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202 重要なことは重鎮同士で話すことが多い

今回は少々短めです。

 Another side


 ゆっくりと次郎たちがこの場より離れていくのがカーターには見える。

 だがそれは視界の端にとらえているだけで、一番視界の面積を占めているのはカーターの目の前になんの緊張感もなくニコニコと笑う男。

 魔王。

 一見するだけならば、顔立ちが整った金髪の三十代前半程度に見える男だ。

 ここが戦場でなければ、彼の格好が鎧でなく山岳を登るような登山家の格好であれば、あるいは表情に似合わない溢れてもなお湧き出るような魔力を垂れ流していなければ。

 と、様々なIFを想像させるくらいにこの場ではふさわしくない穏やかな笑みを彼の存在は浮かべている。


「勇者、魔王である私があいさつをしているのに君は挨拶を返してくれないのかい?」


 互いに敵同士だというのがわかっているのに、まるで友人に挨拶をするかのようにうれしそうに会話を楽しもうと言っているかのように魔王はカーターの言葉を待つ。

 その肝心のカーターはさっきまでの余裕の表情は消え、視線こそずらさないが周囲に警戒を飛ばし、ここからの脱出を図っていた。

 その態度は魔王にも察することができた。

 だからこその再度の質問であったが。


「……」


 カーターは聖剣に手をかけているだけで答えはしない。


「つれないね」


 一触即発。

 そんな対応でもかかわらず魔王は仕方ないと溜息をこぼし、そっと杖を振るう。


「まぁ、でもそれでもいいかな? 君が素直に私と話をするとも思っていないし、何が目的なんて聞く気もない。私は魔王で君は勇者だ。なら、私たちがやるべきことは明白」


 その仕草にカーターが反応するが、それよりも先に結界が魔王とカーターを包み、その結界の起点は魔王城より伸ばされた魔力の流れとつながる。


「君が望んだ舞台だ。せいぜい楽しみ、私の首を落とせるように頑張りたまえ」


 カーターはその魔王の言葉で舌打ちをしたい気持ちを抑える。

 その仕草が、カーターが今この場で戦うべきでないというのを語っている。


「ああ、そうだ。どうせならこの言葉も君に送ろうか」


 だが、そんな都合など今の状況が都合のいい魔王には関係ない。

 カーターにとっては都合の悪い展開、それを理解している魔王は楽しそうに、そしてとある事情で聞き、それ以降言う機会を待ち望んでいた言葉を口にする。


「魔王からは逃げられないよ」


 それが魔王と勇者という物語の王道で出場する存在たちが戦う合図となった。

 ここに次郎がいたのなら、閃光同士がぶつかったようにしか見えなかっただろう。

 まるで花火が連続で破裂するような音がたちどころに響き、常人ならば目視すら許さない速度で戦う二人。

 結界内という限定的な空間は、華やかだが苛烈な魔力の光で照らしだされる。

 互いに有効だと思われる攻撃を繰り出し、すべてが必殺、当たれば傷を負う程度では済まない攻撃を繰り出し、それを互いに相殺しあう。

 カーターは聖剣を解放し、光の力をもってして魔王を打倒しようと。

 魔王はその光にかかってこいと言わんばかりに笑みを携え魔法で迎え撃つ。

 この場の戦いが最終決戦だと言っても過言ではない戦い。

 カーターが聖剣を振るえば光線が地面を薙ぎ払い、地割れを引き起こす。

 魔王が杖を振るえば、軽く振るったのにもかかわらず地面が爆ぜる。

 大地の姿が変わろうが、この場の土地がなくなろうが、相手が倒れるまでこの戦いは終わらないだろうと誰もが思う。

 過剰戦力の代名詞であろう二人は激突を繰り返す。


「さて、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな勇者?」


 草どころか、原形をとどめるものが無くなるのではと思わせるような戦いの場。

 誰が見ても本気で殺しあっているのにもかかわらず魔王は淡々と笑顔を添えながら勇者に質問を飛ばす。

 聖剣の間合いでもお構いなしに顔を近づけ、その声がカーターに届くようにと。


「……」


 当然そんな質問に答える義理はないカーターは黙って聖剣を振るい魔王の首を落とそうとする。

 だが、首を落とす聖剣は目的を果たせず杖によってそらされ、その先にある岩を両断するだけに終わる。

 そんな光景を気にする様子は二人にはない。

 ただ重要なのは相手を倒すことだけ。

 差として存在するのは、カーターはただ魔王を殺すことだけを考え、魔王は少しだけ寄り道をしようとしているのだ。


「そんなにその血が憎いかい?」

「貴様」

「やはりこの話題に関してなら、君は反応してくれるね」


 その寄り道をした魔王の言葉に、初めてカーターは反応した。

 なぜ知っていると言うよりは、何を知っていると言いたいとばかりに怒気を強めた。


「君のことは調べたよ、出生からの今までの経歴すべてをね。いやぁ、見事だよ勇者。見事にカーター・イスペリオという存在になりきってくれたね。君があの時聖剣を抜いてくれなければ私も気づかなかったよ」


 そして、調べたという内容の中にカーターがカーターではないという言い回しをする魔王の言葉にカーター、勇者は目の前の存在はすべてを知っていると確信した。


「見事な経歴だよ。綺麗に作られていたよ。一人の存在が見事に存在していた。あれは見抜けなくても仕方ないさ」


 魔王と勇者の戦いは今もなお激しくなり、すでに天変地異といってもいい。

 渓谷は荒野となり、その飛び散る岩が重力に従い地面に落ちる前に再び宙に飛ばされ、足場となり砕け礫となり、相手を襲う。

 魔力によって重力までもが変質しようとしている空間で戦い続いているのにもかかわらず、魔王の話は続く。


「ねぇ、魔王の末裔にして勇者の末裔」

「っ」


 そして、確信をついた魔王の言葉は見事に勇者に動揺を走らせた。


「私たち魔王軍と勇者の戦いは長い歴史のもとに何度も繰り返されてきた。戦いの結果は多くが我々魔王が敗北する結果となっている。だが、その中に勇者と相打ちになった魔王も存在する。そして、さらに少なくなるが、見事に勇者を倒した魔王も存在する」


 昔のおとぎ話を語るように話し始めながらも戦う魔王は、その語りを止めたい勇者の猛攻を防ぐ。


「その中でもさらに希少ではあるが、珍しいというだけで存在する話があるのさ。戦争というものは残酷でね、過去の歴史で勇者が魔王を倒したのはいいが元の世界に帰れなくなったという話がないわけではなかった。仲間に見捨てられた。そもそもダンジョンという繋がりがなくなり帰れなくなった。理由は様々さ。君はその帰れなくなった勇者の中の一人、八代前の魔王を倒し、その魔王の娘を連れ去り行方をくらました勇者の末裔だろう?」

「……」

「沈黙はときには肯定となる。それを知らない君ではないだろうに」


 そしてその猛攻を防ぐのも終わりのようだ。

 ひとたび杖で聖剣をはじいた魔王はその話を語るのを止めない。

 距離を置き、相対した二人は荒れきった大地に降り立る。

 天に浮かぶ魔王城は静かにその戦いを見守る。


「まぁいいさ、ここまで長々と語っていたのは君自身の目的を聞くためさ。このまま戦い続けて決着をつけるのもいいけど、何も聞かずただ処断するのは私の主義に反する。君の先祖がどういった理由で、どんな教育を施してきたかは大体見当がつくけど、君自身の行動はどういった目的でやったのかい?」


 月が魔王城の陰から出て戦場を照らす。

 そして、その光は二人を照らし、魔王の笑みと。


「言わずともわかっているだろ」


 飄々としていた態度は、魔王の言葉によってなりを潜め、憤怒に染まった勇者の顔を照らし出す。


「この身に忌々しき血を残し、わが一族から故郷を遠ざけ、手にすべき栄光を捨てさせた。すべての魔族を滅ぼすためだ」


 その憤怒の感情から出た言葉に、魔王は何も言わずそうかと残念そうにうなずくだけであった。


「ふむ、なら仕方ないか」


 そして、ポツリと納得したように頷いた魔王は、さっきまで浮かべていた笑みを無くし。

 代わりに浮かべた表情は。


「ここからは、少し本気を出そうか」


 心底戦いを楽しむように、心の底から楽しそうにこれからの戦いを楽しもうとしている。

 無邪気で残酷な笑顔を張り付け。


「先に謝罪しておくよ。久しぶりに力を振るうから」


 冷徹な瞳は聖剣に手を伸ばした勇者を見つめ。


「手加減は期待しないでくれたまえ」


 その体を闇で飲み込んだ。


「さぁ、少しでも長く私を楽しませておくれ」


 さらに闇の中に沈んだ勇者にめがけて放たれる極大魔法。

 魔王の蹂躙が始まった。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売となります。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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[良い点] 設定が斬新で面白い。サクサク読める。期待。 (206話目まで読んで) [気になる点] 前半では「目的を聞く気はない」と言ってるるのに、後半では「目的を聞くため」と言ってる矛盾。 ここまで読…
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