187 緊急時にどう動くか、それは人それぞれ
車を走らせて、ナビ通りに進む道中。
「すまんな、北宮。休み中に」
「いいわよ、緊急事態なんでしょ? ちょうど暇してたし、問題はないわ。それよりアミーに何があったのよ。いきなり電話してきたけど」
「わからん、俺もメールで連絡が来ただけで状況が把握できているわけじゃないからな」
「そのメールってさっきのよね? あの子が、やるとは思わないけど、いたずらって可能性はないの?」
「それなら、それでいいが、そのあと連絡がつかないのが解せない。こうやって何度も連絡を入れれば本気で俺たちが心配しているのがわからないやつじゃないだろ。いたずらなら、いたずらでなんらかの返事をするはずだ。無反応というのはありえん」
「そう、よね。なんだか嫌な感じがしてきたわ」
「……俺もだよ」
今は社内ではなく、社外に出ている。
そうなった経緯はたった四文字のアメリアからのメールだった。
朝起きて今日の予定はなんだったかと、筋トレのメニューやダンジョンの改善案を部屋で考えていた最中にスマホに着信があった。
最初は早朝だし、スパムかなにかだと思ったが、差出人はアメリアだった。
最近体調が悪いこともあり、会えていなかったから何かあったかとメールを開けてみれば『タスケテ』と書かれていただけだった。
ゾクリと冷や汗が出るのを久々に感じた。
遊び心の欠片もないそのメールを見て即座に電話したが、一向に繋がらない。
ますます不安が溢れ、一緒にいたスエラやメモリア、そしてヒミクに何かあったかと言われ、事情を説明した。
その間も頭の中で警察に通報するべきか救急車を呼ぶべきかと思考が走るも、何が起きたかわからない状況ではどう動けばいいかわからない。
事は一刻を争うことかもしれないと判断して、仕事を休むことを即決し、スエラに頼んでアメリアの履歴書を用意してもらい住所を調べた。
俺が直接向かったほうがいいかもしれないが、社外で起きたことで魔法的な関与はないだろうと思い。
なら、下手に会社の力を動かすよりは、常識的に考えても警察なり救急なりに連絡したほうがいいだろうと判断し、まずは警察に連絡した。
あくまで最悪を想定しての行動だったから、絶対ではない情報にもしかしたら警察も取り合ってくれない可能性もあったが、警察はそのまま住所を聞き動いてくれることになった。
その時に前から体調が悪いかもしれないと話したら、救急車も手配してくれたのは素直に良かったと思う。
通報者として俺も現場に向かうことにしたが、男一人でアメリアの部屋に向かうのはどうかと思い、北宮に連絡したら大学の講義がなくて動けるということで合流し現在につながる。
「……だめね、繋がらない」
「やっぱりか」
合流してから何度目になるか、アメリアに向けて北宮が電話をかけるも。
スマホから聞こえてくるのは留守番電話サービスの音声ガイダンスだけ。
一向につながる気配を見せない。
体調が悪化して意識もなく出れないのか、それとも近くにスマホがないのか、判断がつかないが俺たちの立場からすれば決して良いと言える状況ではない。
何かが起きているとしか言えない状況。
「ここら辺のはずだが……」
「あれじゃない!パトカーと救急車がいるわ!」
ナビ通りに進み近所に近づいていることを知らせるアナウンスが流れ、アメリアの住所が近いということで周囲を見渡し、北宮が住宅街にあるそれらしいアパートを見つける。
言われた先を見てみれば赤いサイレンを点滅させる緊急車両が二台見えた。
本当は良くないことだが、歩道のそばに寄せてハザードをつけて車から出る。
「通報された方ですか?」
「はい」
走りながらパトカーの側に駆け寄ると警察の一人が俺たちに気づいてくれた。
「アメリア、宮川さんの様子は?」
会釈をし、通報者であることを伝え、アメリアがどうなっているか確認するも警察も困惑の表情を見せてきた。
「それが、見当たらないのです」
「見当たらない? どういうことです?」
「我々も十分ほど前についたばかりなのですが、無事を確認するために部屋まで行ってチャイムを鳴らしたんですが反応がなく、もし仮に意識不明なら一刻を争うことなので救急隊員が中に先ほど入ったのですが、当人が見当たらないんです。鍵はかかってなく、当人の靴らしきものや携帯電話は発見できましたので出かけたということはないと思いますが、もしかしたら通報されたあとにご家族の方が病院に運ばれたのかもしれないので、今周囲の捜索と付近の病院に確認を取っている最中です」
警察官の説明に俺と北宮は困惑するしかない。
助けを請われて、家まで来てみれば当人はおらず。
警察や救急隊員の人たちも困惑している。
「争った形跡がないことや貴重品がそのままにしてあったことから強盗や誘拐、という線の可能性は低いですが周囲で念のため聞き込みも行います。なので、通報に至った経緯の確認と送られてきたメールの内容を確認したいのですが、可能であれば容姿等確認できるものがあれば提示願います」
「わかりました」
「私、ここら辺探してくる」
「わかった、連絡を取れるようにしておけよ。無理だけはするなよ!!」
「わかってるわよ!」
警察の話を聞き不安を感じ、いてもたってもいられない北宮は走り出してアメリアを探しに行った。
それを見送り、俺は通報した者の義務を果たすべく受け取ったメールを見せ、受信時間も確認。
そのあと、普段のアメリアの性格や姿の特徴を教え、あとは関係も聞かれたからスエラに許可を取っている会社の名刺を渡し会社での関係を話す。
「……事件性は現段階でなんとも言えませんが、救急の方からも通報された特徴の少女は病院の方に搬送されたという確認が取れていません。もしかしたら今後の展開次第では事件捜査として活動するかもしれませんね。申し訳ありませんが、今後連絡を取る可能性もありますのであなたの連絡先を教えてください。あとご家族の方の連絡先を知りませんか?」
俺の説明が終わり、メールを見てここまでの経緯を聞いた警察官は室内の状況からして、最悪を想定し始めたのか、表情に真剣味が増す。
これで家にあったサンダルで近くのコンビニに行った程度ならいいんだが、その可能性は下がったと言える。
もし、勘違いで俺が早とちりしたのなら、したことを謝罪すればいい。
注意は受けるかもしれないが、それはそれで仕方ないとしよう。
だが、警察は俺が心配しすぎているとは思っていないようだ。
「はい、わかりました。一応彼女の母親の携帯番号は知っています。仕事中のためか連絡が取れませんでしたけど、それで構いませんか?」
「はい、署の方から連絡させますのでご安心を」
書類やメモ帳に内容を書いていく警察に付き合うこと十分。
一通りのやりとりが終わり、俺も解放されるという段階で俺の携帯が鳴る。
「失礼、はい。田中です」
『もしもし、宮川と申す者ですが』
「ああ、宮川さんのお母さんですか、ご無沙汰しております」
タイミングが良く、着信の相手はアメリアの母であった。
俺が宮川という苗字を言ったためか警察も俺の会話に注視してくる。
『あの、着信がありましたが、何かあったでしょうか?』
「お仕事中にすみません。失礼ですが、いま宮川さんはお子さんとご一緒でしょうか?」
『アメリア、とですか? いえ、娘は家にいるはずですが』
「一緒ではないんですね?」
そして、アメリアが母親と一緒でないと知ると、警察官はこちらに耳を傾けながら、無線で連絡を取り始める。
『はい、あの、娘が何か?』
不安と警戒の色を混ぜたアメリアの母に向けて、落ち着いて聞いてくださいとだけ前置きし。
「つい先ほど娘さんから助けてほしいとメールを頂き、今家に警察と一緒にいるのですが、家に誰もいないんです」
『え?』
助けてほしいという内容のメール、そして警察が来ているという事実に電話口の先から困惑の声が漏れてくる。
「私が緊急事態だと思い通報し、来てもらいました。私もついさっき家に着いたばかりですが、体調不良で意識がない線もありましたので緊急事態と判断し、一緒に呼んでいた救急隊員の方が中に入ったらしいです。そこで、娘さんの不在を確認したそうです」
向こうが混乱している時に感情的に説明してはダメだ。
こちらはあくまで冷静に順をおって説明する。
「宮川さん、ああ、混同してしまうので娘さんのことを名前で呼びますが、アメリアさんは今朝も体調が悪く?」
『え、ええ。そうです。今朝は比較的体調が良かったので仕事に来ましたが、出歩けるほどかと言われれば、そうじゃないはずです。頭痛もしていると今朝聞きましたし、熱も。あの、娘は』
「現在、同僚と警察の方が周囲を捜索しています。私もこれから、周囲を探してみようと思います」
焼け石に水かもしれないが、それでも気休め程度の安心材料にはなる。
どうしたらいいのかと、不安も困惑も隠せず、電話の向こうで動揺している姿がわかる。
それくらい、彼女の声は震えていた。
それを少しでも和らげるために言った言葉であったが。
『す、すぐに、私も戻ります』
「わかりました。ですが、慌てずに来てください。事故に遭っては元も子もないですから」
『わかりました、では』
「はい」
役に立ったかは、わからない。
耳に残る動揺の声が聞こえた通話の終わったスマホを眺めて、あの対応でよかったのかと自問自答する。
だが、それも少し後回しだ。
家族によって病院に搬送されていないことがわかった今、何か不測の事態が起きている可能性が高くなった。
最悪、意識を失ったあとに何かされたかもしれない。
それを考えれば一分一秒が惜しい。
俺ができることは親からもらったこの足を使って辺りを探すことだ。
時間は幸い、たっぷりとある。
警察官はこの場に残り、アメリアの母親が来るまで待つとのことで、母親が来たら連絡をもらえるように頼み俺も周囲を探そうと動き出す。
「雨、か」
ポツリ、ポツリと降り出した雨に嫌な感じを抱きつつ、車に戻る。
もともと曇り空で降水確率もそれなりにあった。
だからこそ降ってもおかしくはないが、できることなら避けてほしかった。
車を近くの有料駐車場に止め、後部座席からビニール傘を取り出しここから先は足を頼りに動き出す。
段々と本降りになり始め、道端から人が消え始める。
そんな空間を走る。
チャプチャプと水溜りが出来始めている道路を、駆け抜け、不審に思われない程度に辺りを見回してアメリアの特徴的な金髪を探すが、見当たらない。
走り始めて五分も経っていないが、不安というのは一分という短い時間でもすぎる度に重なり重くなる。
「北宮は」
そこで、先に周囲を探しに走っている北宮に連絡を入れる。
何か情報を得ているかもと、電話してみると。
『アミー、見つかった!?』
「いや、まだだ」
ワンコールで、彼女は出てきた。
片手にスマホを持っていたのかすぐに出た彼女は声を荒らげ、呼吸が乱れているのは走りながらアメリアを探しているためだろう。
そこから一旦立ち止まりどこかに雨宿りをしているのか、呼吸が浅いものから深いものに変わる。
「アメリアの母親と連絡がついた。アメリアは母親と病院には行っていないのは確認が取れた。そっちは何かわかったか?」
『今、近くのコンビニに片っ端から確認してるところ、三件回ったけどアミーが来たのを見た店員はいなかったわ』
この短時間で、よくそこまでできたものだと感心する。
「となると、別の方向に?」
『わからないわ、金髪って今時珍しくもないから、見落としてるかもしれないわ』
俺たちは警察と違って捜索能力が高いわけではない。
餅は餅屋と言っておとなしくしているのがいいのだろうが、じっとしていることはできなかった。
『魔法が使えたら』
「ないものねだりをしていても仕方ない。とりあえずはもう少し探してみつからなかったら合流するぞ」
この世界では魔法は使えない。
魔力がないのだ、当然と言える。
それが当たり前な世界なのだが、こういう時になると使えなくても使えたらと願ってしまう。
北宮が電話を切ったのをきっかけに、俺も再び雨の中を駆け出すのであった。
今日の一言
ったく、心配かけやがって。
今回は以上となります。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。




