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216 仕事納めという響きだけでほっとするのはなぜだろう。

 クリスマスパーティーが終われば、普通なら次の日は仕事となる。

 休んだなら働く、社会人としてはありきたりなパターンではある。

 だがその多いパターンが今回はそうでもない。

 うちの仕事のスケジュールは調整すればかなり休みに対して自由が利く。

 なので、今やっていることと言えば。


「海堂そっち持て」

「う~す、半年くらいしか使ってないのに結構荷物ってたまるもんっすねぇ。これはこっちでいいっすかぁ?」

「六人で共同で使えばそりゃ荷物も増えるわなって、資料はそっちの棚でいらない奴は順番にシュレッダーかけろ」


 通常業務ダンジョンアタックではなく、年末の大掃除と相成ったわけだ。

 今月のスケジュールはだいぶ調整し前半に業務を入れることによって仕事納めの時間を早めたわけだ。

 普通の会社ならできない技に、年末のんびりとは無縁だった俺には感嘆と感謝の気持ちを抱いた。

 だからだろうか掃除というのはしっかりやらねばいけないと理解はしているが、内心面倒だと思っている気持ちの所為で多少雑になりがちな行動が今は少しだけ丁寧にと心掛けるように動いている。

 パーティールームという場所は、仕事とプライベートが混在した空間で、複数人が出入りするから汚れる機会が多い。

 書類作成に、武具の手入れ、簡単な食事もそうだが、宅飲みや簡単なお茶会といったこともするのでそういった汚れが出る。

 そのまま放置するわけにもいかず、各自で、主に勝がではあるが掃除しているが、それでも汚れという物は残ってしまう。

 なので年末の大掃除でそういった部分を今回は徹底的にやる。

 普段は気にしない棚の裏、天井、カーテン、あまりやらない場所を今回で徹底的にやるため、各々掃除用具片手に掃除している。

 海堂と俺で重いものをどかしながら整理し。


「自分の部屋すら掃除しない拙者が、仕事場とはいえ掃除する日が来るとは……なぜでござろう。すっごく負けた気がするでござる」

「普通そこは感慨深いとかそういった感じの言葉が出てくるはずよね。なのにあんた、何当たり前のことで嘆いているのよ。そんな暇があるなら手を動かしなさい」

「動かしているでござるよ~」

「そう、ならもう少し丁寧にやりなさい。汚れが残ってるわよ」


 北宮と南が細かい場所を掃除していく。

 窓ガラスを拭いている南が、いきなり真顔になり次に沈むと北宮は呆れたように掃除機をかけながらツッコミを入れる。

 仕事納めとして始めた掃除だが、やることは多い。

 だが、それでもコツコツと進めてきたおかげで終わりが見えてきた。

 このままいけば思ったよりも早く終わりそうだ。

 広いといっても、会社のオフィスとかに比べれば狭い。

 そこそこの人数がいればあまり時間をかけずに終えることができるだろう。


「主、昼食の差し入れを持ってきたぞ」

「おう、助かる。区切りの良いところで飯にするぞ」

「おー! 昼食っすね!」

「海堂には妹たちから弁当を預かっている」

「うわ~い、俺だけ別っすか」

「作ってもらえるだけありがたく思っとけ」


 そして、ちょうど区切りの良いタイミングでヒミクが弁当を持ってきてくれた。

 慣れない仕事で凝った体をほぐしながら頭に巻いたタオルをほどき、弁当に埃が入らないように気遣いながら全員に休憩の指示を出すと、それぞれ掃除の手を止めて集まってくる。

 その間にヒミクはテーブルを拭き料理を広げていてくれる。


「うまそうだな。また腕を上げたんじゃないか?」

「うむ! こちらの世界はいいな。いろいろな情報が手軽に集められる。料理の素材も安価で手に入る。腕の振るい甲斐がある」

「財務大臣のメモリアに怒られない程度にな」

「う、まえに松阪牛を買おうとして止められた」


 褒められたことにより笑顔を見せたヒミクは、確かに日に日に腕を上げている。

 向こうの世界では料理のレシピなどは秘伝とされることが多い。

 だが、日本ではそういった情報が公開されている。

 ヒミクにとってはお宝の山のような光景で、その宝を使った成果が反映されただけのことだろう。

 鼻をくすぐる旨そうな香りを放つ広いテーブルには、複数のタッパーが置かれ、大きめのタッパーにおかずが詰められ、おにぎりも用意されている。

 さらにヒミクは用意した水筒からお茶を配っている。

 色合いからして緑茶か。

 海堂だけはなぜか別に用意されているが、それはあの双子天使が用意したものらしく、うれしいような一緒に同じものを食べられないことが悲しいような微妙な表情を浮かべている。


「うわ~い、お昼でござる! お昼でござる! 拙者、しっかり働いたでござるからおなかペコペコでござるよ」

「調子いいわね。あんた拭き掃除しかしてないでしょ」

「拙者が掃除をした。それだけでも快挙でござる」

「あんた普段どんな生活をしてるのよ」

「勝におんぶにだっこ。他人様から見ればまともな生活はしてなかったでござるなぁ。最近は、平均よりもちょっと下くらいの生活にはなったでござるが」

「はぁ、勝君ができすぎて、あんたがだめになった経緯が目に浮かぶわ」

「勝は私が育てたでござる」

「あんたが育てたじゃなくて、あんたを見て育ったって言った方が正確ね」


 匂いにつられ南が弁当に駆け寄り、空腹をアピールすれば掃除機を片づけた北宮がその後ろに続く。

 子供のように料理を前にしてはしゃぐ南を北宮は呆れたように眺めながら自分の席に着く。

 俺も席に着き、隣にヒミクが座り昼食に取り掛かる。

 メモリアとスエラは店番と仕事でこの場にはいない。

 そして海堂に弁当を作った双子天使と言えば、今頃テレビでも見ているのだろうと当たりをつける。

 結果、勝の代わりにヒミクが席に着き食事をとるという形になる。


「にしても勝の偉大さに気づかされるな。もう少し早く終わると思ったんだが、なかなか終わらん」

「仕方ないっすよ。台所回りとか俺たちあんまりやったことなかったっすからね。慣れない仕事には時間がかかるもんっすよ。お、なかなかいけるっすね。なんのお肉っすかこれ。エビみたいでおいしいっすけど」

「それか? たしかサンドスパイダーの足だったはずだが」

「……まさかの蜘蛛肉だったっすか……」

「高級品だぞ?」

「う、そう聞くと珍味に見えてくるっすよ」

「はいはい、異世界の食材についてはいいんだけど、南、あんた勝君が来ない理由聞いてないの?」

「ん? 聞いてないでござるよ。用事ができたって言ってたでござるが、詳しい話はリーダーの方が知ってると思ったでござるが」

「俺も詳しい話は聞いてないがな。アメリアは今日は健康診断で午後からの合流になるって聞いたが」


 今回の仕事納めの大掃除、本当なら勝も来るはずだったのだが、急遽用事ができて来られないと連絡があった。

 まじめな勝が申し訳なさそうに連絡してきたのは印象に残ったが、用事があるなら仕方がない。

 ダンジョンに入るわけでも、書類を作成するわけでもないので、次に会うのは年を越してからだと思い通話を終わらせたのだ。

 アメリアと母親である美枝さんは定期健診で遅れてくる。

 なので、人数が減り大掃除の主力がいなくてこうやって苦労しているわけなのだが。


「いないのなら仕方ない。都合というのは人それぞれだ。俺たちは黙ってこの後の掃除に精を出すだけだ」

「そうっすねぇ」

「りょうかいでござる~」

「あんたもう少しやる気でないの?」

「人には苦手分野という物があるのでござるよ北宮~」

「ふむ、南の場合得意分野の方が少ない気がするのだが」

「そうだな」

「っちょ! リーダーもヒミクさんもひどいでござる!」

「否定できるのか?」

「できないでござるな!」

「なら威張るな!」


 もくもくと食事を進め、この後どうするかを話すまでもなくただただ雑談を交わす。

 そんな空間でBGM代わりに流していたテレビのニュースで気になるニュースが流れる。


『次のニュースです。昨夜未明〇〇市のコンビニに強盗が入ったと警察に通報があり、犯人は逮捕されましたが、錯乱状態で警察にケガ人が出たと発表がありました。警察の方から被疑者の体内から薬物反応があったことから最近多発している麻薬組織との関連性に……』

「またこのニュースか。最近多いな」

「そうっすねぇ、もう一か月くらい流れているっすから」


 気になるといってもそれは面白いとか、昔押していた俳優や女優の話題といった内容ではない。

 悪い話ほど印象に残る。

 それが近場で起きているのならなおのことだ。

 社内でトラブルが起きている最中、東京内でも事件は起きていた。

 それがこのニュースだ。

 最近と口にはしたが、海堂が言ったこの事件は一か月ほど前から起きている。

 新種の薬物による錯乱者。

 よくニュースで見る脱法ハーブとは違う、正真正銘の違法薬物である。

 有名どころの麻薬とは違うため販売経路の捜索が難航しているとたびたび報道している。

 ヤクザといった自由業の組織から、個人で動いているという話もあり、ちょっとした路地裏にも警官が入るようになっていると聞く。

 おそらくこのニュースも注意喚起の意味合いが強いのだろうが、進捗がないというのもいささか不安になる。


「そういえば、前に海堂先輩が言っていた変な女の子の噂が流れてたのも一か月前だったわよね?」

「あの魔が憑いてるとか言ってくる宗教勧誘の話か?」

「ええ」

「そういえばそうっすねぇ。と言っても、これと関係あるならその少女が販売元と繋がってるって話になるっすよ? さすがにそれは都合がよすぎるっすよ」


 考えにくいと海堂は漏らすが、いつもの勘がその否定論を否定しろと囁いている。

 と言っても、この話は俺たちには関係ない。

 身内が変な薬物に手を出しているのならともかく、社外でこんな厄介ごとに首を突っ込むのなんてさすがに度が過ぎている。


「事実は小説よりも奇なりって誰かが言ってたでござる」

「南の言う通り案外、まさかと思うことが真実だったりするときもあるからな。と言ってもこの件に関しては本職に任せるのが一番だ。社外の事件に対しては首突っ込む方がおかしい。俺たちは俺たちの仕事を進めて今は目の前に来ている休みに気を割いた方がまだ建設的だろうさ」

「それもそうね。厄介ごとはこの前のことでおなか一杯よ」

「そうでござるなぁ。と言いたいところでござるが最近こんな会話をしていると巻き込まれるような気がするのは拙者だけでござろうか?」

「うむ。南もそう思うか。私も前に仕えていた勇者がそんなことを言っていて毎回トラブルに巻き込まれていたのを思い出したぞ」

「ヤバいでござるリーダー。気を付けるでござるよ?」

「なんで俺に言うんだよ。俺に」

「いあやぁ、先輩がいっつもトラブルに巻き込まれるからじゃないっすかね?」

「好きで巻き込まれているわけじゃねぇよ……否定できねぇが」


 ヒミクのシャレにならない冗談を流し、南の指摘を苦笑しながら受け止めニュースを見る。

 テレビの向こうでは過去の事件と合わせて何かの関連性を見出そうと討論する光景が見えるが机上の空論を出ない予想が飛び交うばかり。

 なんの解決策も出ないだろうなと思いながら、今は空腹を満たすために何事もなければいいなと思いつつおにぎりを頬張るのであった。



 今日の一言

 関係ないと思ってもどこかでつながっているときがある。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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