23 ハムラビ法典は言った。仕事には仕事を 報復には同じものを返せと(邪笑
今回は暗躍?みたいな感じのストーリーです。
少し、コメディな雰囲気を入れてみました楽しんでいただければ幸いです。
では、どうぞ
田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
「おーし、お前ら一晩たって落ち着いたと思うから、お題はエグいダンジョン、冷静に容赦なく案を全力で出していけよ~俺も遠慮しないから、今回はブレインストーミング方式でいくからできるできないじゃなくて数を出せ」
先日の出来事から二週間。あれだけグツグツと煮だった怒りは一旦なりを潜めたが、代わりに生まれたのは冷めたがゆえ変化したコールタールのような粘っこい恨みに似た怒りだった。
先週から夏休みに入ったおかげで全力で動いていたため今日はダンジョンはお休みだ。
借りてきたホワイトボードの前に立ち、パーティルームでいつものメンバーが揃う。
「対象は、鬼王のダンジョンでござるからいっそのこと人食い鬼でも入れるでござるか?」
「なまはげみたいのか? それならむしろ日本式のホラーモンスターのほうがいいような気がする」
「喰うより呪うぞって感じっすね。力攻めから一転搦手、俺ならNINJAなゴブリンを導入するっす!! 大量のゴブリンに紛れ込ませて必殺っす!!」
それはこいつらも一緒だった。
怒りという原動力は、盲目的にならなければ一番身近で爆発的なエネルギーになる。
欠点として持続力に欠けるというのはあるがそれは使いようだ。
一気に全部使うのではなく、逐一投入する感じで使えばいいだけのこと。
ブラック企業で上司を嵌めることを考え続けた俺にとってそういったスケジュール管理は朝飯前だ。
「コストを考えて序盤から厄介だと思わせたほうがいいでござる。罠の方も見直しが必要でござるよ」
「あれっすね、迷宮の構造を入るのは簡単、出るのは難しくしたらどうっすか?」
「そうですね、入ってきた道をたどれないように工夫をすれば、しっかりとマッピングされなければ相当面倒なダンジョンが出来上がるはず」
おかげでどんどんホワイトボードは文字で埋まっていく。
コンセプトが嫌がらせに偏っているのは魔王軍らしくていいと思う。
対象は勇者ではなくて火澄たちを想定している。
まぁ、勇者っぽい一行だから問題はない。
この一週間でわかったが、俺を含めて俺のパーティはブラック企業に入っても染まることのできる素質がある。
それも流されるだけで終わるようなことはなく、一矢報いてケタケタ笑いながら残業をこなすことができるタイプの才能が。
「いっそのこと自衛隊の特殊部隊の運用を真似するのはどうっすか?」
「情報がないから難しいでござるなぁ、でも閉鎖空間での軍の運用は参考になるはずでござる」
「歴史書とかなら図書館にありそうだし、昔の運用の仕方でも参考になるはず」
今の状態でもこいつらは真剣に話し合っているが、目の光が怪しい。
こうやったら裏をかけるのでは?
ここを変えたらあいつらをはめられるのでは?
あれを増やせばもっと効率が良くなるのでは?
伊達や酔狂でこの一週間で鬼王ダンジョンを一気に『十八』層まで攻略しない。
そしてこの事実をスエラとエヴィア監督官以外誰も知らない。
俺たちはまだ五階層付近をうろついていることになっている。
『次の報告書を楽しみにしているぞ』
その手筈を整えてくれた悪魔の監督官は嬉しそうに笑って俺の意見を汲み取ってくれた。
ああ、こういうふうに理解してくれる上司がいると本当に助かる。
『あまり無理をなさらないでくださいね。この一週間の次郎さんは少し怖かったので』
だが、反面スエラには心配をかけてしまった。
前の会社の影響で、こういったことに対しては真正面から反論できないように報復する。
それが弱肉強食の世界で染み付いてしまったがゆえ少し暴走気味だった。
『できることは私も手伝います。ですから、あの時のようなことは』
それを引き止めるように諭してくれたスエラには俺は感謝せねばならない。
少し惚気けると、申し訳なさを感じると同時にそれを上回る愛おしさを感じてその日は盛り上がった。
え? ナニがって? 言わせんなよ。
おかげでこうやって冷静に仕事という大義名分を得て行動を起こすことができる。
「おーし、ある程度案が出たら今度はまとめていくぞ」
ホワイトボードを黒とか赤のマーカーで書きつくし、次に見るのはテーブルの上にあるレポート用紙だ。
現代において、手書きの書類というのはそれなりにあるものだ。
もっぱらパソコンの書式に打ち込む形式をとっている会社の方が多いがそれでも手書きというものはなくならない。
これは現場で感じとった改善点をまとめたものだ。
「優先順位はともかく相手が嫌がることだ。ブーメランで俺たちにも返ってくるがそこは仕事だ。諦めろ。開き直ってこれ無理ゲーだろっていうものを作ってやれ」
「エグさ優先でござるか……燃えるでござるな!!」
「先輩、前の会社のモットーは先を見るな今を見ろっすよ! 自分の首ならいくらでも締めてきたっす!!」
「それ、あまりよくないんじゃ」
「勝、いずれ君にも分かる日が来るっすよ」
「もう目の前に来ているけどな。それはともかく、今はこっちの仕事が優先だ。今回の内容次第で俺たちの評価も変わる。いい加減俺たちがお遊びでやっていると思われるのも嫌だからな。ここからは一切……自重を捨てろ」
「ああ、いいでござるねぇ」
「うちの先輩は雑食系に見えて、狩りを得意にする肉食系っすからね」
「周囲に気づかれないように追い詰めて、あとはってやつですね」
おぅおぅ、悪い笑みを浮かべてやがるなぁ。
まぁ、俺も同じような表情をしている自覚はある。
だって、ようやくやり返すことができるのだからな。
それは楽しいに決まっている。
どんどんと階層ごとの改善案が埋まっていく。
可能か不可能かは研究室及びダンジョンの担当者が判断してくれる。
俺らが出すのはそのダンジョンにあった案をわかりやすく相手に伝わるようにまとめた内容だ。
別添で添えた俺たちパーティ自作の地図もそのための資料だ。
これをもとにもしかしたらダンジョンの構造が変わるかもしれないが、それはそれ、こっちが対応して動けばいい。
そして、ここで役立つのがまたもや南だったりする。
「お~、相変わらず南ちゃんはブラインドタッチが速いっすねぇ」
「ヌフフフ、拙者個人でいくつかサイトを運営していたでござるし、ネトゲの時は戦いながら指示もしていたでござるからこれくらい朝飯前でござるよ」
「何げにすごいっすよねその特技」
「この特技があるなら、就職もできるって言っているんですが」
「それは趣味! 仕事とは別腹でござるよ!!」
「即答っすか」
「俺としては役に立つならなんでもいいがな。まぁ、ブラック企業に勤めていた先輩からアドバイスするならそういった特技は前面に出さないほうが身のためだ。できる奴はこき使われ磨り潰されるからな」
「「うわ~」」
「それが現実ってやつっす」
サイトを経営していて少なくないお金をもらっていた南、その才能がこの報告書にも反映されている。
俺が用意した書式に見やすいように文字列を配置し、文章内容もわかりやすい。
正直、ダンジョンに挑む要員ではなくて事務員として働いてくれた方が役立つような気がする。
まぁ、今は喜んでやっているが配置替えをすれば、こうやって雑談をしながらも止まらないタイピングはもう二度と見ることはないだろう。
やる気があるから機敏に動くことができる。
良く言えばその手本となるような人物が南ということになる。
悪く言えば、やりたいことにしかやる気を出さないだらしのない人物ということにもなるが、投入する箇所を間違えないようにするのが俺の役割だ。
「ここに落とし穴とか」
「毒ガスとかないっすか? 人間に効いてゴブリンに効かないやつ」
「エロゲからの引用で、いっそのこと媚薬を噴霧するでござる。エロいことを考えていると戦うなんて発想は生まれないでござる!!」
「それっす!!」
「ガスマスクの購入を検討するか、その運用方法とあと異常耐性のスキルを取る方法スエラに確認しないと」
「あと、罠に対応する人を増やしたほうがいいかもしれません」
「そっちもあったなぁ、今は南に任せているけど戦闘になったら厳しいかもしれない」
海堂と南が盛り上がりその暴走具合の対策に俺と勝は思考を割き始める。
女としてその発想はいいのか?とつっこみたいという気持ちがないわけではないが、それは南だからという言葉で片付く。
趣味が男性のオタクと似通っていると言えば理解はできないが納得はできる。
そんな南が考え、多少なりとも追随できる海堂が補佐するのだ。
完成されたアイディアがまともなジャンルで収まるはずがない。
さすがにエロゲそれもやばい方向に傾きそうなジャンル方面の内容が備わっているダンジョンめがけて無策で突っ込むのは勘弁だ。
そろそろ進路修正をしたほうがいい。
「採用されないことを祈って、ほかの種族の運用は?」
「環境的に厳しいかもしれないっす。あと、指揮系統の問題で運用が難しくなるっすよ?」
「現実でもあるでござる。黒人の上官に従わない白人、黄色人に従わないほにゃらら逆もまたしかりでござる」
「メンツってのも大変だな。一部なら可能かもしれないが大々的には難しいってところか」
やはり、トントン拍子というわけにはいかない部分は出てくる。
罠や部屋の配置通路といった部分は指摘しやすいが、人員?となると難しい。
小説とかでゴブリンとリザードマンが混在していたり、そこにスケルトンといったアンデッドが加わって混成軍が成り立っていることが多々存在するが、現実問題それは難しいらしい。
それもそうだ。
そもそも人型という共通点がなければ生態系、生活環境が大きく違うのだ。
その分価値観や運用方法が異なる。
要は相性の問題というやつだ。
ゴブリンとダークエルフが代表例だろう。
片や性欲の対象、片や襲われる。
たとえ軍の総大将が命令しても仲良く行軍しましょうというのが無理がある。
よく魔王軍が人間の軍に負ける描写が描かれる。
その原因が多部族を抱える軍が人間統一軍に劣るという弱点を突かれた時が多い。
もちろん相性のいい種族は存在する。
というより、それぞれの将軍で統括している軍はその相性のいい種族で編成されているのだ。
無意味に争いを起こさないようにそういった種族統制をしている節がこの軍にはある。
それを強いからという理由で俺たちテスターが捻じ曲げるにはメリットに欠ける。
「この案はひとまず保留だ。武器とかの方はどうだ?」
「ゴブリンの主兵装は、短剣、棍棒、弓、中には魔法を使う個体もいます」
「鬼族が俺たちと近い戦闘方法をしてくれるのが助かるっす」
「おかげでこっちは戦術的に考えやすいでござるからなぁ」
「敵を強くする。おかしな仕事ではあるがな」
ならば、種族の中で多様性を持たせてやればいい。
特に鬼族、ゴブリンに始まり、豚鬼、牛鬼、大鬼など人型が多いこのダンジョンはやや血の気が多く脳筋な部分はあるが、比較的近い運用ができる。
「刀が欲しいところだな」
「? なんででござる? 普通なら槍とかでござるよね?」
「そうっすね。ほかには銃とかっすけどこの世界じゃ意味ないっすからね」
「核兵器でも魔王なら少し火傷する程度らしいですし」
魔力がない武器はダンジョン内では効果が低い。
威力イコール魔力総量を地で行くイスアル、親指程度の礫などたとえ金属程度でも魔力を込められる量は大したことはない。
これが魔法銀や魔石とかなら話は別なのだが、ミスリルは一発に数万単位でコストを抱えて、魔石は安いがそもそも脆く撃った瞬間に砕け散る。
たとえミサイルに魔力を込めたとしても、爆発に魔力が乗るわけではない。
せいぜいミサイルが衝突した時のダメージくらいだ。
それも将軍や魔王からすると赤子の張り手のようなレベルらしい。
要は当たったという感触がある程度だ。
今の俺程度でも、マグナムの弾を受けても当たり所が悪くなければせいぜい罅程度で済んでしまうから察してほしい。
「ああ、お前ら示現流の集団殺法って知らないか?」
「示現流って、あの一撃に全てを賭けたあの示現流っすか?」
「リーダーのように奇声を上げるあの示現流でござるか?」
「前にテレビで丸太を殴っているのを見たことがありますが」
「ああ、だいたい間違っていない……のが悲しいところだな。それはまぁいい」
「いいんっすか?」
「いいんだよ。それで俺の通っていた道場は元は示現流から派生した剣道場らしくてな。実際師範も示現流を習っていた人だ。まぁ、おかげで何回も袈裟斬りじみた面打ちの練習をさせられたわけだが、そこで師範に聞いた話だ」
二の太刀要らずの示現流。
すべてを一刀にかけた攻撃力は今世に至るまで耳に残るほどの結果を残してきた。
一対一において無敵とはいかぬも強さの実績は残してきた剣術だ。
だが集団戦、特に複数を相手にすると途端に弱さを見せる。
初太刀が外れたときの対処法も存在するが、今は重要ではない。
示現流にも集団戦法というのが存在する。
まぁ、戦法と言ってもそこまで深いわけではない。
簡潔に言えば集団が全力で鋭い刃を一人に対して振り下ろすだけの話なのだから。
「リンチっすね」
「リンチでござる」
「リンチですね」
「だが、数の多く力の強い奴が多い鬼族ならぴったりだろ?」
「いや怖いっすよ。捨て身で集団が刀を振り下ろしてくるっすよね?」
「シンプルイズベストとはよく言ったものでござる」
「だから、効果的と言えるかもしれません。勇者はともかく、ほかのパーティメンバー特にサポート役の人間からすれば悪夢かもしれません」
俺もこれを思いついたときはあれ? ヤバくねこれ?
と思ったものだ。
捌いても捌いても振り下ろされる刃、これがゴーレムとかだったらそこまで気にはしないのだが、鬼王のダンジョンは数が違う。
接近を許したら最後。群がるように全力で刃を振り下ろしてくる。
「ああ、そしてこれにもう一つ、いや二つほど工夫をする」
今の俺はあくどい顔をしているだろう。
それもそうだ。
えげつないことを考えているときは皆こういう顔をするだろう。
「「「うわ~」」」
客観的証拠のために、目の前の引いた顔は気にしないでおく。
「よ~し、以上のことを踏まえて報告書をまとめるぞ。頼むぞ南」
「りょ~か~い、ここまで来るとだんだんと楽しくなってきたでござる!!」
テンション上がってきたー!!
と叫びながらタイピングする指の速度を上げる。
魔力のある空間であるが故か、それともそれが元来の速度であるのかわからないが、キーボードに負担をかけず、まるで機械が文字列を作り出す以上の速度を彼女は文字通りたたき出している。
「このタイピング技術が前の会社で欲しかったっす」
「代わりに仕事の量も三倍くらいに増えていたかもしれないがな」
「しまった!?」
「そんなにひどかったんですか?」
「前の部署の上司が社長の親戚で、おまけに仲がいい。社長はすごいらしいが、血筋イコール優秀とは限らないという身内びいきの悲惨な部署が生まれた典型例だったよ」
「九割がた部署内の人間を敵に回していたっすからねぇ」
「刺されろと言われない日がないくらいの嫌われ者だった」
「なんで仕事を続けられたんですか?普通なら辞めてもおかしくないですよね」
「「さぁ、頭がおかしいからじゃないのか?(っすね)」」
辞めた同僚の中には丑の刻参りを実行した奴もいたが、当の本人はケロリとして実行した奴は胃に穴があいて入院、そのまま帰らぬ人となった。
いや、死んではいないよ?
入院と同時にあの上司に退職届を叩きつけただけだ。
おかげで当時のデスマーチがデスパレードに早変わりしたがな。
「よくよく思い返せば、よく殺人事件にならなかったな。誰かしらやると思ったのだが」
「あんな奴殺して人生棒に振るのがやだったからじゃないっすか?」
「ああ、でも柳原さんとかやばくなかったか?」
「ああ、昼休憩中に完全犯罪計画していた柳原さんっすか、実行する前に彼女ができて一緒に転職したっすからねあの人」
「……社会にでるのって大変なんですね」
「まぁ、あれは特殊だからあんまり参考にならないぞ?」
「そうっすね、絶望しないでいいっすよ?東京に潜む闇の一部だと思えばいいっす」
社会の荒波というより泥沼と表現するような会社の話を聞いて、未来の希望を打ち砕いてしまったかもしれない。
勝、正直すまん。
「俺、なんの職業になればいいんでしょうか?」
((専業主夫?))
予想のできる質問に俺は咄嗟に思い浮かんだ職業?が口から出そうになったが、きっちり口元を閉めることでこらえた。
なんとなく海堂も同じことを考えているのだろう。
そんな気がする。
「勝は拙者の嫁になればいいでござる!!」
「「ニートに養われるオカン??」」
「拙者働いているでござるぅ!!」
「このままだといいんだがな」
今度は口から出てしまった。
正直、勝と南が離れることは想像できない。
現実的に何があっても、この二人は収まるところに収まるだろうという考えが俺の中にある。
だから自然と浮かんだ未来を口にしただけである。
経済的におかしい言葉ではあったかもしれないが、雰囲気的にはおかしくないと思う。
なんだかんで文句を言いながらも、本気ではないという意志が互いにわかっているあたりがそう思わせる。
そのまま台所へ向かう勝を見送る南はタイピングを止めて文句の標的を俺たちに向ける。
「拙者の扱いがひどいでござる」
「いつも通りだろ?」
「勝!?」
「それともリーダーたちにお前のやっている乙女ゲームみたいな態度をしてほしいのか?」
「……鳥肌が立ったでござる!?」
「「そこまで嫌か(っすか)!?」」
だが、それもすぐに台所と居間にいる夫婦のような会話に変わってしまった。
最後に付け加えられた南のセリフはなにげにひどかったが。
「いや、リーダーはワイルド系のキャラでギリギリありかなぁって思ったでござるが、スエラさんからの爆撃が頭をよぎって」
「ああ、そういうわけか」
それなら納得だ。
鳥肌は鳥肌でも恐怖からくる鳥肌か……
俺も気を付けよう。
「俺はなんでっすか?」
「普通に無理でござった」
「バッサリっすねぇ!?」
海堂どんまい。
「いや~、そうなるといまのままがいいってことでござるなぁ」
「そうだろう? ほらココアだ。リーダーと海堂先輩はコーヒーでよかったんですよね?」
「すまんな」
「うう、俺ってそんなキャラっすか?」
わーいと子供のように喜ぶ南にココアを渡してから、差し出されトレイに載ったコーヒーを受け取る。
「南、報告書の方は?」
「ん? あとは誤字の確認ぐらいでござるね。プリントアウトすると結構な量になるでござるよ?」
「データで渡すからそのままでいい。誤字は俺の方で確認するからUSBメモリに移しておいてくれ」
「了解でござる」
「結構時間使ったすね」
「ああ、今日は終わりだ。明日と明後日は休みにする予定だが大丈夫か?」
「ふふ、拙者にその質問をするのは愚問でござるよ!! 百八通りの時間の過ごし方を内包しているでござる!! 休みこそ至高でござる!!」
「まぁ、俺は課題と南の世話があるので」
「俺は――」
「奥の施設で金を使いすぎるなよ」
「わかっているっすよ!」
案の定、施設を解放したら海堂は奥の施設にハマった。
戦うというのは生存本能を刺激される。
故にそういった施設が必要だと説明された。
二週間で相当の額を稼いだから借金という心配はないが、使いすぎるのは後々大変になるので釘は一応さしておく。
「おし、今日は解散」
「お疲れっす」
「お疲れでござる」
「お疲れ様でした」
各々の予定を過ごすためにパーティルームから出ていく。
「さて、俺は少し残業するかね」
俺は残って南が作ってくれた報告書に目を通し、誤字脱字の確認をして過ごす。
「うし、あとはこれをスエラに渡せば終わりだな」
口元がにやけるのがわかる。
だが、まだだ、まだ抑えろ。
この喜びは成果が出てからだ。
「あとは結果を御覧じろってな」
くるくると報告書の入ったUSBメモリを片手に俺もパーティルームをあとにした。
Side ライドウ
俺は今、とても気分がいい。
「あいつ、おもしろいこと考えやがったな」
俺が今いるのは会社でもダンジョンでもない。
次元の狭間に存在する大陸の我が家だ。
ニホンでいう武家屋敷を一目で気に入って巨人どもに作らせたが、これが思った以上にしっくりくる。
俺はその一室でエヴィアから渡された書類に目を通している。
部下にこの姿を見られれば驚かれるだろう。
俺も最初はこんな紙切れを見るつもりはなかった。
どうせいつものやつだと思って受け取ろうとしなかったが。
『今回は見ておけ、面白いものが見れるぞ?』
製作者のところに次郎の名前が見え、つい受け取ってしまった。
「カッ、間違ってたのは俺の方ってことか、さすが大将」
ダンジョンに人の手を入れる。
それに対して俺は最初は乗り気ではなかった。
大将の言葉だったから手伝った。
ただそれだけだ。
他の将たちも似たような心境だろう。
次郎みたいな骨のある奴がいたからまだ俺とノーライフはよかったかもしれない。
だが、ほかの奴らはどうか。
「ククク、そんなことを考えても仕方ねぇな」
今はこの紙切れを現実のものにする方法を考えねば。
いくら実力主義の魔王軍といえど、力だけ頭だけでこの地位に就けるわけがない。
文武を共に頂に置き器あるものが将軍となる。
「父様、外に魔力が漏れてる、疾風が驚いて池に落ちた」
「お? それはすまんことをしたな、お前は大丈夫かイナ」
どうやらこのあとのことが楽しみになってついつい魔力を漏らしてしまったみたいだ。
襖というのか?
紙の扉を開き、和服を着た俺の娘が姿を現す。
コクりと頷いて答える仕草は俺の妻によく似ている。
「父様それは?」
「あ? 仕事だ仕事」
「珍しい」
「っかか! そうかもな」
「でも」
「ん?」
「父様楽しそう」
「ああ、なにせ楽しいことがおきそうだからな」
「楽しいこと? それって、前話してくれたジロウって人間?」
「おう! あいつが面白い話を持ってきたんでな今日はいつもより酒がうまくなりそうだぜ!」
「……ジロウって強い?」
「なんだ? イナ、興味があるのか次郎に」
「……うん、強いなら戦いたい」
おうおう、普段やらないことをやったら娘にまで伝染っちまった。
イナは俺の血を継ぐだけあって強い。
まぁ、俺にはまだまだ及ばないがな!
それでもそこらのやつを圧倒できる力はある。
ほかの俺の子供もそうだ。
だからだろう。
イナを含めて俺の子供たちは弱者に興味を持たない。
人間なんぞ、捻りつぶせる存在と思っている。
それは間違ってはいないが反面間違っている。
強いも弱いも、種族じゃない個だ。
「まてよ?」
「父様?」
「おし、イナお前次郎と戦ってみるか」
「いいの?」
「ああ、あいつならお前といい勝負するだろうよ」
それを知るには次郎という存在は格好の教材になる。
俺の見た感じ、イナの方が戦う力は上だ。
だが気合ならあいつの方が優っている。
次郎の実戦経験にもなれば、イナの成長のための教材になる。
この国の言葉で一石二鳥というのがあるらしいが、このことだろう。
それに俺の勘が言ってる。
面白いことになると。
今日の酒は本当にうまくなりそうだ。
「……楽しみ」
「ああ、俺も楽しみだ」
さて、次郎の持ってきたものを片付けて娘と戦わせる算段をたてるとするか。
Side END
「っ!?」
「どうしました?次郎さん」
「いや、急に寒気がな」
「風邪でしょうか?」
「魔紋で強化されても風邪は引くのか?」
「ええ、免疫能力は上がっていますが絶対というわけではありませんから」
「そうか」
「最近はかなり無理をしているみたいでしたし、今日はゆっくりと休みましょう」
「そうだな、と言いたいが今日は少し寒い。スエラと温まってから寝るとしよう」
「……はい、来てください」
最近わかってきた嫌な予感の分類、そのなかで危険を察知する何かを訴える勘。
ベッドの上でふいにそれを感じ取り周りを見回したが何も起きず、仕事の疲れか?と思うことにする。
今は、彼女の温もりに身を委ねるとしよう。
田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
人間、ヤル気になればどんな行動も起こせる。
ああ、嘲笑っている奴らを追い越すくらいわけないさ。
精々下に見ていろ。
次は上を見る羽目になるのだからな(ニヤリ
今回は以上となりますが、いかかでしたか?
よく戦記物の小説を読むのですが正直ああやって伏線を張って回収する方々の文章能力はすごいと尊敬します。
私も精進してフラグを建てて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。
これからも、勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします。