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182 参考にならない、と思っても見るべき点は存在する。

 ババぬきに始まり、スピードをして、慣れてきたら大富豪や七並べと種目を変えトランプをしていれば時間というのはあっという間に過ぎ去る。

 部屋の外が騒がしくなり、観客が歓声を上げる。


「もうそんな時間か」


 その楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。

 トランプ片手に皆で窓の向こうを見れば選手が入場する姿が見える。


「二回戦となると、一回戦よりも見ごたえのある試合になると思うでござるが、そこら辺どうなっているんでござろう?北宮はそこら辺はどう思うでござる?」

「……単純に考えれば、勝ったもの同士の戦いなんだからさっきより迫力が出るんじゃないかしら? 相性によってはあっという間に終わるかもしれないけど」


 それぞれトランプをテーブルに置き窓際の観戦席に移る。

 第二回戦の一試合目のカード、互いに見覚えがあり、族長候補のリザードマンとその次の試合で見た悪魔が立っている。

 両者とも一回戦を勝ち抜いてきた同士、先ほどよりも激しい戦いが予想される。

 だが、そんな戦いを前にしているのにもかかわらず、どこか冷めた視線で俺はその二人を見ていた。

 試合が始まり、大盾を駆使し大槍を振り回すリザードマンと、片手に剣を持ちもう片方の手に杖を持った変則的な魔法剣士の悪魔。

 両者の戦いは見ごたえのある戦いだと言えるのだが、激しい戦いを終えたあとだからだろうか、どこか物足りなさを感じる。

 それとも別の何か理由があるのか、海堂や南、そしてアメリアは一喜一憂しながら攻防を眺めているとは対照的に俺は静かに試合を見る。


「おお、またリザードマンが勝ったっすね」

「yes! でも悪魔の方も惜しかったデスネ」


 先ほどよりは余裕がなかったが、防御を主体にしたことで安定した戦いを見せたリザードマンが勝利を収めた。

 海堂やアメリアたちはもちろんほかの面々も十分に楽しめている。

 そして、俺たちにはない戦い方は今後のダンジョン攻略の、参考にもなっている。

 俺個人からしても立ち回りや魔法の使い方、自分に反映されることや対策をするにあたっても参考になる場面は多々あった。

 続く巨人と獣人の力比べ、またその次の蟲人の外皮の硬さを生かした戦いと立派な鎧を着たスケルトンの剣技。

 腕が羽になっているハーピーの空中戦を、蛙の姿をとっている精霊を使役したダークエルフが仕留めた戦い。

 そのどれもが練度が高く、見応えがあり、戦う者としてはどれもいい刺激になった。

 興奮しているのはこの一室だけではなく、闘技場の観客も大盛り上がりを見せている。


「……」


 そして冷静に見ている俺の中で試合が進むにつれて、段々とこみ上げてくるものがある。

 監督官によく見ておけと言われ、今後、越えないといけない壁が闘う姿が見れる。

 これから見るだろう光景に対して、楽しみ半分恐ろしさ半分といった感情が姿を現した。


「次か」


 順調に試合が消化され、カーターがまたもや瞬殺で相手を仕留めて数試合後。

 俺が負傷のため不戦勝になった試合が消化された次の試合。

 俺が治療されている間に一回戦を終えた竜人、監督官がしっかりと見ろといった問題児がついにその姿を現す。

 ゆったりとただ歩いているだけなのに、その姿からカーターの時に感じたものとは違う、圧倒的な破壊の気配を感じさせる。

 鱗という鱗に傷を残し、右目に大きな傷のある、隻眼の竜人。

 隻眼という視覚的に大きな不利を抱えているのにもかかわらず、その立ち姿は焦りとは無縁と思わせるくらいに余裕をまとっている。

 その強さが伝わっているのか、対戦相手である相手の表情は芳しくない。


「海堂」

「なんっすか?」

「一回戦、あの竜人はどんな戦いをした?」

「……戦ってないっす」

「何?」

「あれは戦いじゃなかったっす。たった一発、自分より大きい巨人の腹を殴ってそれで終わりだったっすよ。ただ処理した。そんな感じだったっす」


 対戦相手の蛇の下半身を持つラミアと呼ばれる女戦士とは正反対に、竜人ランド・バサルンテは退屈そうにアクビを漏らしていた。

 人間である俺とは違った場違いな雰囲気。

 この場に立つことに対して誇りを持ち、堂々と戦おうとしている面々とは違い、この場の格式など関係ないただ闘いに来たと言い張るようなアウトロー的な風格。

 そんな立ち姿を見たからこそ、試合が始まる前に海堂に一試合目の内容を確認したが、見た姿から察した予想通り、あの竜人はまともな試合はしていなかった。

 監督官はバサルンテを戦闘狂と評した。

 だからだろう、強者との戦いを求め、弱者との戦いに興味を示さない。

 そしてその強さは将軍と比べても遜色ないと。

 入場しているあいだにちらりとラミアの女戦士を見ただけで、その強さを察したのかつまらなそうに試合の始まりを待っているところからも自分の強さに自信を持っているのがわかる。

 その態度に悔しそうに槍を持つ女戦士は、決死の覚悟を宿らせる。


「……」


 その表情に見覚えがある。

 なにせ俺自身がついさっき浮かべていた表情だ。

 何もできずに負けるくらいならせめて一矢報いてみせよう。

 そんな覚悟が見て取れた。

 彼女には悪いが、俺は残念だがそれは無理だという感想を抱く。

 キザンに対しては慢心と鬼の本性と言える気性の荒さが抑えられていたからこそ一矢報い、勝ちを拾えた。

 だが、バサルンテが相手ならどうだろう。

 さっと、俺の頭の中でラミアのいる位置を俺と差し替え、勝算を探してみるも。


「……無理だな」


 どれだけ低い可能性を見積もっても勝てる道筋が想像できない。

 バサルンテは弱者で遊ばない。

 いたぶることを嫌悪しているのではなく、ただ面倒だから時間が無駄だから遊ばない。

 ある程度の実力を持っているのならあの竜人も遊んだかもしれないが、あのラミアはそのラインまで到達していない。

 だから、遊び心も躊躇も殺気もなく。


「うわ」

「また一撃」


 相手を処理する。

 そう思ったからこそ、バサルンテの動きを見逃さなかった。

 審判の掛け声に合わせ、ラミアの女戦士は地面を這い、高速でバサルンテに迫る。

 その速度は蛇がうねりながら進むのではなく、そこに摩擦がないようになめらかにすべり最速で最短の距離を進んでいた。

 そんな高速の動きから渾身の一槍を突き出すも、相手は躱す必要すら感じなかったのか槍の矛をその身に受け、矛先が刺さることなくその一撃を止めてみせた。

 まるでそうなることが当たり前だと言わんばかりに、槍がその場にないようにゆっくりと誰もが見えるように拳を振り上げたら。

 まるで隕石が飛来し地面に激突したような音が俺の耳に届いた。

 そして、その激突音の被害者であるラミアはその長い巨体をくのじに曲げ重力など関係ないかのように横に吹き飛ばされ壁に埋まることになる。

 数秒の沈黙を保ち、壁の破片がころりと地面に落ちるとコロシアムの壁に突き刺さったラミアは重力に従いその長い体を壁からずり落とし地面へ投げ出す。

 北宮と勝が声を上げ、審判が駆け寄りその容態を確認するも、ラミアの女戦士は白目を剥き意識がないのは明白。

 バサルンテに向けて勝利宣言がされ、静まっていた空間が一気に歓声で騒がしくなる。

 だが、勝者は観客に向けて手を振るなどのファンサービスを見せることなく、勝ったことにすら興味がないようにアクビを見せながら会場をあとにしようとバサルンテは歩き出すが。


「え、なんかこっち見てないっすか?」

「見ているわね」

「見ているでござるなぁ」


 ふと何を思ったのか、道半ばで足を止めてなぜかこちら、否、俺の方を見た。

 距離として百メートル以上はあるにもかかわらす、視線が合う。

 そもそも魔紋で強化された体であるのなら、これくらいの距離なら見える。

 なので自意識過剰とも誤解とも思わない。

 やる気のなさそうな表情だけで、目に何かを宿らせ俺の方を見ていた。

 そしてバサルンテはまるでココに来いと言わんばかりに人差し指だけ動かした。

 観客たちは何かのパフォーマンスかと思い、ざわめき始めるが、そのあとは何事もなくそのままバサルンテは会場をあとにした。


「挑発、かねぇ」

「そう見えましたね」

「やっぱりか?」

「ええ、次郎さん何かしましたか?」

「俺が原因かよ」


 隣に座るメモリアも先ほどのバサルンテの行動を俺と同じ、挑発だと受け取ったのか、俺がなにかしていないか確認してきた。

 だが、メモリアには悪いが俺には心当たりはない。


「次郎さんは最近騒動に巻き込まれやすそうなので、あの方にも何かしたのではと」

「おいこら、俺が好きで騒動に巻き込まれているように言うな。自分から首突っ込むことはたまにしてるが、あいつとは完全に初対面だよ」


 鬼ヤクザとか髑髏紳士とかとは知り合いではあるが、竜人の知り合いはそんなにいない。

 そして記憶にある限り、あんな傷だらけの竜人と会ったことはないはずだ。

 ……もしかしたら遠縁の親戚の竜人でもぶっ飛ばしたか?


「次郎さんはもう少し騒動に飛び込むことを自重してほしいと思うんですが」


 過去の戦闘で竜人との戦いを思い返すも、掘り返せば掘り返すほど可能性が浮き出てきて、もはや難癖を付けられるレベルの話まで想像してしまう。


「……善処は、しているんだけどなぁ」

「どこの政治家のいいわけでござるか、リーダーは騒動の神様に愛されているでござるし、きっと、これからも騒動に巻き込まれるでござるよ。こう、ネタ的にでござるが」

「お前、俺のことどこぞの騒動系の主人公と一緒にしてねぇか?」

「違うのでござるか?」

「違う、と言いたいな、俺の願望的に」


 なにかしら騒動に絡む時は理由があるのだが、苦笑しながら注意してくるスエラには気をつけるとか善処するとしか答えられない。

 何が起こるかわからないこの会社で絶対という言葉を使うことができないからな。


「お腹の子のためにも、私も一緒に願わせてもらいますね」

「ったく、騒動の神様ってお払いできたかね?」


 だが、これから生まれてくる我が子のことを考えれば善処するなんて言い方もできない。

 絶対にとまではいかなくても回避できることは回避していかねば。


「そうなると、とりあえずはこの部屋から出ないで、さっきの挑発を無視することからはじめるかね?」


 部屋から出たら何か起きそうな気がした俺は、とりあずそのままおとなしく競技大会が進むのを眺めるのであった。



 今日の一言

 危険回避、危険回避っと。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も刊行予定です。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

どうかそちらの方もよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一回戦では龍族とか竜人ってあの優勝候補の人と同じ種族っぽく言ってたのに。 二回戦では急にダウングレードしてリザードマンになったの?
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