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21 定時よりダンジョンの攻略を開始する

先週は投稿できなくて申し訳ありません。

ちょっと仕事が忙しくて遅れました。

気づけばPVも一万を超えていまして、皆様には感謝の念が絶えません。


では、始まります。

田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



「この格好だけ見ると拙者たちコスプレの会場に行くのでござるのかな?」

「違うと言いたいが、今回は南の言葉が否定できない」

「って言ってもこれが俺たちの仕事着っすからねぇ」

「お前ら余裕だなぁ」


俺が最初にダンジョンに挑んだ時など緊張で喉が渇いたというのに。

体に合わせた鎧の重さは俺の安心感を増し、適度な緊張感を保ってくれる。

ひらひらと緑色のローブをはためかせる南を筆頭に確かにこのメンバーの姿を見ればイベント会場に向かう集団に見えるだろう。


「南の格好は冒険者風の魔法使いといった感じだな」

「そう言う勝は殴ります謝るまではって言ってそうな神父でござるな」


南は緑色のローブの下にアルマジロのような濃い茶色の魔物の革で作られた鎧を着込んで、片手には魔法銀ミスリルで彫金を施した杖を携え、額には魔法文字を縫い込んだ鉢巻をしている。

宮廷にいるというより、冒険者ギルドに所属している魔法使いのていをなす格好だ。

そして、革手袋のハメ具合を確認している勝は、南が言ったようにパッと見は神父だ。

ただし、物理的に殴りに来る雰囲気は伝わってくる。

灰色のカソック服に両手には金属で補強された革手袋、手の甲に魔石が装備され魔法も使える。

おまけに履いているのは爪先に鉄板を仕込んだコンバットブーツだ。

どう見ても後衛職である回復役には見えない。


「あいつらに比べて、お前は一般兵士といった感じだな」

「先輩には言われたくないっす。なんすかその中ボスっぽい鎧武者の格好は」

「うるせぇ」


対する俺たちは対極といっていいだろう。

海堂の装備は、鉄を基本とした軽鎧に兜、こう、RPGに出てくる街に常駐する少し身分の高い兵士だ。

ただ装備が槍とか、片手剣に盾といったオーソドックスのような兵士の姿だ。

そして俺は、洋風なファンタジーに紛れ込んだ和風テイストの鎧武者だ。

黒をベースとし赤を所々に散りばめた姿は戦国時代に出てきそうだ。

さすがに角飾りはついてはいないが、顔当てもしている。

これで武器が大剣の鉱樹ではなく、刀か野太刀など装備していれば完璧だっただろう。


「さて、ようやく準備が整ったわけだ」


時間は朝の九時。

場所はダンジョンの入口前。

それぞれの装備が確認できたことで、俺は口を開く。


「長かったでござる。特に研修期間チュートリアルが長かったでござる」

「南はいいっすよ。俺はもっと長かったうえに、あの二体と戦っていたっすから」

「忠さん、何回も壁にめり込んでいましたからね」

「それぞれ思うことはあると思うが、いいから俺の話を聞け」


取り出すのは使い込んだメモ帳だ。

俺がダンジョンに入るときに持ち込んでいる、革製のカバーで保護している頑丈なやつだ。

それを開いて、伝えられる情報を探す。


「これから挑むのは機王のダンジョン、ゴーレムがメインのダンジョンだ」

「おお、雪辱戦というやつでござるな」

「あいにくと、あいつと戦うには十五層まで進まないといけないからぶち殴るのはその時だ」

「殴るのは決定事項なんスね」

「当たり前だ……話を戻す。本来であれば俺が攻略を完了している一層と二層はパスしてもいいのだが、慣れるために一層から挑みなおす」


目的は言ったとおりダンジョンになれるため、百聞は一見に如かず。

教え込むよりやらせたほうが覚えるのは早い。


「おーし、これからモンスターの特徴言うから頭に叩き込めよ」

「「「はーい」」」


一応事前に概要は教えているが、復習も兼ねて少し細かく教える。

ペラペラとメモをめくりながらゴーレムの特徴、登場する魔物の種類を説明し一層のボス、ピンボールゴーレムの説明を終えてメモ帳を閉じる。


「以上が俺の知っている内容だが、これはあくまで目安でおそらくダンジョンのモンスターはバージョンアップされていると思うので過信しないように」

「「「は?」」」

「具体的に言えば、ボスは爆発と刺だけではなく、煙幕とか毒とかスタングレネードみたいな個体が混じっている。おそらく徘徊しているモンスターもバージョンアップされているだろうなぁ」

「「「えー」」」


俺の言葉に何を言っているのだコイツと、凝視する三人の気持ちは非常によくわかる。


「仕方ないだろう、攻略して問題点を挙げて改善策を上げる。それが俺たちの仕事だ」

「すなわち、拙者たちが攻略すればするほどダンジョンの難易度は上がっていくってことでござるか?」

「有り体に言えばそうなるな」

「マゾゲーでござる?」

「仕事っていうのは人生を過ごすためのマゾゲーだろ?」


自分でもうまいことを言ったと思う。

俺たちがやっていることは極論的にそれが表に出てきているだけに過ぎない。

大なり小なり、どの仕事も似たようなことだ。

だが南の反応もわからなくはない。


「まぁ、終わりはある」

「どこまでっすか?」

「俺たちが攻略できなくなって、うちの社長が満足するまでだな」

「先輩それ終わりがないのと一緒っす」

「仕事っていうのは終りがないものを指す。わかっているだろう?」


攻略できるうちは終わらず、攻略できなくなっても上が納得できなければ継続される。

売上がこれより上がらないと分かっていても、会社のトップは利益を求める。

一段落はあっても、終わりなど実質ないようなものだ。


「ちなみにどれくらいまで攻略が終わっているのですか?」

「俺が攻略できたのは二層まで、その先は罠だらけでな全容すら把握できていない。ハハハハハハハ!」

「笑うところですか?」

「笑わないと仕事なんて欝になって一発で終わりだ。それにな、一人だと無理だと思っている仕事なんて二人になるとあっという間にできてしまうものだ。先の展開が見えているだけまだマシだ」

「そうなのですか?」

「そういうものだ」


だんだんと難しくなり、終わりなど見えない仕事だが、終わりがないわけではない。

それに勝に言ったとおり、罠に阻まれ進めなかった状態であったが、南の魔法のおかげで探索者スカウトの代用が利くようになっている。

少なくとも罠の心配は前よりは少なくなっている。

停滞する仕事ほど嫌なものはないが、ホップステップで進む仕事は気楽なものだ。


「さて、配置はブリーフィングで決めたとおりだ。前衛が俺、遊撃で海堂、後衛で南と勝連携に関しては暫定だ。おいおい微調整してやりやすいやり方を求めていく。だが、一つだけ言っておく。自分が良ければという思考は捨てろ。自分のことしか考えない奴は周囲から切り捨てられる。面倒だと思うだろうがこれは必要な行動だと割り切れ。常に周囲に気を配れ。それが回って自分を助ける、OK?」


言っていてクサイセリフかもしれないが、冗談抜きで体を張る仕事なのでここら辺は言っておかなければ自分に返ってくるのだ。


「うっす」

「了解でござる」

「はい」

「素直でよろしい安全第一で行くぞ」

「リーダー! 黄色いヘルメットを忘れたでござる!」

「先輩!赤いライトの棒を忘れました!」

「勝、こいつらに弁当の代わりに希望のもの渡してやれ」

「わかりました」

「「すみませんでしたぁ!!」」


胃袋を握るものは、世界を制す。

土下座姿勢の二人を立ち上がらせ目的地を見る。

これで話すことは終わった。

仕事の前の一服というわけではないが、タバコに火を付ける。


「さて、お前ら仕事の時間だ」

「ようやくでござるか、随分とファンタジーな前段階を踏んでいる仕事でござるなぁ」

「茶化すなよ南」

「でもこれからやるのもファンタジーっすから人生って本当にどうなるかわからないっすねぇ」


ゲートに向けて歩き出した俺に残りの三人も続く。

巨大なエレベーターの扉はゆっくりと俺たちを迎え入れるようにその巨体を左右に開かせる。

俺には慣れたものであるが、他は違う。

少し警戒しながらのダンジョン入りだった。


「く~、やっと拙者の冒険が始まるのでござる!!」

「やっぱり空気が重く感じますね」

「相変わらずすごいっすねぇ、どうやって作るんだろうこれ」

「ぼうっとするな、ここはもうダンジョン内だ」


それぞれの反応は様々、素直に感動している南、空気いや魔力の濃度に反応した勝、攻略ではなく製造過程に興味を示す海堂、だが呆けている暇はない。


「戦闘の指揮は南に任せる、いいな?」

「了解でござる!MMOで鍛え上げた拙者の指揮能力を見るでござる!!」

「大口を叩ける余裕があるなら問題ないな」

「フフフフフ、これでござる。これこそ真のファンタジーでござる。チュートリアルなんてただの飾りでござる。偉い人にそれを分からせるでござる!!」

「不安だ」

「勝、いざとなったら俺らでカバーするから安心するっす」


意外と思われるかもしないが、南は現実はともかくネット世界では大規模ギルドのサブマスターだった。

イベントでも、大規模戦闘で何回も指揮をとった経験があるらしく、それを聞いて俺は試しに連携の指揮をとらせたのだが、前衛の俺が指示するよりも全体を俯瞰ふかんできる南のほうが動きが良かった。

まぁ、相手がスエラだったから勝った試しなどなかった。

不安要素は、実戦でそれを発揮できるのかということ。

そればかりは経験がモノを言う。


「一層では俺は戦闘に参加しない、戦力はお前ら三人だけだ。ボス戦は参加するがまずはお前らだけで頑張ってみせろ」


その経験を補うために、俺は極力戦闘に参加しない。

警戒はするが、バージョンアップされたといっても何度も来ているダンジョンだ。

すでに一刀のもとに切り捨てられるような相手ではこいつらの経験を奪ってしまう。

二層でも同じだが、量が増えてくるのでそこはさすがに参加する。


「海堂先輩が前衛、勝を真ん中において拙者が後衛でござる。リーダーには殿をお願いしたいのでござるが?」

「ああ、問題ない」


さっそく、指揮をとり始める南の指示に従って隊列が組まれる。


探査魔法サーチ


その間に南は一つの魔法を発動させる。

薄い青色の球体が宙に浮き心臓のように鼓動し明滅する。

この魔法の役割はレーダーのようなものだ。

経験の差は出るが経験が勝れば隠れているモンスターや罠を看破してくれる便利な魔法だ。

南いわく、あの球体を中心にして波が出て反応を探る感覚が頭に映るらしい。


「まずは二階を目指すでござるよ」

「最初から大丈夫か?」

「場所を把握する方が後々楽でござるからなぁ。あと戦闘も極力避けないようにするでござる。無理なら途中で引き返すでござるよ」


ファンタジーファンタジーという割には南の判断は堅実な手から入る。

普段よりゆっくり歩き出した海堂を先頭に南が後方から進路を指示する。


「前から来るでござるよぉ、数は三で小さいのが二の拙者たちと同じくらいなのが一でござるなぁ、でもこの魔法もう少し改造したほうがいいでござるかなぁ情報が少ないでござる」


おそらく南が言っている相手はウッドキッドとウッドパペットだろう。

俺は音とかで反応を探っていたが、さすがにレーダーには敵わない。

相手の位置と距離が測れるだけで、かなり十分のような気もする。

俺は俺で鉱樹こそ抜き放っているが、お手並み拝見と周囲を警戒するだけで留めている。


「海堂先輩、魔法は温存でお願いするでござる。勝は軽傷の時は包帯での治療で抑えて魔力を節約するでござる。拙者はまずは動きを抑えるでござるよ」


姿を捉えられる距離になると、存外落ち着いて南は魔力を練り始める。


「まずは盾持ちを抑えて数を減らすでござる、海堂先輩切り込みお願いするでござる」

「うっしゃぁ!」

「勝も殴りかかっていいでござるよ?」

「回復役が殴りかかってどうするんだよ」

「それもそうでござるな、とりあえず『拘束バイト』でござる」


気合十分で双剣を抜く海堂に合わせてそれぞれが戦闘態勢に移っていく。

初動は十分、あとは結果を見るだけだ。

相手はバージョンアップされたウッドキッドとウッドパペット、前までは両手が同じ武器だったが、キッドの方はハンマーとナイフという種類が増え、パペットの方は片手は槍のままだが、片腕が盾になっていた。

三対三、数的に互角だが初のダンジョンそして初見の相手にこいつらはどうやって動くのか見させてもらおうと思ったがあっさりと結果は出た。


「? 手応えないっすねぇ」

「ん~、魔法はいらなかったでござる?」

「油断はしないほうがいいぞ」


南の魔法で動きを止められたウッドパペットを海堂は素早く切り捨て、返す刃でキッドも切り捨ててみせた。

サポートで南の魔法もあったが明らかにレベル差がある動きだった。

集団戦だと、ここまで余裕のあるものかと感心する中、常に緊張感を持っていた俺が少し悲しくなる。


「まぁ、スライム相手に勇者は苦戦しないでござるからなぁ」

「そうっすねぇ、スライムでつまずいていたらゲームが進まないっすからねぇ」

「ここでのスライムは出てきたら全力で逃げたほうがいいらしいでござるが」

「なんでだ?」

「粘液が強酸で物理攻撃が一切通用しなくて魔法もある程度吸収するって資料に書いていたでござる」

「なんすか、その最強生物、ホラー映画とかエイリアン系の映画に出てきそうっすねぇ」

「弱点は小麦粉らしいでござる」

「意外とお手軽な方法で倒せるなぁ!?」


こうやって周囲を警戒しながらも雑談できる。

精神的な余裕が生まれるのはいいことだが、


「お~い、追加でお客さんだぞ」

「ござ!?」

「南、警戒忘れていただろう」

「う、意外とこの魔法使い続けるのが難しいでござるな」

「頼むっすよ~」


意外と近くまで来ている敵さんを知らせてやれば、最初の余裕はどこに行ったのやら、慌てて魔法を南は再起動させる。

油断は大敵だ。

圧勝してしまったのも原因だろうが、余裕と油断は雰囲気は似ているが字面も意味も大きく異なる。

今はこうやって俺という人員が余っているが近いうちに全戦力で動き回ることになる。

そうなった時に致命傷にならないように今のうちになおしておく。


「連戦っすねぇ!!」

「うわ、音にリンクするのでござるか」

「集まっているか?」

「そうでござるな、少しダンジョンを甘く見てたでござる。アリも集まれば象を殺すでござる。少し早いでござるが、様子見している余裕があったら体力の温存でござる。海堂先輩回転効率上げるでござるよ~『筋肉増強マイティボディ』!」


探知に引っかかっているのは目の前で海堂が相手取っているモンスターだけではないのだろう。

わざわざ強化魔法を海堂にかけて、数を減らしにかかっている。


「リーダー、移動するでござるよ、囲まれる前にボス部屋の前に陣取るでござる」

「ほいほい」


今のところは南の動きは問題ない。

ゲームとは言え、これと似たことをやっていて研修で仮想とは言え戦闘も経験している。

頭の中と現実のすり合わせができているのだろう。


「ん~、リーダーがいないとアタッカーが海堂先輩一人、処理効率を上げるにはもうひとり後衛アタッカーが欲しいところでござるなぁ」

「素直に南がやればよかっただろうが」

「拙者がやったら面白くないでござるよぉ、魔法使いはこう厨二病を患った御仁とか天然美少女がハプニングを起こすポジションでござるから」

「仕事にそんな思想を持ち込むな!」

「あいた!?」


海堂一人で戦わせて、後衛二人はのんびりとコントをしているが、しっかりと移動しながら周囲の警戒をしている。

通常の戦闘ならこのままで問題ないだろう。

ああ、普通の戦闘ならな。


「まぁ、こうなるわな」

「お、オープニング爆撃、これは、ないっすよ」

「リーダー何黄昏てるでござる!? 来るでござる来るでござる!? 黒い物体が拙者たちに向かって!? っていうか海堂先輩しっかりするでござる! 衛生兵! 衛生兵!!」

「ええと、明日はスーパーの特売で鶏もも肉が」

「しっかりするでござる衛生兵! 現実逃避していないで帰ってくるでござる!? 割と拙者らピンチでござるよ!?」


あのまま、戦闘を繰り返してウッドゴーレムもあっさり下して、これなら余裕とボス戦に挑んだのだが、そうは問屋が卸さなかった。

今も俺がブンブンと残像が残る勢いで鉱樹を振り回して久しぶりに見るピンボールゴーレムを切り捨てている。

まぁ、残像といっても自分で振っている剣だ。目で追えるし、ピンボールの方も今ではゆっくりと追える分割と余裕を持って対応できる。

問題なのが、対応できていない後ろのメンバーなのだが。


「ちょっとダンジョン舐めていたでござる。雑魚が雑魚過ぎて雑魚っていたからボスも雑魚だと思っていたら雑魚に落とし穴にはめられた感じでござる」

「お前が落ち着けよ南、何回雑魚って言っているんだよ、次郎さんがいなかったら俺ら爆撃されていたのか?」

「そうっすねぇ、いきなりスタングレネードで目を潰されたと思ったら刺付きの爆弾が勢いよく殺到してきたっすからねぇ、初見殺し感が半端なかったっすねぇ、それ以上にそれに対応していた先輩の人間離れした動きがちょっと気持ち悪いなぁと思ったスけど」


ちょっと混乱しているが割と落ち着いていた。

海堂だけは蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、勝に治療されている身だ。

今は大人しく爆撃を捌くとしよう。

爆発する奴は、切り飛ばせばいいがたまに切ると閃光が放たれるような奴は二、三秒視界を奪われるから厄介だ。


「ったく、耳と肌だけで相手を捉えるのは面倒なんだけどな」

「耳って動く相手を捉える器官でござったか?」

「いや、音を聞くための器官だったはずだ」

「肌も感触はあるっすけど、あんな風にレーダーみたいな役割はなかったはずっすよ」


二、三秒視界を奪われただけで戦えなくなるようじゃ、ダンジョンは生きていけないぞ?

毒ガスタイプは剣圧で吹き飛ばす。

畜生、ジャンルが増えてゴーレムの配置も変わって面倒になってやがる。

提案したのは俺だがな!

それにしても勝も器用になったなぁ、喋りながら治療できるようになったなんて成長してくれて嬉しい限りだ。


「……拙者たちもあれができるようになるでござる?」

「実際次郎さんがやっているしできるはず……いや……できるのか?」

「俺も大分剣を振ってきたっすけど、剣撃だけでガスを吹き飛ばすのはちょっと……先輩、俺たちにもできるようになるっすか?」

「あ? 慣れればできる……ってか、爆音がうるさくてもう少し大きな声で話してくれ!」


それに、お前らの疑問への答えはこうとしか答えられない。

気づけばできるようになっていた。

ただそれだけに尽きる。

必要に駆られて神経を研ぎ澄ませたら、聴覚が風を切る音を捉え肌が空気が揺れる感覚を感じ、第六感的な何かが空間を認識していた。

そこに過程は存在しない。

ただなんとなく、やっていたら進化してできるようになっていた。

これがなければ、スエラや教官たちの攻撃に対応できなかったから身に付いたのだろう。

できるできないじゃない。

やってできるようになるしかない。

それがファンタジーだ。

ゲーム脳なのかもしれないが、実際現実でファンタジーに直面すると実感する。

できないと死ぬ。

実感こもって鉱樹を振り回している俺がいるのだから間違いない。

今も俺らを爆殺しようとしているボーリングサイズの石球が飛んできて、いっぺんに三つくらい切り飛ばしている。


「で? 南、ここの攻略方法見つかったか?」

「物量が尽きるというのはどうでござる? 拙者たちも安全、おそらく確実な手でござる」

「日が暮れる。却下だ。あとお前らだけが楽をするのが気に食わない」


どうやら攻略方法が俺がやった時とは違う。

前回は一気に数を放出してそれを倒しきれば終わりだったが、今回は途切れることなく追加されている。

大方一通り破壊すれば終わるのだろうが、何を言っているのか紅一点の後輩は上司を働かせて部下が怠けるという判断を提案。

当然受け入れるわけがなく、よって文字通り一刀両断しながら答え、別の方法を考えさせる。


「単純にあの射出口を壊せばクリアできそうでござるが……」

「よし、俺が壊してくるからその間お前ら頑張れ」

「リーダー落ち着くでござる」

「俺は冷静だが?」

「爆心地に子鹿を放置するような輩が冷静であるはずがないでござる!」

「小鹿?」

「突っ込むところそこっすか?」

「どっちにしろ、突っ込んでいる場合じゃないような気がします」


南の言うピンボールゴーレムが出てくる射出口は、立方体の角八つと俺たちが入ってきた壁を除く側面三つの計十一箇所に設置されている。

おまけにある程度方向が変えられるようで、機銃みたいに追尾してくる。

俺たちは唯一射出口のない壁を背にして膠着状態を維持しているわけなのだが。

いい加減鬱陶しくなってきた。

だんだんとファンタジーの空気に順応してきたのか爆発程度では動じなくなってきている海堂と勝がなんとも頼もしいものだ。


「……仕方ないでござる。海堂先輩、リーダーと同じことしてください」

「いや、南ちゃん? 俺、まだあそこまで人をやめていないっすよ?」

「却下でござる。できるできないを問答している状況でないでござる。拙者から言えることはただ一つ、できなければ爆死でござる」

「う、うっす」


女性というのはここぞという時に肝が据わる。

覚悟を決めた表情で、指示を出す南に気圧されるように海堂は頷いた。

年下にこき使われる姿が様になっているな海堂?

うらやましいとは欠片も思わないが。


「その間にリーダーは射出口の破壊を右回りで、拙者たちは囮でゴーレムたちを引き付けるでござるよ。勝が回復しながら拙者が要所で魔法でサポートすれば多分いけるでござる」

「それしかないか」

「おおし、方針は決まったな、今日中にもう二層は攻略しておきたいから手早く行くぞ」


本当は、こいつらが部屋の外にいれば俺一人で攻略できたのだが、それを今言う必要はないだろう。

勇者なら秒殺どころか剣の一振りで攻略される。

俺なら、五分強といったところか。

まぁ、勇者は余裕綽々で俺は全力でとつくが、それはおいおい超えていけばいい。


「南、カウント」

「了解でござる、スリーカウントでゴーでござる」


三、二、一

と数える南に合わせて俺は姿勢を整える。


「ゼロでござる!」


ござるいるのか?とつっこみたいが仕事が押し押しで迫っているのだここは手早く行くとしよう。

俺たちが分かれれば、標的も二つに増える。

弾幕も若干薄くなる。

そしてまとまっている南たちの方が割く量は多い。


「ほい、一つ目っと」


結果、あっさり一つ目の射出口を潰す。

全力の攻めを防いでいたのだ、三分の一になれば余裕も増えるというもの。

撫で切るように、鉱樹を振るうこともできる。


「うぉ!? 近くで爆発したっす!?」

「海堂先輩使えないでござるね!」

「そんなこと言っている場合じゃないだろう!」


まぁ、向こうはあんまり余裕はないようだがこっちが無駄なく動けば問題ないだろう。


「まぁ、残念ながらこれぐらいの高さなら」


動きを止めたところに殺到するピンボールゴーレムであるが、


「天井も足場になるんだよなぁ、最近」


最初の個体が爆発する前に足場にしてやれば、意外とこの方法は効率がいい。

階段を一段飛ばしで駆け抜けるように飛び、視界が上下反転するが、一、二歩駆け抜けるのにはわけない。


「ファンタジーって基本物理法則を無視するためにあるよなぁっと三つ目」


天井から壁にピンボールゴーレムを無視するように跳ね飛んで流れるように潰して回る。

これが意外と楽しい。

フリーランニングの上位互換みたいな感じで、足場がランダムで出現して爆発するという奇天烈じみているが、重力を無視して動き回れるというのは想像していたよりも爽快で面白かった。

自分の限界を試すように、跳ね回り、時に鉱樹を振るう。

危険がちょっとしたスパイスなんて言葉を考え、さらに加速していく。


「天井から失礼っと八つ目」


そして、加速すれば自然と射出口も減り敵も減る。

だんだんとゴーレムではなく、壁と天井そして床を行き来するようになってくると障害物がない分、動きはまたさらに加速してくる。


「ほい、ラストっと……ってお前らどうした?」

「「「……」」」


最後に残ったピンボールゴーレムを切り飛ばせば攻略終了。

空中から着地した俺を出迎える、その表情は呆然。


「いえ、先輩って実は宇宙人だったりしないっすか?」

「まぁ、海堂の言いたいこともわかるが、あいにくと出産時の記憶はない、だが物心が着いた時から日本生まれの日本人だと自覚している。それにこれくらいお前らが訓練すればいずれできるようになる」

「「「え~」」」

「なんだよその嘘だろうって目、実際やってみせただろう」


理不尽なと思うが、よくよく思い返せばピンボールに追いつく人間って普通じゃないな。

それにこんな動きも最近思いついたのだから。

考えて、動けるなら使えるものはなんでも使っていったほうがいいという発想も最近身につけたものだし。

それが教官たちのように文字通り鬼のような強さを持った存在ならなおさらだ。

まぁ、思いついたきっかけが、たまにやる教官たちとの訓練で追い詰められ左右も後ろも逃げ場がないなら上ならどうだ!?

ってやけっぱちになってジャンプしたら思いのほか飛べて、そこから逃げ道の選択肢に上が加わったのだ。

え?

訓練の時?

もちろん空中で追いつかれて、打ち合ってそのまま壁にゴーだったよ。

勢い殺せない分余計に痛かったよ!


「でも、できたら便利でござるよね?」

「まぁ、たしかに」

「できないって思うっすけど、できたらハリウッドでアクションスターになれるっすよね」

「ああ、わかったわかった、今度からこういった動きの研修入れるから今はダンジョンに集中しろ、階段も出てきたしな」


呆然とした視線がだんだんと憧れを表すキラキラとしたものに変わってきたのを察知して進路を調整する。


「ふふふふ、強キャラが一人いるなら戦術は大いに広がるでござる。見ているでござるよ数々の攻略サイトを経営していた拙者の実力を、さっきの汚名は即座に返上、それが拙者クオリティでござる」

「おい、いきなりさっきの目とは正反対の目の色浮かべているんじゃねぇよ。言っとくが俺たちはゲームのキャラじゃねぇぞ?」

「大丈夫でござる、拙者体力ゲージのあるゲームをいくつも攻略しているでござる。早々に環境とすり合わせてみせるでござるよ!」

「駄目だ、勝、コイツの手綱任せた」

「……頑張ります」


一層は余裕でクリアとはいかないが、余裕を保持してクリアはできた。

残りの階層はどうなるか?


「って心配していた俺とこの階層にたどり着けなかった俺はなんだったんだ?」

「先輩、先輩の動きも異常だったスけど、南ちゃんのダンジョンの適応力も異常っすよ?」

「フハハハハハ!! これが拙者の実力でござるグハ!?」

「南、落ち着け」

「み、みぞはだめでござ、るよ?」


一層を終わらせた時の心配は結果だけで言えば杞憂に終わった。

俺の目の前では当初の予定よりも進んだ、第四層のボスの残骸を足蹴に高笑いをする南の姿が映っている。

その高笑いも、興奮を無理やり沈静化させた勝の一撃によって一気にorzの姿勢に早変わりして頼りなさそう見えるが、ここまでの道のりは彼女の活躍が凄まじかった。

マッピングに罠の看破、初見モンスターに対する情報収集、対策、ゲームで擬似的なことを経験していたとしてもここまで的確に指揮を執れるとは思っていなかった。

正直、このプレートメイルのゴーレム、仮称、ナイトゴーレム(剣)、ナイトゴーレム(盾)、ナイトゴーレム(槍)、マジシャンゴーレムの連携は苦労すると思ったのだが、一部に一定のアルゴリズムを見出した南の対策によってあっさりと攻略された。

まさに埋もれていた才能が開花したというやつだ。


「とりあえず、今日はこれくらいだな」

「そうっすね」

「え~、と言いたいでござるが、持てるアイテムも限界があるでござる。正直勝がかわいそうでござる」

「なら手伝え」


もう少しごねると思ったが、引き際はしっかりと見極められるようだ。

まぁ、背負子に大量に荷物を積載した勝を見れば確かに撤退の目安にはなるだろう。

直接戦闘にかかわらない男性ということで白羽の矢が立ったがマジックバッグの購入を検討したほうがいいようだ。


「お~し、お前ら帰ったら飯食いに行くぞ、だが帰るまで油断するなよ」

「帰るまでが仕事っすね」

「了解でござる」

「はい」

「階層突破祝いも兼ねているから、飯の内容は期待していいぞ」

「お! 俺、ちょっと飲みたい酒があるっすよ」

「拙者、ドラゴンステーキなるものが食べたいでござる!」

「夕飯代が浮くな」


和気藹々とダンジョンに進みながらも階段を上っていく。

海堂はわからないが、あの時の公園の出会いと言うか、奇縁に感謝する。


「割と、俺は運のいい方なのかもしれないな」

「? 先輩、何か言ったっスか?」

「いや、今日は酒がうまそうだなって言っただけだ」

「そうっすね!」



田中次郎 二十八歳 独身 彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

職業 ダンジョンテスター(正社員)+リクルーター

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


ステータス

力   371    → 力  504

耐久  398    → 耐久 663

俊敏  202 → 俊敏 358

持久力 250(-5) → 持久力 447(-5)

器用  229    → 器用  369

知識  50    → 知識  62

直感  51    → 直感  88

運   5     → 運   5

魔力  231    → 魔力  300


状態

ニコチン中毒

肺汚染



今日の一言

アハハハハハハハ!!

最近、人間の限界ってなんだろうって思うようになった。

いや、マジで


この章はこれで終わらせる予定です。

とりあえず、次回はキャラ説明と、世界観を少し説明を入れたいと思います。

これからも勇者が攻略できないダンジョンを作ろう!!をよろしくお願いします。

・・・・・・ちょっとタイトルを変えようかなぁと検討しています。

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[良い点] 好 [気になる点] 內容充實 [一言] 看
2022/05/15 20:48 從不同世界進入公司!? 從換工作中取得的成份:
[良い点] いいね!早く安定してヒロイン幸せにしてやれ!
感想一覧
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