183 目標を決めて、いざやろうと思えど、その目標が突然と変わることがある
余計なフラグ、あの竜人の挑発に乗らずじっと部屋で待機し試合を皆と一緒に楽しんでいた。
南にさっきの挑発について言えば、きっとフラグでござる!? とかなんとか言って、俺を向かわせるかもしれないが、今回はあえてスルーした。
あれでよかったのかと思うところがないわけではないが、わざわざ地雷に赴く必要もない。
おかげで余計なトラブルに巻き込まれず静かにではないが、平和に参考になる戦いを見ることができた。
なのでたとえ何かのフラグがなくなったとしても、この選択を良しとする。
もし何かあったのなら、反省すればいいだけのことだ。
そして全五十人の参加者の競技大会は、一回戦の俺の試合で二人いなくなったというトラブル以外は順調に進み、今は準決勝。
いわゆるベスト4が決まり、栄えある決勝への進出者を決める戦い。
その四人はカーターとバサルンテ、そしてその二人に蹴散らされそうなダークエルフとスケルトン。
カーターはダークエルフとバサルンテはスケルトンと、どう見てもどっちが決勝に進出するか明白な準決勝は観客や俺の予想を覆すこと無く、南曰くモブっぽい二人は瞬殺され、準決勝は無事終わり決勝のカードが決まった。
「結構長かったわね、まぁ、休憩もあったし試合数も多いから仕方ないっていうのはわかるけど」
丸一日で本当にできるのかと思っていたが、朝から始まった試合は夜には終わりの様子を見せた。
準決勝が終わり、長時間戦う姿を見ていた俺たちも僅かであるが疲労の色が見えてくる。
そんな疲れた眼をほぐすように指でマッサージする北宮の気持ちもわからなくはない。
「派手で楽しめるのはいいでござるが、目が疲れるのが難点でござるな。特に魔法合戦になるとそれが顕著でござる」
「ウン、すごい派手だからネ。眩しかったり爆発したり、私も少し目が痛いかモ」
戦士同士の戦いになると動きが速くて目で追うのに疲れ、その戦いに魔法が加わると魔法の演出で遠目でも目が疲れる。
観客たちは後半の高速戦闘が見えているのか見えていないのかわからないが、それでも魔法の派手な演出に歓声を上げていた。
ただ、俺たちみたいに個室が用意されず長時間椅子に座っているのは疲れるだろう。
「ココアでも入れます」
「私も手伝おう」
決勝までの休憩時間で観客席を立つ客が結構多い、飲み物かあるいは少し歩くのだろう。
そんな光景を脇目に、勝とヒミクが決勝まで時間があるとのことで、部屋の面々の糖分補給も兼ねてココアを淹れるため備え付けのキッチンに向かう。
「まさる~、拙者のはう~んと甘くするでござるよ~」
「あ、それができるなら私も甘いのがイイデス!」
『さっきまでの食事量を考えると、太るよ、二人共』
「う」
「NO Problem!! ダンスをすれば問題アリマセン!」
ソファーにグテーっとだらけた南の要望にアメリアが便乗する。
そしてここに至るまでの飲み食いの内容からカロリーを計算したマイクが、女性に対しての禁句を告げる。
そうすると、日頃の私生活が対極の二人の返答は変わる。
片や机に向かっている時間が長く、片や動いている時間が長い。
ダンジョンで動き回っていたりするが、あれは魔力体なので老化防止になっても、ダイエット効果は実は皆無だったりする。
訓練なら魔力体にならないからカロリー消費はするのだが、今言っても詮無きこと。
渋々甘さ控えめと言い直す南と甘いココアができるのを待つアメリア。
二人の表情は私生活の使い方のように対極的だった。
「先輩とかあのカーターってやつがだいぶ大会を荒らしたっすけど、結果だけ見ると、なんか順当に勝つやつが勝ち上がったって感じで収まっているっすね」
そんな二人の光景を微笑ましく眺めながら、俺たちは競技大会の話題に戻る。
「どこにでも頭一つ飛びぬけた奴はいるもんだ。それがあの二人ってことだよ。だがまぁ、正直このあとの試合はどっちが勝つか見当がつかん」
「そうなんすか? 俺的にはあの竜人の方が勝つような気がするっすけど。ほら、ここまでの試合全部一撃で倒しているっすし? なんか余裕ってのも感じたっすよ」
離れた席の海堂とここまでの試合の内容を話し、俺が口にした予想に海堂が反論する。
「そうかしら? 余裕って意味なら私はあっちの吸血鬼の男が勝つような気がするわ。確かに攻撃力って言うなら劣っているかもしれないけど、それでもあの速さはすごいと思うわ。その速さも加減してたように見えたし、攻撃も決して弱いというわけじゃないと思うわ」
だがその意見に待ったをかけるのは北宮だった。
彼女の主観ではバサルンテよりもカーターを上に見ている。
海堂はバサルンテの一撃の強さとどんな攻撃も防ぐ防御力からバサルンテが勝つと見ている。
北宮はそれを上回る速度と剣技の鋭さを評価し、カーターのやつが勝つと踏んでいるのだろう。
「それなら竜人の方もそうっすよ。絶対あれは変身を三段階隠しているっす」
「どこの魔王よ、それ、でもそれなら」
魔王自身がこの大会を見ているのに、海堂のセリフはなんとも言えん。
段々と意見の言い合いがヒートアップしているのを眺めながら俺はさっき言った言葉を考える。
俺がこのあとの試合の行く末がわからないというのは、二人の言い分がまさに的を射ているからだ。
俺の現段階の実力で、あの二人の力は測りきれていない。
教官並みか、下か上か。
あるいはそれ以上の振れ幅で、過大評価か過小評価か。
わかるのは二人共俺よりは実力があるということだけ。
バサルンテの力か、カーターの速さか。
あるいはそれ以外の要素が噛み合ってくるのか。
今ある情報だけでは勝敗の行く末を予想するのは俺には難しい。
「主、ココアだ。疲れていると思ったから、甘くしておいたぞ」
「お、ありがとう」
段々と白熱しながら意見を交わす海堂たちを脇目に俺はヒミクから差し出されたマグカップを受け取る。
湯気が立ち、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐり、それだけで気分的に疲れが取れたような気がする。
頭の中で複雑に考えていたことを一旦脇に除けて、ゆっくりとやけどしないようにココアをすする。
口に広がる甘い味は、体に染み渡り糖分を補給しているという感覚を体に知らせ、穏やかな気持ちにさせる。
「ヒミク」
「どうした主? おかわりか?」
リラックスし、体の力を抜きながら、スエラとメモリアにもココアを渡しているヒミクを見て、俺はふと思う。
教官の実力にこの場で一番近いのは間違いなくヒミクだ。
ならば、彼女の予想であれば勝敗の行く末もわかるのでは。
「いや、まだいい。少し聞きたいことがあってな、お前の予想でいいんだが、決勝のあの二人どっちが勝つと見る?」
好奇心半分で聞いてみた質問であった。
そして、ヒミクは多少悩んでから答えるであろうと思ったが。
「勝つのは竜人だな」
即答で勝つのはバサルンテだと言った。
それを聞き、白熱していた談義をしていた二人は決着を見せ、鬼の首を取ったように海堂はドヤ顔を披露し、逆に北宮は不満そうな表情をした。
「ヒミク、何故ですか? 私からすればどちらが勝ってもおかしくないように見えましたが」
そして、俺と同じどちらが勝ってもおかしくないと思っていたスエラは皆の疑問を代表してヒミクにぶつける。
「うむ、なんとなくだが、あの吸血鬼は手を抜いていると感じたからだ」
「? 手加減をしているのは相手が本気を出すほどの相手ではなかったからでは? それならバサルンテさんも同じだと思うのですが……」
「スエラ、私の言いたいことはそうではない。手加減と手を抜いているとは意味合いが違う。手加減は相手に合わせて行なう力の加減だが、手を抜くのはそもそも力の加減が粗雑になる。やつは勝つ気がない。まるで自分の戦闘能力を見せたくないと言っているようだった。おそらくだが次の試合でもそのスタンスは変わらないと思う。だが次の相手にそれでは勝てない。だから私は竜人が勝つと言ったのだ」
感覚だより、というよりは経験に基づく推察といった方が近いだろうか。
ヒミクはカーターのやつが試合中に全力で戦っていないと指摘し、スエラは全力を出す必要がなかったと指摘したが、手加減というよりは意図的に実力を隠しているとヒミクは言う。
「……理由はわかるか?」
そのヒミクの解答になんとなく心当たりがあり、嫌なものを感じた俺はその理由を考えてみるが、皆目見当もつかない。
おそらくだがその手の抜き方は教官や監督官、そして社長も気づいているはず、それを放置しているということは問題はないということだろうが、どうも嫌な予感がする。
「そこまではわからない。将軍になりたくないのか、それとも別の理由があるのか」
カーターが手抜きをしていると見破ったヒミクに理由を尋ねるもさすがにそこまでの意図は見抜けないみたいだ。
「南、お前ならその理由とかわかるんじゃないか? そこら辺似たような話とか知ってるだろ?」
「ん~、こういった話の展開なら人質を取られて最後はわざと負けるとかどうでござろう? あとは、ヒミクさんの言うとおり将軍にはなりたくなくて雇い主の顔を立てるためにある程度勝ち進まないといけないとかでござろうか」
色々なゲームをしている南に勝が聞いてみるが、南の話も予測の領域は出ない。
最初はどちらが勝つか予想していただけなのに、気づけばカーターのやつが何か企んでいるのではという話になってしまった。
出会いが出会いのためなにか企んでいるのではと思わせる男カーター、これがキオ教官とかならやる気がないのは相手が弱いからとかシンプルな理由で納得するのだが……
「考えても仕方ないか」
腹の中を見せない男というのはこれだから厄介だというのを再認識する。
靄をつかもうとする感覚で予想は形にならず、ヒミクの話した内容からわかるのは、二つ。
このあとの決勝戦は普通では決して終わらないということ。
あっさり終わるということはないだろうということ。
それだけは確信できる。
前者後者含め、あのカーターが何もやらかさずあっさり試合を終わらせるとは思えないからだ。
勝つにしろ、負けるにしろ。
何かをやるような男だと思っている。
「可能なら、この想像が外れていることを祈りたいところだが」
小声で俺が抱いた印象を裏切ってほしいと願うが、こういった悪い予感は自分の経験則から基づく悪い結果を予想することが多い。
外れる可能性は低いと見ておいたほうがいいだろう。
「始まりますね」
となりのスエラが、窓の向こうでゆっくりと入場してくる二人を見て戦いが始まるという。
なんだかんだ話しているうちに、時間が過ぎ決勝戦が始まる時間になっていた。
「? あいつ、武器を変えたのか」
それぞれに定位置に座り直し、観戦モードになったが、俺はそこで一つ気づいたことがあった。
カーターは今まで腰に差していたレイピアではなく、代わりの武器だろうか、布に包まれた剣らしきモノを持っていた。
「魔剣か?」
相手が竜人であり、実力者であることから決勝のこの場に本当の武器を持ち込むことはおかしくはない。
魔王軍で強力な武器となると思い浮かぶのはあの欠陥を抱え込んだ魔剣であるのだが、やつほどの実力者ならデメリット無しで使える魔剣もあるだろう。
事実、周りは何も言わないし、ルール的には問題ないのだろう。
それに対戦相手であるバサルンテはこの大会で初めて楽しそうな笑みを浮かべていた。
強力な武器を持ち出し、戦ってくれることを喜んでいる。
彼の尾は揺れ、眠たげな表情に一気に獰猛な笑みが浮かび上がる。
そして場の雰囲気がバサルンテのせいで熱し始められた頃にゆっくりと壇上に上がる姿が見える。
社長だ。
決勝戦にあたって審判の代わりに合図を出すためにゆっくりと壇上に上がり、この戦いの火蓋を下ろす。
『全力の君たちの戦いを私に見せてくれ』
では構えと前ふりをしてゆっくりと、互いに構えいざ始まろうとした時、カーターは剣を包む布に手をかけ。
「! 主! あれは!!」
その正体に気づいたヒミクがその場で立ち上がり、堕天した漆黒の立派な三対の羽を広げ叫ぶ。
「聖剣だ!!」
俺たちを守り、正面に結界を張ったヒミクの叫びが戦いの合図かのように、会場一面にまばゆい光が満ち。
破壊がその空間を満たした。
俺が見えたのは偶然だ。
爆音と衝撃で揺れる視界の中、その破壊の光源の持ち主であるカーターは今までの速度が児戯に見えるほどの速度で社長に斬りかかっていたのであった。
その構図はまるで、魔王に挑む勇者のようであった。
今日の一言
この場で、勇者VS魔王の全面戦争って……ヤバくないか?
今回は以上となります。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も刊行予定です。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
どうかそちらの方もよろしくお願いいたします。




