表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/800

190 やる覚悟とやらせない覚悟、それが必要になる立場もある

 監督官に言われ、俺が最初にしたことは南と勝に連絡をいれることではなく、その連絡を入れるかどうか相談するためにパーティールームに向かった。

 ガチャリと鍵のかかっていない部屋に入れば思ったよりも静かで、もしかしていないのでは? と思わせた。


「? 鍵が開いてたよ……」


 その雰囲気に俺は疑問符を浮かべ、そのまま中に入っていき鍵が閉まっていないことを言おうとしたが最後まで言えなかった。


「いきなりなんだ!? おい!」

「せ、先輩!! 待っていたっす!! 一日千秋の気持ちで待っていたっす!!」

「ええい!抱きつくな暑苦しい!なんだこの空気は!?」

「知らないっすよ!? 北宮ちゃんはこの部屋に来てからずっと黙ってスマホいじってるし、話しかけても何? ってドスの利いた声で返事されるし、俺ができたのはコーヒー入れて、一緒に調べ物して、あとそれから、なんか食べれば元気出ると思って買出しに行っただけっすよ!!」

「いや、結構やってるからな。おまえ」


 おそらく、北宮自身、不機嫌なつもりではないんだろう。

 海堂を腰に抱きつかせたまま、ちらりとリビングのソファーに座る北宮に視線を向けてみれば、騒ぎ出した海堂の姿を見て失敗したと反省していた。

 北宮の場合、ただアメリアが心配で対応がおざなりになっていただけだ。

 社会人としてというよりは、大人の対応ではなかったというわけだ。


「ごめんなさい。少し、イラついてたわ」

「いや、いいっすよ、アメリアちゃんが心配なのは俺もわかるっすから」


 伏し目がちではあったが、しっかりと北宮は海堂に向けて頭を下げて謝罪した。

 それに対して海堂は彼女の気持ちを察してか、別にいいと手を顔の前で左右に振りながらその謝罪を受け入れた。

 とりあえず、いつもどおりとまではいかないが、部屋の空気が改善されたことで本題を切り出すとしよう。

 俺は作業用の机の方に三人で座り、監督官に言われたこと、そしてアメリアの行き先を二人に伝えた。


「……アミー」

「ぶっちゃけ、それってかなりまずいっすよね」


 いい話などひとつもない内容に、二人の顔色は悪くなる。


「放置すれば、ロクなことにはならないのは間違いないだろうな」


 そして、ここで下手な慰めの言葉をかけられない俺は正直に今後の展開を口にするとガタンと北宮は席を立つ。


「! 急いで助けにいかないと」

「落ち着け、急がないといけないのは確かだが、何も準備なしでいくのはお前だけじゃない。アメリアの命も落とすぞ」

「っ」


 現状はどう見ても悪い。

 時間を惜しむ気持ちは察するが、だからこそ念入りに準備が必要なんだと強めの視線で北宮を制止する。

 俺たちは静観を決め込むという選択肢は取れる。

 だが、その選択はしないというのは今の北宮を見ても明白であった。

 だからこそ、動くというのなら不安要素を削ることを怠ってはいけないのだ。

 大事を前にしたときはまずは慎重に、だ。


「俺の口からしっかりと考えてから選べとこの前言った。この言葉を撤回するつもりはない。だが、一時の感情で動転している部分はあるが、お前らがアメリアを助けたいという気持ちは理解しているつもりだ」


 この戦争に介入するという行為は、人生の価値観を一変させる一線を越えるということだ。

 遊びではない、訓練ではない、正真正銘の殺し合いの場。

 そこに飛び込ませていいものかと悩んでいる気持ちがあったからこそ、北宮たちに選択を迫ったのだ。


「ついてくるなとは言わない、だが、半端な覚悟では連れていくつもりもない」


 この場で、状況が変わったから手伝ってくれと言うつもりはない。

 言ってしまえば、彼女たちの選択肢を俺が奪ってしまうことになるからだ。


「向こうに行く支度はスエラに手伝ってもらって、俺の方でやっておく。現状で向こうに行くことが確定しているのは俺と、おそらくだがヒミクのみだ。申し訳ないが、北宮の言った通り時間がない。だが、わずかでも時間は用意できる。南と勝にも連絡を入れて同行するかしないか早急に決めてくれ」


 わずかでも考える時間を与えたいがために、準備はスエラとメモリア、ヒミクに協力してもらう。

 現地では主戦力になるのはヒミクだ。

 スエラは妊婦で、メモリアはそんな彼女を支えてほしいので連れてはいけない。

 監督官から戦場に出るのなら、装備も手配すると許可をもらっている。

 刻一刻と状況は変化し、時間は過ぎていく。

 その間に何かが起きる前に俺たちは動かなければならない。

 やれることを手早く済ませて、準備をせねばならない。


「私は!」


 だが、問わなければならないことはある。


「北宮、感情に流されるな。状況はお前が考えているよりも深刻だ」


 席を立ちすぐに参加を表明しようとする北宮を一旦制止する。

 どう見ても冷静ではなく、感情任せの行動だ。

 そこに理知的な判断はない。


「アメリアだけを助けてほかは傷つけないなんてご都合主義はありえない。俺がさっきから聞いている覚悟は、相手を殺す覚悟だ。殺してでも生き残るその覚悟をできるかと聞いているんだ」


 アメリアを助けたいという一心に曇りはないだろう。

 感情が荒ぶっているという点はあるが、そこは疑いようがない。

 だが、その感情に任せて助けに行き、人ではなくても、感情があり知性が有る生き物を殺して北宮や海堂がまともでいられるかと不安が残る。

 加え。


「俺はな、この手を血に染める覚悟はしたつもりだ。『俺』自身がアメリアを助けたいためにだ。俺は自分で選んだんだよ」


 ここから先は場合によって善意を捨てなければならず、その可能性は限りなく高いという事実を突きつける。

 俺は実際に人を切った。

 その時の感情はその場では忙しくてなにも感じなかったが過ぎ去ってから、襲い掛かってきた。

 終わった後だというのに手に残る何かを切ったという感覚がこびりつき、罪悪感とそれを何故してしまったかという疑問が俺の中を埋めた。

 やってしまった事実を背負い、飲み込むのには多少時間を要したが、その瞬間に俺は、間違いなく一線を越えた。

 その感覚を味わうであろう未来が北宮たちに待っている。

 その感覚はできるなら味わわないほうがいいと俺の中で思う反面、今後この会社に居続けるのなら必要だと思う俺がいる。

 だからこそ、アメリアは助けないといけないという事実に惑わされるなと最後に付け加え、顔をそらさないが迷いを見せる北宮を見る。

 海堂は、自然と口をつぐみ成り行きを見守っている。

 それを脇目に、北宮と視線を交わす。

 その瞳は感情で燃え上がっているが、俺から見ると不安定のようにも見える。

 アメリアを助けること事態は間違ってはない、だがそれを言い訳にしてほしくない。

 言い訳にして、戦場に出てしまえば、きっと後悔しか残らない。

 言い訳にしてしまえば、仮にアメリアを助けられたとしても互いに後ろめたさができてしまう。


「誰かのために動くっていうのは、いい事だ。だが、その反面責任が普通よりも重い。なにせ、自分の行動で自分の分だけじゃなくて他人の責任も背負わないといけないからな」


 自分で選べばその責任は自分に来る。

 相手を殺したという業は、アメリアではなく俺が背負う。

 そう聞こえるように、言葉を選びながら俺は二人の判断材料になるようにと願って口を開く。


「だけどな、他人の責任を背負うっていうのは生半可なことじゃない。もし仮に、俺がアメリアを助けるために敵を斬り殺した。それを見てアメリアはそこまでして私を助けてほしくないと言う。そうなると、俺の行動は無駄になる」

「無駄になんて」

「なるんだよ」


 俺の行動自体は過激ではあるが、平時ならともかく戦場という空間では助けたという意味が通じてしまう。

 そんな俺の説明を無駄じゃないと言いたい北宮の言葉を遮り、続きを口にする。


「求められていることと、俺がやろうとしていることは必ず一致するとは限らない。それが人間の感情だ。お前はアメリアの気持ちを受け止められるか? 自分が苦労して血に染まって助けたという結果を否定されても、これは自分が勝手にやったことだからアメリアは気にするなと言えるか?」


 俺は言える。

 いや、言わないといけないんだ。

 助けると口にしたのはそれも覚悟してたからこそだ。

 助けに来て、否定され憤慨する気持ちもわかる。

 だが、やる前に全て受け入れられると思い込むのも違うと俺は思う。

 もちろん、最善は尽くす。

 敵を極力殺さないように努力はする。

 だからこそ、少しでも戦力を集めないといけない。


「それが無理なら、悪いことは言わない。今回は俺に任せておけ」

「なによ、私じゃ、力不足だって言うの?」

「俺の押し付けだ。助けに行かなかったっていう後悔と助けて否定されてしまったという後悔を天秤にかけて、どっちの方がマシで、お前らが傷つかないかってな」


 だが、その戦力もただ集めればいいというわけではない。

 何度も言うが、これから行くのは戦場だ。

 非日常の最終地点だと言っても過言ではない。


「……わかってるわよ。私が、選べてないって。勢いに任せているって、それじゃダメなの?」

「ああ、悪いが、一瞬の空白が命取りになるからな」


 戦場という空間で、何が致命傷かといえば停滞だ。

 アメリアに否定されても、アメリアがどんな状況でも、それを受け入れるのは無理にしても、飲み込む行為を後回しにし、目的の達成を優先できる覚悟を持っていないと連れてはいけない。

 泣き、怒り、凹む。

 これは生きているからできるのだ。

 何かの拍子で思考が停止し、動けなくなる。

 そしてそれは戦場では死神の鎌に首を差し出すようなものだ。

 それは絶対に避けないといけないんだ。

 中途半端な感情で揺れ動く北宮を厳しく突き放し、俺はゆっくりと立ち上がる。


「少ししか時間が与えられなくてすまんな」

「……わかったわ、今日出るわけじゃないのよね?」

「ああ、少なくとも今日は大丈夫なはずだ」

「なら、今日は帰るわ。出るときは絶対に連絡して、行かなくとも見送りだけはさせて」

「わかったゆっくり考えろ。それと海堂、悪いが二人に連絡頼むわ。可能なら来てもらってくれ」

「うっす……先輩」

「あ?」

「無理しないほうがいいっすよ?」

「アホ、弱みを吐き出せる相手がいるからお前は心配しなくていいんだよ。お前も考えておけ」

「うっす」


 俺が今欲しているのは、力ではなく心の強さ。

 少ない時間で考えがまとまるかわからないが、帰り支度をしている北宮に軽く挨拶をしてから俺はそっとパーティールームをあとにし、スエラのもとに向かうのであった。



 今日の一言

 やるなと時には言う必要があるんだろうが、その言葉を放つのはなかなか難しいな。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ