224 自分の仕事ではないと思ってた、そんな時にこそ仕事は・・・・
敵の目的が囮なら、それに準じて別の場所で何かが起きているはずだ。
それが何を意味するか。
「っち、後手に回ったか」
ここでやっていることが無駄とは言いすぎかもしれないが、焼け石に水なのは確かだ。
そして、こちらの動きが相手にとっては計算通りということ。
予定通りに進んでいるのは向こうだけで、こちらは遠回りをさせられている。
それに気づき、走り出したのは、一秒でも早くこの場を離れるために余裕を作るため。
多少の体力消耗は目を瞑る。
今はただ作業効率を上げる。
呼吸の使い方、体の力の入れ具合、走る速度、体力を代価にして向上できる部分のギアを一段階上げる。
「監視班、確認したい。現状監視しているのは神社付近のみか」
『応答、現状監視しているのは神社を中心とした半径五百メートルだ。別働でほかの神社も似たような行動をしている。それがどうした』
併行作業など、もはや何も考えずできる。
体は狂信者を効率的に沈めるための作業機構になっている。
だが思考はまた別の作業をしている。
「確認する。付近に神社を除いた不審な動きをする集団はいないか」
『応答、付近五百メートル圏内に暴動及び、呪術的儀式を行った形跡は見受けられない』
監視班からの答えに、一瞬勘が外れたかと思ったが、そのままこの感覚を否定するのは危険だと思いもう少し情報を集める。
「ほかの神社の様子も同じだと言っていたが、爆弾を処理した後に暴動が起きたという意味で間違いないか?」
『そうだ。現在警察と共同して事の鎮圧にあたっているが、それがどうした』
「重ねて確認するが、今回の騒動でそちらの言う儀式的に関係している土地は神社だけなんだな?」
『質問の意図がわからない。何を聞きたいんだ?』
現状を聞けば聞くほど、嫌な予感が確信に変わっているような気がしてくる。
何かを決めつけて行動することはよくあることだ。
八割、いや九割間違いないと思い、行動するとする。
十回やって九回は成功する。
そうなれば人間と言うのはある程度の信頼を置き、その行動、推測を信用するようになる。
これは、大きな組織になればなるほどその手の傾向が顕著にみられる。
過去の経験、それは大きな糧である。
だが、時にはそれが大きな霧へと変わり、視界を遮るときもあるのだ。
「……推測になるが、今回の騒動は陽動の可能性がある。根拠はある。現場指揮への連絡構成を要請する」
現場指揮にその傾向があると俺は感じた。
何か見落としがある。
さっきの問答で俺はそう思った。
だからこそ、ほぼ推測のような話になるが根拠があるとあえて見栄を張るような言い方にして、連絡要員ではなくトップへの直通を要請する。
導火線を見て、それを消すのを戸惑っている場合ではないのだ。
だが、俺が言っていることが無理だというのも理解している。
俺はあくまで助っ人、外様だ。
この組織の一員ではない。
当然発言力など皆無に等しい。
こうやって応答してくれているのも必要だからと認められているからだ。
これ以上干渉すれば弾かれる可能性すらある。
だからと言って、危険を見逃すわけにもいかないのがつらいところだ。
『……』
通信の向こうが沈黙した。
雰囲気からあまりいい感じはしない。
予想はしていたが、俺の立場は霧江さんの笠を借りた状態で保証されているに過ぎない。
戦力としてはある程度期待されているが、それ以上は求められていないということ。
「……ったく、派遣はつらいねぇ」
アウェイで仕事をするのは正直に言えばきつい。
だが、放り投げるくらいなら最初からここにはいない。
だから、俺は少しでも話を通せるように行動をするまでだ。
「ま、それでもまじめに働きますかねぇ。ここまでやっておいて、サボるのは性に合わないしな」
何もせず、ただ返答を待つことはだれでもできる。
けれども、自分の話を通す気があるならそれではだめだ。
一分一秒、それを無駄にしないために可能なら同時に仕事をこなすことはいくらでもある。
話を待っている間にもできることはいくらでもある。
そして、今の会社に入社してから併行作業の能率に磨きがかかっている。
戦闘中に前衛以外の仕事をする機会などいくらでもあった。
やっていることと考えていることが別々など当たり前のようにこなす。
だからと言ってミスが出るわけではない。
今も体は襲ってきた二人の狂信者を流れるように始末している。
同時に襲ってきているのならタイミングをずらせばいいだけ。
一歩左後方にずれれば、これで左側の襲撃者が先に行動せねばいけなくなり、右側の襲撃者は左の襲撃者が邪魔になり攻撃をワンテンポ以上遅くしなければいけなくなる。
俺にとってはそのワンテンポあれば十分だ。
同士討ちしないという特性を利用した防壁の作成。
まずはその防壁の無力化から図ろう。
『……その根拠を説明しろ』
そんな作業をしようとしたときにようやく向こう側から連絡があった。
渋々といった感を隠そうともしない。
どうやら、上司と話をしたようで俺の話を流せなかったようだ。
だが、個人的な感情では俺の話は無視したいところ、ぽっと出の新人にでかい顔されるのはどこでも嫌だろうさ。
外様故、仕方ないと言えばそれまでだ。
「了解」
向こうがそんな反応でもこちらはその色を出してはいけない。
出してしまったら最後、この話は終わりだろう。
「まず今回の襲撃の準備の良さに対する失敗後の作戦の変更に違和感がある。爆破テロが失敗したからと言って暴動に切り替えるメリットがない。やるならもっと別の方法、それこそこれだけの戦力があるなら散発的なゲリラ行動に出た方が効率的だ。一般家屋に押し入って人質を取るのもありだ」
なので、俺に求められた説明の義務を果たす。
戦いながらも頭の中で組み立てた仮説を順に説明する。
まず最初に相手の行動の表向きのメリットがないということ。
「そもそもこんな堂々とテロ行為を主張する理由もない。あからさまな行動をとるより施設に爆弾を設置したほうが効率的だからだ。だが、相手は目立つ行動を常にとろうとしている。テレビの放映を止めないのもそうだ。失敗してからも暴動という手段をあえてとった」
そして、相手の行動がテロ行為ということはあくまで手段であって目的に直接つながっていないというニュアンスを伝える。
「そのことから敵の目的は、負の感情の収集であることであるのは明白だが、それはあくまで過程でしかない」
『過程? どういうことだ。今回の敵の目的はここで死者を出すことによる封印の汚染が目的のはず、この日本で爆弾を用意するのは簡単ではないぞ。単純に資材不足である可能性もある』
この段階で反論が入るのは予測はしていた。
事前の情報から相手の目的は組織が厳重に封印していたものの開放だと。
だが、それは条件がそろっていただけで絶対そうだという確信的情報ではない。
あくまで可能性が一番高い話なだけだ。
「可能性の話をしていても仕方ない。現状は刻一刻と変化している。やれることはやるべきだ」
だからこそ、否定ではなく同時に対処しなければいけない事案だと思わせなければならない。
そんなことを考えながらも敵さんは俺の都合などお構いなしに自分の都合を通そうと襲い掛かってくる。
そんな相手に掌底で相手の顎を打ち上げ、無防備になったところをみぞおちに一発きついのを入れる。
たとえ痛みに鈍感でも呼吸ができなければ動けない。
膝から崩れ落ちるように倒れこむ相手を横目に襲い掛かってくるもう一人の対処に移る。
「いいか、よく聞け。相手は手段が違っても問題ないということだ。確かに死者を出すことが『一番効率』がいいかもしれないが、それだけが手段ではないということだ。そのことから相手の行動は俺たちの考えているものとは違う可能性が出てくる」
相も変わらず狂信者の瞳は濁り、何を映しているかわからない瞳が俺を睨みもはや何度も振り回して刃こぼれしている刀を振り回し俺へと襲い掛かってくる。
この場にいる狂信者どもは何を考え、何を思い、なぜ行動するのだろうと一瞬考えるが、それで意識を鈍らせるわけにはいかないと口元を引き締め、体は反射的に動く。
これから来る攻撃は先ほど黙らせへたり込んでいる仲間には当たらないように考慮されているが、それ以外はでたらめな攻撃。
対処するなど容易だ。
降り下ろしに合わせて手首を掴み、あとは投げ飛ばす。
そしてたたきつけ手から刀が零れ落ちるのをわき目にのどにめがけ拳を一発。
加減を間違えればのどを潰しかねない一撃だが、うまく加減すれば呼吸を制限し相手の動きを封じる攻撃になる。
「相手はどっちでもよかったんだ。恐怖にしろ死という現象にしろ負の念は手に入る。それを集積している場所があるはずだ。そのエネルギーを何に使うかは相手の自由だ。あんたらの方がその辺詳しいだろ。それが何に使われるかなんて。時間がない。手早くそれを探してくれ」
『……報告は上げる』
「何度も言うが早くしてくれ、俺の予想が正しければかなり相手の作戦は進んでいるぞ」
爆弾テロが成功すれば一番よかったのだろうが、それだけで相手は満足しなかっただけの話。
防がれれば何も手に入らないが手に入れば爆発的に負の念が手に入る爆破テロと、時間はかかり確実に鎮圧されることがわかっているが一定量は手に入ることが保証されている暴動。
よく考えられている。
不安をあおるようなリーダー格の男の演説も恐怖を蓄積させるための演出ならなおのこと急いだほうがいい。
「ふぅ、とりあえず避難は完了したな」
構えを維持しながら周りを見回せば、最後の若そうなカップルが走りこんでいるのが見える。
これで集められた一般人は少し高くなっているステージに収容することができた。
その周りを俺たちで囲むこともできた。
だが、あの集団の中には気絶させた爆弾テログループもいる。
爆弾を守りながらこのあと行動しないといけない。
前にはもう休んでいいよと言いたいが、一向に休む気配を見せない狂信者の集団。
信じる気持ちを舐めていたと自分を叱責し、さてどうしたものかと悩みつつも、どうするかは決まっている。
ただひたすら迎撃するのみ。
後は自然と他の人が解決してくれるだろうと高を括る。
「さて、もうひと仕事か」
ああ、ここまでお膳立てして黒幕を見つけたのなら後は組織のメンツとかで俺を使うことはせず自力で戦力を投入するだろう。
わざわざ俺がこの後も手間をかける必要はない。
どうにか新年早々にやる仕事の終わりが見えてきた。
ため息を吐きたい気持ちを抑える。
「次郎、もうひと仕事はこっちじゃなくて別のところのようだよ」
なのだが、どうやら二年参りに来なかった俺に神様はご立腹の様子のようだ。
イヤーマイクを叩き、連絡だよと伝えてくるお袋。
その光景だけで俺は嫌な予感がする。
ああ、嫌な予感がする。
大事なことだから二回言ったぞ。
『次郎さん、聞こえていますか』
「ええ、聞こえていますよ霧江さん、作業しながらで失礼しますよ」
監視班の男の声ではなく聞こえてくるのは穏やかな口調の霧江さん。
その雰囲気から今回の作戦が終了したかと期待をする。
『その作業はこちらで用意した人員に任せてください。今そちらに迎えを送りました。姉さんと共にそちらに乗り指定した箇所に向かってください』
こっちは忙しいですよとアピールするために狂信者に挑もうとした俺の動きはぴたりと止め。
「……俺、そちらの正社員じゃないんですが」
暗に、正規戦力ではなく派遣社員だといい。
この後聞くであろう霧江さんからの本命を予防する。
そうしなければ再び厄介ごとに絡まれるにおいがプンプンする。
ただでさえ新年早々に厄介ごとに首を突っ込んでいるんだ。
俺のやるべきことはやった。
なら後は、平和な正月を俺に迎えさせてくれと願うも。
『あいにくと遊ばせている戦力の余裕はありません。手当は後ほど相談に乗りますので問答はその時に』
だが、霧江さんも俺のお袋の妹。
公私をきっちり分け、しっかりと俺の意見を切り裂いてくる。
俺は決して金を払えと言っているわけではない。
帰してくれと言っているんだと叫びたいところだが。
「次郎」
肩を掴むお袋がまだ終わりではないと言うかのように首を左右に振る。
その表情を見る限り本当に終わりではないのだろう。
溜息一つこぼしたいところだが、仕事なら仕方がない。
「わかりました」
了承の言葉を吐き、ヘリの音が聞こえればそのあとに数人の黒い影が降りてくる。
全員が全員黒い装備を身に着け、その手には銃が握られている。
『私の組織の対暴徒用の部隊です。死人は出ません。次郎さん、姉さん時間がありませんお早く』
「ったく、人使いが荒いねまったく。あんた母さんに似てきたんじゃないの」
『誉め言葉として聞いておきます』
そして垂らされたロープにつかまりお袋はヘリに収容される。
俺もそれにつかまりヘリに回収される。
「それで? 向かう先はどこですか、霧江さん」
へリに収容されそのままヘリは目的地へと飛ぶ。
その間が俺たちへのやるべきことの説明時間だ。
霧江さんにまず向かう場所はと聞けば。
『ええ、次郎さんの予想が悪い方に当たったようですよ。向かう先は富士山の麓、青木ヶ原樹海』
日本で一番有名な山の名を挙げられ。
『そこで、何やら儀式をしていると占星術師が言っております。なにか善からぬものが呼び出されていると』
そしてある意味で有名な場所ではもっと悪いことが行なわれているようだ。
今日の一言
油断するな。
仕事はいつも油断しているお前に降りかかってくるぞ!
ああ、言い出しっぺが損をする。
今回は以上となります。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売しました。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。




