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181 つかの間の休息

更新遅れて申し訳ありません。

一日遅れですが投稿します。

 車椅子を悪魔に押される、この単語だけ聞けば今まさに死ぬ間際のようなセリフであるが、実際は羊顔の悪魔に普通に車椅子を押されているだけである。

 傍から見れば異様な光景で普通なら絶対に体験できないような、そんな経験をしながら待機室に戻る。


「よう、生きて勝ってきたぞ」


 勝利を掴んだといっても、心配をかけたのは事実。

 治療の跡を残して会いに行けば、このような結果になるのは目に見えていた。

 俺が入室するまでは微妙な空気が漂っていたのだろう。

 空元気で騒ぎ立てて場の空気を和ませようとしていた海堂と南が救世主が来たと言わんばかりに目を輝かせたのが、俺が入室して最初に見た光景だった。

 急に静かになった二人を見て、入口に視線を向けたら俺がいたというわけだ。

 なので俺も片手を上げて挨拶をする。


「次郎さん、心配しました。本当に、何回私を心配させれば気が済むんですか……」

「すまん、心配かけた。体調は大丈夫か?」

「ええ、メモリアや皆さんがいてくれましたから」


 ゆっくりお腹をかばうように歩み寄り抱きつくスエラを抱き返す。

 お疲れ様ですと優しく言われ、俺もそっと優しく彼女を抱く。

 しばし抱き合った後離れたら今度はメモリアが抱きついてきて首筋に噛み付いてきた。


「血を流したあとに吸うか普通?」

「いえ、これは、癖です」


 照れ隠しなのか、それとも俺という存在を確認するためなのか、ほんの少し血を吸ったあとのメモリアは静かに俺の首元に顔をうずめた。

 それに合わせてポンポンと背中をたたいてやる。

 

「吸血鬼に血の気を引かせてしまうなんて、あなたは何をしているんですか」

「少し鬼退治をな」

「意地を張るのは結構ですが、少し自重というものを覚えてください。今のあなたの体はあなただけのものではないのですから」


 子供のことを指しているのだとは思うが、それは俺の血を吸えなくなるからかと聞いてみれば、ニッコリと笑い返すだけでメモリアはそっと俺から離れる。

 そして最後に残ったヒミクであったが。


「主、私は、私は」

「おう、五体満足で帰ってこられたぞ」


 涙腺崩壊待ったなしといった感じで、さっきまでは平気そうであったが安堵という気の緩みから感情が溢れ出てきたようだ。

 三人の中で一番感情の起伏が激しい彼女は瞳に涙を溜め込みながら俺の方を見る。

 そしてメモリアが離れたら膝にすがりつくように泣き始めてしまった。


「主、よくぞご無事で、本当に、本当に、ウゥゥ」

「ああ、心配かけたな」


 思えば俺がここまで重傷になるのをヒミクは初めて見る。

 それなら相当不安だったのかもしれない。

 我を通して勝利を掴んできたが、それはあくまで自己満足、少々申し訳なさを感じつつ。

 しばらくはこのままだなとヒミクの頭を撫でながらほかの面々を見る。


「お前らも心配かけたな」


 堕天使ヒミクを慰めながらという稀有な姿勢で申し訳ないが、このまま話させてもらう。

 久しぶりという言葉を使うのもどうかと思うが、なにせ久方ぶりの重傷だ。

 なれたものだと治療は受けても、やはり心配になるのは人の性だ。

 無事な姿を見せて安堵の表情を見せたいつもの面々は段々と調子を取り戻していく。


「全くリーダーは何度も何度もボロボロになってマゾでござるか? そうだとしか思えないくらい毎回ボロボロになるでござるね」

「否定できない自分が悲しいな。俺も老いたな、お前に説教される日が来るとは」

「フフン、そんな皮肉痛くも痒くもないでござるよ。今回は拙者たちに正義があるでござるから、いくらでも説教するでござる。本当に心配させないでほしいでござるよ」

「すまんな」


 おかげで普段は説教されている南に説教される始末だ。

 調子に乗るなといつもなら言うところだが、今回は俺に非があるので素直に聞くとする。

 全く、世の中というのは都合よくできていないものだ。

 偉そうにふんぞり返る南に今回ばかりは同意見だと言わんばかりに勝も頷いている。

 ほかの面々といえば、海堂は頭を掻き目をそらし、呆れたように北宮もため息を吐きながら同意し、アメリアはから笑いをこぼすしかなかった。

 まぁ、自分でも呆れるくらい重傷になりすぎてスエラたちに心配をかけてきた。

 強敵ばかり相手にするのだから仕方ないだろうとは口が裂けても言えないな。

 素直に謝罪して、空気が軽くなったころ、窓の外側から歓声が響いた。


「む、リーダーと話しているあいだに試合が終わったみたいでござるな」

「試合の進行が早いからな、一回戦はこれで終わりだろう?」

「そうね、さっきの試合で終わりのはずだけど」


 それに各々が振り向き、確認する。

 北宮が試合のマッチングを見て数えれば先ほどの試合が一回戦の最後になる。


「このあとは少し休憩を挟んでからの試合になりそうね」

「それってどれくらいっすか?」

「一時間って書いてあるけど」


 一通りの試合を終え、選手たちの回復もあるのだろう。

 一時の休息が会場に訪れ、観客席の客たちもポツポツと席を立つ姿が見える。


「そうなると少しのあいだ暇になるでござるな、お腹もそこまですいていないでござるからご飯というわけにもいかないでござるから……トランプでもするでござるか?」

「あんた、トランプなんて持ってきてるの?」

「ムフフ、遊び道具を持ち歩くのはオタクの嗜みでござるよ」

「いや、違うと思うっすよ? 南ちゃん」


 勝とヒミクが度々料理を出していたためか空腹感もなく、俺自身も体を動かしていたがそこまで空腹というわけではない。

 そして次の試合まで間がある。

 なら自然と暇を潰そうと動く。

 何もせずただ雑談で時間を過ごしてもいいが、せっかくみんなが集まったのだからと南がカバンをあさりプラスチックケースに入ったオーソドックスなトランプを取り出す。


「あんたが用意したトランプにしては普通のトランプね」

「北宮は拙者のことわかっていないでござるなぁ。キャラトランプは観賞用と保存用が鉄則。使うなんて言語道断でござるよ」

「はいはい」


 トランプをやること自体に反対意見はないようで、北宮はシャッフルする南のトランプ自体を意外そうに眺めた後、普通のトランプである理由を聞いて呆れ、適当に返事をするのであった。

 全体的にやる流れになっている中、強いて問題を挙げるのなら。


「主、トランプとはなんだ?」

「遊び道具の一種だな。体を動かすというより頭を使う系統の」

「そんなものがこちらにはあるのか」

「ああ、スエラたちはやったことがあるのか?」

「ええ、休憩中にお遊び程度にはですが、詳しくはありませんね」

「私も同じです」


 異世界組はトランプ経験が浅いといったところか。

 スエラとメモリアはやったことがあるみたいだが、ヒミクに至っては全くの素人ということになる。

 この紙札で何をするのだと言いつつ、南に渡されたトランプを手に取り、頭の上に疑問符を浮かべる堕天使。

 彼女の生き方を聞く限り俺のもとに来るまでのあいだは遊びとは無縁の生活をしていたようだ。

 トランプを知らなくても仕方のないことかもしれない。


「人数も結構いるが、シンプルにババぬきか?」

「そこらへんが妥当でござろうなぁ」


 ポーカーなどの少々複雑なルールのゲームは後回しにして、素人ができるゲームといえば真っ先に挙がるのはババぬきだろう。

 時計回りにとなりの手札を引き同じ数字のペアを作るというシンプルなゲーム。

 俺、海堂、南、勝、北宮、アメリア、スエラ、メモリア、ヒミクの合計九人と大所帯ではあるが、できなくはないだろう。


「??」


 とりあえず軽くルールを説明し、俺から時計回りにスエラ、北宮、海堂、勝、メモリア、アメリア、南、ヒミクと座る。

 俺はスエラのカードを取りヒミクに取られるポジションとなった。

 隣の席で配られた手札を見て、疑問符を浮かべるヒミク。


「ルールがわからないか?」

「いや、ルールは理解した。だが、これは運を競うゲームなのか?人というのは運命を知りたがることはよく聞くが、運を競うという行為もするのだな」

「そうとも取れるが、別の要素もあるぞ」

「そうなのか?」


 ヒミクの言うとおり、ルールだけを聞けば、確かにババぬきはいかに早くカードのペアを自分の手元に引き寄せられるかを競う運の勝負かもしれない。

 だが、それ以外の要素ももちろんある。


「ああ、そうだなポーカーフェイス、表情を悟らせないようにするゲームでもあるな」

「表情を悟らせない?」

「ああ、トランプのゲームで対戦するときは極力感情を見せないのが良しとされる。戦いと一緒さ、どれだけ不利でもどれだけ有利でも感情を見せないというのは、それだけで相手に渡る情報を少なくし勝敗を左右させる」

「なるほど、確かに戦いの時にも似たようなことをする。単純なルールの中になかなか奥深い心理戦があるのだな」


 むぅと俺の説明を聞いたヒミクは唸るようにトランプを見るが、俺たちはギャンブラーといったその道で喰っている奴らではない。

 そこまで真剣になる必要はないとは思いつつ。

 ふと目の前でトランプを真剣に見つめるヒミクを見て思う。

 こういった素人は極端に強いか極端に弱いか、そういったパターン化がされる漫画やアニメが多い。

 そんな中ヒミクはいったいどっちになるかと純粋な疑問が俺の中で浮かぶ。


「はじめるでござるよ~それでは拙者から」

「む、そうか」


 だがそれも、いま気にすることではなく、やればわかること。

 思えばこうやって遊ぶのは初めてではと内心で思い、今は純粋に楽しもうとヒミクが南にカードを取られるのを見ながら時間の経過を待つ。

 そして、順調にババぬきは進み。


「おっしゃ、俺が一番っす!!」

「あら、私が二番ですか」

「yes!! 私が三番ネ!!」

「四番、微妙な番号ね」

「五番、ですか」

「おっと、あがりか、俺は六番か」

「あがりました。七番です」


 初期の手札がよく枚数が少なかった海堂が一番乗りで上がり、続けてスエラ、アメリア、北宮、メモリア、俺、勝の順であがっていく。 

 そして結果的に誰が負けたかといえば。


「ば、馬鹿な拙者が負けるなんて」


 言いだしっぺが負ける結果となった。


「主! 勝ったぞ!」


 そして南と接戦を繰り広げたのはヒミクであった。

 自慢するかのようにダイヤの七とクラブの七が揃った手札を俺に見せてくるヒミクの頭に犬耳が幻想され、ブンブンと尻尾を振る姿も見えた気がした。


「ぬがぁ!! 全くヒミクさんの表情が読めないでござる!! なんでござるかあの無表情!! ホラーでござるか!? 表情筋がピクリとも動かなかったでござるし眼もどこを見てるかわからなかったでござるよ!!!! おまけに緊張している様子もわからなかったでござるし!!」

「ふん! 修行が足りなかったな、呼吸を整えれば体も落ち着く。お前もなかなか表情が読めなかったが、私ほどではなかった」


 運の要素があったとしても、感情の起伏の激しいヒミクが観察眼に優れる南を翻弄するほどのポーカーフェイスを披露するとは誰が思ったのだろうか。

 俺からカードを抜くときはそうでもないのだが、いざ南にカードを抜き取られるとなると感情を顔から表情だけではなく瞳からも削ぎ落とし、まるで精巧に作られた人形のガラス玉に見られているような表情を作り出した。

 それを直近で初めて見た南は思わずヒィっと悲鳴を漏らしたほどだ。

 美人が無表情というのは迫力があるというが、普段明るいヒミクがやるとさらに威力は増す。

 そんな無表情は角度的に見える面々にも被害を及ぼしたが、一番被害を受けたのは間違いなく南であっただろう。

 能面のような表情を目の前にして恐怖で涙目というある意味で精神に訴えかけられるだろう表情を作り出して対抗した。

 だが、七というカードを奪い合うこと十数回の結果南は敗北した。


「ぬがぁ!! このまま負けで終われないでござる! ヒミクさん今度は別のゲームで拙者と一対一で勝負でござる!!」

「む、決闘できるゲームもあるのか、主の前で逃げるわけにはいかないな。その勝負受けてたとう。どのような勝負だ?」


 そして負けず嫌いな南は敗北を無くすために再戦を接戦を繰り広げたヒミクに申し込んできた。

 ヒミクは騎士のように正々堂々その勝負を受けたが、せめて内容は聞いてから受けたほうがいいと思う。

 俺としてはみんなで楽しむのも好きだが、観戦することも好きだ。

 今度はどんなゲームで勝負するのか気になるところで、それはほかの面々も一緒だ。

 何気に先ほどのババぬきは意外と緊張感があって見ていて楽しめたのだ。

 次も楽しめるのだと思ってしまう。


「ズバリ、スピードで勝負でござる!!」

「スピード? それはどんなゲームだ?」


 そして南の選んだゲームはスピード。

 地方ルールもあるだろうが、数字を順番に出し先に手持ちのカードを無くしたほうが勝ちというトランプの中では数少ない体を動かす系のゲームだ。

 おそらく南はヒミクのポーカーフェイスを封じるために選んだ種目なのだろうが。

 俺を含め、地球側の面々は思っただろう。

 あ、これ南の負けだと。


「ムフフフフ」


 ニヤニヤとカードを赤と黒の二つに分け自分の方をシャッフルしている南の表情は勝つ気満々で、対するヒミクはそんな南の表情に何かあるのではと警戒をしている。


「なぁ、南本当にやるのか?」

「勝、拙者に後退という二文字は時と場合によっては出ないでござる!!」

「いやあんたそれ普通の使い方よね」

「あははは、南さんのテンションがすごく高いヨ」


 普通なことを言っているのにもかかわらずなぜか格好良く言う南に、北宮とアメリアは苦笑を浮かべる。


「さぁ、勝、拙者はいつでもいいでござるよ。開始の合図でござる」

「はぁ、どうなっても知らんぞ。ヒミクさん準備の方は?」

「初めてだが、問題はないはずだ」


 互いに初期のカードを並べ準備万端。

 テスター組の中では十中八九勝敗は見えているが、もしかしたらという一縷の可能性を信じてこの戦いを見届ける。

 

「はじめ」


 勝の合図で始まったスピード対決であったが。

 南が九、ヒミクが五と出だしのカードを出した瞬間。


「身体」


 自身に強化魔法を使い相手を圧倒しようとした南であったが……


「これでいいのか?」

「きょう、か?」


 わずかにヒミクの手がブレたと思えばその手は空になっていて、中央には黒い文字のトランプが山積みになっている。

 さて、ここで冷静に考えよう。

 普段は炊事に洗濯、家の掃除に買い物と主婦業を生業にし、その前は長期間封印され、体が鈍っているとしても、ヒミクは教官たちと同程度の実力の保持者だ。

 そんな存在が、俺たちとスピード勝負をしたらどうなる?

 結論だけ先に言えば、単純に敗北する。

 それもただの敗北ではなく、圧倒的という言葉が生易しく感じるほどの敗北だ。

 はじめと言われた瞬間に、ヒミクの腕が残像を知覚させぬほど素早く動き。

 まさにあっという間に手札を使い果たしてしまった。


「う、嘘で、ござる」


 勝つ気満々で自信のあった南は現実を認めたくないのか、積み上げられたトランプの順番を確認するも、間違えることなく重ねられたそれは南の敗北を知らせる行為でしかなかった。


「主、私は勝ったのか?」

「ああ、お前の勝ちだ」

「そうか! それは良かった! この勝利を主に捧げるぞ!!」


 あっけなく終わったことにこれでよかったのかと確認してきたヒミクがパァっと笑顔になり、褒めてほしいというオーラを出してきたので素直に頭をなでると、その笑顔は三割増になる。


「……」


 ゲームというジャンルで圧倒的敗北を体験した南といえば、チーンという音が聞こえてきそうなほど真っ白に燃え尽きたのであった。

 周囲の面々は当然の結果だと、笑うしかなかったのであった。


「ぬがぁ!! チートすぎるでござる!!」


 南の叫びで、さらに部屋に笑いが溢れるのであった。



 今日の一言

 殺伐とした空気の中でこんな憩いの時間があってもいいよな?


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も刊行予定です。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

どうかそちらの方もよろしくお願いいたします。


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