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198 掴み取るまでの過程が報われる。

新年明けましておめでとうございます。

今年最初の投稿となります。

そして、今年もどうかよろしくお願いいたします。

 それは一瞬の停滞だった。

 再度、気合を入れ、挑みかかり戦い続けてどれくらい経ったかなど、時計を見る隙がないのはもちろん、体感時間も狂い始めた時だった。

 アメリアの体を乗っ取った魔王の魂が、一瞬、それこそ瞬きをする時間よりも少ない時間かもしれないが、確かに止まった。


「!!」


 一秒が何倍もの時間に延ばされているような視界の中、ここだと叫ぶ暇も惜しいと言わんばかりに俺の体は動き出す。

 相手が止まった、その間を見た瞬間に頭で考えるよりも先に直感が体を突き動かしていた。

 疲れで鈍くなった体を叱咤し、へそくりのように残していた気力を導入し、瞬間的に万全な状態の動きを再現し、さらにあとを考えない動きで限界を突破しろと脳内のリミッターを外す勢いで動かす。

 不自然なあの動きは罠ではない、明確に何かがあったと俺の中で何かが叫び、歯と歯が噛み合い。

 歯ぎしりを響かせ、顎に力を入れた箇所を起点に、体全体に力を込める。

 それは、遠目で見ていたほかの奴らもわかっていたのだろう。

 ざわめき何かがあったのか? と疑問を挟むことなく、残りの魔力を持っていけと言わんばかりに俺の背後から魔法が多重で展開し射出される。

 北宮と海堂の攻撃魔法は相手の自動防衛機能の障壁とぶつかりその機能を止め、俺を邪魔する迎撃用の攻撃も俺の周りに展開された南の障壁によって止められる。

 背中から行けと言う、叫びが聞こえる。

 仲間を信じた。

 なんて、青臭いセリフだろうが、疑問を挟まなかった故に一呼吸という僅かな時間であるが早く動き出すことができた。

 あいつらならやってくれると、何も考えず攻撃に転じ、その結果あいつらは俺の動きを最善で生かせる状況を作り出してくれた。

 俺の行動に応えてくれたのなら、今度は俺があいつらのためにも結果を出さないといけない。

 おうと答えるように俺は迷わず、前へ出る。

 その先にいる、相手めがけて今回の戦いで一番の踏み込みを見せる。


「っ!!!!」


 最短を進み、アメリアの目の前、俺の攻撃の間合いに陣取る。

 顎に力を込め全力で鉱樹を振り下ろし、ガクンと一瞬電池が切れたかのように動きを止めた相手にめがけて振り下ろした一刀はアメリアの肉体に触れようとした。


「ヴァルスさん!!」


 相手には防御する障壁も攻撃を逸らす魔法もない。

 このままいけば俺の振るった刃はその身を切り裂くだろう。

 その瞬間を俺は待っていた。

 触れるか触れないか。

 回避不可能、そんな瀬戸際のタイミングに召喚のために残していた魔力を起動したのにもかかわらず。


「はいはい、任せなさい!!」


 ヴァルスさんは応えてくれた。

 切り札というのは本当に最後に取っておくものだ。

 鉱樹が淡くなんて言葉が決して使えないほど発光し、その先から現れる白き大蛇。


「時空の結界、味わえるなんて貴重よ?」


 その長蛇な巨躯は瞬く間にアメリアの体に巻き付き、その体を拘束する。

 巻き付いた大蛇は、威嚇するようにシュルルと舌をちらつける。

 その蛇の頭には手のひらをアメリアに向け、まるで歌舞伎役者のような動作でその姿を誇示するヴァルスさんがいる。


「まぁ、私にかかればこんなものよ。いかに魔王の魂といえど簡単に抜け出せるなんて思わないでよ?」


 フンスと自慢するように胸を張っているのだろうが、今の俺にそれを見る余裕はない。

 鉱樹を杖のように地面に突き刺し、それにもたれかかるようになんとか崩れ落ちないようにするので精一杯なのだ。

 いくら循環し、純度の高い魔力を使用したとはいえど、その消費は半端ではない。

 戦闘中の詠唱破棄の高速召喚は手順を省く分、それ相応の代価が必要になる。

 通常よりも多く魔力を消費し、加えて、ヴァルスさんの現界を維持している。

 おかげで体の中の魔力はカツカツ状態だ。

 だが、どうにかそれを用意することができた。


「さすが、頼りに、なりますよ」


 フラフラになり、もうこれ以上戦えないと俺の体が言う。

 ああ、言わなくてもわかっている。

 ゆっくりと呼吸を整え、魔力の循環を続けているが、体に万全の力は入らない。

 それだけ、消耗しているのだと理解させられる。

 それでも、どうにか姿勢を起こし、辺りを見回すと白蛇に巻き付かれその中央に白い繭のような姿にされたアメリアと、少し離れた場所に海堂たちも緊張の糸が切れたと言わんばかりにそれぞれ地面に座り込んでしまっている姿が見える。

 しかし、これで終わりということではない。

 もともと、魔力を消費させアメリアの自我を呼び覚ますことを目的にしていたのだ。

 堅個な結界で封じても意味はない。

 あくまでこれは時間稼ぎ、クッとポーションを煽り少しでも体力を回復させようと飲み干す。

 染み渡るように魔力が体中を駆け巡り、貧血のような感覚が収まり、ようやく足元がしっかりとする。

 海堂たちも、ポーションを飲み、疲れを癒そうとしている。

 上空では、ヒミクが戦っているが、ここからだいぶ離れた場所だ。

 戦場での小休憩。

 その僅かな時間で体力を回復させようとした。


「あら? こっちに落ちてくるわね」

「あ?」


 だが、その僅かな時間も与えてくれることはないようだ。

 ヴァルスさんに言われ、上空を見てみれば、二つの光がこっちにめがけてかなりの勢いで落ちてくる。

 別々の方向に落ちるのではなく、近くの位置に落ちるように調整されたかのように渓谷の壁に激突した二つの光は、その光を弱らせ最後は壁から地面へと落ちていった。


「あいつらは」

「天使のようねぇ」


 遠目ではあったが、その姿に見間違いはない。

 気絶しているのか、動く様子がないがその姿は間違いなくさっき飛んできた熾天使の双子だった。

 そして、上空ではヒミクが大きな魔法陣を展開している。


「トドメか」


 戦場での情けは自分たちの首を絞める結果となる。

 そのことは理解できる。

 だから、ヒミクの行動を止めることはしない。

 相手は敵なのだから、倒さないといけない。

 残酷なのは理解している。

 仕方ないと割り切るつもりも、言い訳するつもりもない。

 ただ俺たちが必要な結果を引き寄せるために、この結果を受け止めよう。

 彼女がこっちに来れば、アメリアを助けることができる可能性が上がる。

 そう思い、その魔法が放たれるのを待とうとしたが。


「っ!? ヒミク!!」


 ゾクリと背筋が凍えるような何かを感じ取り、その矛先が向いているだろうヒミクにめがけて俺は叫ぶ。

 避けろとも防御しろとも言わず、ただ彼女の名前だけを叫ぶ。

 それだけにもかかわらず、ヒミクは咄嗟に魔法陣を打ち捨てて、下へとその体を反らしてくれた。

 そのコンマ何秒後、さっきまでヒミクのいた場所を白き光が貫いた。

 空間をまるごと消失させる一筋の光。

 その光には見覚えがある。


「いやぁ、さすがに彼女たちを倒されたら困るからね。それくらいにしてくれないかい?」


 この場には似つかわしくないほど、穏やかな声でそいつは現れる。

 飛んできたのか、それとも転移魔法で来たのか。

 先程まで感じなかった大きな気配が現れた。

 その気配の方向を見れば、ニコニコとまるで散歩をしているかのようにゆっくりとこちらに歩む優男の姿が見える。

 その優男の右手には聖剣が握られ、さっきの攻撃はその聖剣から放たれたというのはわかる。


「それと、その忌々しい気配のする存在を僕に殺させてくれないかな?」


 今回の騒動の張本人、カーター・イスペリオ。

 魔王軍から勇者として指名手配される存在。

 温和な顔からしたら似つかわしくない殺気に満ちた言葉を吐き出し、了承しなければこの場の存在すべてを消し去ると言わんばかりに、笑顔をこちらに向けてくる。


「おや? 君は邪魔をするのかい」

「……」


 時間切れ、それを俺は悟った。

 勇者が現れてしまった時点で、俺たちは即座に撤退しなければならない。

 でなければ、立ち上がりまだいけると真剣な表情を見せる海堂も、諦めないと杖を支えに立ち上がろうとする北宮も、仕方ないと笑いつつもどうにかしようと考える南も、そして、俺たちを守ろうと、勝てないことを承知で時間を稼ごうとしカーターの奴の前に立ちはだかるヒミクも死んでしまう。

 数秒の沈黙の時間では何も解決策を見いだせない俺は、悔しい思いを胸に、感情任せに諦めたくないと叫ぶ心を抑え。

 逃げるぞと言おうとした。


「どいて! 次郎さん!!」


 だが、その声を聞いた瞬間に俺だけじゃない。

 射線にいたヒミクも咄嗟に左に避け、空いた空間を七色の光が走る。

 その発生源を俺は信じられないように見る。


「アメリア?」

「yes!! 復活だヨ!!」


 時空結界、それは次元の断層を利用した物理的な概念では突破が不可能だと言われている結界。

 その壁を貫き、繭に開いた穴から出てきたのは、いつもの元気印の笑顔を見せてくれたアメリアだった。


「アミー!!」

「アメリアちゃん!?」

「アミーでござる!!」


 それは仲間たちも一緒で、本来であればありえないタイミングでの登場に俺たちは驚きを隠すことができない。

 魔王の魂に支配された様子も、魔王の魂が演技しているようにも見えない。

 俺たちが知るアメリアがそこにいた。

 ただし、その体から発せられる魔力は間違いなくさっきまで戦っていた魔王の魔力そのもの。


「いったいどうやって」


 事態の変化についていけなかった俺は素直に疑問を口にしてしまった。


「マイクのおかげで戻ってこられたヨ!」


 その言葉をアメリアは素直に少し雑な敬礼をしながら答えてくれる。

 マイク、それは記憶を失った魔王の名前だったはずだ。

 魔王ならアメリアに協力する謂れはないはず、なのに今の彼女は魔王の魔力を身にまとい姿を現した。

 それはあまりにも矛盾した結果。

 理解できない。

 そして、目の前にいるのはアメリアのはずなのにと理解しているのに。


「っ、後で説明しろよ!!」

「yes!」


 だが、状況はまず間違いなく好転した。

 経緯を聞く時間はない。

 なにせ。


「いやぁ、驚いたよ。まさかそんな隠し球があるなんてね」


 相手は勇者様だ。

 こっちがチンタラしている余裕などあるはずがない。

 アメリアの攻撃のおかげですっかり殺る気のスイッチが入ってしまったようで、容赦など期待できない雰囲気。

 土壇場で好機がきた俺はその流れを失わないように、腰に備えた魔道具を起動させる。


「いんや! 正真正銘、隠し球っていうのはなぁ!!」


 そして、起動した魔道具を天高く放り投げる。

 そして展開される巨大な魔法陣。

 いや、極大な魔法陣だ。

 その直径は。


「こっちのほうなんだよ!!」


 巨大な月を覆い隠し、見えなくなるほど大きい。

 そしてあふれる魔力が生み出す魔法は。


「召喚陣? だが、このサイズは」


 召喚魔法。

 見慣れ、ありふれた魔法であるが、その規模が尋常ではない。

 その召喚魔法で呼び出すものはなんなのかと、殺気を緩め警戒の色を見せるカーターに不敵な笑みを俺は見せる。


「勇者に対抗出来るって言えば、わかるだろう?」

「まさか!?」

「ああ! そのまさかだよ!! その綺麗な目を見開いてよおく見な!! これが――」


 そして、ついにカーターの表情から余裕を消せた。

 魔法陣を邪魔しようと動こうとしてももう遅い。

 召喚は始まった。

 もう誰も止めることはできない。

 聖剣の光はその現れた何かによってはじかれ、その巨体の姿を現す。


「あんたの天敵、魔王が住む、魔王城だよ!!」


 監督官から渡され、カーターを仕留める必勝の策。

 それは、魔王軍が誇る移動要塞にして居城、魔王が治め、聖剣と対をなすのではと思われる魔王の代名詞。

 魔王城。

 俺が渡された魔道具はそれを召喚するものであったのだった。



 今日の一言

 土壇場でどうにかなるってことはある!!


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売となります。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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