191 判断基準は人それぞれに存在する
投稿遅れて申し訳ありません。
一日遅れですが投稿します。
Another side
「そんなことが……」
海堂が連絡したら、勝と南はその日の夕方にパーティールームに来た。
普段の明るい雰囲気を抑え、できるだけ深刻な状況だと伝えるように海堂は言葉を選んだ。
アメリアの状況を伝え、そして次郎の言った覚悟の内容を言われた二人といえば、勝はどうするべきか年相応に判断を迷っているように海堂には見えた。
そしてもう一人の南と言えば。
「ん~」
真剣に悩んでいる。
次郎が忙しいということで、あとで来るとはわかっていても、南がこのリアクションを取るとは思っていなかった海堂は正直対応に困っている。
てっきりすぐにテンション任せに返事が返ってくると思っていた海堂は、どうやってなだめようかと考えていたくらいだ。
その予想に反して、自分を見つめ直すように真剣に考えていた。
「正直に言えば、拙者もすぐにアミーちゃんを助けに行きたいでござる」
「そうっすよねぇ」
なにかとこのパーティーの女性陣は仲がいいことを海堂は知っている。
似てはいないが、たまに姉妹なのではと思うくらいだ。
長女でまとめ役的なポジションの北宮、問題児だがムードメーカーの南、そして、その二人から可愛がられている末っ子のアメリア。
北宮と南は度々ぶつかるが、それも喧嘩するほど仲がいいというやつで、相手を傷つけようとする意思はない。
だからこそ、こうやって一緒に仕事を続けてこられたのだ。
「でも、リーダーの言うこともわかるでござる。拙者もさすがに戦争に行くって思っていなかったでござるし」
そして、南は一見ノリと勢いに任せて行動していると思わせるが、その実一番感情の制御がうまい。
どういう感情をどのくらいの量で出せば問題ないかというさじ加減が絶妙にうまいのだ。
それは、半ば引きこもりで人間関係を忌避とまで言わなくとも面倒だと思っている彼女からしたら意外かもしれないが、南の場合は順番が逆なのだ。
人間関係が面倒だから半ば引きこもりをしているのではなく、他人の感情に敏く、どんな感情を向ければいいか理解できていたからこそ、それを深く知り面倒になったタイプだ。
簡単に言えば、南は洞察力が高い。
それは海堂も似たようなもので、なんとなくだが察していた。
彼の場合はブラック企業で人間関係を細かく把握しないといけなかったのと、誰がどれくらい気が短いのかという上司関係の対応で身につけたものだ。
だが、ここまでの感情制御ができるのかと、内心で感心する。
「でもまぁ、いいでござるな。うん、海堂先輩、拙者はアミーちゃんを助けに行くでござるよ」
「え?」
「いや、南ちゃん? 別にそんなあっさり決めなくてもいいっすよ? ほら、少ないって言っても少しは時間があるわけっすから」
だが、その評価もすぐに覆された。
それも下にではなく上方向に修正された。
勝はなんでそんなにあっさりと決められるのかと知っているはずの幼馴染が知らない存在かのように見えてしまう。
海堂は、さっきの長考からあっさりと決断した南を止めるようにもう一度考えるように言う。
「問題ないでござるよ、きっと拙者の考えは変わらないでござる」
そんな海堂の心配をよそに、南はあっさりと決断した答えは変わらないという。
その姿を、さっきまで感情をあらわにしていた北宮と比べて、海堂は彼女はきちんと考えて覚悟を決めたのだとわかった。
「拙者、いや今だけは、普通に話したほうがいいかな。ここの空気が気に入ってるの」
だから、勝からしてもだいぶ久しぶりになる普通に話す南を見て困惑する。
穏やかに、けれど背中に一本の筋を入れピンと体を伸ばす南はまるで別人のように見えた。
「多分、私がこのまま何もせず見送ったら私はここにいられない。そう思うの」
そんなことないと海堂も勝も否定の言葉が出てこない。
南の言葉はじっと自分に言い聞かせるように、否、自分の覚悟に偽りがないかの確認するかのように言葉を選んでいる。
「自分らしく、素直に楽しめる場所を守るためなら、私は前に進める」
血に染めるなんて言葉は使わなかったが、それすらもやってのけると彼女は言ったように二人は感じる。
その覚悟をもはや疑うものはこの場にはいない。
「……いあやぁ! 恥ずかしいでござるな!! やっぱシリアスは拙者には合わないでござる!!」
そんなキリッと締まった空気は、元に戻った南によって弛緩してしまう。
テレテレと恥ずかしそうに両手を頬にあて、全力でふざける南を見てそっと力の入っていた肩を脱力させる海堂は、年下なのにここまでしっかりと意思を表明できるんだなと思う。
負けていられないとか、自分にはできないとか、様々な感情が入り組んでいるのを自覚しつつ、自分はどうするかと海堂は考え。
「南、俺は」
「ストップでござるよ。勝は一回考えたほうがいいでござるよ」
「そうっすねぇ、俺も今は考えたいっす。一緒に悩むっすよ勝くん」
「え、海堂先輩が考えるでござるか? 悩むんでござるか?」
「失礼っすね!? 俺でも少しは考えるっすよ!? 悩みくらいは俺にもあるっすよ!?」
「本当でござるか~?」
流れでどうするか決めようとする勝を南は止め、海堂もそれに同調するように頷く。
勝としてはいつも一緒にいて、自分がいなければダメだと思っていた幼馴染が一人で先に進もうとしている事実に焦りを感じていた。
いつも自立しろと言っていたが、それも最近では口にする機会といえば家事をないがしろにしている時くらいだ。
それ以外で言う機会はめっきりなくなった。
寂しいような、置いていかれそうな勝はふざけあう海堂と南のやり取りがどこか遠くに見えてしまった。
「俺は」
どうすればいいのかと口に出すこともなく、続きもまた出てこない。
思えば南のために行動する機会が多かった。
自分のために行動するというのがあまりなかった勝はどうすればいいのか、悩んでしまった。
それを南は気づいているが、近しいからこそここで自分は口出しをしてはいけないと、悩む幼馴染を信じ。
「本当っすよ!」
「例えばなんでござる?」
幼馴染の選択を尊重しよう。
Another side END
訓練場よりも狭いが、それでも広い空間に俺とヒミクはジャイアントに囲まれ立っていた。
「すまんな、ヒミク」
「いいとも、主に頼られて私は嬉しいぞ」
倉庫から運び込まれただろう、様々な武器や防具の数々。
それをヒミクに合わせようと、数人の女性ジャイアントが忙しなく動き回る。
堕天使という存在に女性のジャイアントたちはおどおどしながらも手は正確にヒミクの採寸を済ませていく。
そんな光景を見ながら彼女と会話をする。
アメリアの救出にあたって彼女の協力は絶対に必要だ。
だが、主従というよりは好意を向けられる女性に戦争についてきてくれというのは俺の常識的にははばかられる。
だからこそ、気にするなと素直な笑みを見せられると救われるのもあるが、その反面好意を利用しているようで申し訳なくも感じる。
「本当だったら、俺が守ってやれるのが一番なんだがな。男としては」
店内は禁煙というわけではないが、装備を用意してもらっている職人やヒミクの前で吸う気にはなれず。
じっと、採寸やどんな装備を使うかというジャイアントたちの動きの中心にいるヒミクを眺めている。
「大丈夫だ! 主はいずれ私を超える! それは私が保証しよう!!」
まったく、こうも素直に期待を寄せられるのはなんともむずがゆい。
正直、アメリアを助けられるか不安に思う部分もあったが、こうもヒミクに言われると頑張らねばと思わされる。
「おい、次郎。防具の方はいいが、武器はどうする? なんならとっておきの――」
「呪い付きの魔剣とかはいらんぞ」
「っち。わかっていやがったか」
「いつもお前はそればっかりだからな」
「仕方ねぇだろ。堕天使なんて存在滅多にお目にかかれねぇ。それが熾天使なんて大層な存在なら尚のことだ」
そんな穏やかな会話に割り込む武器屋のハンズは弟子たちに大量の武器を持ってこさせていた。
「ヒミクなら問題ないかもしれないが……不安要素を抱えるのはごめんだ」
「ちぇ、つまんねぇな」
「面白さを求めるな」
惚れたと告白された女にそんな呪いの武器を持たせるなと言いたい。
「ふむ? これが用意された武器か? 主、ここにあるやつならどれでも使っていいのか?」
「ああ、監督官からは許可をもらってる。合うやつを探してくれ」
「わかった。店主、持たせてもらうぞ」
「お、おう」
採寸を終えたヒミクが、ゆっくりと武器の山に近づきジャイアントたちが離れていくことなど気にせず一本一本丁寧に物を見るが。
「店主、もう少し大きい武器はないか? 予備としてはこの剣でいいが」
「おいおい、そいつはジャイアント用の斧だぜ? これ以上大きいってなるとあったかぁ?」
出来はともかくとしてなかなか理想の武器というのは見つからないらしい。
腰に差す両刃の剣は刃渡りが五十センチほどのショートソードだ。
材質はオリハルコンという特殊な金属を使い、刀身に特殊な魔法文字が刻まれている。
一本の値段は聞かないほうがいいだろうなと思うくらいに、立派な剣だ。
俺の隣にいたハンズなどそれを選ぶかと、ヒミクの目利きに感心していた。
だが、それはあくまで予備の武器。
メインとなる武器がなかなか見つからない。
身の丈以上の大斧を片手で振り回すも、満足しないと言わんばかりに表情を曇らせるヒミクは、一番マシな武器で妥協するしかないかと顔で語っていた。
「……そうか、ないのか」
ションボリとまるで捨てられた犬かのように残念がる姿に、ないものはしょうがないかと思ったが。
「いや、ある」
「あるのか!」
ハンズはそれを否定するかのように、そっと弟子にあるものを取ってくるように言う。
それを聞いた弟子は本当に出すのかと再度確認するが。
「クドい!! さっさと持ってこんか!!」
ハンズに怒鳴り散らされ、慌てて三人の弟子たちが走っていった。
「おい、何を持ってくるつもりだ?」
「俺が打った中でも、上位に食い込む名作よ。それならそこの堕天使の姉ちゃんも満足するはずだ。だが」
「……魔剣か?」
「魔武器であるのは間違いねぇ。スペックはとんでもないのは間違いねぇが。作った俺が言うのもなんだが、癖が強すぎるんだよ」
「効果は後で聞く、デメリットは?」
「まずは単純に重い。屈強なジャイアントの戦士でも三人がかりで持たねぇといけねぇ」
「その段階でやばいだろ。それにまずはってことは」
「ああ、厄介なのはもう一つだ。こいつはとんでもねぇ魔力喰らいだ。精神的や肉体的にデメリットはないが、燃費が極端に悪い。調節を誤ればあっという間にあの世行きよ」
「おい」
そんなものをヒミクに使わせるつもりかと非難の目を向ける。
「そんぐらいしかねぇんだよ。あの姉ちゃんを満足させる武器は」
そうして運ばれてきた武器を見て俺は一気に嫌なものを感じた。
「方天画戟」
黒く禍々しいその武器を見て、最近武器に対しての知識がある俺はその武器の名を言う。
飛将軍こと呂布奉先が使っていたとされる武器と同じだ。
「ダマスカスっていう硬い金属を俺らジャイアントの独自の製法で作り上げた一品だ。どうだねぇちゃん」
「主」
それを見て、ヒミクのお眼鏡には適ったのだろう。
持っていいかと確認する彼女に俺は少し悩むも。
「何かあったらすぐ手放せ」
「わかった」
ゆっくりと頷く。
そして台座に置かれたその武器に手を伸ばしたヒミクは、ゆっくり柄を掴み。
それを持ち上げる。
それだけで辺り一帯から歓声がわく。
「ふむ」
「大丈夫か?」
「うむ、問題ないぞ主! 少し重いが、いいなこれは!」
体調に問題はないかと確認するが、ヒミク自身に問題はなさそうだ。
元気に方天画戟を振り回し始める。
軽く、慣らしのつもりなのだろうが、それだけでも空気が悲鳴をあげている。
「どうだ主!!」
「ああ、すごいぞ。ヒミク」
「そうか! これなら主を守り通せるぞ!!」
「まったく、頼もしいな」
「ふふふ! 期待していてくれ主!!」
何もないことに安心し、マジかと愕然とするハンズを脇目に、元気よく方天画戟を振り回すヒミクを見る。
「ああ、本当に頼もしいな。うちの嫁候補は」
その姿はまるで全てに終わりを告げるような圧倒的な覇者。
笑顔で、俺に期待されていることに喜んでいるようだが、武器がその雰囲気を完全に飲み込んでいる。
そんな姿を見つつ、少し可愛いなと思った俺は着実にヒミクに惚れ込んでいるってことなんだろうな。
今日の一言
どうやるか、どう考えるかは個人の自由であるが、堕天使に方天画戟ってどんな組み合わせよ?
今回は以上となります。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売となります。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!