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212 楽しむ時に楽しむ。それが公私を分けることだと俺は思うんだがな

一日遅れて申し訳ありません。

投稿いたします。

 今日はクリスマス。

 世の中では勝者と敗者を分ける残酷なイベントだと言われることもあるが、それはあくまで斜に構えた見方をしたならだ。

 世間一般的には家族や恋人、友人と楽しく過ごす一日になる。

 だがまぁ、それに該当しない人にとっては最初に言った通りの日となる。

 それに当てはめるのならここにいるメンバーは勝者と言うべきなのだろうな。

 時刻は午後六時。

 部屋の隅、それでも目立つように彩られたもみの木に、その木の周辺に集められたたくさんのプレゼント、部屋の中心に置かれた大きめのテーブルに広がる様々な料理。

 その空間で穏やかに談話する俺たち。

 日が暮れ始めるころから始めたから、かれこれ一時間ほどやっていることになっているクリスマスパーティーはホームパーティー規模でありながらなかなかの盛り上がりを見せていた。


「うう、俺、こんなリア充なイベントに参加できる日が来るなんて思ってもいなかったっす。こんな格好をした甲斐があったっすよ」

「あらあら、私たちの勇者様は涙もろいようねミィク」

「そのようねシィク。ほら勇者様、こちらの料理をお食べになっておいしいわよ」


 漢泣きを見せながら双子天使に差し出された料理を食べている海堂が俺の思った内容の例えにちょうどいいのではと思う。

 双子の天使は南に言われ、これがクリスマスの正装だと思いサンタのコスプレをしているのも相まってさっきの例えは正しかったのだと思う。

 海堂のトナカイのコスプレが若干異質だが、それはそれでいいだろう。

 他に例を挙げるのなら、満足そうに頷きながらヒミクに料理の内容を聞いている北宮などはこういった場に慣れていると感じさせる仕草を見せている。


「ヒミクさん、この料理おいしいですね。なんていう料理なんですか?」

「ああ、これか。これはスエラから教わったダークエルフの里に伝わる鳥料理だ。香草の風味を出すのがポイントらしい。今回の料理は日本とイスアルの料理を用意した。楽しんでくれ」

「ええ、楽しませてもらってます。こっちのお酒も向こうの奴ですか? 飲んだことないですけど」


 ヒミクも南の用意したサンタのコスプレをしようとしていたが俺が止めた。

 南が用意したサンタの衣装が意図的に小さく、かなりギリギリの格好になったからだ。

 試着で呼ばれたときに気づいてよかったと同時に、南に無言で拳骨を落とした記憶は新しい。

 今は着替えさせ、タートルネックの白いセーターと薄く青いスカートに身を包んでいる。

 そんなヒミクは料理の説明をし、北宮はワインレッドをベースにした上着とグレーのスカートを着て料理に舌鼓を打つ。


「あらこちらのお酒もおいしいですね」

「私の故郷の果実酒です。お口に合ってよかったです」

「ええ、この甘さが控えめですっきりとした酸味が印象的なところがなんとも」

「マミー、飲みすぎないでネ」

「はいはい、わかってますよ。でも、今日はもう少し飲みましょうか」

「でしたらこちらの蜂蜜を使った奴なんていかがでしょう。甘みが強いですが後味はすっきりとしていて、こちらの料理と合わせるとちょうどいいですよ」

「あら、おいしそう。今日は少し食べ過ぎちゃいそうですね」

「……これは、ダメなパターンかモ」


 テーブル近辺にはアメリアとその母である美枝さん、その隣にメモリアが座り異世界の酒を飲んでいる。

 アメリアとメモリアはサイズの合ったサンタの格好をしていて、美枝さんは辞退しているため普通の格好だ。

 アメリアは未成年だから飲んではいないが、代わりに異世界のジュースのようなものを飲んでいる。

 だが飲酒組二人に挟まれているアメリアは、美枝さんがお酒を飲むことに対して不安に感じる部分があるようだ。

 まぁ、いざとなったら酔い覚ましにポーションでも飲ませればいいと思い俺は静観する。

 思えばこうやって異世界の住人と交流するのが当たり前になってきたが、はたから見れば稀有な光景に違いない。

 人間という種族以外が混在するこの空間。

 やっている内容自体は知っているが、配役が変わるとここまで雰囲気が変わるのかと思う。

 だが、その変化も決して悪いものではなく、むしろ良いものだと思う。

 にぎやかな雰囲気は、学生時代みたいにどんちゃん騒ぎとまではいかないが、それでもワイワイとした雰囲気があり皆が皆この場を楽しんでいる。

 やってよかったと思える光景だ。


「それで? こんな目出度い日にお前は何を拗ねているんだ?」

「なんでもないでござるよ~拙者、拗ねてないでござるし?」

「酔ってない人間の台詞みたいなことを言うな」


 そんな空間で俺は俺でスエラと一緒にゆっくりと酒を傾け楽しんでいたわけだが、その空間に一人紛れ込んできた。


「勝さんが遅れていて来てないので寂しいんですか?」

「知らないでござるよ~勝のことなんか」


 人をダメにするクッションというわけではないが、スエラが座るときに負担を減らすためにと買ってきた大型のクッションを抱きしめ顔を隠している南であるが、その声に普段の快活さは見受けられない。

 このパーティーに参加するときは元気だったが、勝が遅れると電話で伝えてきたときから段々と元気がなくなってきていた。

 クリスマスパーティーに参加するにしては大人しい。

 今も缶チューハイをちびちび飲みながらヒミクの用意してくれた料理を口に運ぶだけで、いつものように元気にはしゃぎまわったりしない。


「もうすぐ勝さんも来ますよ。それまで、私たちとお話でもしてましょう」


 そんな少し暗めという珍しい南の頭を優しくなでるスエラ、おなかも目立ち始めゆったりとした服装、サンタクロースのコスプレをしている南との組み合わせは見ていて面白い。


「う~リーダーのお嫁さんじゃなければ求婚してたでござるよ。リーダー、スエラさんを拙者に下さい」

「やらん」

「ふふ、あげられませんよ」

「フラれたでござる~」


 そんなスエラのやさしさに少し暗かった南もテンションが上がったのか、拗ねた表情は鳴りを潜め始める。

 スエラにじゃれつく南のおでこを指でつつきながら、年の離れた妹を相手にするかのようなスエラと一緒に南の相手をしていると、南自身がふと思い出したかのように話題を口にした。


「そういえば今更でござるが、日本にもいろいろと心霊スポットとかパワースポットあるでござるが、それって魔力と関係あるでござるか?」


 それは日本人からすればあるかないかあやふやな定義のまま放置されている話題だ。

 ご利益の有り無し、そのくらいでしか測れない存在。

 人によっては何かあると言い、反対に別の人は何もないと言う場所。

 こうやって魔法と関係しなければ、どっちでもいいと俺はバッサリと切り捨てていたが、今は違う。


「そういえばそうだな、うちでもそういった場所は調べているのか?」


 今まで気にしなかったが現代でもそういった神話、怪談といったオカルト話は事欠かない。

 火のないところに煙は立たないとよく言うが、こういった話があると言うからにはフィクションだけではなく、事実も混じっているのではと思いスエラに疑問を投げかけてみた。


「ええ、こちらの世界には魔力がないということは調べていましたが、それに類似する力があるのかあるいは魔力の根源である霊脈はあるのではと思い、軍の方でも捜索はしていますよ」

「ほ~となると本当に効果のあるパワースポットもあるかもしれないでござるな」

「現状確認できる部分では成果は上がっていませんね。魔力や私たちのような人間以外の存在とも接触できていません」

「そうでござるか~なんか残念でござるね~」

「ですが、少し興味深い報告も上がっていますよ」

「興味深い報告?」


 捜査はやっているとスエラは肯定の返事を返してきた。

 その捜査の結果は今現在は日本には神秘が存在しないという答えではあった。

 それに対して残念だと言う南であったが、スエラは微笑み。あがってきたという報告の内容を教えてくれた。


「いくつかの個所で私たちでも侵入できない箇所を確認しました。人為的に秘匿された場所で、日本の重要拠点とは思えない山奥や秘境といった場所で侵入を阻まれたと」

「おお、それはまさか隠れ里でござるか!? 忍者でござるか? それとも陰陽師?」

「そこまでは、ですがそこに何かあるのはまず間違いないでしょう。自然の中に隠された人工物も確認しました。その人工物からしてこちらの世界の軍の物ではないとの見解が強く。関係者の中で感知系の能力に長けている者から何か神秘にかかわるものではないかと。なので現状、その秘匿している組織と接触するか否かを決めている段階です。ですので、今はこちらの存在に気づかれない範囲での捜査となっている現状ですね」


 詳しくわかるのはまだ先の話ですよと、南に話すと気になるとうなり始めてしまった。

 日本にも実は神秘が実在しているという話になれば気になるのも仕方ない。

 俺自身、母親が型破りで神社の娘ということでなにか不思議な力があるのではと思ったことはある。

 それがもしかしたら日本古来の力なのかもしれないと思うとどことなくロマンを感じる。


「あとは、いろいろと噂話を含めた情報収集ですね。こちらも情報が多すぎて真偽の確認一つで大仕事ですよ」

「ガセネタが多いでござるからね~心中お察しするでござるよ」


 ある意味では何気ない噂話もスエラたちからすれば貴重な情報源なのだろう。

 だが、その情報源も大半がおふざけで書いたような内容ばかり、そこから真実を探し出すのは並大抵のことではないだろう。

 大変だなと思いつつ、俺もビールを傾ける。


「あ、そういったジャンルの話なら俺最近面白い話を聞いたっすよ」

「あら、それは何かしら?」

「気になるわね」


 そんな会話をしているとフラリと海堂も会話の輪に入ってきた。

 そうすると自然に双子の天使も混じってくる。


「どんな話でござる? 海堂先輩のことだからそのままスベッて終わりそうな気もするでござる」

「大丈夫っすよ! 本当に面白いっすから」

「おおー、ここでさらにハードルを上げるでござるか、わかっているでござるね海堂先輩」


 大きく出たなと、海堂が自信満々に胸を張る姿を南が煽りの言葉を紡ぐのを感心しながら見る。

 スエラも気になるようで、じっと海堂の言葉を聞く。


「なんか最近出るらしいんっすよ」

「幽霊でござるかぁ? それならもう見飽きてるでござるよ~」


 語り部としては拙くも、海堂は少し間を置いてこんなことを言ってきた。


「違うっすよ! 幽霊じゃなくて実在するみたいっす。それも勝君たちと同じくらいの年齢で、あなた魔に魅入られているわって話しかける女の子がいるらしいっすよ」


 そんな前振りから始まったこの話がまさかあんなことになるとは今この場にいる全員が思わなかっただろう。


 今日の一言

 思考の切り替えっていうのは、できそうでできないが、できたらいろいろと便利だ。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売となります。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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