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220 親戚付き合いも大事にしないといけない

 寮を出て、お袋に言われた待ち合わせの場所である公園に行けば駐車場に黒塗りの車が三台止まり、そこを黒服が囲んでいた。

 明らかに異質、時間もあり通りに人影はないが、それでもはたから見れば何かあるのではと匂わせるには十分な光景がそこにはあった。


「……」


 無言で眺め、引き返したいという気持ちが湧き出てくる。

 だがそういうわけにもいかず、あそこに近寄るために少し気合を入れなおし、教官たちと戦うよりかはマシかと自分を納得させ歩み寄る。

 念のため周囲の気配を探りながらいきなり襲われないように気を付けて近寄っていく。

 そうすると周囲を警戒していた黒服の一人が俺に気づき懐に手を入れたのが見えた。


「止まれ! ここになんの用だ!」


 警告通り足を止め、用件を言おうと思うが、俺が口を開くよりも前に他の黒服が反応し危険を匂わす雰囲気を漂わせてきた。

 警戒が強いってことは、ここは間違いなくお袋の指定した待ち合わせの場所ってことか。


「はぁ」


 あからさますぎるだろうと小さく聞こえないように溜息を吐き、ゆっくりと夜目を凝らし相手を観察する。

 懐から取り出すものが棒状のものではなく、L字型、拳銃であると判断した俺は素早く腰を落としポケットに手を伸ばす。

 魔素下なら拳銃にも対処できるが、さすがに現実世界じゃ無理だ。

 早速ペンダントを使う時が来たかと、身構えどうするかと悩んでいると。


「お待ちなさい」

「相模様」

「あの子は私が呼んだ子です」

「っは」


 だがその心配は杞憂となった。

 黒服が動く前に車の窓がおり、街灯の光で陰になっていて顔は見えなかったが、澄んだ声はよく響き黒服の動きを制した。

 そのまま他の黒服が後部座席の扉に近寄り扉を開ければ中から巫女装束に身を包んだ女性が降りてくる。

 その女性は黒服を伴いながらゆっくりと俺の方に歩いてくる。


「お久しぶりですね、次郎さん」

「ご無沙汰しております。霧江さん」

「ええ、本当に。昔はあんなに小さかった子供が立派になりましたね」


 そして俺の名前を呼んだ。

 いつ以来ぶりになるか目の前の女性と会うのは……少なくとも成人してからは会っていないと思う。

 互いに顔が見える距離、三メートルほどだろうか。

 そこで女性、俺の叔母でありお袋の妹、相模霧江さがみきりえさんの姿を捉えた。

 見た目は二十代後半、上に見積もっても三十代前半、実年齢は見た目よりも上のはずなのだが……

 うちのお袋もそうだが、俺の知っている親戚の女性はなんでこうも若く見えるんだと思わせる。

 巫女装束に身を包み、黒髪のストレートヘアをなびかせゆったりと歩く姿は大和撫子と言えるような仕草だった。

 ただ、俺からすればその恰好、仕草、雰囲気、あとは黒服という要素で母方の実家はそういう系統の実家なんだなと確信した。

 とりあえず、久方ぶりに合うのでお辞儀してあいさつを交わすが。


「さて、角中、高松試しなさい」

「っは」

「はい!」


 その対話は穏やかには終わらない。

 なにがさてだと言いたいことはあるが、仕事の時間だと割り切る。

 霧江さんが表情を変えず、厳格に発した言葉。

 問答無用で霧江さんはそばに控えていた黒服に指示を出し、俺に襲い掛かからせてきた。

 拳銃ではなく警棒を構えたのは手心か、あるいは別の意図か。

 だが脅威を振るってきたのには変わらない。

 鍛え上げている体を持つ黒服は二人は、瞬く間に俺へと接近し容赦も加減もなく、全力で俺へと攻撃を繰り出してきた。


「っ」


 素人が受ければ骨折は確実、死にはしないが重傷は負うだろうという加減のやり方。

 訓練されてきた者たちならできるという連携の取り方。

 初対面の相手にやるにはいささか過剰な対応。

 相手を過度に制圧する攻撃の意思。

 その行為に対して俺の中で一瞬で戦闘モードへと思考が切り替わり、社外ということで重くなった体を意識的に操作する。

 目では随時情報を仕入れ、相手の実力を吟味する。

 黒服二人の動きは洗練され、自衛隊にいてもおかしくないと思えたが。


「はっ」

「んあ!?」

「っが」


 教官たちを相手している身としては、その動きは緩慢と言わざるを得ない。

 全力を出すまでもないとはこのことか。

 相手からすれば全力で速く動いているつもりでも、俺にとっては遅く感じ、同じ領域下の動きでも十分に対処できる。

 そして魔素下ではないので動体視力の方も影響を受けて能力は下がっているが、あくまでその基準は魔素がある空間での基準。

 魔素のない空間でも並以上には俺の動体視力も鍛え上げられている。

 当然その動体視力に追随する反射神経も鍛え上げてある。

 確実に相手の動きをとらえ、一人目を降り下ろしてくる手首をつかみ軽く片手で投げ飛ばす。

 一人目は受け身を取ろうとするがそこは工夫する。

 受け身を取れずされどケガをしないように痛みだけを与える投げ方で地面にたたきつけ動きを止める。

 そして仲間がやられても動揺せず投げ飛ばした後の隙を狙う後続。


「フン!」


 掴んでいた手首を素早く離し、地面をけり上げ滞空しながら迎撃をする。

 飛燕脚。

 地面から飛び上がり、高速で体のひねりを加え右足は最初の標的である警棒を蹴り飛ばした。

 後の追撃の二撃目、右手を弾き飛ばされながら空きになり咄嗟に左手で防御を固めようとしている。

 だが、遅い。

 防御の隙間を縫うように左足で軽く顎を蹴り飛ばすことで数歩後ずさったのちに膝から崩れ落ちる。

 そのあと立とうとしているがうまく立ち上がれない様子。

 どうやらうまく加減ができて無力化できたようだ。

 この間わずか十秒足らず。

 大の大人二人を瞬く間に鎮圧してみせた。


「……姉さんの言う通りでしたか、想像以上の実力のようです。さすがとは言いたくはありませんが、あの人の息子ということでしょうね。試すようなことをして申し訳ありません」

「いえ、そちらからすればわけのわからない若造を使おうとしているのでしょう。これくらいは問題ありません」


 そもそも殺す気のない戦いなら平気になっている自分だ。

 この程度の戦いなら、気にも留めなくなっている。

 申し訳なさそうにしている霧江さんに頭を上げるように言い、時間もないだろうと告げれば。


「そうですね、時間もありません。先ほどの戦い、それと姉さんからもあなたはかなりできる方だと聞いております。今回の件あなたに頼らせていただきます。詳しくは移動しながらお話しします」


 挨拶もそこそこに車に乗るように言われ、仲間に助けられ起き上がった黒服は別の車に連れていかれ、ほかの待機していた黒服の先導のもと俺は霧江さんと同じ車に乗せられる。


「事件の経緯を語るにはまずわが相模家の歴史を語る必要があるのですが...時間が足りませんので、省略しますがよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 お袋の実家の話をされても、俺にはわからないだろうから今は要点だけを聞く。

 俺の返事に頷いた霧江さんはではと前置きを置いてから説明を始めた。


「相手はどこの組織か存じ上げませんが、計画的に行なったのは事実。爆弾テロという形で結果を得ようとしています。問題となっている点はいくつかありますが、一番の問題はあの場で多くの人が亡くなり魂が混流することが問題となっています。ですので今回はこれを防いでもらいます」

「魂の混流?」

「わかりやすく言えば、あの場で多くの人が亡くなると地縛霊であふれると言えばわかりやすいでしょうか?」

「ええ、まぁ、なんとなくは、それでなんの問題が? 人が多く死ぬのは確かに問題ですが霧江さんが言っているのはそういうことではないと思うのですが」

「ええ、その通りです。結果的に死者の念が残留するのがこの場合は問題となります。わが相模家は代々特殊な封印をいくつか守護して参りました。今回狙われているのはその封印の中の一つ、黄泉の国への道なのです」

「黄泉の国への道ってあの世への道ということですか?」

「はい、その黄泉の国です。と言っても黄泉比良坂のような本道ではなく抜け道や脇道といった経路です。道は狭く荒れている。けれども黄泉の国につながっているのは事実」


 黄泉と言えば日本神話に出てくる。

 死者の世界のことだ。

 有名な話を挙げればイザナギが死んだ妻のイザナミを追って黄泉の国まで行ったというのがある。

 すなわち神ですら死んだら向かう場所と言われている場所だ。

 そんなもの眉唾物だと昔の俺なら一笑に付してこの会話を終わらせたところだが、ここ最近の事情から笑えない冗談だというのがわかる。

 そりゃ、あの世への道が開きますなんて聞いたら冷や汗の一つや二つはかく。


「私たちの先祖はそこからあふれ出てくる災厄を防ぎ監視するのが役割、それは現代でも一緒です」


 まさかこんな近所に非日常が潜んでいるとは思わなかったが、今の俺ではそれを笑うことができない。

 事実、不死者や鬼、日本の妖怪に近い存在たちと対話しているからだ。

 霧江さんが話していることが嘘だと一笑で済ませる神経はあいにくと取り外している。


「今回の事件が最悪の形になれば、日本中に災厄をまき散らす結果となるでしょう。ですので現世に開けてはいけない道を塞ぐため、我々も万全の態勢で挑んでおりますが昨今の事情で陰陽道や神通力を使える者も減っており、仕方なく、本当に仕方なく出奔しゅっぽんした姉すら呼び寄せたわけです」


 そして膝の上で組んだ腕がキリキリと握りしめられている様子で、今回の件があまりかかわりになりたくない姉を呼び寄せるほど重要であることを伝えられる。


「ああ、それで? 俺は何をすればいいので? 言ってはなんですが腕っぷしに自信はありますけど、そういった神通力に頼ったような力はありませんよ?」


 表情こそ歪んでいないが怒気を孕んでいるのはひしひしと感じる。

 なので、話が脱線する前に進路修正をはかる。


「その点に関しては期待しておりませんので安心してください。今回必要なのはあなたの言う腕っぷしの方です。我々は万が一のことを考え封印をする準備をします。ですので次郎さんには姉とともに、こちらで用意した神具がありますので、それを持ち犯人たちの制圧を依頼します」

「そういうことでしたら」


 そしてそっと座席のわきに置かれていた古い木箱を手に取り何やら仰々しい飾り紐をほどきふたを開け俺の方に差し出してきた。


「これは? 足袋?」

「はい、韋駄天神の足袋です」

「……本物ですか?」

「本物ですと言いたいところですが、こちらは模造品レプリカです。ですが効果は本物に劣るものの折り紙つきです。こちらを使えば体感の何倍もの速度で駆け抜けることが可能になります」

「いや、それならこれ使って俺以外の人が制圧すればいいだけの話では?」

「使える者がいれば使わせたでしょう」

「というと?」

「先ほども言った通り、昨今の術者の減少傾向は著しいです。正直言えばあの姉ですら人格を無視して手放すのは惜しいと言われるほど人手不足です」


 お袋がだいぶ言われたい放題になっているが、あの自由奔放でまかり通っているお袋だ、苦情の一つや二つは出てくるだろうと思い黙って聞く。


「私どもの手の内にはこれを使える者は数少ないのです。ですが、その数少ない者たちも他の現場に派遣され使えない状態。こちらは手が足りない状況です」


 そこで白羽の矢が立ったのが俺ってわけか。

 見るからに神々しいというわけではないが、清らかな雰囲気を感じさせる一品。

 模造品と聞いているが、それでも神にまつわる一品というわけか。


「本来であれば姉に使わせるつもりでしたが、次郎さんなら問題なく使いこなせるということであなたに預けます」


 黙って俺は受け取りまじまじと見つめる。


「ほかの装備に関しては現地で渡します。今はこちらの資料に目を通してください」

「これは」

「警察からの情報と式神を使い把握した犯人の構成、配置、そして爆弾の構造図です」


 その後に、現代なら当たり前、だが巫女の格好をした霧江さんが持つには少し違和感の出る一品、タブレットを渡されスライドすると現場の情報が羅列されている。

 黙々と読めば読むほど、通常手段では爆弾を封じる手段はないように見えてくる。

 だからこそ神具という反則チートというわけか。

 資料の中には過去の使った者たちによる足袋の効果も書かれていた。

 少なく見積もっても十倍、高いものでは三十倍近くの速度をたたき出している。

 だが、この足袋に込められた力はバッテリー式のようで、効果時間には限りがある。

 その点を留意して事に当たらなければならない。

 そうして連れてこられたのは。


「ここは、離着場?」

「はい、ここからは警察の方と合流します。そこで作戦の……その前に来たようですね」


 ヘリポートのある広場が目的地だとすればここからの移動はヘリということになる。

 少し嫌な予感を感じつつ、説明を受けていたが、すっと車から降りた霧江さんの表情が鋭くなり空を見上げ誰かが来たように告げる。

 だれがと俺が聞く前に、一機のヘリが近づいてきてヘリポートに着陸し。


「霧江! 息子! 元気にしてたか! おら、伊知郎、いつまでへばってんだ」

「いや。まって、少し気持ちわるいんだよ」


 その中から出てきたのはうちの両親であった。

 なるほど、確かに来たようだったな。

 そして、霧江さんの機嫌が悪くなったのは確かだろう。

 空気を読めないんじゃなくて空気を読まないお袋と霧江さんは確かに相性が悪いなと思いつつ、親父を引きずりながらヘリから降りるお袋に近づくのであった。



 今日一言

 さて、これから何が起きるのやら、正しく神のみぞ知るってやつか?


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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