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215 大抵の人が、遠目に何かが起きれば対岸の火事だと思っている。

 クリスマスパーティーは楽しかった。

 学生の頃に戻ったかのように感じさせてくれた賑やかな空間。

 なつかしさと、まだ俺自身にこんなにもはしゃげる気持ちがあるのかと子供心を再確認した一時。

 海堂と南を筆頭に飲めや歌えの宴会。

 それを止める奴はその時はだれもおらず、だんだんとヒートアップしていく会場。

 腹を抱えて笑ったのなんていつ以来だっただろうか。


「ククク、本当にお前たちは面白いな」


 そんな楽しいひと時はあっという間に過ぎ去った。

 祭りの後の静けさと言えばいいのだろうか。

 騒いでいた時間と比べれば静かで、寂しく感じられたかもしれない。

 だが、最後の最後までフラフラになりながらも騒ぎ倒し酔いつぶれた海堂を布団に放り込み、いびきをかいているのを見ていると俺はなんだかおかしくなり、つい口元から笑いが漏れる。

 胸の内にくすぶる楽しいという感情は、その寂しさを打ち消してくれた。

 それなりに飲み、ボトル一本では済まない量を飲み干した体ではあったが、わずかに体が火照り、少々陽気になる程度でふらついたり気持ち悪くなったりはしない。

 教官たちと酒の席を一緒にすると、俺は昔とは比べ物にならないほどアルコールに対して強くなっている。

 だからハイペースで飲んでもこうやってケロッとしていられる。

 だが、それはあくまで鬼や不死者という酒に対して反則染みた強さを誇る種族と飲み比べ、鍛えられた俺だからこそだろう。

 普通より強い奴らは今や夢の中。

 クリスマスパーティーの間、騒がしかった奴らは今は全員客間にまとめて寝ている。

 さっきの海堂はついさっきまでへべれけになるほど俺と一緒に飲んでいた。

 明日は絶対に二日酔いだろうなと思い、先に休んだ勝と一緒の部屋に放り込んだわけだ。

 もちろん男女別にしている。

 男性陣の部屋は海堂と勝が並んで寝ており、このまま朝まで起きないだろう。

 女性陣の方は同じく肝臓の強いヒミクが北宮と南、そして海堂と一緒に寝ようとした双子天使を寝かしつけている。

 その光景を思い浮かべるだけで、なんとなく面白いと思ってしまっているのはそれだけこいつらがいる時間を大切に思っていると言うことだろう。

 すっと立ち上がり、そのまま客間から自室に寄ってからリビングに戻る。


「戻りましたか」

「ああ、ヒミクは?」

「台所で軽食を作っていますよ。スエラは手伝いです。少し体を動かしたいそうですよ」

「そうか。まぁ、ヒミクが一緒なら問題ないか」

「心配しすぎも、あまりよくはないと聞きますが」

「……わかってるんだがなぁ。初めての子供で俺もどう接したらいいかわからん」

「ふふ、そうですか、ですけど気持ちはわかります。同じ男の人を好きになったからでしょうか。スエラの子が自分の子のように大事に思う時があるのです」

「そうか」

「つれないですね。恥ずかしい気持ちを我慢して言っているんですよ?」

「うれしいこと言ってくれたおかげで言葉が出ないんだよ。男の気持ちを察してくれるのもいい女の条件だぞ?」

「そうですか、でしたらあなたの照れた顔が見たいので今だけは少しだけ悪い女になりましょうか」


 そこには、クリスマスパーティーの名残は残るも、ある程度かたづけられたテーブルでワインを飲むメモリアがいた。

 ほかの二人はリビングにいないので、どこに行ったかと思い、辺りを見回すとそれに気づいたメモリアが教えてくれる。

 そして、スエラを心配すると苦笑しながらもメモリアはたしなめてくれる。

 過度の心配と言うか、心配の加減がわからない俺は苦笑しながら頬を掻きメモリアの隣に座る。

 持ってきた荷物をそのまま脇に置き。


「飲みますか?」

「ああ、もらう」


 メモリアがワインのボトルとグラスを差し出してきたのでそれを受け取りそのまま注いでもらう。

 メモリアは吸血鬼だ。

 いつもは俺たちに時間を合わせて生活しているが、本来であればこの時間帯が彼女にとっての活動時間。

 吸血鬼というのはかなり体力のある種族だ。

 なのである程度寝なくても平気だとはメモリアから聞いている。

 だが、やはりこの時間帯のメモリアの方が活き活きしているような気もするな。

 俺にワインを注いだ後、ゆっくりと自分のワインを飲む姿はどことなく、人間と同じような姿をしているのにやはり違うと思わせる。

 人の姿をしているが人形めいていて、だが確実に生きていると思わせる。

 彼女の体温は普通よりは冷たいが、それでもぬくもりがないというわけではない。

 そんな相反する要素を兼ね備えている彼女の横顔を眺めていると。


「フフ、見惚れました?」


 目元だけ変化させ、いたずらを思いついた少女のように俺をからかってくる。


「ああ、うちの彼女は美人だなってな」


 そんな雰囲気を察した俺は、からかわれて照れるような年でもない。

 酔いにくいと言っても、酔わないわけではない。

 その感覚もあってか素直に彼女の言葉に答える。


「素直ですね。うれしいですが、もう少し照れてもいいのでは?」

「内心では照れてるんだよ」

「そうですか」


 素直に綺麗だと思って、素直な言葉を口にすれば普段は動かない表情がふっと崩れてうれしそうな表情を見せてくれる。

 そんなメモリアの表情を見せてくれるのが気恥ずかしくもあり、だが、前の生活では感じられなかった満足感を俺に与えてくれる。

 そんな時ふわりとおいしそうな香りが漂ってきた。


「待たせたな主、軽くだが料理を持ってきた」

「うまそうだな」


 暖かそうな湯気を漂わせ、四人で食べるには少し少ないがつまむにはちょうどいい量の皿にのせた料理をヒミクが持ってきて、その後ろからゆっくりと同じ皿を持ったスエラもやってくる。

 時間はとうに日付は変わり、サンタクロースは過ぎ去ったがここからの時間が俺たちのだけのクリスマスパーティーというわけだ。

 ヒミクは元来の体の丈夫さゆえに酒を飲んでいても平気というわけで、スエラは妊婦なのでそもそも飲んでいない。

 メモリアはメモリアでペースを抑えて、ここからが彼女の活動時間であるのでむしろ元気になっている。


「はい、こちらもどうぞ」

「ありがとう」


 そして四人そろったので二次会を始めたが、普段と変わりはしない。

 スエラから料理の入った皿を受け取り、左右にスエラとメモリア、前にヒミクが座り静かに飲み会が始まる。


「ふふ、こちらの世界の行事という物も楽しいですね。異邦の聖人を祝う日だと聞いていましたが、私たちとあまり変わりませんでしたね」

「日本ではそこまで本格的にやってはいないな。本場なら、かなりすごいことになっているだろうが、日本の一般家庭なら今回のはかなり騒いでいる方だな」

「そうなのか主? こちらの世界では神事をすることは少ないのか?」


 何気ない雑談を交えながらゆっくりと酒を飲み、今回のクリスマスパーティーとスエラたちの世界の祝い事の差を話す。

 一定の宗教を大事にする家庭を除いて日本の一般家庭のクリスマスといった行事はイベントの領域を出ない。

 いや、下手をすれば何か騒ぎたいためのきっかけ程度としか思っていない人もいるだろう。

 ヒミクの言う通り、神に祈りをささげ日ごろの糧に感謝をというのは、身近なもので農家に感謝する合掌し『いただきます』ということくらいだろう。

 クリスマスに感謝するのは熱心なキリスタンくらいだろうさ。


「なくはないと言ったレベルだな。そっちで言う司祭は日本でもいるし、ほかに宗教は違うが神主やお寺の坊さんはいる。だがまぁ、一般人が集まって何かに祈りをささげるといった場は少ないな」

「そうなのか。向こうの住人が聞けば発狂しかねないな」


 神はいる。

 そんなことを言えば痛い人を見るような視線を向けられるご時世だ。

 現実主義と言えばいいのだろうか。

 物事すべてが物理や科学といった概念で説明できてしまうこの世の中で、神といったあやふやな存在を信じるのはオカルトすぎて逆に受け入れがたくなってしまっている。


「そうかもな」


 最近では超常的な出来事に巻き込まれすぎて、逆にそれを知らない日本人が視野狭窄に陥っているのではと思う時がある。

 俺も染まったなと思いつつヒミクの言葉に同意する。

 いつぞやの出張の時に行ったあの神殿の関係者なら、異端者と騒ぎ立て粛清の嵐だろうとも思い、ふと思う。


「って、この話を聞いてヒミクは何も思わないんだな」

「信仰は人の自由だ。私がとやかく言う必要も言うつもりもない」


 信仰の対象に仕えていたヒミクが信じる信じないは人の自由と言い放つのはある意味ではすごいことなのだろうが、神からすれば栄養を与えるも与えないも人の自由と言われたようなものだ。

 たまったものではないだろうなと他人事のように超越者の事情を考えながら酒を進める。


「そういえば、スエラたちは何かこんな感じのイベントとかないのか?」

「クリスマスのような行事ということですよね?」

「ああ、恋人と一緒に過ごしたり、プレゼントを贈ったりな」

「恋人や家族で過ごすという意味でしたら、収穫祭がそれにあたるかもしれませんね」

「収穫祭? 秋とかにやるやつか?」

「ええ、地方によっては奉納祭とも言われます。神に収穫物を捧げるためのお祭りということです。一般的には家族と過ごし一年の健康を感謝したり、また独身の大人からすればその場が恋人と出会う場所になりますね」

「はぁ、そんなものか。スエラとメモリアも参加したことがあるんだよな? どんな感じだ?」

「「……」」


 そんな折にふと気になり、向こうの祝い事、祭りに関して聞いてみて、俺の知る収穫祭と似た感じの内容が出てきたので向こうはこっちとどんな感じに違うのかなと内容を聞いてみたが、経験のあるはずのスエラとメモリアの反応が芳しくない。

 二人とも手に持ったグラスをじっと見て、話しがたそうな表情をしている。


「いや、無理に言う必要はないぞ? 言えないこともあるだろうしな」

「いえ、言えないわけではないんですが、もう、私には関係ないですね」

「スエラ?」


 何か言いづらいことでもあったのかと話をそらそうとしたが、思い直したかのようにスエラは語り出した。


「私たちダークエルフの収穫祭はもちろん先ほどの言ったような内容がほとんどなのですが……その、長老衆と言いますか、結婚されている年配の方々が私たち若手にいらぬおせっかいをかけてくるんですよ」

「いらぬおせっかい?」

「はい」


 思い出しただけでも頭痛がすると言わんばかりに手を額に当てて語るスエラの姿は苦労したんだなと思わせる。


「隣の里の男衆の話や、出世頭の男の話、いろいろと結婚をさせようとするおせっかいばかり、私とケイリィはそれが嫌で魔王軍に入ったというのがありますけど」

「大変だったんだな」

「ええ、子供のころは楽しかったんですが……」


 大人になれば自然と子孫のことを考えないといけない。

 それが日本と比べて向こうの世界では色濃く意識が浸透しているようで、結婚や子供のことを真剣に考えているというのはスエラの表情でよくわかる。

 そして彼女の言う余計なお世話、お節介とはお見合いの斡旋といったところか。

 ダークエルフという種族の特徴で恋愛に発展しにくいというのは聞いていた。

 だからだろう、そんなお祭りの場でならいろいろな男女が集まる。

 種族の将来のため全力で数打てば当たる戦法を実践しているに違いない。

 まぁ、実践される方はたまった物じゃないだろうがな‥‥


「ちなみにメモリアの方は?」


 こっちもこっちで吸血鬼特有の苦労でもあるのだろうか?

 ダークエルフのように特殊な恋愛感情はないと聞いているが、俺の知らない吸血鬼の事情があるかもしれない。


「商会は、収穫祭の時はかき入れ時です」

「そうか……」


 だが彼女の放った一言は、前職の経験がある俺はすべてを察してしまった。

 だが、メモリアの場合は種族柄というよりは、仕事柄の問題だったようだ。

 かき入れ時、それすなわち、仕事が繁忙期であることを指す。


「加えて、その時期にはいろいろと貴族のパーティーや商会同士の催し物が重なるので、収穫祭は一度も楽しめたことがありません」


 都市部特有の悩みか、あるいは人混みが苦手なメモリアの性格ゆえか、あるいは大商会を経営する一族に生まれたことゆえか。


「ですので、今日のように静かに楽しめたのがうれしかったですよ」

「はい、メモリアの言う通りですよ次郎さん」


 そんなメモリアであったが、しっかりとカバーしてくれたようで先ほどまでの暗い表情は演技だったようでいつものようにうっすらとした微笑みを浮かべるメモリアとゆったりとした笑みを浮かべるスエラ。

 少しからかわれたというのを理解した俺はやられたと笑いながら頭を掻き、そんな彼女たちに用意したクリスマスプレゼントを渡すのであった。

 今夜はもう少しだけ夜更かしをするとしようか。



 今日の一言

 世界は違い、文化の差はあるが、プレゼントをもらって喜んでもらえるのは変わらないな。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?ヒミクさんて、最初にウィスキー飲んだ時、とっとと撃沈しませんでしたっけ。
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