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189 何かあった時に集まってくれる、その事実が嬉しく思う

 急いで北宮と会社に戻ってみれば、そこは普段とはかけ離れた状態になっていた。

 大人しく、されど厳かに統一された会社の顔たる玄関フロアはその姿を無残なものとしていた。

 椅子や机は軒並み吹き飛ばされ、床はあちらこちらに砕けた跡が残り、壁には砕けた箇所やこげた箇所がいくつも見受けられる。

 受付カウンターなど見事に原型をとどめていない。

 いったい何が起きればあんな姿になるのかと思うくらいの破砕振りだ。

 経験上それが戦闘痕であることは明白、今はゴブリンやオークといった面々が瓦礫や壊れた机や椅子をどかし、ジャイアントたちが修理をしている。


「……思ったよりもひどいな」

「ええ」


 これをアメリアがやったと思うと、たとえ当人の意思ではないとしてもさすがに表情が暗くなる。

 それは北宮も一緒で、辺りを見回しながら同意してくる。

 とりあえず、状況が確認できる相手がどこかいないかと辺りを見回す。


「いけません、エヴィア様!! まだお怪我が癒えていないのですよ!?」

「邪魔だ。今は一刻を争う。痛みなど無視すればいい」


 海堂がいればいいかと探していると、代わりにフロアに痛々しい格好で、それに反するように堂々として歩いてくる監督官を見つけた。

 左手を布で吊るし、額に包帯を巻き。

 普段はきっちりと着こなしているスーツであったが、今は上着を着ず、ワイシャツ姿。

 見える足元にはなにやら呪符みたいなものが貼られている。

 見るからに重傷、起きて歩き回れるような姿ではない。

 なのに監督官は、まるで怪我などないかのように振舞っている。

 オロオロと医務官が監督官を引きとめようとしているが、その忠告を彼女は無視する。

 普段であれば時間短縮で転移魔法を使うはずの監督官が今は歩いているという事実に怪我の深刻さが窺えた。


「監督官が、負けた?」

「うそ、よね?」


 その姿を見て、この惨状はただアメリアが暴れた結果というわけではない事実に俺と北宮は愕然とする。

 この惨状はアメリアと監督官が戦った結果で生まれたもので、あの姿と海堂の話を統合すると監督官が勝ったということではない。

 もしかしたら違うかもしれないが、社内において尋常でない強さを誇れるだろう監督官の痛ましい姿に、俺たちは揃ってマジか? と口元を引きつらせるしかない。

 悪魔といえば耐久性でも鬼に並ぶほどタフだったはず。

 その中でもよりすぐりの強さを誇る監督官に競り勝った、アメリアに潜んでいた魔王の魂の実力は想像したくない。


「ん?タイミングよく帰ってきたな。次郎、ついてこい」

「はい、北宮は部屋に行け。海堂がいるはずだ」

「……わかったわ。あとで教えなさいよ」

「はいよ」


 そして、問答はさせるなという眼光を俺に見せた監督官に見つかり、北宮をパーティールームに行かせ医務官を無視し歩く監督官についていく。

 そしてついていった先は使われていない会議室。


「状況は聞いているか?」

「軽く、概要程度には」

「なら詳細を説明する」


 立っているのもきついのか、監督官は表情こそ変えないが即座に席に着き俺にも座るように促し、俺が座ったのを確認すると監督官は話し始める。


「貴様の部下の、アメリア・宮川が暴走した。原因はやつに封印されている初代魔王の魂だ。そこまではわかるな?」


 前段階の確認作業のように、互いの共有する情報の中で今回の騒動の原因となった点を出す。


「はい」


 海堂の話から、もしかしたらそうなのではと思っていたが、監督官の話で予想は確信へと姿を変える。


「被害は入口からゲートに至る道中だ。やつめ、宮川の記憶を探ったか、もともと知ってたかわからんが、動きに迷いがなかった。だが、迷いがなかっただけで、正常とは言い難かった。異常な魔力を垂れ流して社内に入ってきた時に私が対応したが、今のあいつは正気じゃない」


 そう前置きをして監督官は当時の状況を話してくれた。

 外向きの格好じゃないアメリアが会社に来た段階で、監督官は普段は感じない重く濁った魔力を確認しようと転移したところアメリアを発見。


「瞳は憎悪で染まり、私を見て問いかけをしても応じなかった。ただ盲目的に何かを追い求めていた。会話が成立しなかったから、非常時と判断し私も制圧を試みたがこの様だ」


 ケタケタと笑うのでも、心の内を発散するかのように叫ぶでもなく。

 ただただ瞳を濁らせて、血走らせ、怨敵を見つけようとふらりふらりと歩くアメリアの前に立ちはだかった監督官は、その姿を見て即座に対話は不可能と判断したらしい。 警告をした後、即座に普段は見せないはずの全力戦闘。

 格上の魔力だとしても、技術は錆び付いているはずだと、それとアメリアの体が枷となって全力は出せないはずだと。

 もろもろの条件が入った状態での戦いであったが、結果は抑え込まれていた魔力が解放され、それを抑え込むので精一杯だったらしい。


「ダンジョンに被害が出なかったのは幸いだったが、代わりにやつを戦場に送り出すことになった」

「……ゲートと聞いてもしかしてと思ってましたが、やはりアメリアは向こうに行ったってことですか?」

「ああ、部下に確認に行かせ私たちの本拠地の大陸に渡ったのを確認してる。今も部下に追跡させ、見失ってはいないが、方角からしてやつはおそらく戦場に向かっている。戦場に足を踏み入れるのは時間の問題だ」


 アメリアの中身の魔王が何を思って行動しているかまではわからないが、何を目的にしているかは予想がつく。

 復讐だろう。

 それも勇者といった太陽神に属する者たちへの。


「それで、その話を自分に聞かせて、何をさせたいので? 向こうに行ってアメリアを連れ戻してこいと?」


 無駄なことを極力避ける監督官が俺だけを呼び出したということは、何かを伝えるためだ。

 そして伝えることを大きく分ければ、やらせるか止めるかの二択だ。

 俺としてはやれというならやるつもりでいる。

 逆に動くなと言われれば、少しどうするか悩む必要が出てくる。

 具体的には監督官を説得する方向で。

 これが親しくもない相手なら、逆の発想になるのだが、あいにくと見捨てられない程度には親しい仲の奴が相手なのだ。

 何もしないというのは避けたいところ。


「そうだ」

「……意外とあっさり肯定するんですね」


 てっきり、俺では実力不足だから動くなと言われるかと思ったが、監督官は簡潔に俺の質問を肯定してきた。


「今は使えるやつなら猫でも使わなければいかない状況だ。本来であれば、社内にいる人員も動員したいところだが、会社を維持せねばならないからそうもいかん。そうなると動かせるやつは限られてくる」


 使えるやつ認定されているのは、社員として冥利に尽きるんだが、この方が言うと何を任せられるか気が気でない。


「加えて現状を動かせる力を持っているとなればさらに条件は絞られてくる。次郎、貴様の堕天使にも動いてもらうぞ」

「何をするおつもりで?」


 ヒミクは立場的には俺の監視のもとに保護されていることになっている。

 そして彼女はスエラやメモリアの頼みは聞くが、他の魔王軍の面々からの命令などは受け付けない。

 俺がヒミクに頼み事をするとなんでも優先的にやろうとしてしまうから、うかつに頼みごとができないのが玉に瑕ではあるが、基本的に彼女は魔王軍とは別枠という立ち位置をとっている。 

 そのヒミクを連れていくとなるとさらに雲行きが怪しくなる。

 少なくともこの段階で戦闘は確実に起きるだろうと思われている。


「勇者を引きずり出す」


 監督官の、いや魔王軍の動きを説明された。

 現在、予備戦力を含めて将軍すべてが出撃し、今回の反乱の対応に回っている。

 敵も相応の戦力が用意されていて、押しつ押されつを繰り返し均衡を保っている現状、打開策が必要になる。

 打開策とは相手の切り札である勇者、聖剣を持つカーターを倒すことだ。

 それとアメリアがどう関係するのかといえば。


「今の宮川の状態は魔王様とほぼ同じだ。そして勇者は、聖剣の担い手は魔王という存在の魔力に敏感だ。魔力を感じればやつは必ずその姿を現す。そこを魔王様に叩いてもらう」

「囮ってことですか、ですが、相手が乗らない可能性があるのでは?」

「それはない」

「理由を聞いても?」

「宮川の存在は魔王軍の中でも機密だ。表面上はテスターとして登録しているが、その実態を知るのはごく一部。将軍職に就く者の直轄以上しか知りえない。辺境所属の奴が持っている情報ではない。もし知っているとしたら放置することなどありえないだろ。二度目はともかく一度目は相手を騙すことは可能だ」


 アメリアが体内に魔王の魂を持っているという情報が秘匿されているのが今回の状況にマッチしたということか。

 普通に考えれば魔王が二人いる、なんて考えるわけがない。

 冷静に考えて、敵からすれば魔王が二人いるってなんの悪夢だよって話だ。


「お前には勇者と魔王様が戦闘になった際に宮川の回収と鎮静を任せる」

「方法はあるんですよね?」

「無策では行かせん」


 現状、劣化しているとは言え魔王並みの強さを発揮しているアメリアに対して、このまま行くのは悪い意味で勇者だ。

 神風特攻になりかねない。

 そんなことをさせないために監督官は、その策を俺に説明してくれた。


「……マジですか?」

「冗談は好きだが、タイミングは選ぶ。できるか?」

「できるできないの話で言えば、可能です」

「なら、やれ」

「了解です」


 その策があまりにも突拍子もない内容で思わず確認を取るが監督官は嘘だとも冗談とも言わず、俺ができるかどうかの確認をしてきた。

 それに対してできると答えれば、監督官はやれと命じてくる。


「他のやつを連れていっても?」

「ああ、必要だろう。装備も用意させる。動員できるやつは全員動員しろ」


 あとは準備をするだけだ。

 そう言って席を立ち、早速準備をしようと思う。


「次郎」


 そんな俺を監督官は呼び止めた。


「なんですか?」


 振り向いて、監督官の方を見れば、じっとこちらを見て。


「無事に帰ってこい」

「無傷は無理でしょうが、善処しますよ」

「それでいい」


 普段はあまり見せない、優しさをもって俺を送り出してくれた。




 今日の一言

 さてと、やれることをやりましょうかね。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 周回中です。 エヴィアさん殺さないように手加減してくれるなんて優しいですね
2022/08/09 17:46 退会済み
管理
[気になる点] こんな命令だと複雑だよね。役職も微妙だし。うん
感想一覧
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