247 自分の進歩の進み具合、それは成長だ
「くぅあ、ひっさしぶりに武器握ったって気がすんな」
「気がするじゃなくて本当に久しぶりっすよ俺は」
「素振りくらいはしていないのか? 鈍るぞ」
「うっ、そう言われると……」
長い座学講義を終え、頭の中には異世界の知識が溢れ始めたころ俺たちは研修の前半戦を乗り越えた。
ここから先は楽しい楽しい、実戦訓練。
魔王軍の本分と言っていい内容だ。
足が震えてないのはこの後のことでビビっていないという自分の成長だと思い、内心の体に響きそうな緊張は集中力を高めてくれる刺激になっていると信じている。
そんな俺は、ダンジョン攻略からも二週間という期間だが離れ、素振りくらいでしか握らなかった鉱樹を改めて構える。
座学講義をしているときは座禅を組みながらイメージトレーニングと素振りくらいしかしてこなかったが意外と体に鈍りはない。
軽く振るい、感覚を確かめてみるも以前と遜色ない動きができた。
ステータスダウンを気にしていたが、その心配はなさそうだ。
これなら、教官たちと戦うとしても前よりも善戦できるだろうと思いつつ、海堂を見れば本当に何もしていなかったらしく慌てて構えて体の動きを確認している海堂がいる。
その動きは本当に確認作業のようで、海堂が言う通り二週間は戦闘関連はサボっていたようでしきりに体を動かして感覚の確認をしている姿は少しぎこちなく見えた。
ただ、俺が見る限り体の動き自体は鈍っていないのでしばらくすれば感覚も取り戻して問題ないと思う。
心配なのはどちらかと言うと……
「あ、頭が割れそうでござる」
「大丈夫か?」
「せ、拙者はだめでござる。ということで拙者は部屋で」
「ポーション飲め」
「普通ここはそうか休めと気をつかう部分でござるよね!? 確かにポーションなら体調回復できるでござるが、そういうことではないでござるよ!?」
「仮病でサボる気なら。なおのこと、飲め。それで言い訳ができなくなるぞ」
もう片方の研修中でもゲームとかを持ち込んでいそうなやつの方なんだが。
夜更かしとかして万全の状態ではないか心配ではあったが、さすがうちのパーティーのおかん担当。
しっかりと南の体調管理はしているようだ。
心配する方を見れば案の定少し騒いでいたが、そのやり取りを見て不安はなくなった。
これから来るであろう実戦訓練を前にして仮病を使う南とそれを見抜く勝。
わざとらしい演技に、一応心配しているのだろうかズイっと目の前に見慣れた容器を差し出している。
やればできるというのに、やる気のスイッチを入れるのが下手なやつだと溜息を吐きつつ、脇でウォーミングアップをしている海堂の動きに時々指摘を挟みつつほかのメンバーはどうかと視線を動かす。
「香恋ちゃん、今日の研修は、なにやるのカナ?」
「弱点の克服って言ってたから、私だと接近戦対策だと思うけど、アミーの方だと……」
「私だと、なんだろう? イロイロ、苦手なのがあるヨ? 勉強じゃないといいナ」
「大丈夫よアミー。ここにいるってことは座学じゃないと思うわよ。あなたの場合は魔法じゃないかしら、賢者の知識があるしその方面を伸ばして弱点を克服する感じで。まだ慣れていないんでしょ? 魔法」
「そうかも!」
北宮とアメリアは二人で今日の研修で何があるか相談している。
各々の弱点克服をすると監督官から言われていたことを北宮は覚えていたらしく、そこから今日のやる内容を思い出していた。
その北宮は、今のところは大丈夫なのか?
と疑問符を浮かべるが、見る限りはいつも通りの北宮だ。
勝と南のやり取りを気にする様子もなく、アメリアと話している。
「……海堂、北宮の様子はどうだった? 最近の」
「え? いつもと変わりなかったと思うっすけど? いつも通り……いつも通り、俺への当たりがきつかった気がするっすけど」
「年下に怯えるな」
「仕方ないじゃないっすか!! 北宮ちゃん俺より仕事できるんっすもん!!」
「いい大人がもんとか言うな。ったく」
念のため海堂にも確認してみたが役には立たなかった。
一瞬、体の動きが止まりうーんと悩む仕草を見せるが、すぐにすっぱりと何もなかったと答えた。
聞く限りは平常運転。
その答えに安堵しつつ、海堂と北宮の関係に疑問は挟める。
海堂自身見た目や口調に反して、根性もあれば仕事に対して真面目だ。
不器用ではあるも、積み重ねて仕事はできるタイプは北宮みたいな要領のよく淡々とこなすようなタイプと相性の悪い時がある。
けれど、海堂は口調や見た目に反して根は良い、ムードメーカーにもなり得るその雰囲気を北宮も感じ取り理解しているから、割とうまくいっている感じだ。
それに似た感じで、北宮と南の関係もそうだ。
互いにやろうと思えば要領よくできるタイプであるが、性格の相性がイマイチ。
片ややる気があればできるがやる気が出ないことに対してはやらない。
もう片方は、やる気も継続性もある。
同じ要領よくできるタイプであっても、性質が違う。
社会に出てからはどっちが重用されれるかは明らかだが、今は関係ない。
そんな二人は認めている部分はあるも、認められない部分が足を引っ張っている感じだ。
個々の性格の問題で、うちはそこまで問題になっていないが仕事をする面では気にかける必要がある。
タッテさんがうまく動いていてくれているのに期待しつつ。
俺たちは。
「さて、根性だけは入れておくか」
「そうっすねぇ」
部屋に入ってきた教官たちを見て他人の心配よりも自分の心配をすることにした。
戦闘準備を整えている俺たちと一緒で、キオ教官、フシオ教官、そして監督官も今日は戦うための格好をしている。
普段は白いスーツ姿のどこのヤクザかと見間違うような格好のキオ教官は、何やら胴着のような恰好をしていた。
教官は素手で戦うことが本命だというのは知っていた。
なので空手家のような恰好なのは納得できた。
フシオ教官もいつものタキシードの格好ではなく、様々な装飾品を身に着け、身に纏う法衣のような服装からとてつもない魔力を感じる。
追従するかのように左右で浮遊する金と銀の杖は装飾過多ではないが、それでも杖の先端に施された巨大な魔石と散りばめられた大小さまざまな魔石に施された意匠が目を引く。
そして、逆に機能性を追求した漆黒の鎧を身に纏う監督官を最後に見て今回の研修の本気度を俺たちは冷や汗を流しながら実感した。
本気だという三人をみて、時間ではないが全員雑談を切り上げ三人の前に駆け足で整列した。
「ご苦労、揃っているな?」
「はい!」
臨戦態勢。
そんな言葉が服を着て歩いてきたのを出迎えた俺たちの気持ちは一気に引き締められる。
監督官の確認の声に俺は声を張り上げて答え、それに満足そうに監督官はうなずいた。
これからどんな想像を超える訓練が施されるんだとゴクリと誰かがつばを飲み込み、この広い空間が狭く感じるほど圧迫とした雰囲気の空気となる。
「今日から実戦を交えた研修になる。魔力体であるが、治療の態勢は万全にしてある。各自、改善点及び自己の伸ばすべき点を意識し今後の研修に挑んでほしい」
「「「「「はい!」」」」」
監督官の檄に俺たちの背筋が伸びる。
何をするか。
事前に何も知らされていない俺たちからすれば、対策のしようもない。
その不安が内心でくすぶりはするが、この三人なら大丈夫と思えばなんらかの経験になると思えその不安に揺さぶられることはなかった。
たとえキオ教官と一対一で戦うことになってもなんとでもできると思っていた。
俺の中での予想は前衛である俺と海堂がキオ教官と戦い。
中衛でありサポートの勝とアメリアが監督官。
後衛である北宮と南がフシオ教官の割り振りになると思っていた。
「鬼王、他は任せるがいいな?」
「おう! しっかりと育ててやるぜ!」
だが、その予想は大いに外れることになる。
準備万端と言う俺たちを前にして、監督官はキオ教官に確認するかのように指示を出した。
その発言は個人を監督官とフシオ教官で育てるかのような発言であった。
サムズアップするキオ教官に俺はまさかと思う。
「次郎、貴様は私と不死王が相手をする。他の者は鬼王とともに訓練だ」
「は?」
さっきまでの覇気のある返事はどこに消えたのか。
俺は脇から感じるご愁傷様という雰囲気に気づくことなく、監督官とフシオ教官を相手取ることに頭のキャパシティが一時的にオーバーしその現実を受け入れられなかった。
そんな俺を放置し、キオ教官が海堂たちを連れてその場から離れ、そしてその場に残るのは俺と監督官とフシオ教官。
「いつまで呆けている」
「は、はい!」
その一行を見送るしかない俺は、マジかと思いつつ背筋を伸ばしこの後何が起きるか身構える。
「取って食いはしない。前にも説明しただろう。貴様の立場は非常に危うい。本来であればこのようなことはしたくはないが今は非常時だ。荒療治になるが、貴様の腕を少しでも上げるにはこの方法が効率的だ」
『カカカカ、何安心しろ、死にはしない。死ぬほどつらいということもないから安心しろ』
「は、はぁ」
そうは言っても俺のこの会社に入ってから鍛えられた警戒心がさっきから警告を止めない。
気を抜くな何かあるぞと。
「二人が相手ということは魔法の練習をするということですか?」
それでも、このまま立ち尽くすわけにもいかない。
そのために思い切ってこの後の内容を聞く。
まず何よりもやる内容を把握せねば始まらない。
『それもするのぉ』
「それも? ということは接近戦もやるということですよね。後でキオ教官と合流するのですか?」
監督官とフシオ教官という組み合わせに、俺の弱点である遠距離関係、とりわけ射程を延ばす手段として魔法の訓練を施すものかと思ったが、それを否定するかのように近接戦の訓練をやると言ってきた。
それなら、なぜキオ教官と別の組み合わせにしたのだろうか。
海堂たちを監督官が面倒見て、前みたいにフシオ教官とキオ教官が二人で面倒を見ればいいのではと思う。
正直しんどいが、後衛二人の教官よりはいいのではと思っていると。
『カカカカカ、何を言っておる。次郎を相手するのは』
「私だ。早速訓練を始める。構えろ」
ブオンと何かを振る音が聞こえたかと思い、音源である監督官の方を見れば。
両手にそれぞれ剣を持つ二刀流の監督官の姿がそこにあった。
それも片手で扱うような長さの剣ではなく、俺の鉱樹と同等の長さを誇る大剣を片手に一本ずつ。
それならあの風圧を潰すような音がするはずだと思いつつ、監督官が近距離主体だという姿を俺は今知る。
『鬼王は素手の方が得意での、接近戦のやり方を教えるのはできるが得物を持った方法であるのならエヴィアの方が長けておる。なにせ、魔王軍随一の魔剣使いだからのう』
「そろそろ、貴様の我流の剣術を磨くいい機会だ。存分に学んでいけ」
「……うっす」
構える監督官の姿は非常に様になっている。
ああ、なるほど。
そういうことかと、理解した俺は自然に鉱樹に手を伸ばし、それを構える。
思えば、こうやって誰かに剣術を教えてもらうのはいつ以来だろうか。
この会社に入ってからは実戦形式で教えてもらうばかりで、剣術というのは学ばなかった。
それで通用していたという事実が、必要ではないと思っていたのだろう。
逆に言えば、その技術がどこまで通用するか確認するいい機会だ。
「お願いします!!」
女性だから手加減するという概念はない。
前にボコボコにされたことを思い返し。
「全力で行きます!!」
初手から鉱樹の根を腕に巻き付け接続し、切れ味を増加させて挑みかかるのであった。
今日の一言
思い込みって良くないねぇ。
今回は以上となります。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
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2018年10月18日に発売しました。
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2019年2月20日に第三巻が発売されました。
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新刊の方も是非ともお願いします!!
また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。
現在進行中です。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




