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177 昇進するために定められている、上からのボーダーラインは存在する。

 審判の開始の合図でダークエルフと龍の戦いは始まる。

 歓声が響くコロシアムの中央で二人は激突する。

 さて、今回の競技大会を見物する前にひとつ確認しておくことがある。

 この大会に参加するにあたって、参加者にはとある条件が課せられる。

 その一定の条件を満たさないとこの舞台に立つことが許されない。

 陸上競技などで言う、規定タイムのようなものだといえばわかりやすいだろうか。


「うわ、ダークエルフ側が一方的にやられているっすねぇ」

「ん~、この戦いを見た感じ、そこまで強くないような気がするでござるなぁ。手の内を隠しているのでござるか?」

「表情を見てみなさい。そんな余裕はなさそうよ。精霊はすごそうだけど、術者の実力はどれくらいになるのかしら?」


 その条件は複数有り、そのいずれかを満たせればこの舞台に立つことが許されるというわけだ。

 現状行われている第一試合。

 術者風の格好をするダークエルフは、杖を持ち精霊を使役し立ち向かっている。

 対する竜人はその巨躯を生かし大盾を構え身の丈ほどの大槍を片手で振り回している。

 この二人はもちろんその条件を満たしたうえでこの大会に参加している。

 そんな典型的な後衛と前衛の戦い。

 その勝敗の天秤は、俺の目を信じるのなら前衛のリザードマンに傾いているように見える。

 冷静に戦い、余裕のある動きで精霊の動きを盾やその強靭な肉体に生える鱗で攻撃を弾き、着々とダークエルフを押し込んでいる。

 押され気味のダークエルフも懸命に精霊や魔法を使い抗っているが、誰が見ても敗北は時間の問題だと言えた。

 海堂や南、北宮は各々感想を述べているが、その感想がそのまま結果に結びつきそうだ。


「ん~、なんかこう思っていたのと違いマスネ」

「確かに、南たちが好き勝手に言ってますけど、実際実力はどうなんですか? 俺から見ても、そんなに」

「あの鬼と比べたらか?」

「……はい」

「別に戸惑う必要はないぞ、勝、アメリア。二人の感想は間違っていない。事実ダークエルフの実力は主にも劣る。竜人の方は竜化を残しているから、まだ底を見せていない。だが、あの鬼と比べれば実力は大きく下回る。迫力がないのはそのせいだ」


 ヒミクの解説を聞き、俺も勝やアメリアと同じ感想を抱いていたのでなるほどと納得する。

 将軍位を決める戦いということで、キオ教官やフシオ教官と同等とまでいかないがそれに匹敵する実力者が揃っているのではと思ったが、そうでもないらしい。

 ヒミクは実は何度か教官二人と相対している。

 俺の後を歩き、社内を動き回ればあの二人と会うのは必須。

 キオ教官は強者との出会いに喜びを、フシオ教官はヒミクという珍しい存在に興味を持ち。

 あわや戦闘になるかと思ったが、ギリギリ俺の言葉を聞き届けてくれて二人は矛を収めてくれた。

 その時に感じた強さを基準にしたヒミクの評価は参考になる。

 さて、そうなると将軍位になるにはこの二人は実力不足ということになるが、実際には二人はこの戦いの舞台に上がっている。

 では競技大会に求められている基準はどういうことかという話になる。


「気にはなっていたんだが、この大会に出るための条件ってあるのか? 俺は教官たちからの推薦ってことになっているみたいだが」

「ええ、ありますよ。次郎さんの推薦という形もありますが、それ以外には大まかに分かれて三つ、一つは絶大なる武力、単純に強さを示し参加を認められたもの、鬼王様や竜王様のような方ですね。二つ目は知性に優れた方です。こちらは不死王様や私たちダークエルフをまとめる樹王様のような方です。そして三つ目、特殊な能力をお持ちになり、且つその能力で実力を示す方。こちらは将軍位の中では機王様と今は亡き蟲王様ですね。両名とも軍を生み出す能力に長けたお方でそれを評価された形になったと聞いています。他にはこの条件を平均的に満たし、総合能力で将軍位についた巨人王様のような方もいらっしゃいますが、あの方は少々特殊な例ですね」

「なるほどな、そうなると俺の推薦というのはかなり例外的な処置ってことになるか」

「はい、並の者の推薦など跳ね除けられますね。現職の将軍であるお二方からの推薦だからこそ、意味をなした形になりました」


 俺は窓際の席にスエラとメモリアに挟まれるような形で座り、解説を聞きながら戦いを眺める。

 その際に自分が参加した形式がかなり特殊であるということを聞き、苦笑を浮かべる。

 俺の参加方法は魔王軍で上位者になりたいものからすれば喉から手が出るほど欲しい権利だっただろう。

 それなら、恨まれるのも当然だと言えた。


「順当にこの大会に出た参加者に申し訳ない気がするな」

「あの方々の目は確かです。なのであまり気にすることはないかと」

「そうだな」


 見るだけで、その実力というのを測れることもある。

 俺の見た感じ、どちらも戦えば勝つことはできると踏んでいる。

 そんな参加者たちからも恨まれているのかと思うと気が滅入るが、スエラの言う通り深く気にする必要もないだろう。

 単純に俺と彼らとでは参加するための方法が異なったという、ただそれだけのことだ。

 

「そうなると、あの二人はどの条件で参加したか気になるところだが、武力、というわけではなそうだな」

「ええ、次郎さんの言う通りですね。彼らは里長の息子で、どちらも長候補と評価は高く、ダークエルフの方は他里の方で、風と水の上級精霊と契約をなしていますね。竜人の方は里一番の武芸者と聞いています」

「となると、知性と能力のどちらかの条件を満たしての参加ということか?」

「ええ、そうなります。他にも族長や里長、貴族からの推薦も含めた参加ということでしょう」


 力で部下を纏めるキオ教官、知性をもって部下を纏めるフシオ教官。

 同じ将軍位でもトップの立ち方は違う。

 手段を問わず、力量を示した者のみが立つことを許された地位。


「でしたら、些か彼らでは実力不足でしょう」

「はい、メモリアの言う通り、おそらく彼らのどちらかが勝ち残っても将軍になることはないでしょうね」


 だが、その実力を示しこの舞台に立ってみせた二人をメモリアは力量不足だといい、スエラもその言葉を否定しなかった。


「……ただ勝てばいい、というわけではない。そういうことか?」

「そういうことです」


 この舞台で勝ち残るというのは生半可なことではないだろう。

 加えて、あくまでスエラが語っていたのはこの大会に参加するための条件だ。

 将軍になるにはさらに条件、いや、この場合は基準というべきだろう、それが存在するのだ。

 ボーダーラインというべき線引きが、この大会には存在する。

 参加するための条件がさっき言った陸上の規定タイムだとするのなら、将軍になるための条件はさしずめ世界記録といったところか。

 スエラの説明と、メモリアから見た彼らの実力の判断。

 その二つは俺にひとつの解答を導かせた。


「いかにこの大会に優勝しようと、魔王様がお認めにならなければ将軍位には付けません。言わばこの大会は自身の実力を示すだけの舞台。その結果、力不足だと思われればそれまでなのです」


 優勝という結果が残せても、その結果が首脳陣の認める基準に達していなければ、合格とは言えない。

 だが、それは仕方ない。

 この世界はただでさえ、実力主義の色が濃い。

 弱いもの、いやこの場合は力を示さない者に下はついてこない。

 一芸に秀でても、その他の部分も最低限の能力を示さなければならないのだ。

 それが将軍という地位。

 魔王軍において、切り札と呼ばれる戦力。

 劣っている部分を認識されてもそれは秀でた部分に比べてだということ。

 決して、他者と比べて低いというわけではない。

 そして、目の前で戦う二人は知性や統治という能力が秀でていたとしても、突出しているわけではないということと武力が平均以上ということだろう。


「まったく、上に立つっていうのは簡単ではないな」

「そうですね」

「そうなりますね」


 心底、この業界は特殊だと思う。

 世間ではよく聞く、無能な上司やただ年齢を重ねただけの上司。

 そんな言葉はこの環境では生まれない。

 実力のないものは排除される弱肉強食の世界。

 改めてこの世界に浸り、そのことに違和感を覚えなくなった自分にある意味で感動する。

 本当に俺がこの場に立つのは分不相応なのではと思う。

 実力はテスターの中では秀でていると思ったが、教官たちには足元にも及ばない。

 だからと言って統治や運営といった知識に関しては秀でているとは言い難い。

 この大会の実力者と比べれば平凡、そんな言葉が似合う俺だ。

 強いて秀でている点を上げるとしたら、魔力適性がかなり高いということだろう。

 将来性を買われたか、或いは別の意図が見え隠れする教官たちの推薦。

 それがこれからどんな結果をもたらすか、俺には想像もつかない。

 だが、この機会は無駄にはしない。


「次郎さん、変な魔力が出てますよ。スエラは妊婦なのであまり刺激的なことはしない方が」

「おっと、すまん」

「いえ、大丈夫ですよ」


 ないのなら、身につければいいと。

 それは時間、場所、問わずできること、この戦いの場で身につけられるものは全て身に付けようと思っていたら、自然と魔力が激ってしまったらしくメモリアに注意される。


「ああ、やっぱりダークエルフが負けたでござるなぁ」

「まぁ、下馬評通りってわけっすね。公式の賭けも竜人の方が有利って出てたっすから。倍率もそんなに良くなかったっすね」

「ムフフ、少ないのなら多めに賭けるのも手でござるからな。堅実に今回は稼がせてもらったでござるよ!」

「うわ、南ちゃん汚いっすね!! さっき、興味ないでござる~って言ってたじゃないっすか!? だから俺も今回は流そうと」

「世の中は弱肉強食でござる。これで今月のお小遣いが増えたでござるねぇ」

「あんた、後で痛い目にあうわよ」

「南、今月の小遣いは半分な」

「ござ!? そんな勝、殺生な!?」

「ワオ、早速痛い目にあったネ」

「っていうか、あんた年下にお小遣い管理されてるの?」


 そうこうしているうちに戦いは終了。

 最後は壁と大盾に押しつぶされるように挟まれたダークエルフが気絶し戦いに幕を下ろした。

 魔法で転移されるダークエルフと戦いに勝利し雄叫びを上げる竜人。

 敗者と勝者が決まり歓声を上げる観衆。

 そして、次に組まれた戦いのカードは。


「主、あの男は」

「ああ」


 カーター・イスペリオ。

 辻斬りまがいに俺に襲い掛かってきた優男だった。

 決闘場に足を踏み入れたとは思えないほどの軽装。

 ツバ付きの帽子に、ワインレッドのマント。

 腰に刺されたレイピア。

 そして、だいぶ離れている距離で見えているのかのようにゆっくりと舞台に立つ前に立ち止まり、笑みをこちらに投げかけてきた。


「スエラ、彼がそうですか?」

「ええ、カーター・イスペリオ。カリセトラ辺境伯が保持する騎士団の副団長です」


 過去の出会いもあってか、ヒミクは嫌悪を隠しもせずスエラも警戒心を顕にする。

 奴との出会いの話をメモリアも聞いていてか、その瞳に剣呑な色を見せる。


「相手は?」

「虎の獣人のようですね。キザン様には評価は劣りますが、彼も優勝候補と言われています。将軍のいない獣人としては種族全体の地位向上のためにもこの機会は逃したくないはずですよ」

「気合は十分というわけか、さて、あの優男がどんな風に戦うか」


 あの時直に戦って互角を演じることができたが、実際は手加減されたと思っている。

 あの場にヒミクとスエラがいなければ、もしかしたらあの男は実力を見せつけ俺を始末していたのかもしれない。

 そんな感想をあの時は抱いた。

 そんな男がいま目の前で戦う。

 実力は確実に俺よりも上、そのうえ気合も充実している。

 そんな相手に対してどういう風に戦うのか。

 気になる俺の感情とは別に、観衆も顔立ちの整った男が出てきたことにより女性の声援が多くなった。

 それに対して笑顔を振りまくやつに対して対戦相手は苛立ちを募らせていく。

 戦いが始まれば、すぐに奴を血祭りに上げるのではと思われるくらい怒気を放ち始める。


「始まります」

「ああ」


 そして、中央に悪魔の審判が立ち試合の合図をかけた瞬間。

 獣人は駆け出し、その自慢の爪を奴にめがけて振り下ろす。

 疾いと思った。

 獣の持つ柔軟性と瞬発性が生み出した動きは獲物を仕留めるだけに洗練され、必殺の動きへと昇華されていた。

 残像を目で追うことができたのは、遠目で見ていたことと集中していたことが幸いしたからだろう。

 正面に立っていたら、防ぎ凌ぐことは困難だといえるその獣人に対してやつの動きは。


「っ」


 閃光のように鋭かった。

 交差する一瞬、やつの姿がブレたかと思うと、獣人の体中から血が噴き出ていた。

 そして、すれ違って数メートル進んだ先に立っていたやつは血の滴るレイピアをゆっくりと振り、それで切りつけたのだと観衆に見せつけるように優雅に獣人のいる方向に振り返る。

 見えなかった、その動き、攻撃の入りから終わりまでの工程を何一つ認識できなかった。

 そんなやつの実力を見て、悔しさなのか嫉妬なのかつい握りこぶしを作っていた。

 ギュッと握る手の感触に気づかず、視線は膝をつくことなく立っている獣人と、さっきの攻撃では不十分だったのかと驚きの表情を浮かべるやつに向かう。

 血を流しながらも引かぬと戦意を滾らせる獣人を、今度は仕留めるとゆっくりと攻撃の構えをやつは取る。

 怒りに囚われていた優勝候補の獣人は、今度は見逃さないと数多の傷を負いながらその誇りを胸に攻撃の姿勢を取る。

 だが、俺はなんとなく予感的なものだが、この獣人が地に伏す姿が見えた気がした。

 二度目の交差。

 その瞬間を俺は今度は見逃さなかった。

 二メートルの巨躯を全力で動かし、満身創痍ながらも最初の交差よりも鋭く疾く駆け出した獣人を、その速度を上回る剣術でやつはこの戦いを終わらせた。


「終わったか」


 交差した瞬間につい俺の口からこぼれた言葉。

 獣人の雄叫びが虚しく消え去り、その巨躯は地に伏した。

 先ほどの戦いより、大きく短縮された時間で終わった結末。


「次郎さん」

「……」


 これが将軍位に就くものだと見せつけられた試合。

 戦いが終わり、観衆の声援に答えるやつの姿を見て、血が騒ぐ。


「大丈夫だ」


 それは心配そうに俺に手を添えるスエラやメモリア、そしてこちらを見るヒミクに向けたものなのか。

 それとも、自身に向けたものなのか。

 ただ言えるのは、この戦いを見て、間違いなく俺の戦意は上がったということだろう。



 今日の一言

 不足を補うことに対して、努力を怠ってはならない。


今回は以上となります。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も刊行予定です。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

どうかそちらの方もよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ん?そんなに弱者ポジションなのか?まだ。色々変わっただろう。
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