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22 夏だろうとなんだろうと季節に関係なく仕事はある、それが社会人だ

今回は少し短めです。

新キャラをまた出していきます。

田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



「オーホホホホホホホホ!! 相変わらず辛気臭そうな肌の色ですわねスエラ!」

「げ、カイラ」


なんだこいつは?

それが、俺が彼女に対して最初に抱いた感想だ。

そして次に思ったのは現実であんな高飛車お嬢様の高笑いを手もしっかり添えてやる奴がいるんだなと素直に驚いた。

あ、相手は異世界人だからおかしくないのか?

いつも通りスエラに報告書を提出して、今度の休みの話をしようとした時にタイミングを計っていたとしか思えない高笑いが俺の耳に入り込んできた。

その発生源をいち早く確認したケイリィさんの表情は苦虫を噛み潰したかのように芳しくない。


「……竜人ドラグナー?」


またかと言わんばかりに額に手を当て、頭を振るスエラの姿から嫌な予感しかしないが見ないわけにはいかない。

一旦会話を切り、向けた視線の先にはサファイアのような光沢の鱗が至るところに散見することができる竜人がいた。

まぁ、オフィスだから女性物のスーツを着ているのは納得できるが、赤はないだろう赤は、青色の鱗の色と相対色として合っているといえば合っているが、竜人特有の翼と相まってなんとも言えない微妙な組み合わせだ。

それとこれは関係ないがツヤのある銀色に見えそうな灰色の髪の縦ロールなんて初めて見たぞ。

まぁ、女の象徴はスエラに軍配が上がるな。


「それで次郎さん、この報告書の件ですが」

「無視ですの!?」


そしてスエラは一回彼女の方を見たと思ったら、存在をなかったことにしようと話を進めようとした。

だが、金切り声がそれに待ったをかける。


「……はぁ、なんでしょうか?」


ここまで無気力無機質なスエラを見るのは初めてかもしれない。

頭痛をこらえ、徹夜明け、今日も残業が確定していることを実感していた俺でもここまで嫌々反応しないと思うぞ?

いや、淡白にはならないと言えばいいのだろうか?


「あなたのところのテスターがどの程度の能力か確認しに来ましたわ!」

「先日の報告書を確認してください。紛失したのでしたら、共有ホルダの三日前のフォルダ内に保存してあるので探してご自分でコピーしてください」


さらに訂正する。

淡白なんてものではない、吹雪だ。吹雪が吹雪いている。

ツンドラの凍てつく吹雪がスエラの視線から発せられている。

それを真っ向から受けても不動で笑っていられる彼女もスゴイが、それを讃えるなど地雷を踏み抜くつもりはない。

代わりに理性の代わりに警鐘を鳴らす男性の本能、加えてダンジョンで鍛えられている生存本能が訴えている『逃げろ』と。

それに抗う理由はないので女性が不機嫌になる時は避難しようと体が行動を起こすが、


「……ケイリィさんこれはいったい」

「ああ、次郎君は初めて会うんだっけ、あいつカイラって言うんだけど一応同じ部署の竜人で自称スエラのライバル」

「ライバル? しかも自称って」


その本能に従えば仕事を放棄することになるのでその選択はできず、仕方ないので事情が聞けそうなケイリィさんのところに避難する。


「ライバルに自称ってあるんですか?」

「さぁ? なんか妙にスエラに一方的に絡む姿を見て勝手にあたしたちが言っているだけだし」

「……あやふやな情報源ありがとうございます」

「どういたしまして」


傍観と言えば聞こえはいいかもしれないが、やっていることは小声で会話をし被害をこちらに向けないようにしている野次馬となんら変わりはない。

そして、ケイリィさんはライバルと表現したがニュアンス的にはルビに絶対面倒なやつとふられていること間違いない。

ようは、絡みたくない職場の人間というやつだ。

俺で言えばほかのテスターパーティだが、人あたりのいいスエラにそんな存在がいるとは驚きだ。


「用件が済みましたら、早急に仕事に戻ってください。こちらはあなたと違って忙しいので」

「あら? これだから鈍臭いのは嫌ですわ、あの程度の仕事が溜まるなんてわたくしには考えられませんわ。できない部下テスターを持つと大変ですわね。っふ、なんでしたら手伝って差し上げましょうか?」

「結構です」


ああ、なんとなくこの会話で大体の人間関係が察せてしまった。

これライバルなんかじゃない。油と水だわ。

スエラは波風立てないようにかわそうとして、かたやカイラと呼ばれる竜人は波風立てて場を楽しもうとしている。

俺個人としても関わりたくないタイプだ。


「あれで仕事『だけは』できるからタチが悪いのよ」

「……マジですか?」


妙に『だけは』の部分に力を込めると思いながら今も高笑いを織り交ぜスエラと会話を繰り広げる見るからに頭の悪そうな女性を見ると、自然と吐き気に似た何かを感じた。

うえ、ウザくて仕事のできる職場の人間って最悪に近い取り合わせじゃないか。

鳥肌が立つことを感じ取りながら、せめてもの救いを求めてケイリィさんに確認を取る。


「ちなみに、どれくらい?」

「……スエラと同じくらい」

「え?」


バッサリと手を伸ばした俺の願いは切り捨てられた。

ありえない。

そう叫びたかった。

いつの時代のドラマのライバルキャラだ?

高飛車な仕事のできる存在などドラマや漫画の世界だけだと思っていた。

少なくとも、あんな態度の社会人の大半は自分のことを棚上げした仕事のできない奴だと俺は思い込んでいたのだが。


「え~」

「まぁ、普通はそう思うよね」


現物を見ても信じられなかった。

俺の漏れた言葉を聞いて、私も未だ信じられないとケイリィさんも同意する。

そりゃそうだろう。

今も何かと難癖つけてスエラと会話を引き延ばす姿を見ればどうあがいても仕事ができるなんて印象を抱きようがない。


「しかしいいんですか?」

「何が?」

「いや、結構騒がしくなっていますけど」

「ああ、大丈夫大丈夫、こんなの向こうイスアルじゃ可愛いものだよ。カイラもエヴィア様が会議でいないからでかい顔しているだけで、すぐに鎮圧されるよ」

「鎮圧?」


何かと物騒なことをメインで仕事をすることになっている我が会社であるが、ついに鎮圧なんていう単語が出てきたか。

それ自体に驚きはないが仮にもここはオフィス、たとえ戦闘メインの業務だとしてもここは書類を書く場所だ。

一体全体どうやって鎮圧するというのだろうか。


「私の部下の方が『仕事をしろ戯けが』」


いきなり起きて一瞬で終わってしまったから結果だけを言おう。

光ったらカイラが吹き飛んで強制的に座席に着席させられていた。

先に監督官の声が聞こえた気がしたが、結果を見れば空耳ではないだろう。

さっきまで威勢が良かった姿とは打って変わって背もたれに伸びるように寄りかかっていた。


「ほら鎮圧させられた」

「鎮圧、なのか?」


さすが異世界、仕事の注意も口だけで済まない。

魔法で仕事に戻らせるなんて斬新すぎる。

おそらく竜人特有のタフネスもあるからああいった力技ができるのだろう。


「とりあえず、スエラにコーヒーでも入れてきたら?」

「そうします」

「にしし、頑張れ男の子」

「もうそういった年じゃないですよ」


その光景をいつまでも眺めているわけにはいかない。

少し疲れた様子のスエラを慰めるために差し入れを持っていくとしよう。




「っていうことがあった」

「うわ、なんでござるかそれ、すごい見たいでござる」

「いるんっすねぇ、そんな人が」

「どうぞお茶です」

「悪いな」


午前中の出来事を午後から挑んでいるダンジョンの休憩時に話してやれば、南は目を輝かせて新キャラ来たと興奮した。

勝と海堂の反応はおざなりで、それぞれお茶をすすっている。


「寒い場所だと、温かいお茶が身にしみるっすねぇ」

「寒いというか雰囲気が暗いだけですけどね」

「仕方ないでござる。なにせ拙者たち墓場の真上にいるのでござるから」

「そんな場所で休憩取る俺たちはなんなんだって話になるがな」

「ふふ~ん、拙者の結界術に感謝でござるよ。おかげでこうやってダンジョン内で休憩できるのでござるから」

「アホ、南が報告書にホラー映画やホラーゲームのタイトルを羅列して参考にしろって言ったおかげでこうなっちまったんだぞ。どうするんだ。入口に戻るもアンデッドの山。進むのはアンデッドの波、どっちに挑んでもホラーアクション街道まっしぐらだ」

「反省はしているでござる。だが後悔はしていないでござる!!」

「自重しろ!」

「ござ!?」


軽やかなハリセンの快音。

見慣れた勝の南へのツッコミを見ながら茶をすすり、視線だけを下に向けてやれば、半透明になった床の向こうに動く死体や動く骨が見える。

高さにして五、六メートル。

絶対に体重を支えられない木の枝の先に展開された魔力の足場と隠蔽結界の合わせ技、ここ数カ月で数々の魔法を編み出した南の魔法だ。

魔法の名前が『休憩室』と安直ではあるが、雑魚相手限定とはいえ休息が取れるのはかなり役に立つ魔法だ。

防音と外から隠れる迷彩機能を思いつく柔軟な発想を持つ南は性格に難はあるが優秀だと言える。


「今後のことだがマッピングはどこまで済んでいる?」

「入口からここまでのマッピングは終わっています。ですが、かなり広い街みたいで地下への入口を探すだけでかなり時間が必要になりそうです」

「だろうな」


不死王のダンジョンはフィールドダンジョンと迷宮ダンジョンの合成タイプのダンジョンだ。

前半に死の都となったフィールドと後半は都のどこかにある入口から入る地下迷宮だ。

現状都にはゾンビとスケルトン系列しか見当たらないが、南が前に提出した報告書のおかげで心臓に悪いホラー映画の仕様がふんだんに盛り込まれて厄介なことになっている。


「それでこれから、ハリウッド映画のラストシーンみたいな場面を体験しに行くのだが、安全に帰る方法はありそうか?」

「ゾンビが追いつけないほど全力疾走するっていうのはどうっすか?」

「南、現状最大何キロまで全力で走れる?」

「三キロ行ければいいでござるね」

「無理っすねぇ」

「屋根の上を走っていくのはどうですか?」

「数は減るだろうが足音で反応してたから手を伸ばされて足場を崩される、魔法で屋根を強化しながら行けばいけるかもしれないが……候補でいくか」

「そんなことするなら、拙者が足場を作って走り抜けたほうが速いでござるよ?」

「ネックはアンデッド軍に存在するであろう空中戦力か」


お約束で言えばコウモリやハゲタカ、カラスといったメンツがアンデッド軍の空中戦力に想定される。

他にも吸血鬼とかゴーストとかも存在するが、吸血鬼はともかくゴーストに関してはよほど上位存在でない限り心配はしていない。


「お約束だとドラゴンゾンビとかも飛びそうでござるなぁ」

「そうなったら全力で逃げるぞ、ドラゴンとかと今の段階で戦うなんて御免被る」

「っすねぇ」

「そろそろいい時間帯です。結論に入りませんか?」

「そうだな」


長々と話し合いだけを続けても意味はない。

決めるときはすっぱりと決めることも重要だ。


「喜べお前ら、これからハリウッドデビューだ」

「うわ、とういうことは正面突破でござるかぁ」

「まぁ、相手の探知能力は低いっすからできる方法っすよねぇ」


やはりと予想はしていたようだ。

勝に至っては黙って弁当箱の片付けを始めていた。


「魔力の節約だな、下手に足場なり強化なりに使って必要な時に使えないとなると笑い話にもならん」

「そんな状況になったら、まず最初に脱落するのは海堂先輩でござるな」

「ハハハハ、そしてそのあと悲惨な脱落の仕方をするのは南ちゃんっすよね」

「「ああ?」」

「おい、喧嘩するのは構わんが俺と勝だけで脱出するぞ? それともなにか? あいつらの夕飯になってもいいのか?」


――――

「今日は魚の気分っすねぇ」

「異世界の魚による刺身定食、それが拙者のマイブームでござる」


現金なやつだと嘆けばいいのか、軽口の応酬ができる仲だと喜ぶべきなのか。まぁ連携は取れているし実際猫のじゃれあいのようなものだ。問題はない。

こうやって下でうめき声を上げるゾンビを、指差して脅してやれば直ぐに収まるのが何よりの証拠だ。


「刺身か、ダンジョンから出たら鮮魚店によらないとな」

「捌けるのか?」

「一通りはできます」

「よくやるな」


勝の料理の腕を疑うわけではないが、俺が高校生の時の料理の腕は、千切りじゃない千切りができた程度だ。

間違っても魚など捌けるわけない。

できたとしてもぶつ切りがせいぜいだろう。

そう考えると既に主婦の領域に入っている勝はすごいとしか言いようがない。

まぁ、今晩の献立は決まったようだ。

それなら日本酒でも飲むかと自分の中でご褒美を決めながら、鉱樹の柄を握る。


「行くぞ」

「了解でござる」

「うっす!」

「はい」


カウントスリー、指の三拍子で俺が合図し南が結界を解除する。

そしてわずかに残っている足場で俺たちは助走をつけ、墓地の入口に向けて跳ぶ。


「前方、ゾンビ、スケルトンの混成軍、数は?」

「大体三十くらいでござる。リーダー右の方が薄いでござる! リーダー突撃、海堂先輩魔法で襲撃でござる!」

「おうさ!」

「うっす!」


大通りを駆け抜ければ敵の群れにぶつかるのは必然。

本来なら避けるべきなのだろうが、不慣れな場所で脇道に逸れて袋小路に押し込まれる危険は避けなければならない。


「ファイアーボムっす!」


ならば正面突破するべく海堂はソフトボールほどの火炎球体を三つ作り出し前方に撃ち出し、最も近いゾンビ三体にそれは当たり爆ぜる。


「キエェェェェェェェェェェェェェェイィ!!!」


倒したのはほんの二、三体だ。

だが狙いは爆風によってこっちへの対応を遅らせること、猿叫と共に放った横薙ぎで上半身と下半身を泣き分かれるゾンビとスケルトン。


「壁際に近づき過ぎないようにして一気に抜けるでござる。壁に反応あるでござるから近づいたら壁抜きが来るでござる!」


壁抜き。

なんて大層な呼び名だが、要はホラー映画でよくあるゾンビが壁からドバっと出てくるあれだ。

最初は余裕で対応できると思っていたが、受けてびっくりゾンビの群れ。

通常だったら余裕でさばけるはずだったが、ビックリしたことと咄嗟に反応できなくてつい壁ごと消し飛ばしてしまった。

ダメージはダメージでも心臓に直接響くダメージは侮れなかった。

心臓が弱い人だと一発でアウトだ。


「先輩、空中にゴーストっす!」

「ってまたかよ!」

「勝、背後のカバー、海堂先輩は前を抑えるでござる」

「わかった!」

「了解っす!」

「リーダーぶちかますでござる!」


切り伏せながら進む中、ゆらりと揺れる白い影。

ゾンビ、スケルトンと並び立つホラー映画のお約束ゴースト、まぁ、幽霊なわけだがこれが倒すのが面倒くさい。

物理はまず効かないくせに、こっちには痺れるような冷たいような爪に引っかかれるような三種類の感覚が入り混じった攻撃が入る。

おまけに魔力を通しても斬撃では致命傷になりにくい。

仮に斬撃で倒すとなると専用の武器か、魔力を通した刃で的確に首を切り飛ばすか、再生できなくなるくらいに粉微塵にするしかない。

魔法なら割と簡単に倒せるのがせめてもの救い。

まぁ俺の場合は鉱樹に魔力を通して、唐竹割りするか、首をスパッと切り飛ばすわけだが最近になってスキルの使い方にコツがあることがわかった。

すっと肺に息を溜め込むように息を吸うのと同時に喉元に魔力を溜め込む。

あとはそれを混ぜ込むように吐き出すことを意識しながら。


「カアァァァァッツッ!!」


猿叫を発動させるとあら不思議、ゴーストは消し飛び前方にいたゾンビとスケルトンは吹っ飛んでいった。


「おお、さすがリーダーのなんちゃってファンタジー剣道でござるなぁ」

「うるせぇ、咄嗟にやったらできたことを感心するな」


そう、この衝撃波、魔力を練っている時に襲われて咄嗟に鉱樹を振ったとき猿叫を発動させて偶発的にできた代物だ。

元は気合を入れて体内に活力をわかせるスキルだったのだが、相手をひるませる効果に偏らせれば意外な性能を見せてくれた。

物理的な肉体を持っている相手にはただの衝撃波だが、幽霊みたいなあやふやな存在相手にはかなり効果がある。

まぁ、これができたことが判明した時に南にはどこのガキ大将リサイタルだと言われた。

まぁ確かに物理ダメージは存在しているが……


「さっさと突破して、残業ゼロで行くぞ」


後ろから了解っとそろって聞こえる声を背にし、だんだんと道に溢れ始めたアンデッドの群れに飛び込む。


「海堂先輩、立体機動頼むでござる」


上下ではなく左右の振りを多めに割り振り、切り飛ばす、蹴り飛ばす、吹き飛ばす。


「今日のビールが旨くなるために、燃えるっすよ!!」


空中にできた魔力の板を足場にして海堂が飛び上がり炎の雨を降らす。

狙いはまだ荒いが、こっちに被害が出ないように考慮して配分している。

着地地点まで一気に切り開き、しゃがみこみ着地の衝撃を殺している。

そのカバーに入るのは勝だ。


「すぅ、はあ!!」


肺から吐き出すように小柄な体に回転力を伝え、魔力を添えた拳打は成人男性のゾンビをまとめて三人吹き飛ばす。


「勝、感触気持ち悪くないでござるか?」

「言うな、考えないようにしているんだ」


一撃に全てを込めて極力連打に頼らないようにしているのは、慣れぬ感覚からの逃避だろうが仕方ないだろう。

打ち込んだ手を払うように振る仕草を見せる勝、それは仕方ないだろう。

鉱樹越しでも嫌な感触は嫌な感触だ。

それに、気持ちアンデッドを切ったあとの鉱樹はご機嫌取りをしないといけない気がして手入れの時間は五割増しだ。

成長する剣というのも考えものだ。


「っ!? リーダー、索敵に反応ありでござる!! 大きいのが近づいているでござる!」

「接敵までの時間は?」

「この速度なら、カップ麺が作れるぐらいでござる!」

「おっし、さっさとずらかるぞ!!」


どうやら騒ぎすぎたみたいだ。

俺の耳にもドスンドスンと人にしては大きく、獣にしては鈍い、けれど確実に近づいている足音が俺の耳にも聞こえる。


「大賛成っす、あいつが来たらさすがに面倒っすねぇ」

「聞こえる感じから一体だけですけど、ゾンビと組まれたら面倒ですしね」

「しゃべっている暇があったら手と足を動かすでござるよ!」


倒す比率を少し減らして逃走優先で動く。

交戦を最小限に減らせば、少しずつではあるが足音が遠ざかる。


「っぷはぁ、空気が美味しいでござる」

「東京の空気がうまいって感じるって相当レアっすよね?」

「マスク越しでも匂いますからね」

「お~し、一応点呼取るぞ、一」

「二っす」

「散でござる」

「南、絶対文字が違うだろうそれ、四です」


無事にゲートをくぐり抜けられ、人員点呼を済ます。

今日も無事帰ってこられた。


「成果の方はどうだ?」

「骨と魔石がメインですね。アンデッドは素材となる種類が少ないからまとめやすかったです」


安全を確保できたなら次は今日の成果を確認だ。

勝は背負子にかぶせていたカバーを剥がせばそこには魔力を帯びた骨と革袋が二、三袋見える。


「魔石の原石ってこんな感じなんでござるねぇ」

「アンデッドは食事を必要としない分体内に魔力を溜め込みやすい体につくり変わっているらしいな。いびつだが、加工すれば色々なものに転用できるらしい」

「これなら、二万を少し超えるくらいっすかねぇ?」

「ああ、いつもどおり二割は共有貯金パーティであとは四分割だな」


ジャラジャラとなる革袋の中から一つつまみ出す南、その指先には丸みを帯びた紫色の宝石のようなものがあった。

それがそれなりの大きさの革袋にどっさり。

それで一人頭四千くらいの稼ぎだが、少ないとは言わない。

なにせこれに加えて俺たちは固定給なり時間給をもらっているのだ文句は出ない。


「あら、四人でそれだけですの?」


それだけで終わっていれば良かったのだが、気分よく仕事を終わらせてはくれないみたいだ。


「カイラ、さん」


相変わらずの派手なスーツ、正規の魔王軍に所属している竜人カイラ・ノスタルフェルが気づかぬ間に立っていた。


「ゾンビどもの魔原石、それもよくて中の下といったところですのね」

「何かご用で?」

「別にあなたたちには用はありませんでしたわ。私のテスターたちがもうじき戻ってきますの、そこにあなたたちがいた。ただそれだけですわ」


ただの暇つぶし、暗にそう言っている。

そして彼女の眼差しは俺たちをそこらの小石程度にしか見ていない。

あえてさん付けで読んだのは壁を作るためだ。


「スエラもなんでこんな凡骨どもを採用したのかわかりませんわね。あなたはまぁ甘く見て及第点ですが、ほかのメンバーは欠点が目立ちますわね」


値踏みとか採点とかそんな表現は生ぬるい。

価値を決めつけ、無価値と断ずるような口調に腹の底の魔力の温度が上がる感覚がする。


「用がないのでしたら俺たちは行きますが?」

「少しお待ちになって、どうやら私の部下テスターたちが帰ってきましたわ。上位の者としてあなたがたがどれほど低レベルか教えて差し上げますわ」


その怒りを抑え込んでその場を立ち去ろうとするが、それすら踏みにじるように蔑みながら俺たちの行動を制する。

タイミングが悪い。

俺たちが出てきたゲートが動きそこから新たに三人出てくる。


「火澄か」

「ああ、田中さんお疲れ様です」


軽く交じり合う視線。

にこやかに余裕を感じさせる貴族のような青年。

南から言わせれば、主人公に立ちふさがるライバル的なイケメンらしいが、言い得て妙だ。

薄い茶髪は細く、柔らか、女性受けしそうなアイドルのような容姿、ああ、この高飛車なカイラが気に入りそうな容姿だ。


「お疲れ様ですわ透さん。それで成果の方はどうですの?」

「ええ、マジックバッグのおかげで動きが制限されませんでしたのでとりあえず十五層のボスを倒してきました。戦果も上々ですよ」

「もう、透さん。ボスで無理したのをお忘れですか?」

「そうよ、私たちがフォローしなきゃあなた今頃救護室のベッドの上よ」

「いや、君たちを信じて戦ったからね。あそこで負ける気はしなかったよ」


正直この会話を聞いただけで帰りたい気持ちでいっぱいだ。

南は甘いなど叫んでいるが正しくその通りだ。

恥ずかしくないのかこいつらはと言いたくなる。

海堂に至っては、ジャンルの違う大人になり始めている美少女たちに心配される火澄に嫉妬の炎を燃やして歯ぎしりをしている。

勝、仕方ないやつだとため息を吐くな俺もしたいの我慢しているのだぞ?


「宜しくて、では換金に行きましょう」

「はい、今日はどれくらい行くかな?」

「最低十万は確実ね」

「先日はもう少しで二十万行きそうでしたから、それを超えられるといいですね」


OK、こいつらに悪気はないのは分かっているが、悪気がないイコールこっちのことを考えなくていいというわけではない。

事実こっちは負けているが、自分が絶対強者であるかのように当たり前に言われるのは無性に腹が立つ。

加えて、女性ふたりは素面だろうが、カイラそして火澄は絶対『わざと』だ。

目を見ればわかる。

王子のような笑顔のなかに隠れる、濁った瞳、上に立つことによる驕りと優越が入り混じった眼だ。

そしておそらくそんな少額で喜んでいると俺たちにわざわざ見せつけたかったのだろう。

そして満足のいく空気を感じ取ってか、カイラは俺たちにだけ見せるような立ち位置からのどうだと言わんばかりの勝ち誇った表情。

ああ、OK

挨拶なんていらねぇよ。

そのまま立ち去ってくれ。

和気藹々と楽しそうに立ち去ってくれ。

無言でタバコを一本とりだし火を付ける。


「お~し、お前らの気持ちはようく分かっている。いい、実にいい気あたりだ」


体に染み渡らせるように深く吸って吐き出せば頭は冷静になる。

だが、感情というものはそう簡単に収まらない。

日々の研修のたまもので、頭はクールで心はヒートという状態を保てている。

それは、海堂たちも一緒のようだ。

ダンジョンに入り始めてから、観察眼はかなり成長したからな。

自然と俺の頬は三日月のような笑みを浮かべる。


「教えてやるか、人間怒ったときに笑う奴が一番恐ろしいことを」


後ろは見なくてもわかる。

間違いなく、俺と同じ顔をしているだろう。

目を怪しく光らせ、口元は三日月のような笑み。

向こうが勇者側であるならこっちは魔王軍にいそうな顔つきだ。

まぁ、実際魔王軍に所属しているようなものだから問題ない。

だんだんとこいつらも染まってきている。


「弱肉強食、そのルールを押し付けてきた自分の過ちを悔やむこったな」


さぁ、仕事を始めよう。



田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


ステータス

力   504    → 力  775

耐久  663    → 耐久 844

俊敏  358 → 俊敏 501

持久力 447(-5) → 持久力 666(-5)

器用  369    → 器用  498

知識  62    → 知識  77

直感  88    → 直感  132

運   5     → 運   5

魔力  300    → 魔力  471


状態

ニコチン中毒

肺汚染



今日の一言

ああ、仕事でのあてつけは仕事で返すだけだ。

スエラの件もある。

全力でヤってやるよ(ニヤ


イケメンゲスキャラって結構書くのが大変ですね、物語を書くにあたってヤラレキャラって結構重要だと思うんですよ。

そう思って、出した二人です。

いつやられるか、どうやって報復するかはお楽しみに

これからも勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
鬼王不死王に鍛えられた主人公よりなんでイケメンのが強い設定なのかがよくわからん
[気になる点] 日々の研修のたわもので、 たまもの の誤字ですね 作者さんは珍しい言い回しや、普段使う読み方をしないので一瞬気付かなかったです笑
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