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221 さて、人間の限界と言うのに挑んでみるか

 夜空を飛ぶヘリ、本当だったら夜景を楽しむといった用事で乗りたかったが、今回乗った理由にそんなロマンチックな話はかけらもない。

 特殊部隊にでも入った気分になりそうな装備を身に着けた集団、これが全員神社の関係者だというのだから内心日本の裏事情もすごいことになっていると感心した。

 そんな面々の中、俺は側面に備わっている扉を開放し、落ちないように注意しながら下を覗き込めば足元にはライトアップされた神社が見える。

 テレビで放送されていた神社だ。

 場所は変わらずライトアップされているが、中央に人が集まっている。

 いや、集められているというべきか。

 中央に人が集められて、その周りを囲むように配置されている人間が見える。

 あからさまに警察と向き合ってるが、警察は手を出せないでいる。

 原因は周りを囲む集団の胴体に装着された爆弾が原因だろうな。

 上空から見てもわかるくらいにあからさまに誇示してる。

 俺が今乗っているヘリは夜の暗がりに隠れローター音は響いているが姿が見えないように術が施されているらしい。

 隠蔽に関しては日々技術が進歩していると霧江さんが言っていたな。

 そんな術式が施されたヘリは、俺たちが行動するまでの間この光景を監視するかのように上空を旋回しながらその時を待っている。


「まったく、いずれこんな日が来るとは思ってたけど、結構時間がかかったねぇ。でも母さん、息子とこんな大舞台に出られるのはうれしいよ」

「いずれ来ると思ってたのかよ。最近は違うが、去年までは一応普通のサラリーマンだぞ俺は。そんな日が来てもうれしかねぇよ」


 本当だったらこんな光景双眼鏡越しとはいえ緊張くらいはするのだが、一人のんびりとしている人がいるおかげで緊張しないで済んでいる。

 俺のお袋だがな。

 俺と同じ乗り出すように下を覗き込むお袋の格好は、手袋やらプロテクター、夜間迷彩服に身を包み顔を保護するためのマスクとゴーグルを装着していた。

 姿から誰かを察することはできず、体の輪郭から女性だということがわかり、声と内容からお袋だとわかった。

 似たような格好している人が俺以外にも数人乗っているが、こうやって明るく振舞っているのはお袋くらいだろうさ。

 俺も似たような格好をしているが、これからやることを考えるといささか気が重くなり口数も少なくなる。

 これからやることを楽しみにし喜ぶお袋を傍らにこんな上空に飛ばされていることを思い出す。



「霧江が調べた情報だけど、相手は全員素人集団、どこかの宗教団体の一員で? 経歴じゃ怪しい部分はなし。問題なのは爆弾だけ。相手は全員頭に血が上ってて、だけど殺しは禁止ときた。おまけにこの作戦。霧江、あんた私たちに死んでこいって言ってるの? 相手はスイッチ一つ押すだけで勝てる。こっちはいろいろと面倒なことをしないといけない。もう少し考えなさいよ」

「姉さんならできると思っての行動計画です。できないと言うつもりでも?」

「あんた、ひねくれ具合に磨きがかかってるわね」

「姉さんが出ていってから、あなたのようにまっすぐ育てるような環境ではなかったので、ええ、誰かさんのせいで」

「ずいぶんとはっきりもの言うようになったねぇあんたも。昔は私の背中に隠れて泣いてたのに。はぁ、あんたの娘もこんなのになるのかねぇ」

「ええ、姉さんと違い立派に巫女の修行に励んでますよ。はい、姉さんと違って」


 あはは、ウフフと笑ってはいるがここは女の戦場だと思った。

 ヘリポートのそばにある事務所の会議室。

 そこで俺とお袋は今回の作戦の内容を聞いていたが……


「霧江さん、さすがにパラシュートなしで空中から降下するのは無謀だと思うんですが」


 どこの空挺部隊だと言いたいような内容に俺は口元を引きつらせるほかない。

 今回ばかりはお袋の苦言も仕方ないと思う。

 だが、口喧嘩は後回しにしてくれ。

 そろそろ背後に虎と龍が見えそうだ。


「できませんか?」

「できませんよ」

「あんた、できないの?」

「待て、なんでお袋までそっち側に回る。普通に考えろ、訓練もしていない人間が特殊部隊のように動けると何故思っているんだ」


 いや、できるんだが。たぶん。

 訓練みたいなことをしてきたからな。

 そして、喧嘩のポイントは俺が考えている部分とはだいぶ違うようだ。

 今回の作戦の問題点は爆弾の多さ。

 一般人を囲むように配置された犯人グループ、それぞれに爆弾を持たせている。

 おまけに起爆装置は各自で所持している。

 それを制圧するのなら、全員同時に狙撃でもして確実に仕留めるしかないような気がする。

 だからこそこんな無茶を通すような作戦になったのかもしれないが……


「不殺にしたいのは理解したが、電力供給を一旦停止して、その隙に空中からの降下、その間に全員無力化する……お袋、これを十三秒でできると思ってるのか?」


 あの場所で死者を出すのは封印に影響が出る関係でだめだ。

 これは死者を出すことはダメだという偽善的な行動ではなく、死に対する恐怖や恨みによる怨念といった負の感情が黄泉の国への道の封印に悪影響を及ぼすからだ。

 神社を封印のために建てたのはその空間を浄化するためにではあるが、その浄化作用も限度がある。

 霧江さんの話を聞く限り、この神社の効果は二つ。

 一つは封印の維持。

 そしてもう一つどちらかと言えばこちらがメイン効果だ。

 じわじわとその土地を正常化させる浄水器のような機能を持っている。

 神社を歩いていると何やら神聖な空気を感じるという感想が漏れるのはこのためだというのを知った。

 だが、その浄化もいきなりドロドロとした泥水を注入されてもろ過できるわけもない。

 その泥となり得る二年参りにきた一般人まるごとの負の念を抑え込めるものではない。

 そして、負の念を過剰に摂取してしまった神社はその機能を反転させ、負の念を集める場所となってしまう。

 そうなってしまえばこの土地に黄泉の国への道が開かれてしまうのだ。

 厄介、本当に厄介だと言える案件。

 絶対に阻止しなければいけない。

 霧江さんの権限で、国への協力要請は出しているが、霧江さんの属する組織に対して懐疑的な組織も多く、自衛隊までは動かせない。

 警察官は動員しているが、どっちにしろ射殺許可は出ない。

 時間をかければ出せるかもしれないが、それでは手遅れになる。

 だからといってこんな無茶な作戦が通ると思うかと言えば、通らないとしか言えない。

 人間無理なものは無理と言わねばならないことがある。


「そうねぇ、あと八秒多ければあたし一人でできそうなんだけど」

「できるのかよ。と言うかなんでできるんだよ」

「これくらいできないと伊知郎の写真撮影に付き合えないのよ」

「毎度思うが、お袋たちはどこで写真を撮ってんだよ」

「聞きたいのかい? なら、今度現地に連れてった――」

「遠慮しておく」


 まったく、ハリウッド顔負けのスタント決めてんのかようちのお袋は。


「親子仲がよろしいのは結構ですが、話を戻してもよろしいですか?」

「はい、すみません」


 そんな無駄話をしていると、霧江さんに注意を受ける。

 素直に謝罪し、話を戻す。

 さて、結果的には話はやらねばならないが、現実的に不可能であるという帰結に戻る。

 ここからどうやって可能領域に持っていくか。


「先ほどの次郎さんの疑問でしたら、渡しました韋駄天の足袋で解決するかと。あの神具は速さを象徴する神具、今回の事件に向いていると踏み持ってまいりましたもの。馴らしも兼ねて一度使ってみたらどうでしょう?」

「いいんですか?」

「はい、長時間は無理でも、十分や二十分程度なら問題ありません」


 作戦は頭に入っている。

 後はそれを実行するだけ、現時点では不可能な作戦であるが、この足袋が可能にするらしい。

 半信半疑。

 できるというのだからできるのだろうが、だからと言ってすぐに信用できるかと言えばできはしない。

 だからこそ試す。

 箱から取り出した足袋は俺の足には小さいかと思ったが、そこは神具。

 サイズ調整は自動でしてくれる。

 絶妙なフィット感を感じながら、この段階ですごい代物だと思いつつ靴を履き事務所から出る。

 外はヘリポートに繋がっていて、さすがに広い。

 一番近くのヘリポートでは何やら厳ついヘリがいて、その周りが騒がしい。


「それで霧江さんどうやって使えばいいんですか?」


 だが、今は関係ない。

 今重要なのはこの広大なスペースがあるということ。

 霧江さんに言われた通り試すつもりであるが、狭い場所でやるには少々勇気が必要だ。


「足元に意識を集中し、ひもを解くように力を解放してください。そうすれば自然と力が解放されます。ですが、解きすぎないように気を付けてください」

「ひもを解くように」


 霧江さんの言い方はいまいちイメージしづらいが、蛇口を開けるようにすればいいのか?

 そう思ってイメージを置換し、足元に集中する。

 元々力の循環をイメージするのは鉱樹でさんざんやってきた。

 そこら辺は問題ない。

 場所が手から足に変わっただけで、要は足袋と俺の体を繋げるようにすればいいだけのこと。


「……驚きました。これほどまで早く、そして綺麗に力を引き出すことができるとは思いもしませんでした」

「あたしの息子だ。これくらいできるっての」


 その予想は大当たりのようだ。

 足元から魔力とは違う、何か不思議な力を感じる。

 足から脛付近まで覆う何か。

 魔力が生命力のようなものだとすれば、これは何だ?太陽のような温かみと言えばいいのだろうか。

 似て非なるものだとしか言いようがない。


「それでは、走ってみてください。それだけで結果が出るでしょう」

「はい」


 その力を使うことに少し抵抗を覚えながら最初はゆっくりと走り出し、徐々に加速していく。

 歩きから小走りに、小走りから駆け足に、そして全力疾走に。

 マニュアル車のギアチェンジのように足に込める力を調整しながら速度を出す。


「確かに、これならできるかもしれない」


 その速度領域は人間が叩き出せる領域をはるかに超えている。


「いかがですか、神具を使った感想は」

「……すごいとしか言えませんね」


 軽く流しただけでこれだけの身体能力を出せる。

 こと走るという行為に対して特化した代物だとしても、これは破格だ。

 この神具を使ってダンジョンを攻略すればどれくらいの性能が出せるか、それが気になる。


「そうでしょう。ですが、私からすれば次郎さんの方がすごいと言えますが、今は言っても仕方ないでしょう。それでは、次郎さんその神具を使えば先ほどの作戦可能でしょうか?」


 それはあくまで想像の領域、それが叶うことはない。

 俺はあくまでお袋の息子としてこの場にいる。

 霧江さんからすれば俺は良い誤算の戦力。

 お袋の息子、霧江さんから見れば甥がたまたま神具と戦闘行為に対して適性があったから、今回の作戦に手を貸してもらったそう思われているはず。

 お袋の推薦があったからこそ、この場所に立っているのだ。

 そこに正義感や欲望を挟んではいけない。


「そうですね。可能だと思います。現実的になったと言えます」


 あるのは仕事をするための効率を考える思考と、致命的な悪手を打たないための善悪を判断する基準。

 それだけで今は十分だ。

 相手は悪党、手加減は必要だが容赦はいらない。


「では、手筈通りにお願いします。別室に装備を用意させています。そちらに着替えてください」


 タイムリミットは刻一刻と迫っている。

 人外の領域に足を踏み入れた力が役に立てばと思いつつ、自分の役割を全うする。



 そう思い、今に至る。

 用意を終え空へ舞い上がり、しばらく。

 そっと右腕に装着した腕時計を見れば作戦開始まであと五分を切っている。


「さて、いよいよか」


 現代の日本での作戦が始まる。

 うっすらと口元に笑みを浮かべるのはもはや習慣。

 戦う前に興奮を滾らせるのは半ば本能。

 そして、それらに反するかのように頭を冷やす。

 こうして俺は戦う準備を終わらせるのであった。




 今日の一言

 限界を決めるのはあくまで自分、それを超えるかどうかは己しだい。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

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 新刊の方も是非ともお願いします!!


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