられるって言ってるのよ!?』
互いに手を止めずにやっているが、誰が見ても連携が取れているとは言えない。
パーティ間の空気も悪いものに変わり始めている。
「そろそろ崩れるか?」
「もうひと押しでござろうな」
守兵の装備に身を包んだホブゴブリン部隊は、フロアボスのミノタウロスと連携し透を倒す部隊と女子二人を倒す部隊に分かれて攻撃をやっている。
天秤は確実にダンジョン側に傾いている。
透は地面を走り一箇所に留まらないように戦闘しているが、守り寄りの戦闘をされタウントで意識をボスに釘付けにされてしまっては透の戦果は期待できないだろう。
対して女子二人組はどっしりと構えて、透の救援を待つ構えなのだろう。
互いを背にし、固定砲台のように魔法を撃ち続け敵を近づけさせないようにしている。
それに対抗するダンジョン側の陣営は、防御をしっかりしながら包囲を完成させようとしている。
無闇に攻撃はせず、されど相手に攻撃を休ませないように牽制を入れる。
「こうなった時、リーダーならどうするでござる?」
「ああ~……知ったあとの発想になるが、副官、この場合はお前になるが俺を見捨てさせて残った人員で態勢を立て直させる。全部の敵を俺の方に引き付ければそれが可能だろうしそれを実行できるスキルもある。おまけに耐えていれば救援で俺も助かる可能性が出てくる」
勝敗は決した。
個々の力は勝るも数で負け、各々他人を当てにした独断専行をしている時点で火澄たちの勝利はないだろう。
視野狭窄の恐ろしさを確認し火澄と同じポジションになりうるだろう俺の答え。
恐らく現場でできる判断といえばこれくらいだろう。
「なんと言うか、ドライでござるなぁ」
「そうか? ぎゃあぎゃあ喚いて全滅するくらいなら、潔く逝ったほうがマシだろう?」
何がどうなっても、あそこまで窮地に立たされてしまったら覚悟を決めるか、みっともなく腹の底をさらけ出すかの二択になるだろう。
ならばカッコつけたがるのが男ってものだ。
「そうならないようにしないといけないでござるなぁ」
「頼むぜ、参謀、背中は任せた」
「働きたくないでござる~、引きこもりは働いたら引きこもりではなくなってしまうのでござる~」
「馬鹿野郎、働かないとお前の趣味もできないのが現実だ」
「う~世知辛い、まさる~養ってほしいでござる~」
「働け」
「ゴザ!?」
アットホームな職場など存在しないと思っていたが、こういった会話をしていると年の離れた兄弟と会話をしているようで楽しい。
高校に入ってから両親は海外を飛び回っているので独り暮らしの一人っ子だが。
今度日本に帰ってきたら連絡するかと思いながら、画面を見ればどうやら動きがあるようだ。
『埒があかないわね!?』
『カレンちゃん、冷静に』
『わかってるわよ! ミキ! 防御と牽制お願い、あいつらに大穴開けてやるわ!』
『でも』
『このまま指をくわえたままじゃ勝てないのよ!』
『……わかった』
消耗戦を嫌ってか、打開策を講じなければいけない現実に気づいたか、女子二人、カレン?とミキ?に動きがあった。
「王手」
「チェックでござる」
「え~っとリザイン?」
「海堂先輩、それは降参という意味だったはずですよ。無理に乗らなくても」
何もしてくれない透にシビレを切らせたのだろう。
逆転の一手、大魔法による攻勢で一気にケリをつけるつもりなのだろう。
気の強そうな少女のカレンは、もう一人の少女に周りの敵の相手を任せ自身は魔力を練りだしミノタウロスに照準を合わせた。
その動作を見て、俺と南はあくどい表情を堪えることができなかった。
魔力の奔流、それが威力の高い魔法の前触れなのは映像越しの俺たちよりも、目の前で戦っているモンスターたちの方がわかるだろう。
攻撃のペースが上がり魔法を防ごうとしているが、ミキがサポートから攻撃に切り替わり近寄らせないように炎を撒き散らす。
「あ」
勝の声が溢れる。
そして、カレンの魔法、色合いと使っていた魔法から予測すると、氷の魔法だろう。
それが完成し発射される直前にそれは起きた。
『カレン!?』
『……』
魔法が霧散し、ただの魔力に還り、カレンが崩れ落ちる。
その彼女をカバーするように動くミキも。
『!?』
崩れ落ちた。
魔法が途切れる。
「「「「うあ~~~~~~~~」」」」
その後の映像に染まっているとは自覚のある俺たちでもドン引きだった。
いくら死なないといっても、痛みはあるし傷を負う。
女性二人を槍で滅多刺しにされるのは絵面的にくるものがある。
『カレン!? ミキ!?』
その段階になってようやく状況を把握した火澄のやつは映画の主人公かと言わんばかりに、助けに向かうがすでに手遅れ。
緊急脱出が発動して、女性二人の姿はそこになく。
残ったのは追い詰められ、冷静さを失った男が一人佇むだけだ。
「「ふむ、ざまぁ」」
「先輩も南ちゃんも容赦ないっすね!?」
「俺も少し、胸がスッとしました」
「勝!?」
本当の主人公であったら、ここから逆転劇でも見せてくれるのだろうが、残念ながらそこからは冷静さを欠いた、主人公っぽい人物があっさり蹂躙されただけで終わった。
その光景を見た俺と南の第一声だったのだが。
「いや、彼女たちには同情するが、あいつに関しては……なぁ?」
「そうでござるよ、彼女たちを放置して独断専行、ゲームでそういう奴に似合う言葉を拙者は選んだだけでござるよ?」
「そうっすけど……さすがにあんなの見せられたら同情するっすよ」
「……冷静に考えろ海堂、彼女たちは奮戦した、だがやつはどうだ? 冷静に行動を振り返れ」
「……」
「そんな奴に、正直に言葉を送れ」
「ざまぁ!」
「だろ?」
いくらタウントで注意を引き付けられていたとしても、抗う方法はいくらでもあった。
それがリーダーならなおのこと冷静でいなければいけなかった。
それがやつの敗因だ。
それに加えて先日のやつの行動を合わせ贈られる言葉はそう多くない。
「海堂が、同じ気持ちになったところでスキルの有用性と新しい戦法、そして不意打ちの脅威があのダンジョンに生まれたわけだが、レポート通りだと思うか?」
「見た感想っすけど、所々違うところはあったすけどだいたいレポート通りっすねぇ」
「そこから、改良していくかは今後の次第か。となるとあれもレポート通りに運用しているか」
「そうっすねぇ」
「厄介なものを生み出してしまったな」
「そうっすねぇ、仕事とは言え厄介なもの生み出してしまったッスねぇ」
「「忍者は」」
残念な奴の話をいつまでもしているのは酒の飲み会の時だけでいい。
今は仕事の話、今後厄介になってくるだろう生まれた存在の話だ。
女性二人を仕留めた存在、ひしめくモンスターの中に紛れ込んだ影の存在。
隠密からの暗殺を企画し、吹き矢などの武装をレポートに有用性とともに書いた存在が忍者型のゴブリンだ。
この映像からはわからないが、俺たちには戦ってきた経験からあの階層にはそんな存在はいなかったことがわかる。
それが新種だということも。
その内容が自分たちで作ったレポートの内容というならなおさらだ。
「今後は、ああいった相手にも対応できるようにしないといけないな」
「南ちゃんの魔法はどうっすか?」
「隠れられると難しいかもしれないでござる。拙者、索敵魔法の対処方法も書いてしまったでござるよ」
「忍者は偵察がメインですからね、スキを窺って情報を入手、これが基本原理になると思います」
「手を出せず、向こうの方からは見放題、か。嫌な相手だが対処が取れないわけではない。いたちごっこになるが、失敗は成功の母、失敗談を見せてくれた人たちに感謝して俺たちはああならないようにするとしようか」
「了解っす!」
「攻略は拙者の専売特許でござる!」
「はい、全力で挑みます」
気分も晴れたことだ。
通常業務に戻るとしよう。
田中次郎 二十八歳 独身
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
一言
会社のストレスは他所で発散するのが常だが、こうやってバレないように発散するのも悪くないな。
今年から投稿を初めて、はや数ヶ月コツコツと投稿をし、皆様にブックマークしていただいて一喜一憂してきました。
来年も頑張っていきますので今後共、本作をよろしくお願いします。
では、皆様良いお年を




